3丁目
2016年 春。
時は今から1年前。私としよは、ある目的を持って、この時間に飛んで来たわけなのよ。
それは何かって?
そうね、じゃー今から数分前の事から話してあげるわ────
『次は慎重に行動すべきよね』
『ならさ、まずは手がかりを探すってのは?情報不足でむやみに飛べないでしょ?』
『そうね。ならリスクの事も考えて近い時間がいいわよね?』
『あのね。私に1つ考えというか確かめたい事があるの』
『それはアイツの情報なのかしら?』
『残念ながらそうではないんだ。でも手がかりを探すついでに私の確かめたい事もわかる』
『なるほど、なら今回はしよに乗るわ。私はあんたを手助けする』
『ありがとう。なら飛ぶのは1年前。目的は情報収集』
と言うわけで。私らは1年前で、アイツの情報を集めるべく向かっている場所。
それはやはり原点でもある所、回転すし屋。
アイツを知っている人なんて、きっといないと思うわね。
でも。もし昔の店長がまだやっているのであれば、アイツはこの店に訪れてるのかもしれないわ。
まー望み薄だけど、少しでも情報があれば大切にしようと思ったわけよ。
そう、思ったわけ・・・・・・なのだけど・・・・・・
「ね?ここで間違い?」「ないはずよ。バス停あるし」
本来ならあるはずの店。しかし私らの目の前の風景は"一面更地"
「何で店がないわけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
~ Nemesia day1_3丁目 ~
「ほへ?みあって地元で住んでいなかったの?」
「え?あーそうね・・・・・・ぶっちゃけ、今日のために戻って来たわ」
「出て行ってどれくらい?」「もう5年?6年になるかしらね」
「なら今の時間でも店はないって事よね?」「ま、そう言う事・・・・・・ね」
「なんかちょっと残念だな・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・」
更地を見つめながら、少し寂しそうな表情を見せる彼女。
まー無理もないわね。あんたにとっちゃここは・・・・・・
しばらく彼女は動かない。私も彼女に寄り添い、更地を見つめていた時
「何かこの土地に思い入れがあるのかね?」
突然の質問、それは男の声だったわ。
私らは声の方に視線を向けたわ。その先に現れた人物。
身長は190cmくらい。角刈り頭にメガネを着用。
全身黒の衣装でいるけどイヤらしくない格好。そしてガタイのいい体格。
が、私らはそんな男なんて”知る事も”なく
「「誰?」」
当たり前の言葉で返していたわ。
「お~と、失礼。更地を眺める女性なんてさ、かなり珍しいなぁ~と思って、ついね」
まー確かに、傍から見ると私らのしてる行動は面白いのかもしれないわね。
「私とこの子は店を探しに来たんだけれど、結果は言わなくてもわかるわね?」
少しオーバーなジェスチャーで私は彼に答えたわ。
「あ~ここには確かに店はあったんよ。でもいつだったかな~2012年くらいに潰れてしまって、ご覧の有様って感じ」
黒づくめの男は、思ったより柔らかい口調であり、見かけによらず社交的。かなりノリのいい性格のように思えたわ。
「その店はよく行かれてたのですか?」
しよが気になり黒づくめの男に質問する。
「あ~どっちかっと言えば、行ってないけれど、昔、連れが働いててね、そん時にちょっとした事をしたのが思い出に残ってるかな」
ちょっとした事ね・・・・・・なんと言うか、私もやらかした記憶があったわね・・・・・・
まーあれよ。この店は、ある意味イベントが起こりやすいとこなのよ。
え?どんな事があったかって?
それは勘弁してちょうだい。とりあえず話を進めるわよ。
「ちょっとした事?それは何かしら?」
「ん?あ~それより君、”6年前に店長してなかった?”」
私の質問はスルーされ、しよに的外れな質問をした彼。
「ほへ?あ、いえ。私は国際ホテル・・・・・・職業が違います」
曖昧な答え方をした彼女。きっとこのゲームのルールが、どこまで許されるかわからないから、そう答えたのだと思ったわ。
「そっか~。いや~人違いですまない。あまりにも”似てる”からさ」
他人の空似と言うのかしら?
彼は店長をしていた女の子としよを見間違えたようね。よく世の中には自分とそっくりな人が3人いると言われるわね、でも私はもっとたくさんいると思うわけだけど、それはあくまでも顔だけね。中身まで似る人なんて1人もいないんじゃないかしら?
特に胸とか。そう思いつつしよに視線を向けて
「そんなに似てたのかしらねー?」
「どこに話かけてるのよ?まったくあなたは」
明らかに彼女の胸に視線がある事に気づいてお約束のツッコミを入れてくる。
「ははは。仲いいんだなアンタら。あ~さっき聞かれたやつを答えるとだな」
どうやら彼がスルーした私の質問は、しっかり覚えてくれてたみたい。
「店にいた店員さんに、ある伝言を伝えたんよ。そしたら店員さんは俺の連れの友達でさ、驚くより笑って引き受けてくれたって事なんだが」
彼の話を聞いていて、何かを思い出した顔を見せるしよ。
そして・・・・・・
「もしかして・・・・・・3丁目のノッポさん?」
は?ノッポさん?確かに背は高いわね。私らは157cmくらいだし
「お?君は知ってるんだな。もしかして店の人?」
「ええ。バイトしてました。あの時の店員は私ですよ。まさかあなたがノッポさんだったとは」
どうやら彼女は、黒づくめの男、改め”3丁目のノッポさん”を知っているみたいね。
「なーに?もう少し詳しく教えなさいよ」
「ほへ?あ、うん。あれはね・・・・・・」
・・・
・・
・
じゃ~話は高校3年の冬くらいに遡るね────
いつものようにバイトをしていた私。
夕方より少し早い時間に1人の男性客がやって来たの。
『いらっしゃいませ~ようこそ』
私はいつものハイテンションでお客さんに挨拶をしたの。
そうしたら、そのお客さんは私に向かってこんな質問をして来てね。
『あの~今日ここにヒロという男がバイトしてると思うんだけど、知ってる?』
ヒロ?そういや今日はシフト入ってたけど、まだ来てないな~
『え~と、ヒロ・・・・・・じゃなかった。ヒロくんは確かにバイトしてまして、今日バイトなんですけど、まだ来てません』
『あれ?おっかし~な~。さっき外で自転車見つけたから、てっきり働いてると思って来たのになぁ~』
『あの~失礼ですがヒロくんに何か用ですか?』
『え?い、いや~特に用はないんだけども、あ。俺、怪しい者ではないんで、アイツの連れだから』
へぇ~。ヒロにこんな友達がいたなんてね。なんだかヒロと同じで面白そうだな。
『もしかして、ヒロくんいなかったら食べて行かない流れです?』
『ははは。すまない。また出直すって事で大丈夫?』
『ええ。全然構いませんよ。今はちょうど暇でしたし。ヒロくんの友達に会えて嬉しかったし』
『ん?嬉しい?』
『さ~なんの事かしら~』
『さてと、じゃ~帰ります・・・・・・あ、アイツに伝言伝えといてくれます?』
彼が伝えてと頼まれた伝言。
それがあのフレーズだったってわけなんだけど。
もう少しだけ語らせてね。
夕方過ぎて、ようやくヒロが現れたの。
『おはようございます』
『おはよっす。ヒロ』
お互い明るい言葉で挨拶し持ち場に行こうとする彼を引き止めた私。
あの伝言を言わなきゃ・・・・・・でもなぜかニヤニヤしてしまう・・・・・・
『ど、どうしたのさ?』
『ふふふっ。気になる?』
『ま~ね』
『あのね~お客から伝言頼まれたんだ』
『伝言?僕に?』
『そう。なんかヒロに会いたかったみたいだけど、いなかったから伝えといてくれって頼まれちゃったよ』
彼は一体誰なんだと考えているように見える。
『それは誰なのか気になるけど、伝言を先に聞かせてくれるかな?』
彼の問いに、私はここ1番のドヤ顔で答える。
『3丁目のノッポさんがヨロシクって』
『はい?』
『だから~3丁目のノッポさんだって』
彼は額に手を当て考える事10秒。
『あ、でかい男だね?』
『そう。面白い人だね』
『ああ。アイツは僕の高校の友達なんだ』
『ヒロとは身長かなり違うよね?』
『ははは。そうなんだよ。僕は低いからね』
『ヒロも身長高けりゃな~』
『う・・・・・・悪かったな』
『あはは。冗談だって』
と言う事があり、私はノッポさんと知り合っていたの────
・・・
・・
・
「いや~まさか君が”ヒロ”の友達だったんだな。あの時よりなんと言うか、綺麗になられて」
お。ヒロと言うワードが出たと言う事は、私らは名前を口にしていいわけよね?としよにアイコンタクトをする。
彼女も、大丈夫。やっと名前が呼べるよ~と言う明るい表情で答えを返してくれたわ。
「あはは。お世辞はいいですよ」
「でも綺麗でしょ?特にココなんて」
私は悪戯に右手の人差し指で彼女の膨らみをつつく。
「私の魅力は全部そこか?」
つついてる手を払いのける事もせず、もう呆れてる彼女。
「ははは。俺はどちらかと言えばお尻の方が好みだな。ヒロは乳好きだったがな」
サラリと下の話も乗ってくれるノッポさん。
「だってさ。やっぱヒロはあんたの美乳が・・・・・・」
辺りが灰色になる。
そしてノッポさんは動かない。
間違いないわね。ヤツと”2度目”の対面て事ね。
「アペリラハアマイナ」
「出たわね石油王」
「みあ、下がってて。今度はルールを理解した上で行動しています。もし間違いがあるなら、その右手を上げる前にちゃんと話して」
いつになく真剣な顔つきで石油王を見て、私の前に立つ彼女。
ふふ。あんたは昔から友達思いだったわね。
悪くないわね、守ってもらうのって。でもね。
「言ったでしょ?私はしよを守ると。さぁ石油王、奪うなら”私だけ”にしなさい」
しよの前に今度は私が立つ。
「待って。先に確かめる事があるから」
「どうせ、”1年でどれだけ持って行かれるか”を見極めたかったのでしょ?なら私でも出来るわよ」
「みあ・・・・・・」
どうやら考えは当たってたようね。ではヤツに持って行かれるとしますか。
「で、どうなの?まさか2人同時になんてルールとかあんの?」
石油王はただ黙る。いや、迷ってるのかしら?どっちにしても仮面で表情は伺えないけれど。
しばしの沈黙の後、やっとヤツが口を開く。
「トキヲイドウスルタビ二、ナニカヲウシナウ。サキノジカンイドウデ、オマエタチガタイケンシタノハ、サイアクノパターンダ。チョウジカンノイドウハ、コンゴオコナウナ」
やっとまともに話す気になったのかしら?
私の質問の答えは返って来なかったけれど、石油王は私らに警告をしたわ。
「でも、何回も移動してもリスクが高くなりますよね?」
「ソウダ。オマエタチガイドウスルタビニ、ウシナウモノガフエル。ケッカ、スベテヲウシナウコトニナル」
「なら、そう何度も移動は出来ないってわけね。もし全てを失ったらどうなるのかしら?アペリラは死なないと言ってたけれど?」
「デハキクガ、シナナイノデアレバ、ナゼアペリラガ、オマエタチヲタスケルヒツヨウガアル?」
「全てを失うと帰れなくなる・・・・・・から?」
「ソウダ。スベテヲウシナウコトハ、ムニナルコト」
無になる?それはすなわち、死と同じ事って事よね。
実際に奪われ過ぎて、何も出来なくなってたから理解は出来たわ。
「要するに、あんたに全てを奪われずに目的を達成すればいいのよね?」
「アア。セイゼイワタシニ、スベテヲウバワセナイヨウニシロ」
石油王は話しながら右手を私に向けて来る・・・・・・
「待って。もし・・・・・・」「ザレゴトハシマイダ」
しよが何かを聞こうとしてたけども、ヤツは話を聞かず、私に右の掌を見せた・・・・・・
灰色だった辺りの色が戻って行く。
知らぬ間に石油王の姿は消えていたわ。
そして時は動き始めたみたいね。
「みあ・・・・・・どう?」
しよが心配そうに聞いてくる。私は"どれだけ奪われた"かを確かめる。
なるほど、今回はココだけのようね。
「どうやら1年では1個だけだったみたい。まーランダムだし信用出来ないけれど」
そう言いつつ、私は彼女に"左眼"を左手で覆って答えたわ。
「そう・・・・・・ごめんなさい」
「なーに謝ってるのよ。これからもっと酷くなると思うから、謝るのはなしね」
「・・・・・・ええ」
「なんだか話が見えないんだが?」
あ、ノッポさんとの会話の途中だったわね。
時間が止まっていた事なんて知るはずもなく、当然話す事も出来ないんで、とりあえず笑って誤魔化したわ。
そうだ、ノッポさんならアイツの情報を聞き出せるチャンスなんじゃない?
「ねーノッポさん、最近ヒロに会ったりしました?」
「え?あ~アイツとはしばらく会ってないなぁ」
「そうですか。じゃ~変な質問ですけど、ヒロくんと過去に、ここだったら会えそうな場所と時間なんてわかったりします?」
「あーら。”くん”だって。なんだか新鮮な響きですこと」
「な、何よ~別にいいじゃない」
私が知る限り、彼女がアイツをくん呼ばわりした所なんて知らなかったから、素直な意見を言っただけなのに、機嫌を悪くする彼女。
まーまたからかわれたって思ってるのね、きっと。実際そうだしね。
「・・・・・・なんかワケありって感じだな」
「ごめんなさい。詳しくは教えられないんです」
ゆっくり右手を上げ、アゴに手をやり、考えるノッポさん。
そしてなぜか私に視線を向けて話し出したわ。
「教えてもいいけど、こっちも1つ条件を出していいかね?」
「「条件?」」
「うむ。そこのあなた。今、彼氏いる?」
迷いなくストレートに人差し指を私に向けて、ノッポさんは質問したのよ。
「わ、私?いないわよ」
首を左右に振って答えたわ。
「うむ。なら、俺とデートしてくれない?」
「え?はぁぁ?何?もしかしてナンパなわけ?」
私が若干おどおどしながら聞き直すと、ノッポさんは”自信たっぷりのキメ顔”でこう言ったわ。
「ナンパっスけどいいですか?」
「おやおや~モテモテね。お姉さん」
彼女がここぞとばかりに割込んで来るし、変にニヤニヤしてるし。彼の迷いのない言葉は、ギャグを超えて清々しくて・・・・・・ま、ここは彼女のために方肌脱いで・・・・・・いや、一肌脱いであげましょう。
「わかったわノッポさん。でも今日はダメなのよ。だから”今度会ったら”必ずデートしましょ。約束するから」
「マジ?友達のためにやけになってないか?」
「そ、そうよ。冗談ならノッポさんだって傷つくわよ?」
「デートでしょ?この歳になって恥じらう事もないし、ノッポさんはヒロの友達でしょ?アイツの友達が悪い人なんて私は思わないからOKしたのよ。どう?納得した?」
「お、おう。ありがと」「う、うん。ありがとね」
2人は同時によく似た返事を返してきたわ。
まーそんなこんなで、私らはヒロの情報を聞き出せたの。
・・・
・・
・
しばらく会話を楽しんだ3人。
ノッポさんと別れ、とりあえず近くの自動販売機で飲み物を購入し、徒歩では少々かかるあの公園まで移動し、次の行先を考える事にしたのよ。
行先は2つ。すなわち、ノッポさんは私らに2つの情報を提供してくれたってわけね。
「しよはどっちにしたい?私は”もう1人のしよ”に興味はあるけど」
「う~ん。私も気になるけれど、今はこっちかな」
彼女がスマホで検索して私に見せたもの。
それは・・・・・・路線地図だったのよ。