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パラレル ― 異世界の鬼っ娘と繋がった俺  作者: G.G
第二章:ミクルの里
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2-3:動き出すミクルの里

 2-3動き出すミクルの里


 俺たちが開墾地へ戻ってくると、森はずいぶん開墾されてかなり広い空き地ができていた。

 竪穴住宅は十棟ほどできている。敷地の内側はまだまだ余裕があるので五十棟くらいはできるかな。

 戻ったら凄い歓声で迎えられた。後で聞いたら一夜干しのうまさをたっぷり吹きこまれていたらしい。

 まあ、それが戻って最初の仕事だな。

 マクセンとハタは住人が盗賊のメンバーだったと聞いてドン引きしていたが、飢饉で逃げ出した人たちだと分かると打ち解けてきた。二人が読み書き計算ができるこの世界のエリートだと分かるとあっという間に指導者とあがめられるようになった。いや、旅で仕入れたこの世界の知識は俺にとっても貴重だ。

 ミクルの小さな胸は誇らしさでパンパンになってる。


 温泉に入った後、食事をしながら山脈の向こう側の事情を詳しく聞いた。

 皆は出身地はばらばらで故郷を逃げ出す途中、盗賊達に無理やり仲間にされたという。飢饉の原因は気候では無く“狩る者達”と呼ばれる一団の仕業らしい。彼らは農事に携わらず狩りのみを行う。森などで野獣を狩ったりもするが、人間も構わず狩る。その際、一切の資材を持ち去ってしまう。

 当然、農具や種籾たねもみなどが無いので作付けができない。困った人たちは散り散りに近くの集落に身を寄せるが、長く続くうちに残った集落だけでは食料を賄えなくなってきた。集落同士の争いも増え、作物の収穫も落ちていく悪循環。

 俺は昔の中国で猛威を振るった騎馬民族の事を思い起こしていた。

 そういえば、馬は見ないな。家畜も見ない。商人が使っていたムーくらいだ。

 この世界ではそういう風習が無いのかも。

「神殿は何もしなかったのですか?」アムネさんが聞く。

「奴らが多すぎるんだよ。戦慣れしてるし。昔は鬼人族を雇って何とか防いでいたらしいんだが」

「鬼人族?」ミクルがぴくっと反応する。

「何でも十年以上前に“狩る者達”が鬼人族の集落を襲って全滅させたと聞いてる。腕ではとても敵わないので井戸に毒を入れたんだとか」

 人々がはっとしたように俺=ミクルを見て黙り込む。

 幼い頃の記憶がミクルの脳裏をかすめる。血まみれの地面に散らばる死体、死体。

「あ、大丈夫だから、あたし」ミクルが手を振って笑顔を作る。いやいや、内心、沸騰してるよね?

「そういう事情だと、この先も山脈の向こうから逃げてくる人々が増えるだろうな」

 マクセンがつぶやく。

「“狩る者達”もそのうち・・」ハタが答える。ミクルは内心全力押さえ込み。健気すぎる!

「でも、今はここでちゃんと暮らせるようにしなくっちゃ、ね」

 穏やかな表情のミクルの言葉で話題は翌日の手順とかに移った。

 俺、ちょっとどうしていいか困惑していたら

(ショータ、大丈夫。ありがと)

 逆に慰められちゃったよ。

 そうそう、そだね、皆に一夜干しの作り方、教えなくっちゃ。


 食事が終わったら手伝いの傭兵の一人が手招きする。一回り小さな竪穴住宅に案内された。

「ミクル様のお住まいを用意しましたぜ」

 おお!俺=ミクル専用?

 この世界の習慣では男女が分かれ、三人~六人程度が一棟に住む。他に子供専用の棟もあって、やはり三人~六人程度に分かれて住む。住居の中では煮炊きや食事はせず、料理棟で作った料理を広場で焚き火を囲んで食べる。竪穴の中央には常に焚き火を絶やさないが、湯を沸かす程度にしか使わない。

 だから専用の住居は特別扱いなんだ。

 ここはありがたく好意に甘えよう。

 中に入るとアムネさんが付いて入って来る。当たり前な顔してるけど、まあ、良いか。

 中央には既に焚き火が燃えていて、火の番らしい女が胸で手を交差させる挨拶をして出て行った。巫女アムネはその跡に座り火の加減を見ている。

 壁の片側には棚が用意してあり、いくつか壺が乗っていた。反対側は壁面に藁を詰めた長細い麻袋が置いてあり、寝床に使うもののようだ。皆は藁束を敷いて寝るからこれも特別扱い。横になってみるとそれほど悪くはない。でもその内綿布団にしたいな。

「アムネさん、寝ないの?」声をかけてみた。

「私は火の番をしてますから、お休みになって下さいな」まじめだなあ。

 俺=ミクルは夕食と深夜アニメのため向こうの世界に意識を移す。

 意識を戻したら、アムネさんが消えかけた焚き火の前で横になって眠りこけていた。

(ダメダメだなあ)俺とミクルが胸中でハモった。

 アムネさんに麻布をかけてやり、消えかけていた焚き火に薪を足して朝まで保つようにする。

 それから新居で初めての眠りについた。


 そろそろ藻塩作りの準備にかかる。

 神殿に依頼していた少年少女達が十人ほど集まったというので出向いた。

 少年二人、少女八人。見た目十才から十三才くらいかな。まあ、使えるだろう。

 女が多いのは集落の労働力を考えて男は出したくないからだろうな。

 皆、不安そうに目を伏せている。集落から見放されたと思ってるんだろう。奴隷にされると思ってるのかもしれない。良くある事らしいから。心配するな。俺=ミクルが付いてる。

 神殿に寄ったついでに祭司長に“狩る者達”について少し情報交換する。

 盗賊達の騒ぎは今のところ静まっていて、逃げた連中も山向こうに去ったらしい。

 情報は色々入っていて、山脈の向こうの神殿は一応、何とか守りを固めているそうだ。

 この大陸では国という組織は存在しない。ほとんどが集落単位で生活を営み、長老格の一人がリーダーになっている。集落同士は緩い交流があるが、特に取りまとめている人物や組織は無い。

 あえて言えば、神殿が祭祀や参拝を通して複数の集落をまとめている。

 それは強制力を持たず、税の徴収といった仕組みは無い。

 参拝の時に任意に奉納される物資が神殿を支えている。実際に御利益あるからね。

 神殿がリーダーシップを取るのは、盗賊や集落のもめ事で武力が必要なときだ。ニーヴァ神殿には常に一定の傭兵が住み着き、ルシュ神殿などに傭兵を派遣する。傭兵を依頼した集落は何らかの報酬を支払う習慣になっている。もちろん、強制ではない。だが報酬をケチるとその後、依頼に応じた派遣が受けられない。

 そりゃそうだ。

 これはこれでうまく廻っている。ここの人たちは皆穏やかで特別な野心を持つ者はほとんど見かけない。神ルシュが俺に何を期待しているかは分からないが、国とか政府といった概念を持ち込むのはまずいと思う。戦争をおっ始めるのは国とか政府だ。

 宗教は現世利益の神様が実際に居るので、人間が勝手に作った神様の存在価値はない。

 ただ、“狩る者達”の脅威がこの地方を襲うと考えると、いささか心許ない。

 何かの仕組み作りは必要だな。今すぐの脅威ではないが、いずれその時が来る。

 ただ、何をするにしてももう少し生産性を上げて農事以外に携わる人手を確保するのが先決だ。

 多分、俺たちの新しい集落が先鞭をつける事になるんだろう。

 そうそう、俺たちの集落は“神使ミクルの里”と呼ばれるようになっていた。


 少年少女達に土鍋や小道具をそれぞれに持たせて開墾地へ向かう。土鍋は試作の時より二回り大きいのでかなり重い。頑張ってくれたけど、やっぱりすぐへばるので途中何度か休憩を入れた。

 集落に着くと、少女達を見て男どもが歓声を上げた。

 そうか、二十人のうち、女は三人しか居なかったからな。

 彼らの配偶者も面倒見なくちゃいけないかな?

 ミクルの記憶を辿ったが、奴隷の立場だったのでそういう習慣についての知識は乏しい。

「集落同士の物物交換の時、皆で食事をするんですよ。そこで気に入った相手がいれば夜這いするんです」

 俺の考えをくみ取ってマクセンが耳打ちした。マクセンは旅慣れたせいか、この世界の慣習に詳しい。当面は俺たちの顧問として滞在するように頼んである。

 その日のうち土鍋の設置は終わり、開墾していた男達も戻り、皆で夕食になった。

 食べ始めて、子供達が一斉に騒ぐ。

「何これ?おいしい!初めて食べた!」

 一夜干しと肉、木の実の団子、野菜のスープだ。デザートに森の果物。

 あっという間に平らげ、物欲しそうにしているのでお代わりを許してやる。

 大喜びで手を叩いて歓声を上げる。

 終わり頃になって俺はハタを紹介した。

「これはお前達の先生になるハタだ。読み書きと計算を教えてくれる」

 最初は俺が教えるつもりだったが適任者がいる以上、丸投げしない手は無い。

 子供達はきょとんとしている。読み書き、計算という言葉自体を知らないんだ。

 食後、温泉に入れる。最初は恐る恐るだったが、すぐにはしゃいでお湯をかけ合ったりして遊び出す。

 子供は適応が早いな。

 こびりついた汚れを落とすと、新しい衣服に着替えさせた。シンプルな貫頭衣だけど清潔だ。脱いだ衣服は煮沸消毒させる。これは蚤取りを兼ねて全員毎日実行するよう指示してある。皆なかなか美形揃い。自分たちもお互い見合ってびっくりしている。

 最初の頃の不安げな怯えた顔はすっかり陰をひそめた。


 翌日から塩作りを教え始める。

 俺=ミクルが可愛い少女の姿なので警戒心はない。意外に角は気にしてない。うれしい。

 集めてあった木の実や果実を水棲人に渡して海藻を集めて貰う。

 これを一回干す。春先の風はまだ冷たく、乾燥まで半日かかる。

 その間、ハタが読み書きを教える。砂浜が黒板代わりだ。

 そうそう、一夜干しも忘れずに。

 海藻が乾燥すると土鍋の上で海水で何度も洗う。うん、特に負担はなさそうだ。

 再度、海藻を広げて干す。

 午後は森に木の実と果実、薪を集めに行った。俺=ミクルとハタが付き添う。

 うん、遠足感覚で楽しくやってるな。

 午後の乾燥が終わると土鍋にゴミが入らないよう蓋をして翌日に備える。

 三分の一位になったら海水を足す。三回これを続けて海藻を焼き、灰を投げ込む。

 灰が沈殿するのを待ち、上澄みが出来たら別の土鍋に移し煮詰める。

 シャーベット状になった所で布です。子供達はここが難しい所だ。

 煮すぎると土鍋に結晶が残って取れなくなるし、足りないと量が減る。

 漉した塩を乾燥するまで乾いた土鍋でかき混ぜながら炒める。

 子供達がコツを掴むまで付き合った。

 それはさておき、この所ミクルが何だか沈みがちだ。ハタが里に来て以来、何も話せてないかららしい。

(避けられてるのかなあ・・あたし)

(忙しいからだろ、お互いに)

 そう、やることは多い。商社に居た頃の何倍働いてるんだろ?


 俺は塩作りばかりやってたわけじゃ無い。

 開墾地の片隅に俺専用の畑を用意した。作物の品種改良の試験場だ。

 神殿で分けて貰った種籾たねもみはよく見ると粒にバラツキがあり品質が均等では無い。これを選別して揃った物毎に分ける。水に入れて浮かんだもの、沈んだものにも分ける。畑はうねを盛ってあり、そこに種を蒔いて木札に印を付けておく。収穫時、どんなもみが高収量かを確かめるためだ。

 種を蒔く前に、皆にも同様の選別をして貰った。収穫時、収量の高い物を種籾たねもみにするためだ。

 堆肥の代わりに森から枯れ葉を集めて土に埋め腐植土を作る。

 栽培予定の畑は一度雑草などを燃やし、腐植土を混ぜて耕してからうねを盛ってもらう。

 春の種まきの準備は終わった。

 皆は元農民なので蒔き時などは心得ている。後は任せた。

 俺=ミクルが神使のせいか、鬼っ娘なのに皆素直に言う事を聞いてくれる。


 あと、塩作りの燃え残りで出来た消し炭を使って濾過器を作った。

 丘の竹林から太い竹を選んで節を底になるよう切る。底に穴を開け、石、砂、消し炭、細い枝などを順に敷き詰め、上から水を流す。濾過器からはぽたりぽたりとしか水が落ちないので、これを沢山作って並べ、竹を半分に割ったといに穴を開けた物を上に設置し、川の水を流す。必要だと思われるまでこれを拡張した。地形に結構高低差があり、滝が三カ所ほどあったのでうまく利用できた。

 元々、井戸を掘ろうとすると温泉が出るので、川の水を飲料にしていた。

 もちろん、必ず煮沸するんだが、そのままだとどうもゴミなどが混ざる。

 気持ち悪いのでこういう工夫をした。


 この頃になると協力してくれる水棲人が結構増えて、海産物には不自由しなくなってきた。

 もちろん、対価は要る。

 主な交換物は森の恵みだ。水棲人は陸に弱い、というか森の野獣からうまく身を守る手段を持たない。

 だから森の恵みは彼らにとって貴重品なんだ。

 森の恵みとして狩ってきた野獣の肉などももちろんその中に入る。これは時々訪れる神殿の傭兵達が供給してくれる。

 傭兵達の間では“神使ミクルの里”は天国の味覚が満たされる所として有名になっていた。

 暇を見て――無理やり暇を作って――訪れるようになっていたのだ。もちろん手ぶらじゃない。

 結果として魚だけで無く貝やエビ、海藻などが豊富に供給されるようになってきた。

 一度には消費しきれないので、余った物を天日乾燥して干物にする。

 これは水棲人にやり方を覚えて貰った。

 山脈の向こうから来たうちで、石器を上手に加工できる者が二人居た。

 これが水棲人にもの凄く受けた。岩に張り付いた貝類などを剥がすのに石器のナイフがとても便利だったんだ。海藻を切り取るのにも苦労が要らない。

 そのうち、水棲人達も“神使ミクルの里”にやってくるようになり、温泉がブームになってしまった。

 うろこに着いた寄生虫が簡単に取れるらしい。

 温泉を一棟増設する事にした。水棲人専用に海からしか入れないようになっている。

 集落を通ると水棲人女性は胸を露出して平気なので、集落の男達の生産性が落ちてしまうからだ。

 まあ、ミクルから軽蔑の視線を感じたってのもあるか。


 とにかく、なんだかんだで俺=ミクルたちの集落はとても賑やかになってきた。

 春の種まきが済んで、苗が育った来た頃、塩の収量は安定してきた。

 神殿に奉納する分を除いても十分な塩の量が確保できる目処が立った。

 ここで、全員の料理に塩使用を解禁する。

 魚の塩焼きを初めて食った連中の顔は見物だった。

 貝や魚の切り身の潮汁。葉物の浅漬け。肉の脂身を切り取り、じっくり炒めて油を出し、それをベースとした炒め物。ソテー。土器でも出来る美味しい料理。

 あ、もちろん、元世界で試作はしてたんだよ。藻塩、通販で買えるし。

 ネットにはレシピ沢山落ちてる。ああ、醤油が欲しい。

 こうじは酒を造っている所にあるとは思うが大豆相当の豆をまだみつけていない。

 一応、魚醤を仕込んでみた。小ぶりの魚にたっぷりの塩をまぶし、壺に詰め込んで落とし蓋をする。

 利用できるには一年くらいかかるらしい。匂いが凄いらしいので住居から離れた所に貯蔵する。

 葉物や根菜も漬物にしてみた。色々試して味の良さそうなものを選び出す。

 そうこうするうち、料理に興味を持つ者が出てきたので仕込む。山脈の向こうから来た男二人と少女の一人。なかなかすじが良い。そう経たないうちに料理は任せられるだろう。

 訪れる傭兵達の中にも料理に興味を持つ者が居たので教えてやる。

 ここの料理と藻塩は段々とこの世界に広がって行くだろう。

 これも神ルシュの意思と思って良いよね。

 開拓が一段落した所で余裕が出てきたのか、一人が竹で笛を作った。子供達が草笛を吹く。壺を太鼓代わりにたたく。棒を打ち鳴らす。娯楽の少ないこの世界では音楽が数少ない楽しみなんだな。そういえば、開墾しているときも歌っていたような。

 ミクルがこれに反応して歌い出す。ちょっと待って、それアニソンじゃないの?

 テレビで繰り返し見ていて覚えてしまったらしい。歌詞はこちらの言葉に適当に意訳。

 皆は耳新しいメロディーに魅了されてしまった。教えて欲しいとせがみ倒す。

 毎日夕食後は皆でアニソンの大合唱、というのがミクルの里での習慣になった。

 著作権問題は大目に見て欲しい。


 マクセンが色々な集落で得意にしている産物を良く知っているので、定期的に集落を廻る事にした。

 干物と藻塩がこちらの交換物だ。

 交換物としての干物は海藻で洗って濃くした塩水に漬け出来るだけ長く天日干しした魚や貝類。生や一夜干しは日持ちが悪いので物々交換には向かない。

 男達の相手探しも兼ねるので交代に三~四人を連れていく。

 まずは酒。

 酒の発酵には温度管理にノウハウがあるので簡単には作れない。この世界に温度計は無いからな。濁り酒で甘みが残るがそこそこアルコール濃度は高い。そのうち蒸留装置も工夫したい。

 次に布と糸。

 この世界では麻が一般的だが綿もある。綿の布を作っている所で綿畑をみせて貰った。栽培では無く原生種のようだ。糸は太さが不揃いで、織った布はどうしてもゴワゴワする。要改良だ。

 土器。

 斜面に穴を掘ってかまどにする。集落はその周辺にある。斜面に面した方向にはほりは掘れないので柵になっている。粘土は近くの沼地で採れる。水が漏れない素焼きはノウハウがあるらしく教えてくれなかった。


 干物と藻塩は驚きを持って迎えられた。

 取引に慣れたマクセンのおかげもあってか、物々交換はとてもスムーズに進んだ。

 話に聞いた通り、夕食は集落全員と飲食になった。ここで藻塩を使った料理を披露しておく。乾物の戻し方と応用料理も伝授しておいた。商品の用途を広げるのもマーケティングなんだよ。

 最近覚えたてのアニソンを披露すると盛り上がりは最高潮に達した。

 夜になると、聞いた通り夜這いをかけてくる奴がいる。俺たちの集落でミクルに夜這いをかける奴は居ない。戦いでのスプラッタ見ているからね。でも他の集落では知らないからミクル目当てに忍んでくるんだが、残念、蹴飛ばされて建物の外に吹っ飛んで行くのがオチだ。


 夏に近い頃、俺たちの集落の男一人が夜這いに成功した。

 明くる日、長老に嫁取りの交渉を行う。

 男の方に住むか女の方に住むかは交渉次第。引き取る方が何らかの物を集落に引き渡す。女は俺たちの集落を希望したので引き渡す物と量を取り決める。まあ、食べ物からして魅力的だし、温泉の話も聞いていたらしいから当然か。

 里に戻って新しい家族を迎えると皆大騒ぎになった。その日は酒を大盤振る舞い。

 翌日からは新夫婦のための住居作りになった。この世界では夫婦用の住居という習慣はない。ただ、俺の感覚では男女の営みにはそれなりのプライパシーが必要だと思ったんだ。この新習慣、神使ミクルの提案と言うことですんなり通った。新夫婦、照れながらも嬉しそう。

 こういう気配りと成果もあってか、ミクルの里は他の集落より皆元気が良い気がする。

 夏になると海藻の乾燥も早く、藻塩の採集はとてもはかどった。

 炎天下の海藻運びは本来重労働の筈だが、子供達は水浴びついでの遊びみたいで全然気にしていない。

 女の子も素っ裸のまま海藻担いで走ってる。競争してるらしい。白い歯出して笑っているから良いのか?


 夏になって気になりだしたのは集落の臭いだ。かなりくさい。

 石灰石を掘り出している集落があるというので、総出で出かけた。これは下水を作るためだ。集落はただ土をならしただけで雨が降るとぬかるむし水はけも悪い。衛生上も良くない。

 石灰石は焼成して生石灰にし、更に水をかけて消石灰にしなければならない。焼成のための木炭も必要だ。

 消石灰は細かく砕いて砂と水をまぜてモルタルにし、掘った下水路に敷いた岩の間を埋める。下水道は沈殿槽に導いて汚水処理も出来るようにした。水棲人達の生活を脅かす訳にはいかないからね。下水の蓋は木製。石灰が足りないので妥協した。

 トイレはくみ取り式から水洗に改良。川の上流から竹筒で水を引いてかめに貯め、使用後底の栓を抜く仕組み。

 ついでに地面は砂を積み、石や岩を割った物を敷き詰めた。雑草よけにもなる。

 敷き詰めた石の上から水まきをすると真夏の暑さも少しは和らぐ。水たまりも出来ない。

 竪穴住居は冬は良いけど夏が風通しが悪いし蒸す。温泉が湧くくらいだから地面がいくらか暖かいようだ。

 ちゃんとした建物にしたいが木を加工する道具と技術が必要なので、そこは手を付けなかった。

 スノコを敷くと少しはましか。

 試行錯誤したが、蔓を乾燥してほぐし繊維を編んで網状のものを作った。うん、少し風通し良いかな。

 これで過ごしやすさはかなり改善できた。


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