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Nemesia  作者: 五流工房
Nemesia本編
9/18

似てないわよ

店の外から少し歩くと、そこには道なりに小さな川が通っていてる。

小さいと言っても、そこに橋が架かっているとして、20歩程度で渡りきれるもんじゃないの。

ま~そこそこの距離があるけど、目で向こう岸が見える程の大きさかな。

私たちはその川を眺めながら、閉店の時を待つ事にしたの。

のんびりと静かに流れる水面を見つめながら、彼女が何気に口を開く。


「今だから聞けるけど。あの時さ。ほんとは私の事、引っ叩きたかったでしょ?」

「ほへ?あ~。引っ叩いたわよ?彼氏の方だけどね」

「しよ。正直に答えてよ」

「う~ん。本音は引っ叩きたかったよ。でもそれ以上に私は失いたくなかったから」

「え?彼氏を失ってまで何を失いたくなかったわけ?」

「どう言ったら伝わるかわからないけれど、要は大切な人との繋がりかな」

「それって、愛情より友情が大切って聞こえるんだけどなー」

「そうだよね。でも当時は何もかも失う事が怖かった。こんな私に仲良くしてくれる友達が出来て、バイトでも大切な仲間に出会えたり、そこで恋をしたり、ま~色々とあったり」


今更なんだけど、今ここで話してる内容は過去の話。

みあが私に聞いている事はと言うと、私が学生時代に付き合っていた彼氏の話なの。

あ、誤解しないように先に言っとくと、ま~これから続きを話すのだけれど、これは私と(ヒロ)の話ではなくて、彼の友達の"アキト"と私のお話なの。


「そのおかげもあって、私はあの人を受け入れられたからさ。みあがアキトを好きになってくれなかったら、今のこの状況はないのかもね」

少し表情を曇らせる彼女。そして軽く深呼吸。


「ね?しよはあの時。本当はどっちに気が向いてたの?」


きっと彼女が知りたがってた質問は、本当はこれだったんだと、この時感じたの。


「やっぱ、気になるよね。そだな~。白状すると、どちらも選べないんだ」

「独占欲に加えて欲張りだったなんてね」

「もぅ。そんなんじゃないけど、私は友達のままでもよかった。でも言い返すと、どちらが告白して来ても好きになれる自信はあったのね。やっぱみあの言う通り、私って嫌な女かも」

「そこまで言ってないでしょ?嫌な女は私だけでいいわよ」

「ねぇ?こっちも聞いていい?」

「何かしら?」

「もし、ヒロが先だったら。みあは同じ事してた?」

「な、そんな事は絶対にないから。たまたまアキトを私が好きになっただけよ」

「それは今でもそうだよね?」

「さ、さぁーね。もうこの話は終わりにしましょ」


なぜか慌てた声で返事をし、店へと歩き出した彼女。

その姿を見て、彼女らしい行動だよねと心で思いながら後を追う。


「やっぱりみあも私と同じなのね。元彼の事が~」「ああー片耳だから聞こえずらいわねー」




Nemesia(ネメシア) day2_似てないわよ ~




屋外照明が落ち、月明かりが店を照らす。

閉店を示す合図だとわかった私たちは、入り口付近で店長さんを待つ。

数分後。次々と出て来るバイトの子たち。そして後から社員さんも店から出て行く。


「お待たせしました~。どうぞ中に」


少しだけ衣服を崩した店長さんが店の入口から現れたの。

誰もいなくなった静かな店内に、再度入店する2人。

案内されたテーブル席に腰を下ろし、店長さんは対面するように座り一言

「なんか、面接みたいな雰囲気ですね」

元気いっぱいの笑顔を見せる彼女。

「ふふ。なんだか昔を思い出します」

そう言いながら、私は帽子とメガネを外し、彼女に素顔を見せたの。


「わぁぁ。そっくり。もしかして整形してます?」

「あはは、その発想はさすがになかったわー。あんた面白いわね。何で見抜けたの?」

「何でそうなる。生まれつきだから」

「ははは。いや~楽しい人たちで安心しました。所で、さっき昔を思い出すとか言ってましたよね?」

「あ~それはですね」


しばらく3人は何気ない会話を楽しんだの。そして、本題へと話しは進む。

「で、私にお願いって何です?」

「実は、さっき私たちと話す前に、男性のテーブル席の所で話してましたよね?」

「あ、ええ〜"ヒロさん"、あ。名前言っちゃった」

彼女の零した言葉で、ルールが1つ解放され、彼の名前が口に出来ると安心すると同時に、少し胸が切なくなったの。

「大丈夫です。私たちはヒロくんの"友達"で」

「あ~そうなんですか。ヒロさんは常連さんでいつも友達を連れて来てくれるんです。店の方からすると嬉しい事なんですよ」

「へー。売上げに貢献してるってとこかしらね。ま、目的は他にもあるかもだけどね」

少しいたずらっぽく店長さんへ言葉を投げるみあ。

「え?あ、え~と。もしかして、ヒロさんの事でお願いがあるんですか?」

彼女は返事を濁しながらも、話しの軌道修正をしてくれた。

「はい。実は・・・・・・」


私は、ルールを破らないように、どうにか彼女に説明をしてみるのだけど、やっぱり理解不能な事が多く、安心していた表情が次第に曇り出して来てしまい。


「あの。私に頼むより直接ヒロさんに会っちゃダメなんですか?そもそも何で私なんです?」

「えっと、それは・・・・・・連絡先がわからなくて」

「は?あなたはそれでも友達なの?何で今時連絡先も知らないの?」

いつしかお互い敬語もなくなり、感情で話しを進めてしまってて。

「だって、私はこの街にもう何年もいなくて、当時は携帯なんて持ってなかったし」

「でも今は持ってるのよね?なら何でお店で会ってるのに聞かないの?てかそこで話せばよかったじゃない」

「私だって出来ればそうしたいわよ。でもそこで怪しまれたら、何も出来なくなるじゃない」


「まー待ちなさいお2人さん。感情論で事を進めない。お互いケンカするために会ったんじゃないでしょうに」


みあの一喝で、辺りが静まり返る。

「ごめんなさい」「すみません」

「ただあなたの顔を見てると」「そう、私もあなたの姿を見て話してると」

「「なんだかイライラして来て」」

妙な所で意見がシンクロする2人。

「やれやれ、似過ぎてもいい事ないってわけね。でもね"さわっち"」

「ひゃっ!何してるんですか?」

みあは、おもむろに彼女の左の柔らかい部分を掴み一言。

「安心しなさい。こっちは似てないわ。ちなみにあんたの負け」「やめんか変態女」

私のツッコミで変態の魔の手から解放される彼女。

急いで両腕で谷間を隠し、みあを睨む。ま~当然ではあるけれど、とにかく諸々ちゃんと謝ろう。


・・・

・・


事がようやく落ち着いた頃。

無理矢理ではあるけれど、さわさんを説得、納得してもらったの。

「で。要するにヒロさんに、あなたの事を思い出してもらって、話しが出来ればいい?」

「ええ。場所は問わないわ。この店でもいいし」

「あ。え~と。この店はちょっとマズいかも」

「何で?あんたここの店長でしょ?今日のようにしてもらえればベストよね」

なぜか黙り込んでしまった彼女。私たちに話すべきか?迷っている表情がうかがえる。

でも次の瞬間、彼女が軽くうなずき、決意を固めて口を開いたの。


「実は・・・・・・私、店長辞めるんです。正式には退職するの」


『あ~それより君、6年前に店長してなかった?』


彼女の言葉とノッポさんの言葉が繋がったの。

あの時の言葉は、そう言う事だったのね。


「そっか~。辞めるならこの店は無理だよね」「ま、そう言う事ね」

「あれれ?なんかリアクションが軽い気がするのは私だけなの?」

「いやー、その事はノッポさんに」「バカ!何言ってるの」

「どうしたの?もしかして私が深読みし過ぎたのかな?」

「あ~気にしないでいいから。とりあえず何かいい方法を探しましょ」


さわさんはスマホを取り出し、何かを確認している。

「あ、あの。セッティングはどうにかします。でも明日とか明後日とかすぐには無理だけど、絶対約束は守りますから、それまで待ってもらえます?」

「ええ。それは構わないけれど、出来れば日付と時間をあらかじめ指定してもらえれば助かるんだけど・・・・・・」

なんて言っても無茶な話しよね?決まってたらそんな答え方なんてしないよね?と思っていたのだけれど。


「11月最後の週の日曜日。時間帯は今日くらい。この日にもう1度来れそう?」


以外にも明確に、彼女は日付指定をして来たの。

私たちは時間移動するだけでいいのだから断る事もしなかった。

よし、これでまた一歩、彼に近づける。そう思った時。

彼女の言った言葉が、私を崖っぷちへと追い込まれる事になるの。


「じゃ~連絡先の交換をしましょう。あ、その前に"あなたの名前"って聞いてなかったわよね?」


どうしよう?名乗るとルール違反だよね?ならなんて答えれば?

「そう・・・・・・だね。名前は・・・・・・」「名前は?」

心臓の鼓動が大きくなる。そして、何かに追い込まれている感覚。

私は軽くパニックになりながら、解決策を探す。そんな時。


「あーさわっち。何やら入り口の方で音がしたような気がしたから、ちょっと確認して来なさいよ」

「え?さっき閉め忘れたかな~?ちょっと見てきます」

そう言って彼女は一旦席を外す。


「ど、どうしようみあ・・・・・・」「時間ないからスマホかして」


私の動揺なんてお見通しで、彼女はすぐに私のスマホを奪い取り何かを始める。


「いい?帰って来たらあんたはの名前はこれよ。コレ。わかった?」

「あ。その名前って・・・・・・」「そう。データは書き換えたからこれで安心」


みあがとっさにとった行動は、名前の書き換え。そして私は一時的に偽名を名乗る事になる。


「鍵は閉まってましたよ。風の音だったのかも」

「そう。無駄足踏ませちゃったわね。さ、連絡先の交換の続きよ」

「じゃ~先に交換しましょう。どうせ交換したら名前わかるんだし」


そうなのよね。こっちが先に偽名で誤摩化せても、連絡先の交換する方法によっては、登録情報がバレる事もあるし、先に気づいてくれた彼女に本当に感謝しなくちゃ。


「桜井 あやかさん?」


私は無言でうなずく。出来るだけ無表情を装って。

「じゃーさわっち。約束の日に、あやかから連絡入れさせるわ」

「そうして下さい。では今日はこの辺でお開きにしましょ」


こうして、さわさんと約束を交わし私たちは店を出る。


「なんとか先に進めそうね。さわっちは約束守るかしら?」

「ん~。信じるしかないよね。こっちが無茶なお願いしてるんだし、文句は言えないよ」

「まーね。じゃ、約束の時間へ行きましょ」


この時間に来て、3時間以上過ぎている。

立ち止まる事は出来ないし、何より私はあの子を信じる。

あ、そう言えば。さわさんと彼との関係を聞きそびれたな・・・・・・

でも彼と話せば答えは出るか。


「じゃ~次の時間へ」「ええ。行きましょう」

2人は意識を集中し、手の甲の中心が白く光り出す。


「「mana elua(マナ エルア)」」


・・・

・・


2011年 11月。


約束の時間に私たちはやって来た。

とは言え、目に映る物はさっきと何も変わらない。でも店の前まで来ると、季節に合わせたフェアの告知が変わっている。


「さて、早速だけど会いに行ってみる?あ、その前に。はい、これ」

彼女から渡された物は、あの帽子とメガネ。

「今回は店には入らないんでしょ?さすがに今はお腹いっぱいだし、閉店1時間前だし」

そう言いながらも、彼女から手渡された帽子とメガネを装着する。

「そうよね。なら連絡してみれば?お仕事中だろうけど、鳴らせば何かしらの返事は来るわよ」

私はスマホを取り出し、さわさんの連絡先に電話をかける。


「は~い、お久しぶりです。あやかさん」

「あ、そうね、さわさんも元気?」

「ええ。とりあえず仕事中ですので手短にお話して、詳しくは後ほどでいいですか?」

「ええ。こちらこそ忙しい時にごめんなさいね」

「いえいえ。待たせてるのは私の方なんで気にしないでいいです。あ、先に言っておくと、ヒロさんたち来てますからね」

「そうですか。まさか店で話しする事に変わったりは?」

「残念ながらそれは無理です。実は、今日ヒロさんをあなたに会わせる段取りをしますから、もう少しだけ待ってていただけます?」

「わかりました。私はさわさんにお任せするしか出来ないので、店の外で待っています」

「了解しました。ちなみにヒロさんのテーブル席は、外からでも見れますので、暇つぶしに探してみて下さい。では"最後の業務に戻ります"」

「ほへ?あ、はい。頑張って下さい」


通話を終え、さわさんとの会話の内容をみあに報告する。

「じゃー後はさわっちに任せましょう」「ええ。そうよね」


よろしく頼むわね。さわさん。


・・・

・・


あやかさんからの着信を受け、しばし店長室へ駆け込んだ私。

手短に事を話して、一旦通話を切ったのね。


「さ~て、残り少ない店長ライフ。そして"店長とお客さん"という関係も、今日でおしまい」


あやかさんの件は失敗出来ないよね?

しかし。あなたは、複雑な事情を持った友達を何人持っているのかしらね?

って、自分が言える立場ではないか~。とにかくよ私。"恩返し"出来るチャンスなんだから・・・・・・


大きく深呼吸をし、業務用スマイルを作り、私は店長室から飛び出した。


最後だからと言って手を抜いて仕事をするつもりはない。

だって、お客さんに失礼でしょ?

だから、いつも通りの笑顔と明るさを振りまいて私は働くの。


「その元気な姿がもう見れなくなるんだね」


聞き慣れた声が背後から聴こえた。

私は振り向きながら答えるの。

「ま~ここじゃなくてもいつでも元気だよ」

「ま、それはそうかもね。店長さんは笑顔が似合うし」

「そうでしょ。あ、後でちゃんと顔出しに行くから」

「はいよ。では頑張って」

右手を軽く降って、彼は席へと帰って行く。


閉店時間になりお客さんも徐々に減って行く頃、私は彼のテーブル席に向う。


「「「お疲れ様でした」」」


彼とその友達たちが、サプライズで退職祝いのプレゼントを用意してくれていた。

「ありがとう。閉店時間に合わせて来てくれたのは、その為だったんだ」

「ま〜そう言う事だな。それに、アイツも話したい事あるみたいだぞ」

彼の友達、”ハクさん”がクールな笑顔で答える。

「まープレゼントもほぼ彼が用意したもんだけど、俺たちかーらーのープレゼント」

彼のもう1人の友達、”マッハさん”がオーバーアクションで私を笑わせる。

「2人とも、何気に僕を主犯にさせないでよ。ま~間違ってはないけど」

2人の発言に突っ込みを入れつつも、正直に答えるヒロさん。

思えば、彼との出会いは偶然だったな。

あの時、主任だった私に話しかけてくれたのがきっかけ。と言っても、店の事で質問されただけなんだけど。


でもその事が、私とあなたを引き寄せた。


「ま、ヒロさんなら納得行くわ。だって2人とも私に興味ないでしょ?興味あるとすれば料理だけかな」

「うわ、厳しい。俺は興味あるって」

「俺は彼女いるから料理で」

「あはは。マッハさんは正直でいいわ、それよりヒロさん。話って?」

「俺は無視かよ」

「え?あ~店の人たちで送別会をやると思うのだけど、こっちもさわちゃんの送別会しちゃダメかな?」


お、なんともありがたい事をしてくれる。ま、あの人の性格の1つだろうけどね。なんと言うか、気を回してくれる所、ある意味お節介さんな性格。でも嬉しい。

待って。これはこちらからも要件を伝えるチャンスなのでは?


「ね~ね~。送別会じゃなくて、普通に遊びに行くとかでもいいかな?それかもうプランが出来てたり?」

「いや、全く何も考えてないよ。本人の返事を聞かないと進めれないしね」

「そう。じゃあ、そのプランは私が立てていい?」

「ああ。でもこれじゃ、誘った方が誘われてるみたいだね」


確かにそうね。でもその方がこちらも都合がいいのよね。好意に甘えて、あやかさんの事もまとめて解決させられる。正に願ったり叶ったりじゃないかしら?


「ま、そこは私らの仲って事でいいでしょ?ちなみに男の子は3人だよね?こっちも2人呼んでいい?」

「おお、それは合コンなんか?」

ハクさんのテンションが高まる。

「い、いや違うけど、とりあえず仲良くなって見れば?」

私の一言で、ハクさんは既に新たな出会いにメガネを曇らせて、じゃない。輝かせている。

「ハクがその気なら俺も参加して手助けしてやるぜ」

マッハさんも賛成のようね。後は肝心のヒロさんなのだけど。


「ごめん、ちょいヒロさん借りるよ」


私は彼の手を握り、2人の声の届かない所へ向かった。


「ど、どうしたの?僕はさわちゃんの好きなようにすればいいと思うよ」

「違うの。少しヒロさんにだけお願いと言うか、正直に話したい事があるんだ」

「ん?何か裏があるって事か。いいよ。君の事なら信用出来るしね」

「ありがとう。あのね・・・・・・」


私は手短に、彼に話したがってる友達がいると説明する。

お店で知り合って、私が彼に、その人を会わせる約束をした事も伝えたの。


「なるほど。僕は女の子の友達なんて少ないから、名前を聞けば思い出すと思うけど。その人の名前教えてくれない?」


「その人の名前は"あやか"さんだよ」


・・・

・・


店の近所を歩きながら閉店時間を待つ2人。

途中、仮面さんが現れて。みあの左手、親指と人差し指を除く指3本を奪って行ったの。

「ほんと、今回は足がまだあるのが救いよね。今の所はまだ余裕って感じ」

「余裕って。私は何が奪われるかが心配で心臓に悪いよ」

「まーしよは自分の事だけを考えててよ。それより、さわっちは上手くやってるかしら?」

「彼女の事だからきっと大丈夫だと思うよ。私たちは待つしか出来ないけれど」

「ま、そう言う事ね。じゃー閉店までしよのダイエット成功の秘訣を聞こうじゃないの」

「ほへ?ビリーズブートキャンプよ」

「今更それ?」


屋外照明が落ちて、お客さんも帰って行く時間。

店の外から見える窓際のテーブル席で、彼らがさわさんと話しているのが確認出来る。

「さわっちって、やっぱしよにそっくりね」

「何?改めて思う理由は?」

私の問いに彼女が笑う。そして優しい顔でさわさんの方を見て

「だって、あんたもバイトではああだったんでしょ?」

彼女の顔を見ると、無邪気な笑顔で元気いっぱいに笑っている。

「似てないわよ」

私はそう言って背を向ける。

そう、似てないのよ。だって・・・・・・あの子の方が可愛いんだもん・・・・・・


「あ、ヒロがさわっちに拉致られたわよ」「何ですって?」


確認すると、彼とさわさんの姿が見えない。

どういう事?なぜ2人っきりになるの?

妙な胸騒ぎがする。

胸騒ぎは私の冷静さを奪い、不安を再び呼び起こす。

「まー落ち着きなさい。もしかして、私らの事を説明してくれてるのかもしれないわよ。考えてみなさい。あの席で、ヒロ以外に私らの事を理解出来る人なんている?」

「確かにいないよね」

「でしょ?だから今は下手な妄想はやめましょう」

「失礼な。私がいつ妄想したのよ?」

「あからさまに顔に出てるっての。答えはもうすぐそこなんだから、今は我慢して」

彼女にはお見通しだったようで。おかげで冷静さを取り戻せたけれど。

それにしても帰って来ない。

説明するにしても、そんなに時間はかからないはず・・・・・・だと思うのだけど。


数分後。テーブル席に戻って来たのは彼だけだったの。

それとほぼ同時にスマホに着信が入る。


「もしもし?さわさん。あなた」「早く隠れて下さい。ヒロさんたち店から出ますよ」

「ほへ?あ、わかった」

私たちは彼女の言葉に従って店から離れて会話を続ける。

「ここならもう見つからないと思うよ」

「そうですか・・・・・・あの、約束は守りました。今から言う場所と時間に来てもらえれば、ヒロさんとお話出来ると思います」

「あ、ありがとう。ご迷惑かけてごめんなさい」

「いえ。あの・・・・・・当日、連絡しますので。そこで、私とまず"2人っきり"で話してくれませんか?いえ。話さなきゃヒロさんには会わせない」

何なに?いきなりの宣戦布告なの?しかも声に怒りを感じるのはなぜ?

さっきの彼との会話で何があったのか?それとも会った時からこれを望んでいたのか?

私には理解出来ないけれども、私には断る選択肢は存在しない。それに・・・・・・

「わかった。私もあなたとはちゃんと話したいと思ってたの」

「では当日、待ち合わせ場所で」


その一言で、通話が終了し、数秒後に彼との待ち合わせ場所と、時間を記したメールが届いたの。

場所はカラオケボックス。個室だし、気兼ねなく話しをするには確かにいい場所かも。


「で、さわっちはなんて?」

「約束は守ってくれたわ。ただ・・・・・・彼に会うのに条件を出して来たけれど」

そう言って、彼女にもメールの内容を見せる。

「条件ね。あの子も色々と必死なのかしらね。誰かさんと同じで」


その問いには私は答えなかった。

「次へ飛ぶよ。時間が迫って来てる」

私は右手に意識を集中させ、手の甲の中心が白く光り出す。

「わかった、メールの場所と時間よね」

彼女も右手に意識を集中させ、手の甲の中心が白く光り出す。


滞在時間。残り50分。

おそらく、最後の壁となるのは"さわさん"。

互いにうなずき、声を合わせ、時の空へとジャンプする。


「「mana ekolu(マナ エコル)」」


・・・

・・


2011年 12月。


季節は冬。

澄んだ空気の空の下。冷たい眼をした彼女と向き合う私。


たとえ、彼女に嫌われていても、私は彼女を嫌いにはなれない。

だって、あなたは約束を守ってくれた。

今、この状況があるのは、あなたのおかげ。

だから、ここでお互い悔いのないように話ましょ?


私は彼女の目を真っ直ぐ見る。それが合図と悟った彼女。

彼女が静かに、力強く私に向かってこう言ったの。



「桜井あやかさん・・・・・・あなたは一体"誰"なの?」

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