Jesus
「本日も快調。全くもって快調。快調すぎて死にそうだ。」
何もやることがなく、校舎の喫煙所に引きこもり状態のイリイチ、大智のいつものコンビ。暗殺が仕事のイリイチはそれ以外の暇つぶしの手段を知らないし、地元では敵無しの不良の中のトップスターだった大智にとっても、超能力者がひしめくこの学校では、誰彼構わず喧嘩でも売って、名前を売る。そんなことの意味のなさもわかり切った上で暇なのだ。怖さを知らなければ、強くなることは出来ない。狂犬のように見える彼にも恐怖はあるものだ。
「花の高校生活。契約金まで貰えるって言って、憧れと共にあった幻想は現実の前に脆くも崩れ落ちましたとさ、めでたしめでたし。」
彼らはふつうの高校生活を知らない。実にいい加減な幻想を抱いて門をくぐったはいいが、その先のことなぞ、考える知能もなかった。
暇を持て余した彼らは、学校をさ迷うことにした。生徒の市場価値が更新され、学年順位が発表されるとあれば、学校の中はいつも以上に賑わいを見せる。
だが、そんなことは一切関係なく、やることと言えば、イリイチはシックスセンスで負の感情を見つけ、それを商売にする一種の仕事と、大智に至っては独自行動で仲間たちとナンパの旅に出たのであった。
この前の例の事件のこともまだ鮮明にあるというのにどこまでも呑気な2人だ。片方は忘れるために酒浸りになってはいるが。
創成学園横浜校、生徒数5800人。変動が激しいためなんとも言えないが、こう人がいると、その分妬み怨みは詰まっているものだ。その妬み怨みを言った張本人たちの名前をメモしていくと、案外暇をしそうにもないと思える。
学園の中心部を離れ、メモを整理していると、運命というものは時に喜劇を産むと言わんばかりにこの前の彼女を見つける。
1度目は悲劇。2度目は喜劇。そんな言葉の通りに、この前無様に負けた男にもう一回挑むのは、本当の意味で無様だ。
そんな彼女はこちらに気づくもののすぐ目を逸らし、何処かに消えてくのだった。
日本人は本当に利口だ。依頼なしではこちらから手を出すのは決してないと理解している様子だ。あっちにいれば、こうでは済まない。
ただ、利口なのはどうも日本人だけのようだ。イングランド人はこっちを見て愉快なものを見つけたと言わんばかりに近づいてくる。
「どうした、三枚舌。また、部下でも使って遊ぶのか?」
「いいや、遊ぶのは別のヤツさ。」
指をさした先には、日本系にしては西欧系の、西欧系にしては日本系の、どちらとも取れるような取れないような顔をした日本人らしき生徒が立っていた。
「遊んで壊すには物足りないようなやつだが。」
「僕が目をつけたんだ。間違いない。君と同時期に入学。君と同じく契約金未公表。そして、君と同じく契約金50億円。逸材だ。」
一見すると、大した奴には見えない。体は細身で、身長も日本人平均ぐらい。シックスセンスで捉えられる以上、どうしても大した奴には見えない。
「あれが50億円か。眉唾物だな。」
俺が受けたような袋叩きよりさらに多い数で、学園の超能力者たちが集まる。これじゃ闘いというより一方的な暴力だ。止める義理はないので、見ているだけだが。
だが、数秒後にはイングランド人の言うことは理解出来た。一方的な殺戮が繰り広げられる。1人の男を中央に、数十人の人が文字通り舞っている。ある意味予測した通りに一方的な暴力となった。ある意味。
「この状態になるとやつをシックスセンスで観測不能になるだろ?」
イングランド人の言う通りだった。シックスセンスは人の気配を感じることが大前提だ。人の気配を感じられないということは今まで1度としてなかった。
殺戮は鳴り止まり、化け物は人間を取り戻す。こうなると再び観測可能となった。
イングランド人は彼に近づき、タバコを1本渡すと、こちらに連れてきた。
「こいつの名前は鈴木翔。ミレニアムに相応しい名前だ。」
わざわざ分かっていることを言うあたり、イングランド人というのは利口ではないようだ。そんなことを思いながらも鈴木翔、日本人に話しかける。
「契約金50億円のスーパールーキー、イリイチだ。その三枚舌から聞いてると思うが、俺の能力はシックスセンス。第六感だ。お前の能力を聞こうか。」
もう1人のスーパールーキーは何処か遠慮がちに、だが確かにこういった。
「俺か。俺はそうだな。能力名はまだ決まってないが、どうも破壊系の最高能力らしい。破壊と攻撃は出来るが、防御はまるでダメで。普通の超能力が使いたいものだよ。」
俺は始めて、神の存在を信仰することとなった。




