表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Nemesia  作者: 五流工房
Nemesia本編
8/18

私も見てみたいです

2011年 秋。


日の沈む時間が早くなり、すっかり空が紺色に染まる時間。

私たちは、彼のいると推測される、某ビュッフェスタイルのお店へとやって来たの。

今思うと、学生の頃なんて縁がなかったお店。

なんと言うか・・・・・・高級感があるって感じで、田舎者の私は近寄りがたい所ってイメージ。

でも、今となっては変な誤解もなくしちゃって、普通に立ち寄れる所って感じかな。

今回はこの場所で彼にどう近づくか?

作戦は来る前に立てているけれど、はっきり言って神頼みに近い。


『もう1人のしよに頼めばいいのよ』


なんて、みあは言ったけれどもね。

果たして彼女は、私にとって味方なのか?それとも・・・・・・


「なーに勝手に雰囲気付けてナレーションしてんのよ?さっさと行くわよ」

「ほへ?あ、ちょっと待ってよ~」



こうして、akua(ゲーム)2日目が始まったの。



「いらっしゃいませ。2名さまこちらにご案内します」


おしゃれな空間をおばさん2人が歩く。

席までの案内中。おしゃれに盛りつけられた料理が目に飛び込んで来たの。

「なんだか美味しそうね」「だよねーテンション上がるわよ」

「お客さまはこちら初めてですか?」

私たちの会話を耳にした店員さんが声をかけて来たの。

「ええ。初めてです」

「そうですか。ここは店長のこだわりでご用意した料理が売りの1つでもあります」

店長さんのこだわり?

私はもう1度さっきの料理に目を向けた時、小さいプレートに"本日の店長こだわり料理"と書いてあったの。

「そうなんですね。ちなみに今日は店長さんいらっしゃいます?」

私はここぞとばかりに、店長さんと接触を試みる。

「はい。いらっしゃい・・・・・・えっと、店長のご姉妹ですか?」

会話の途中、私と店員さんの目と目が合った途端。質問返しをくらったの。

「あ。え~と・・・・・・そんなに似てるんですか?」

さっきからずっと黙っている相方が、笑いをこらえて肩を揺らしている。

「人違いでしたか、すみません。いや、実際店長と会って見て下さい。驚きますよ」

「こちらもぜひともお会いしたいです。もし宜しければ、後で店長さんとお話とか可能ですか?」

「はい。お伝えしておきます。では、こちらのお席にどうぞ」


店員さんに自然と店長さんと接触出来るチャンスを手に入れた私。

以外にも事がスムーズなのでなんだかいいスタートが切れたと思ったの。

そう、そのはずだったのだけど・・・・・・


「でだな、またパソコンが調子悪くてな」


なんだか聞き覚えのある声が聞こえて来て、みあが何かを発見したとアピールする。

みあが見ている視線の先。私たちのテーブル席から3つ離れた所に"彼ら"の姿があったの。

声の主はノッポさん。そして彼。と、もう1人。

私たちには知らない人物がそこにいたの。

その人は、身長はノッポさんと同じくらいで癖のある髪質。オシャレな着こなしで若干色黒の男性。

「あの人誰かしらね?知ってる?」

「いや、私もわからないかも。でも彼の友達なのは確かだよね」


しかし、結構離れていても声が通るノッポさんって・・・・・・やっぱある意味、徒者ではないわね。

おかげで、ターゲットも見つけた。

「よかったじゃない、色々と事が運んで。あ、でもこんな近くならさ、店長さんと会って話してたら目立たない?特にアイツらには」

そう言って見つからないように指を指す彼女。

「確かにそうかもね。はぁ~やっぱ今回も楽ではないのね・・・・・・」




Nemesia(ネメシア) day2_私も見てみたいです ~




「変装しときなさい」


みあの提案で、彼女自慢の万能バッグの中から、フェルトカンカン帽とオーバル型の赤黒いセルフレームメガネを取り出し、とりあえず遠目では、どんな顔つきかは判断しずらい格好になった私。


2人はしばらくの間。普通の客として、周りに溶け込むようにしたの。

「いやー店長こだわり料理美味しいわね。誰かさんと大違い」

「何よ。またそうやって意地悪するんだから~。でも美味しい」

こちら側としては、基本的に待つ方向にあるため、下手に店内を歩き回れなくて、店員さんの言葉を信じると、店長さんとのお話は確定している。

なので今は、暇つぶしに食事をして待つと言う選択肢しかなかったの。


「あー。本当なら今頃は、楽しい時間旅行なのよねー」

「ごめんね。私がしっかりしなかったから」

「そうじゃないわよ。私の作戦が成功していればってね」


みあの作戦?あ~最初に飛んだ先で渡した封筒の話しね。

そう言えば、あの時みあは、一体何をしようとしていたのかしら?

「ねぇ?本当は何をしようとしていたの?」

「ん?アペリラは変な魔法?能力?を使うでしょ?あれで閃いたわけよ」

「どういう事?まさか魔法でも使おうとしてたとか?」

またからかうのね?と思い、話を合わせてあげたのだけど、以外にも彼女は真顔でこう言ったの。


「そう。私にしか出来ない唯一の魔法よ」


右手の人差し指を立て、私の唇に触れるみあ。

「な、またセクハラ?」

「違うわよ。でも心の中がドキッてしたでしょ?正直に答えて」

「・・・・・・・・・・・・少しだけ」

「そう。簡単に言えば、それが私の魔法なの」

な、何が言いたいのか理解出来ないんですけど???

「いまいちわからないけど、心を動かすメッセージって事?」


彼女は無言でうなずき、昨日の出来事を語り出す────


トイレに入った私は、アイツに封筒を届けてもらおうと思って、少女の私に声をかけたわ。


『ねーそこの可愛いお嬢さん』

『え?それは私の事かしら?ってイケてるおばさんね。何か用ですか?』

『・・・・・・お姉さん(・・・・)はね、あなたにお願いがあって声をかけたのよ』

『お願い?それは何です?』

『それはね、あなたにしか出来ない大切な事なの』


少女みあは警戒しながらも私の話しには耳を傾けてくれたわけ。


『いい、よく聞いてちょうだい。さっきお嬢さんと一緒に話していた男の子いたわよね?』

『あーアイツですか?言っときますが私の彼氏じゃないですから』

『ええ、お嬢さんには素敵な彼氏がいるものね』

『わかります?一緒に座ってる人なんですけどー名前は・・・・・・』

『あー待って、ごめんなさい。話しを戻していいかしら?』

『あ、はい。アイツがどうかしました?』

『あなたはその子に、この封筒を渡してくれるだけでいいわ』


そう言って私は少女みあに封筒を持たせたの。


『私がアイツにこれを渡せばいいんですね?でもさっき言い合いになったから、今すぐは・・・・・・』

『今じゃなくていい。あなたが"素直"になって自然に渡せる時が来たら渡してちょうだい』


その言葉を聞いて、驚きの目で私を見つめる若き日の私。


『おばさん・・・・・・私の心の中がわかるんですか?』

『いいえ。自分から魅せない限り、心の中はわからないもの。もし魅せる時が来るとすれば、それはあなたが本当に大切に思う人が側にいる時かしら』

『なんとなく・・・・・・わかる気がします。あの、いつか私も、アイツに・・・・・・やっぱいいです』

『ふふ。今はそれでいいのよ。じゃー封筒の事はお願いね』

『ま、期待はしないで下さい。でも捨てたりはしませんから。渡せるように努力します』


・・・

・・


「で。肝心のメッセージはなんて書いたわけ?」

「やめましょ。言った所で、その封筒がアイツに届いたかなんて確認出来ないんだし」


それもそうか。

仮に今から確認のために飛んでも、長時間移動のリスクで結局無理だしね。

結論から言えば、人間には魔法は使えないって事になるのかな。それか、魔法が発動しようとしたけど、MPが足りないって所かも。


「そうだね。それに・・・・・・」


言葉の途中で、店の中が灰色に染まる。

賑やかだった店内が沈黙し、あの人が現れる。


「コンカイハドウスル?フタリカ?」

「いや、今回も私だけにして・・・・・・」「いえ、私も一緒に奪って下さい」

「何言ってるの?あんたはやるべき事があるんだから」

「それはわかってるけど、今回は長い時間移動だったでしょ?だから私に少しだけでも背負わせて」

彼女は反論しなかったけど、納得はしていなかった。

しばらく悩み、彼女が結論を出してきたの。


「いいわ。石油王、彼女も奪っていいけど、

私の方を多めにお願いする・・・・・・お願いします」


彼女が仮面さんに頭を下げて、私の負担を減らそうとしてくれた。

その行動で、どれだけあの子も必死なのかが理解出来る。

でも、決断は彼。彼女の行動は、彼の右手が握っていると言う事なの。


「デハ、ノゾムガママニ」


仮面さんは右手を私たちに向け、右の掌を見せる。


「コンカイハ、オマエノコウドウニメンジテ、ゲンケイニシテオイタ。ガ、ツギカラハヨウシャシナイ」


仮面さんは私たちに背を向け去って行く・・・・・・



やがて、何事もなかったかのように、店内に色と賑やかさが戻って来たの。


「しよ、大丈夫なの?手や足じゃないわよね?」

自分の事より先に私を気遣う彼女。

「ええ。きっと持っていかれたのは鼻かな。息が吸えてる感覚がないから」

「そう。とりあえず安心したわ。でも次からはもうこんなのやめてよね」

「あ、うん。でも、みあのおかげで今回はリスク減らしてくれたみたいだし。結果よかったんじゃない?」

「ま、そう言う事ね。こっちも持っていかれたのは、左手首と、右の耳だけっぽいけれど、何で石油王はそんな事するのかしら?」


確かにそうだよね。

昨日、初めてあの人に会った時は、有無も言わずに全てを奪おうとした。

なのに・・・・・・半身持って行かれても仕方ない時間量だと思ってたのに、なぜそうしなかったのか?

あの時の言葉、そして今回の行動。もしかして仮面さんは・・・・・・


「あの人、実はそんなに悪い人じゃないのかも?」

「えー?何でそう思えるわけ?」

「ん~それを言われるとわからないけど、何となくそう思っただけかな」


・・・

・・


彼女の話と食事も一区切りつき、ふと視線を彼がいるテーブルへ向ける。

あちらはあちらで、楽しく会話を楽しんでいるのが確認出来たの。


へぇ~。6年違うとまた若く見えるのね。

とは言え、中身はあまり変化ないか。服装が若く見せてるのかな?

付き合った当時の私たちは、ほぼ学生服。

私服で会う時なんて、休みの時しかなかったし、その頃はお互いバイトだから、結局いい服なんて着なくてデートしてたのね。

だから、今の彼の服装はなんだか新鮮な感じ。

昨日会った時はメガネしてなかったけど、今日はしてるんだ。

それにしても、今の君はそんな風に笑うんだね。

遠目から見える彼の笑顔を見て、自然に顔が和らぐ私。


「なーに、ニヤニヤしてんのよ?歳下のアイツがそんなに可愛いわけ?」


自分ではわからなかったけど、どうやら彼女目線ではそう写ってたようで

「そ、そんなにニヤついてた?違うのよ。歳下がとかメガネとか服装が新鮮とか、そんなんじゃ」

「おーい、そこまで言ってないぞ。帰ってこーい」


私は取り乱していた心を落ち着かすために、水の入ったグラスを右手に持ち、口に運ぶ。

その時。私たちのテーブルを通り過ぎる店員さんが、視界に入ってきたの。

その人は片手に料理を持ち、あるテーブル席へ向かっていたの。

そしてそのテーブルに料理を置き、しばらくお客さんと会話をしている。


「ね。もしかしてあの人じゃない?だって”アイツら”の所で帰らず話してんじゃん」


そうなの。

彼の所で自然と会話をし、彼も自然に話している。

ノッポさんも、色黒の男性も、何の違和感もなく話しているから間違いないかも。

と言う事は、彼女は店員さんではなく、店長さん。


「あの人が・・・・・・”さわさん”」


私は小声で彼女の名前を呟いた。それを聞き逃さなかったみあが、当然質問して来る。

「さわさんって誰よ?」

「ほへ?あ、きっと”店長さん”の名前」

「何であんたが知ってるわけなのよ?」

ほんとは知りたくなかったよ。

でも仕方ないじゃない。聞いてしまったんだもん。

「説明するけど、聞こえたらまずいんで耳かして」

店長さんの耳に届かないよう、行動を目で追いながら、警戒されないよう小声でみあに説明する私。


そんな中、彼が店長さんに魅せている笑顔が胸に刺さる。


何?どうしてこんな気持ちになるの?

彼との関係は終わっているの。だから今の彼が何をしていてもいいじゃない。


でも痛いのよね?昨夜も同じ気持ちになったでしょ?


私の目的は彼に忘れ物を届ける事だけ。

・・・・・・あれ?届けてどうするの?


今の私なら彼との永遠も約束出来るわよ?さぁ。どうするの?



知らぬ間に。心の奥底で"黒い願望"が膨らんで行く・・・・・・


『なら教えてあげるよ。後の事はおねーちゃんが決めればいい』

『いい?おねーちゃん。焦っちゃダメだよ?今のおねーちゃんは少し"知りすぎてるんだ"』


それと同時にアペリラの"誘惑と善導"の言葉を思い出す。



「・・・・・・しよ?聞いてる?ね?しよってば」

彼女の声で思考が止まる。

「あ。ごめん聞いてなかった。何?」

「だからー。あの店長さんが仮に、いえ、さわさんだったならそれでいいじゃない」

「それはどう言う事?」

「だって、アイツがもう1人のしよと繋がろうとしたのは、あんたを今でも忘れていないからでしょ?」

「みあ」


・・・・・・今の私には、決して辿り着かない答えを言ってくれた彼女。


「だから、今は色々と不安があるだろうけど、直接話してさ、無理やりでも協力してもらいましょうよ。どんな結果でも今はあんたの目的をやり遂げる。そのために私もいるんだしね」

「・・・・・・そうだね。ごめんみあ。なんか色々と誤解する所だった」

「ん?何を誤解する事があんの?」「ふふふ。やっぱ私の姉さんね、敵わないよ」

「な、それは答えになってないじゃない。私はあんたの姉なんかじゃないし」


笑顔と同時に、心の奥底の願望が消えて行く。

とにかく今は、店長さんと話そう。じゃないと、前に進めないもんね。


時間にして5分くらい。店長さんは彼らと話して席を後にする。

そして、次はこちらのテーブルに近づいて来ているのがわかったの。

身長は160センチ前後、髪は少し茶色の綺麗なストレートロングヘア。それをポニーテールに縛っている。

働いている場所は違えど、同じ飲食店。まるで、あの頃の私が目の前にいる気がしたの。

けれど、肝心の顔は見ていない。いえ、見れないでいた。

私は緊張のあまり、無意識に目線をテーブルに落としていたから。


「お客様。お料理で何か気になる点はございますか?」


気がつくと、私の目の前に立ち止まって、明るく声をかけてくれていた。

私は両手をメガネのテンプルに触りながら、ゆっくりと顔を上げる。


うわ~。本当に似てるわね。

相方の驚き具合と、ノッポさんの勘違い。そして本人も認めるって程なんだから。

ま~彼も、初めは相当驚いたんでしょうね。きっと。


「いやーどれも美味しい料理ばかりで文句の言いようがないくらいよ。ね?あんたが店長さん?」

「はい。私、店長を勤めております"さわ"と申します」

そう言って、さわさんは私たちに深くお辞儀をする。そして私たちにしか聞こえない程の距離まで身体を近づけて、話しを続けてくれたの。

「で。私にお話したいって言ってくれたそうですが、何かご用ですか?仕事のクレームはあまり聞きたくないんですけど~」

なんとも明るく物腰のよい人なんだろう。これなら力になってもらえるかも。

「あの、あなたにお願いがありまして」

これは一気に事を進めるチャンスだと思い、私は彼女に事情を説明しようと思ったのだけど・・・・・・


気づけば私たちのテーブルに、彼らの視線が集まっているのがわかったの。

「お願いですか?それはお店関係ですか?」

「い、いえ。そうじゃなくてですね・・・・・・」

ど、どうしよう?やっぱここじゃまずいよね?

どこか2人で話せる場所ってないかしら?

とは言え、こんな空間じゃどこも人がいるし・・・・・・

私が言葉を詰まらせて悩んでいると、彼女が意外な提案を持ち出してくれたの。


「もしお客様がお時間よろしければ、閉店後に少しだけですが話せる時間作りますけど、いかがでしょうか?」


「ご迷惑じゃないですか?こちらとしては正直、その方が助かりますけど」

「わかりました。では、閉店しましたらお呼びしますので、食事が終わりましたら店の外で待っていて下さい」

「ありがとうございます。本当に助かります」

「いえいえ。こちらもあなた様と少しお話したかったものですから、お気になさらず」


ほへ?私とお話したかった?

体制を戻し立ち去ろうとしている彼女に、なぜ私と?と質問した所

彼女は両手を使い、自分の頭の所と目の所に人差し指を指しながら、笑ってこう答えたの。



「だって、私も見てみたいです。それらを外すと似てるんでしょ?・・・・・・"私に"」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ