悲しみの重さ―1
連休中の身体は怠惰な生活に慣れ、これが人間本来の生き方であるのだと頭の奥底へ根付いては決して離れない。人間というものは楽な生活にすぐ順応するが、慌ただしく、忙しく、辛い現実にはどれだけ時間が経とうと慣れる事はないのだろう。
ゴールデンウィーク明けの教室。曇り空で光源が弱く、湿った匂いのする特進科の授業は、連休を挟んでいなかったかのように淡々と、滞りなく行われていた。
「はぁ~。連休明けの授業ってどうしてこうもめんどくせぇんだ? ねみーし身体だりぃし……お前もそう思うだろ?」
授業中であるが、黒板に向き合っている物理教師に聞こえないよう小声で隣の席に呼びかけた。
「別に。これが普通。今までもこれからも変わらない日常だよ」
そう答えた白崎は背筋をピンと伸ばし、黒板を真っ直ぐ見据えている。
こいつに共感を求めても無駄か。
数多く存在する学生たちの中で、授業を好んで受けている者が果たしてどのくらいいるのだろうか? 俺みたいなのはともかく、こうした普通の授業じゃなく自分の熱中しているスポーツや趣味に時間を費やしたいと望む人間だっている筈だ。
やりたい事もやらなくちゃいけない事も他になく、俺みたいにいやいや言いながら嫌な事をめんどくさそうにしている人間が一番クズだって言われてんだろうな。
ーー他の奴らはどうなんだろう。
連休明けから謹慎の明けた赤石は教卓手前に座っており、白崎と同じように授業を真面目に聞いている。ノートをしっかりと取り、わからない箇所は度々先生へと質問を投げかけては解決していた。模範生であり勉強が好きな人種。まさか暴力沙汰を起こすような人間には全く見えない。
前方窓際に座る黄地はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら授業を……聞いているのかいないのかわからない。白崎とはまた違った意味で考えの読めない奴だ。つーかこっわ。
左方に座っている青野を横目でチラチラと見てみる。位置的にあまり授業中の様子を見た事がなく、その上青野の人柄が全くわからない。別に大した興味もないけど。
青野は至って普通に授業を聞いてノートを取っている……様には見えたが、下げられた視線の先にあるシャープペンシルの足は立ち止まって動く気配を一向に見せない。
「はぁ~」
聞いた方もテンションだだ下がりになりそうな重い溜息。
なるほど、青野も恐らく俺と同じような思考回路をしているようだ。あれは連休明けのだるさが抜けきっていない人間特有の溜息。
授業を受けながら気落ちしている青野に、少しだけ興味が沸いた。
肩の位置で切りそろえられた綺麗な栗色の髪。他の女子より圧倒的に短いスカートに、シャツをを大きくはだけた胸元。そして派手目ではないが薄っすらと見て取れる顔の化粧。パッと見ギャルであり、普通のクラスであればスクールカースト上位に食い込んでいるような容姿をしている。
ギャルと言えば明るいどころかうるさいイメージが世間的にも定着しているが、ここ欠陥クラスにいるギャルは至って大人しく、むしろいつも落ち込んでいた。
何にそんな悲壮感を漂わせているのか、理由があるのだろうが俺の知るところではない。知ったことろで自分に何かできるわけでもないし、どうせ街中でやんちゃしてその筆頭が青野だった、みたいな理由なのだろう。
青野の方へと向けていた視線を前へと戻した。黒板の上にある時計を見てみると授業は未だ中盤に差し掛かった時間帯で、まだまだ先は長そうだと再び重い溜息を吐いた。




