好きなんでしょ?
「さすがに都会って感じよね、私は見るだけで目眩がしそうだわ」
「ははは。そうなのよね。地元に比べたら規模が違うしね」
2度目の移動先を決めたのはいいのだけれど、問題なのは、限られた時間の中で確実に見つけられる・・・・・・かもしれない所を絞り出すため、私たちは"東京の路線地図"をスマホで確認しながら作戦を考える。
正直言って無謀だよね。でもね、ノッポさんは1つだけヒントとなるワードを口にしていたの。
『確か"お台場"に用事があるから東京へ行くと言ってたような気がするな』
と言う事は、そこを中心に探せば確率は高いと思うのだけれど、飛んだ先の時間帯によっては、もう帰ろうとしてるかもしれない。地元から東京までの交通手段は飛行機を使っている。ノッポさんはそう言ってくれてたし。
だから。私たちが探し出す場所は数ヶ所に決められたの。
「こんな所でどう?」
「ま、時間との勝負だし、これにかけるしかないわね」
よし、作戦会議終了っと。
では、次の目的地に向かうとしましょうか。
「じゃ~行くよ」「ええ。目指すは東京ね」
2人は右手に意識を高め、手の甲の中心が白く光り出す・・・・・・
「「mana elua」」
~ Nemesia day1_好きなんでしょ? ~
2013年 夏。
私たちが訪れた次なる舞台は東京。
でも現実に到着した場所はどこかと言えば・・・・・・どこかの駅前。
とりあえず少し辺りを見回す2人。そこで目に飛び込んで来た"SLの車体"
それを見つけてなぜかはしゃいでいる彼女。
あ~なるほどね。
ここは"新橋駅"。そしてこの場所はSL広場ってとこで正解かな。
「ねーせっかくだから記念に撮ろうよ」
「ええ。わかった」
私たちはSLをバックに記念撮影をしたのだけれど、この写真ってスマホに"残る"のかな?
・・・
・・
・
「イヤ。そんなの残らないに決まってるでしょ。残ってるのはゲーム内だけだからね」
公園で留守番をしているアペリラが2人の様子を見てツッコミを入れている。
当然、2人には聞こえるわけもなく、真相を知るのは数時間後の事である────
・・・
・・
・
「さてと、沢山撮ったし、もう満足よ。さぁ、アイツを探しましょうか」
「そだね。ノッポさんの情報なら、彼は"少し痩せてメガネをしている"って事ね」
「なんかあまり想像出来ないけれど、しよは理想と離れてても大丈夫なのかしら?」
「ほへ?ええ。大丈夫だよ。こっちだって変わっちゃったんだし、お互い様じゃない?」
「まーね。歳はあまりとりたくないわね」
彼女の場合は、見た目も性格も"さほど変わっていない"
いい意味で若いって事なのよね。
ま~みあ風に言うと、彼女は出るとこは出てるし、色気は増しているけどね。
本人がああなんで、気づいてないようだけどもね。
「じゃ~お台場に向かおうか?それか別行動にする?」
「それもいいかもだけど、今はもう少し待ってくれない?ヤツが来るまででいいから」
「あ・・・・・・ごめんみあ。別行動はやめましょ。危険すぎるし」
ヤツと言う言葉を聞いて、みあの身体の事を思い出したの。
彼女は左目を失っているんだ。何事もなかったようにしているけど、次も確実に失う事になる・・・・・・
やっぱ次は私が犠牲になるべきではないのか?そんな事を考えていると
「心配してくれるのはありがたいけどね。このゲームはあんたが主役なの。だから私は出来るだけ奪われてあげるし、力にもなる」
「どうしてそこまでこだわるの?私はみあだけなんて望んでなんか・・・・・・」
「ケジメってやつよ・・・・・・この意味、わかるでしょ?」
「・・・・・・でも、それがあったから彼を受け入れられたのよ」
「はぁー。ほんと、アイツもあんたも・・・・・・優し過ぎなのよね・・・・・・」
彼女はそれ以上は語らず、私の手をとる。
「急ぎましょ。今はそんな過去の話しより、今の過去が大事でしょ?」
「ええ。わかった」
握られた手は温かく、とても安心する感じ。
気持ちを切り替え、私たちはお台場へ向かうべく、駅へと走る。
交通手段は"ゆりかもめ"を使う事にしたの。
電車なのにタイヤで走るってのが特徴のゆりかもめ。
ホームに辿り着くなり、またまた彼女ははしゃぎ出す。
ドアが開き、乗り込もうとした時。
・・・・・・辺りが灰色になり、時が止まる。
15分経過したのね。と言う事は"仮面さん"が来るわね。
「ソンナニタノシイカ?」
仮面さんの開口一番がその言葉で、笑い声を聞かれないよう、思わず口を塞いだ私。
「う、うっさいわね。別にいいじゃない」
「マーセイゼイタノシンデオケ」
「なんかムカつくわね。さー今回も私だけ狙ってよね。彼女に手は出さないでよ」
「ソノココロイキハヨシ。デハカクゴシロ」
仮面の男は右手を彼女に向ける・・・・・・
「待って仮面さん。あなたは時の管理者なんですか?」
「・・・・・・オマエハナニヲモトメテイル?」
「その言い方・・・・・・私の言いたい事をわかってて聞いてるって事ですよね?」
私と仮面さんの見えない言葉の駆け引きが始まったの。
「ワタシハウバウダケ、アタエルコトハデキヌ」
「では"あの子"ならそれは可能でしょうか?」
「オマエハ、ハジメカラソレヲノゾムカ?」
「いえ。知りたかっただけなんです。今は望みません」
「・・・・・・・・・・・・」
「ちょっと、さっきからどうしたの?何かの駆け引きなわけ?」
彼女の当たり前の質問と、仮面さんの黙秘で、この駆け引きは終了したと感じた私。
「ごめんみあ。後でちゃんと説明するね。で、仮面さん?答えは合ってましたか?」
仮面さんは何も答えず右の掌を彼女に見せたの・・・・・・
「ヒトデアルコトヲステルナ」
去り際に言い残して行った言葉・・・・・・それは仮面さんなりの心の声のような気がしたの・・・・・・
灰色だった辺りの色が鮮やかに色づき始める。
時は再び、静かに刻み始めたの。
私が先に電車に乗り込み、続いて彼女が乗り込もうとした時。
「え?うそ」
彼女はバランスを崩してホームに倒れそうになる・・・・・・
「右手を僕に!」
声のする方に導かれるまま、みあは手をのばす。
のばした手を右手でしっかりと握った声の主。
そして彼女が倒れないよう、左手で腰を支えながら右手を引き上げる。
一連の流れで、どうにか倒れる事を逃れたみあ。
私は急いで電車から離れ、彼女に駆け寄ったの。
「大丈夫?」「ええ。なんとかね」
みあの無事を確認し、彼女から両手を離した男性。
「右手、痛みませんか?」
「あ、ええ。大丈夫。助けてくれてありがとう」
「いえ、たまたま通りかかっただけですから」
そう言って、男性は、みあを助けるために投げ捨てた荷物を拾いに向う。
もしかして、足を持って行かれたの?
私が小声で聞くと、彼女は"右足と左腕"を持って行かれたと答えてくれた。
片足では自由に動けないと悟ったみあは、私だけお台場に行くように提案する。
「1人じゃ危険でしょ?」「私はいいから早く探しに行きなさいよ」
「そんな事出来るわけないでしょ」「あんたは目的があるの。忘れないで」
「・・・・・・でもこのままにはしておけない」
何かいい方法はないものか?私は落ち着きのない頭で考える。
そんな中、視界に入って来たのはさっきの男性。
荷物を拾い終わり、立ち去ろうとしている所だったの。
「みあ、ちょっとだけここにいて」
私は考えるより先に彼の所に駆け寄った。
「あ、あの。先程は友達を助けていただき、ありがとうございました」
突然の事だったので、彼は若干驚いた表情になったけど、すぐに笑顔になり
「無事でよかったです・・・・・・ん?さわちゃん?」
彼は私を見るなり零した言葉。
「あ、え~と。残念ながら人違いです~」
「あ。これはどうも失礼しました。なんか雰囲気が似てたもんで、つい言葉にしてしまって」
「あはは。こう言う事ってよくありますよね~(今日の私は特にね)」
「そうですね。それより、何かご用ですか?」
「あ、そうでした。実はですね・・・・・・」
・・・
・・
・
ほんっとしよったらお節介。
自分の目的より友達を優先するなんてね。
でも、私も同じ事をしていたかもだから文句は言えないけれども・・・・・・彼が迷惑じゃないかしら?
「ほんとごめんなさい。お時間大丈夫でした?」
「あ、ええ。まだ時間はありますんで」
「ほんとはコレが目的で助けたんじゃないでしょうね?」
「ご冗談を。そんな事しませんよ」
片足では不自由なんで、私はこの駅でアイツを探そうと思ったのだけど
しよってば、歩き回るのは危険よ、座ってて。なんて言うもんだから、この駅にしばらくいる事にしたのよ。
で、今ここはどこかと言うと、駅の中にあるカフェ。
あのコーヒーの店って言えば大体わかるのかしら?
ま、とりあえず。
しよの頼みを聞いてくれた彼が、ここまで私の杖代わりになってくれて、運んでくれたってわけなのよ。
そんで、今は3人でお茶してるって状況で理解してもらえるといいわね。
「貴方達は都内で住んでいる方ですか?」
「何なに?私らってそう見えるの?」
「少なくとも僕から見たら、都会の人って感じがします」
「私たちは都内には住んでません。ある人を探しに来ました」
「ある人?お名前は?」
「すみません。事情があって名前は言えないんです」
そうなのよね、ややこしいルール。
滞在時間も残り少なくなって来たしね。そろそろ彼女を本気にさせなくちゃ。
「あ、そうよ。あんた早く行っておいで。時間なくなるよ?」
「ほへ?でもあなたを残してなんて・・・・・・」
「僕がしばらく残りますから。どんな事情であれ、大切な人でしたらそちらを優先して下さい」
へぇー。この人、空気読めるのね。
「私の事は大丈夫。ここに紳士もいるしね。あんたは前に進むのよ」
「・・・・・・わかった。あの、ご迷惑ばかりですみませんが、この子をよろしくお願いします」
そう言って彼に頭を下げて、彼女は店から飛び出して行ったわ。
他の客から見ると"この人食い逃げです"と言われんばかりの勢いでね。
もちろん店員には説明したのであしからず。
「さてと、もう1度聞くけど、ほんとに時間大丈夫なの?無理に引き止めたりしないわよ?」
「ご心配なさらず、時間になればこちらから言いますので。今は約束を守らせて下さい」
「そ。ならしばらく私と大人の会話でもしましょうか」
「ははは、お手柔らかにお願いしますね」
・・・
・・
・
ゆりかもめに乗り、台場駅へ着いた私。
実はここには何度か訪れた事がある。仕事関係だけどもね。
勢いよく来たものの、どこから探そうかな?
確か、用事があるって言ってたから、遊びに来てるわけではないとすると・・・・・・
それらしい場所を出来る限り行くしかないわね。
「よし、頑張るぞ」
両手の拳をぎゅっと握りしめ気合いを入れる。
そして私は走り出す・・・・・・まだ見ぬ可能性を見つけるために・・・・・・
・・・
・・
・
お客の声が飛び交い、賑やかなムードの店内。
私の目の前には1人の男性。
見た目は派手さもなく地味でもない、いたって普通。
短髪で癖がないさらさらストレート。身長は170前後って感じかしら。
歳は私より若いと思うけども。
周りから見ればこのシチュエーションは、"カップル"と勘違いされてもおかしくはないわね。
「ねー?アンタ歳はいくつなの?」「今年で36です」
「へー。私と近いわね」「え?結構お若い方かと思ってましたけど?」
「その言葉、お返ししとくわよ。アンタも若く見えたし」「はは。こちらからは歳は聞かないでおきます」
初対面のはずなのに、テンポのよい会話が出来る事が楽しくなり、私はこの人の事をもっと知りたくなったわけ。
「もしよかったら、アンタの事を話してくれない?」
「それはいいですが、先程から落ち着かないようですけど、どうかしました?」
「え?あー気にしないで、私も人探し中なの」
狭い店内でも何か手掛かりがあるかもしれないと思い、念入りに周りを見渡す私。
「あまりオーバーな動きは、怪しまれますからやめませんか?」
「そう?なら控えめにするわ。それよりアンタの事、話してよ」
「わかりました。でも私も貴方の事を知ってもいいですか?」
私らはお互いの事を知るべく言葉を交わす。
話し途中、いつものノリで相手を困らせようとしたけれど、この人は慣れているかのように言葉を返す。
なぜか懐かしい感覚。妙にお互いが噛み合っている。
言葉使いが丁寧な所を除けば、アイツにそっくり。
「じゃーアンタはお台場で打ち合わせがあるから東京に来たってわけ?」
「ええ。詳しくは話せないですが、仕事の都合で今日しか来れなかったんです」
「なら帰る途中で捕まえちゃったって事じゃない?時間大丈夫なの?」
「ま~あと少しですが時間は残ってます」
「そっかー。変な思い出が出来たわね。私ってウザいでしょ?」
「いえ、なんか貴方と話していると昔を思い出します」
「それって、過去に私みたいな人がいたって意味かしら?」
彼は笑って、私から少し目線を外して語り出したわ。
「その子は口を開けばケンカばかり、おまけにちょっとエッチで、素直な心を持った恥ずかしがり屋さんでした。僕の彼女ではなく彼女の友達でしたが、変に噛み合うと言うか、なんか話してて楽しかった」
・・・・・・え?
「学生だったんですよ。その頃、自分はバイトしてましてね。多くは語りませんが彼女との出会いは最悪でした」
・・・・・・うそでしょ?
「でも、卒業するまでには少し仲良くなりましてね、その後はお互い打ち解けました」
それって・・・・・・
「ね、待って。質問だけど、そのバイト先って"何屋さん"なのかしら?」
「確か、回転すし屋でしたね」
・・・・・・そっか。この気持ちは・・・・・・こう言う事だったのね。
「そうなんだ。あのね、私もアンタの事を実は知ってたりするんだよね」
「え?またまた~僕はこんな美人なお姉さんの知り合いなんていませんからね」
「ま、アンタより年上なのは事実だけど、実際は同い年なのよね」
「なんです?謎かけですか?」
「ね。私、さっきの事で足と目も少しかすんでよく見えないんだ。だから椅子持って来て、私の右側に座ってどうなってるか確かめてよ?そしたら答えをそっと教えてあげるからさ」
彼は素直に私の右側へ寄り添うように座ってくれたわ。
そして、じっくりと私の瞳を看てくれる彼・・・・・・
・・・・・・ごめん。しよ・・・・・・先にご褒美もらうわね・・・・・・
「あ、バランスがー」「え?ちょっと・・・・・・」
私は彼の後頭部に右腕を廻し、自慢の谷間に彼の顔を埋めてやったわ。
「突然どう・・・・・・」「静かに。客が見てる。下手に動くと大声出して通報するからね」
その言葉でおとなしくなる彼。私は周りの客に笑顔で頭を下げ、彼に非はないとアピールし、なんとか見て見ぬフリをしてもらったけれど・・・・・・我ながら恥ずかしいわね。
こんな事するのは彼氏以外でアンタだけなんだからね?
「さっきは・・・・・・本当にありがとう・・・・・・ね。これはお礼だから」
彼は無言ではあるけども、理解してくれたみたい。
そして、私の胸の鼓動が早くなってる事も、きっと誤摩化せないわね・・・・・・
私のご褒美から解放される彼。
「これは答えになってませんよ?しかもこんな所で何をしてるんですか?」
ま、正に正論だわ。いいわけなんて出来ないくらい後悔してるわよ・・・・・・でも
「ま、いいじゃない。私はそれだけアンタに感謝してるって事。それに・・・・・・」
「まだ何か言い足りないんですか?」
「アンタは"昔"から好きなんでしょ?・・・・・・これ」
私は右手で左の膨らみを掴み、いたずらに聞いてみる。
「・・・・・・男はみな、嫌いではないと思いますよ」
2人は自然と笑顔になる。
彼と私の出会いは、間違いなく彼女にとって好都合。だから絶対にムダに出来ないわ。
「ね?あとどれくらいなら時間ある?」
彼の返答次第で彼女を呼び戻せるわね。ここなら確実だし。
彼は時間を確認してくれて、長くて30分くらいと答えてくれたんだけど
今からじゃきっと間に合わないわね・・・・・・なら残る手段はただ1つよ。
「ならそろそろ行きなさい。羽田空港に向かうんでしょ?」
「ええ。でもギリギリまでいますよ?」
「いや、私は平気。ここで後少しお茶しとくから。それに友達も帰ってくるしね」
「そうですか?ならここは僕が払っときます」
「恩人にそんな事させられないわよ。でも1つだけお願いを聞いてくれない?」
「別に構いませんがどんなお願いなんです?」
「矛盾してる事を言うけど、空港に着いたら”出来るだけ長く”保安検査場に向かわないでほしいの」
「それはどうしてです?まるで誰かを待てと言ってるように聞こえますが?」
ほんと、アンタは変わってない。でもその方が助かるわね。
「ええ。今からその子も羽田へ向うはず。だから・・・・・・お願い」
「・・・・・・わかりました。約束します」
「ありがとう。ではお別れよ」
「お身体、どうかお大事に」
彼は頭を下げ、店から出て行く。
姿が見えなくなるまで手を振る私。
「行っちゃった」
テーブルに視線を落とし、懐かしい記憶が蘇る────
『認めない、絶対に認めない』
『いいから、もう1回おみくじ引くの』
『ちょ、あんた笑ったわね!』
『でもね、そういうとこ嫌いだわ』
『そうやって優しさばかり優先しないで!』
『勝負しなさい』
そう、アンタは私のライバル・・・・・・そして大切な友達────
やっと見つけたよ・・・・・・しよ