ちょっと長めのプロローグ!
はぁ、なんで誕生日に学校に通わないといけないんだよ。私は重い道のりで駅へ向かう。めんどくさい。
ふと、隣に居る自分の妹を見ると、満面の笑み。
「なんでさくらはそんなに元気なの?」
そう聞いた。だって、今日は私とさくらの誕生日、その上今日は日曜日。
なんで私たちが日曜日に学校へ行くかというと、百人一首大会を開くからだそうだ。正直、どうでもいい。勝手にやっててくれ。
「ふふ、私もお姉ちゃんと一緒で古典が大好きだから、楽しみなんだ~」
そうだった。こいつは、かなりの古典好きだった。でも、私は古典が大好きだなんて思ってないし言ってない。
ただ、百人一首で好きな歌もある。
「山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあえぬ 紅葉なりけり」
思わず口ずさんだその歌は、私にとって特別な歌。
駅のホームで電車を待っている間、ずっとさくらは百人一首を暗唱していた。
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォッ」
爆音と冷たい風を連れて、私たちが乗る電車がやって来た。
深い黒のさらさらした髪が、風に揺れる。
「プシュー」
大きな音がして、ゆっくりと電車の扉が開いた。
革の鞄を腕に持ち、電車へ乗り込む。
そうして電車は走り出した。
ふと時計を見ると、午前8時ちょうど。なるほど、どうりで人が多いわけだ。通勤ラッシュということか。
(こんな日曜日に、通勤なんて大変ですね。)
そんなことを思いながら、スーツを着たサラリーマンを見つめていた。
真冬なのに、人がいっぱい居る車内は暑く感じた。
午前8時15分、学校に一番近い駅へと到着し、降車した。
車内では暖房が効いていて、しかもぎゅうぎゅう詰めだったから暑かったが、電車から降りてみればやはり1月、身を切られるような寒さや吹き抜ける北風。
私の紅葉色のマフラーとさくらの桜色のマフラーを揺らした。
さらさらの髪も風に流され、桜の香りがふわっと香った。
ここから学校まで徒歩3分。あまりの寒さに言葉も出せず、黙々と二人で歩き出した。
歩き続けて、やっと「私立夜半月学園」の文字が見えた。
「ガラガラガラガラ」
重い門を開けて、急いで校内に入る。そのままスカートを翻しながら、1年紫組の教室へと走る。
「ガタンッ」
乱暴にドアを開け、教室へ入った。と同時に、予鈴が鳴り響いた。
急いで鞄を片付けて席へ座る。時計を見ると8時23分、あと2分で朝の会が始まる。
早く始まらないかなと思いながら、秒針が規則正しく廻るのを眺めた。
(あと5,4,3,2,1…0!)
私が0と心のなかで呟くのと同時に先生が入ってきた。この人の頭の中には時計が入っているのだろうか…。
先生は言った。
「いよいよ百人一首大会ですね。それでは今から和室に行くので出席順に並んでください。」
緊張する頭に酸素を送るべく精一杯深く息を吸った。新鮮な空気が肺に入っていく。
一歩一歩進んでいくと、和室の扉が見えた。廊下の端に上靴を脱ぎ揃えて、再び整列し直す。
学級委員長が和室の扉をゆっくりと開けると、畳の香りがした。
畳には、百人一首が並べられていた。
さあ、百人一首大会の始まりだ‼




