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Nemesia  作者: 五流工房
Nemesia本編
3/18

15分

「ハーイ。ここまでちゃんと覚えてくれたね?」

「ええ。akua(ゲーム)で、過去への滞在時間は1日6時間」

「で、最大3日、つまり18時間以内にクリアしなきゃダメって事よね?」

「ウン。じゃー最後に飛び方なんだけどね、おねーちゃんたちの利き手をボクの前に出してくれる?」


私たちはアペリラに右手を差し出し、その手の甲を可愛い左掌が優しく撫でる。

すると、2人の手の甲の”中心”が白く光り出したの。

その光は直径1センチもなく小さくて丸い。まるで小さな電球を埋め込まれた感じ。しかし痛みは感じないし温かさも感じない。

少しだけ自分の身体を細工されたと言う恐怖はあったけど、先程の非常識を体験した後だったのですぐに受け入れた。

これは?とみあが問うと、過去に飛ぶのに必要なモノだとアぺリラが答え、そして飛ぶための"言葉"も教えてくれたの。

説明の最中に手の甲で光ってた光が消えて私たちの手は元に戻っていた。

聞けば、時間移動する時に、手の甲に意識を集中させれば光り出し、飛びたい年代と時間を心の中で思い浮かべて、アぺリラから教わった言葉を言えば飛べると言う事だったの。


「どう?これで準備は整ったよ。早速始めるかい?」

「あ。最後に1つだけ教えて」

「ン?なーに?しよおねーちゃん」

「過去に飛ぶ最大の年代や時間ってあるの?」

「ウーン、おねーちゃんたちがこの世界に産まれた時間が始まりとなるから、限界はその時代までだよ」

「ま、そこまで遡る事はさすがにしないっしょ?時間の範囲も教えてくれた事だし、早速行ってみない?」

なぜか自信のある表情で私を見るみあ。彼女には何か考えがあるみたい。

「何?何でそんなに自信があるの?」

「ふふふっ。我はこのゲームを攻略した」

高らかに笑いながら、右手を握り天に上げると同時に人差し指を伸ばし、手の甲が白く光り出す。

「攻略って、まだ始まっていないんですけど・・・・・・ってもう飛ぶの!?」

「ええ。私に任せてしよ。すぐに終わらせてゆっくりと時間旅行でも楽しみましょ」

私も右手の甲に意識を持って行き準備をする。でも、みあはいつに飛ぶのかしら?

「ねぇ?どこまで飛ぶの?時間教えて」

「よく聞きなさい!それは・・・・・・」

みあが最初に指定した時間はあまりにも長く遡る事になる。

「ウーン。みあおねーちゃん、その時代には飛ばない方がいいよ?言い忘れてたけど、長時間の移動ってのは・・・・・・」

「行くわよしよ!」

天に向いていた右手の人差し指が私に向くと同時に飛ぶ合図だと悟った私。

「じゃ~行って来ます」

私はアペリラに微笑んでみあに視線を向ける。


「「mana ekahi(マナ エカヒ)」」


辺り一面が灰色になり私たちは旅だった。

静まり返る公園のベンチに、ゆっくりと座るアペリラ。


「マ、いいか。すぐに"イヤでも理解する"だろうしね」




Nemesia(ネメシア) day1_15分 ~




1990年代中頃 冬。


「おー冷えるわね。でもおかげで無事に着いたって実感が持てるわね」

「そだね。この時代に来たって事は、目的地はやっぱココ?」

「ま、そう言う事ね。じゃー入りましょ。じっとしてても時間は過ぎるだけだし」

私たちは視界に入る店の方へと歩み始める。


ここがどこかと言えば、高校時代最後の冬。私が、彼らがここに集い、青春を共有したバイト先。

そう、ここは"回転すし屋"さんなの。


ここは私にとって"出会いをくれた場所"。


このバイト先がなかったら、私は"彼ら"に出会う事はなかったし

恋愛なんてしていなかったと思う。

ま~余談はこれくらいにして話しを進めるとね。

この時代、この時間では、実はこんな事があって────


『さてと、飯でも食べに行こうか』

『んじゃ僕らはこの辺で』

『何言ってるの?あんた達も来るのよ』

『ほへ?そんな約束だったっけ?』

『約束なくっても私たちに付き合いなさい』

『お前ら2人で行けばいいだろ?』

『なによ?私らの誘いが聞けないっての?』

『あのな~これは誘いじゃなく強制だ』

『ま~そう言うなって、飯だけだから。後は好きにしたらいいだろ』

『う~ん・・・・・・行こっか』

『はい、多数決であんたの負け』

『・・・・・・わかったよ』


────と言うわけで、この店には"過去の私たち"が食事をしているの。


「いらっしゃいませ~ようこそ」


店に入ると元気いっぱいの声が店内に響く。

しよの場合、元気いっぱいの後に胸いっぱいが付くのだけどね。と言わんがばかりに、私の胸を見るみあ。

私は軽く流し、店員さんの案内でテーブル席に座る。

私たちから見て、テーブル席の2つ先に"この時間の私たち"が座っているのが見える。


「いやー若いわね私ら」

「ま~ね。20年以上も前の私たちだしね」

「さて、私はやる事あるから、先に食べてなさいよ」

そう言って、みあはテーブル席にあったアンケート用紙とペンを持ち、何か書き始める。

「もしかして秘策の準備なの?」

「ま、そう言う事ね」


彼女が何かを書き終わるまで、しばらく過去の私たちを眺める。

耳を澄ますと当日の会話が聞こえて来る。


「店長、中トロ」「おじさん中トロ」

不覚にも君とみあの声がハモる。

「あんた、マネしないでよね」

「してない。そっちこそわざと被せて来たんだろ?」

いつもの調子で言い合いが始まる。それを止めようとする私。

「まぁまぁ~2人とも、ここでケンカはやめよう。ね?」

「別にケンカしてるわけじゃ・・・・・・」「そうよ。ただアイツが・・・・・・」

「はいはい。ケンカじゃなくて仲良しアピールだろ?」

みあの彼が空気を変えようとするも、どこが?と言う言葉がまたハモってしまった2人。


ほんと懐かしい~な。

当時のみあは、あの人の前では"素直じゃなくて"いつもケンカばかり。

みあの彼は私の"元彼"であり、あの人の友達。

会えばいつも騒がしく楽しかった。

でも、卒業が近づくに連れて"それぞれの道"へと向かって行くの。

思えばこの時から私もあの人も”自分を偽って”、”相手を気遣って”


ほんと、バカだったよね。お互い



「これでよし、準備出来たわよ」


みあの一言で我に返り、テーブルに置いてある"長3クラフト封筒"を見つけたの。

「これが秘策?それより、どこから封筒を用意したの?」

よくぞ聞いてくれましたと言う表情を見せ、予想通りの展開に口元がニヤける彼女。

「こんな事もあろうかと、バッグに入れといたのよ」

なるほど。って、そんな事ってある?などと心で思ってたけども、とりあえず今日使用しなければ、きっと当分はバッグの中に入っている事も、忘れ去られていたであろう封筒様のおかげで、見事。彼女の秘策が完成したの。

「これをどうするの?」

「渡すのよ」

「渡すって・・・・・・警戒されるよ?きっと」

「大丈夫よ。チャンスはもうすぐ来るわ」

そう言って、彼女は封筒を手に取り黙ってその時を待ってたの。


この時間に滞在して12分が過ぎようとしていた時、彼女の言うチャンスが訪れたの。


「私、トイレ行ってくるわ」

"少女みあ"が席を立ち、私たちの席を通り過ぎるのがわかる。


「じゃ、行って来るね」

"中年みあ"も後を追うように席を立ち、トイレに向かう。

ちょっと、中年は酷いでしょうに(byみあ)


きっとみあは覚えてたんだ。この時間にトイレに入ったって事を・・・・・・

そして、こんな事は決してありえない状況だけど、確かに2人は・・・・・・


"みあはみあと出会う"


・・・

・・


「ねーそこの可愛いお嬢さん」

「え?それは私の事かしら?ってイケてるおばさんね。何か用ですか?」

「・・・・・・お姉さん(・・・・)はね、あなたにお願いがあって声をかけたのよ」

「お願い?それは何です?」

「それはね、あなたにしか出来ない大切な事なの。いい、よく聞いて・・・・・・」


少女みあが初対面の私に警戒しながらも、話しはしっかりと聞いてくれたわ。

当然よね。だって"私"なんだもの。性格なんてお見通しよ。

まー自分で言うのもアレだけど、私って素直なのよ。

まー例外はあったけど、それもあと数ヶ月もすればアイツとも・・・・・・

話しが逸れたわね。とにかく私は、私に封筒を手渡したわ。


後は"あの時間"に飛べば結果はわかる。いや、"その時間"しか渡せないのだけど・・・・・・

さぁ、早く戻ってしよに伝えなきゃ。


・・・

・・


2人のみあがトイレから出てくる。

中年みあが席に座る前に、少女みあに軽く会釈をする。

が、背を向けていたので気づかない。でも一瞬、右手を頭の上にまで伸ばし軽く手を振ったのが見えたの。

それを確認して席に座る中年みあ。

「お待たせ、さぁ急いで次の時間に飛ぶわよ」

「え?ここはもういいの?」

「ええ。肝心なのは次の時間なのよ」

「わかった。じゃ~次はど・・・・・・」


私が次はどこに飛ぶの?と質問しようとした時、目の前の光景が灰色になったの。

そして、気がつけば、私とみあ以外は動いていない。


「何?どうしたの?」「落ち着いてみあ」

私はアペリラが説明してくれた事を思い出す。


『おねーちゃんたちが過去に飛んで"15分後"。おねーちゃんたちの"身体の一部"が失われるんだ』


ここに滞在して15分が過ぎた。と言う事は、考えられる事は1つしかない。

そう。このゲームの最大の難所、リクスを背負う時が来たの。


「ミセノソトヘデロ」


男性の低い声が私たちの心の中に響く。

若干不快に思いながらも店から出る2人。


すると私たちの目の前に、"不気味な仮面を付けた男性"が1人。

服装は、全身白のカンドゥーラ。頭にはクゥトラを被っている。

そして、クゥトラの上にはアカールも見える。

簡潔にまとめると、"おかしな仮面を付けたどこかの石油王"よね(byみあ 2回目)

石油王はさておき、あの人が私たちを"奪う者"

でも、実際どうやって奪うのか?あと、奪う時のルールはあるのか?

とにかく私は、この人に聞きたい事があるの。


「あ、あの~聞きた・・・・・・」「シャベルナオンナ」

私が質問しようとした矢先、仮面の男性が私を沈黙させる。そして続けてこう言ったの。


「ホンライナラ、アイサツヲスルバメンデアルガ、コンカイハ、ヒツヨウナイヨウダ」


「ちょっとアンタ。話しもろくにできないキャラ設定なの?」

「アペリラノチュウコクハキカナカッタノカ?マアドノミチ、オマエタチノタビハオワル」


忠告?もしかして、さっきアペリラが言いかけてた事と関係があるの?

彼女は一体、何を伝えようとしていたのだろう?

でも。その答えは"すぐに理解した"

仮面の男性が、右手を私たちに向けた途端。"私たちの身体が地面に崩れ落ちた"


「な・・・・・・に・・・・・・これ」「手足が・・・・・・うご・・・・・・かない」


アペリラの言ってた通り痛みはない。

でも最初の説明で、確か奪われるのは1回につき身体の一部だけのはず・・・・・・なのにどうして?

私たちの身体の異変は手足だけでは終わらない。

首の感覚も失い、鼻の感覚も失い、視界まで・・・・・・


「サラバダ」


ついに意識までも奪われようとしている中で、仮面の男性は姿を消した。

しかし時間は進まない。灰色のままだった。

奪われ続ける身体。


止まらない・・・・・・このままじゃ・・・・・・いずれ・・・・・・


痛みは感じないけれど、"恐怖"だけは感じていたの。

成す術がない私たちが辿り着く答えは・・・・・・やはり・・・・・・


・・・・・・このまま・・・・・・死ぬの?



「イヤ、おねーちゃんたちは死なせないし、ここは"ゲームの世界"。だから死ぬ事はないんだ」



若い女の子の声が聞こえた気がする・・・・・・でも、もうどうでもいい。


「ここで説明してもこの状況じゃームリだよね。ま、今回だけはボクも悪いし、助けてあげるよ」


途切れ途切れで、また声が聞こえた気がする・・・・・・が、思考さえもままならず・・・・・・

私たちは意識を失い・・・・・・暗闇に沈んでいく・・・・・・


・・・

・・


「・・・・・・きて。・・・・・・おきて。起きなさーい!」


少女の高い声で目を覚ます。

あ・・・・・・れ?ここは??

気がつけば、見慣れた風景が広がり、サクラ色の髪の子がそこに立っていたの。


「オッハヨ、しよおねーちゃん」

「アペ・・・・・・リラ」

「ウン。ほらー、みあおねーちゃんもいつまで寝てるのさ」

「・・・・・・え?・・・・・・あー、サクラのガキのアペリラ」

「ムー。何?その"崖の上の〇〇〇"みたいなテンポのいい呼び方。まーとにかくココがどこかわかる?」

2人は、すっきりしない頭で辺りを見回す。

「公園よね?」「公園なのかしら?」

「ウン、正解。元の時間に帰って来たんだ。でも2人とも無茶な事をしたね」

「無茶?それはどうい・・・・・・」「どう言う事なのよ?たった1度だけだったのに、どうしてあんな事になるわけ?」

私の質問の途中で、明らかに怒りをあらわにし、聞かされてたルールと違うと訴えるみあ。

「ボクはさっき忠告したけど、聞いてなかったでしょ?長時間移動の事」


ああ、やっぱそうなんだ。アペリラの伝えたかった事はつまり

「長時間移動すれば、リスクも大きくなる・・・・・・かな」

「ウン。どれくらい失われるかは・・・・・・もう言わなくても理解してもらえたよね?」

ええ。ついさっきの出来事だから、鮮明に覚えている。

もしあの時、アペリラが助けに来てくれなかったら・・・・・・私たちはどうなってたのか?

そう考えると鳥肌が立ってくる。

「でも、今回はボクも悪かったと思ってるよ。おねーちゃんたち、ゴメンなさい」

「ほんっとに死ぬかと思ったわよ。でも助けてくれたんだし許してあげるわよ」

「私も同じ気持ちになったけど、ここに無事に帰って来れたのは感謝してるよ。ありがとねアペリラ」


2人に感謝され素直に喜ぶアペリラ。

私たちも無事を実感し互いに笑顔になる。


「で。私たちのゲームはどうなるのかしら?あの時の状況じゃ、石油王の言う通り、初回で旅は終わってたけども」

「ンー。本来ならボクは助けに行ったらダメなんだ」

「じゃ~やっぱりゲームは終わりって事になるの?」


プレイ時間たったの15分。

きっと今の小学生でも、もっと長く続いていたと思うこのゲーム。

プレイヤーのちょっとした暴走と、管理者の手違いで、終わりを告げようと・・・・・・


「チュートリアルって言うんだっけ?おねーちゃんたちにゲームの説明や体験させる事って」

アペリラがみあを見る。

「え?まー間違いではないわよね?」

自信のない返事で私に視線を向けられて

「ほへ?あ、ま~そうだね」

とりあえず簡単な返事をしてしまった私。

それを聞いたアぺリラが、私たちから7歩離れた所まで歩いて行き、こちらを振り返りながら自慢げにこう宣言したの。


「ウム。ではこれでチュートリアルしゅーりょう!さぁ、始めようか。akua(アクア)を」


アぺリラが微笑む。

コンテニューは今回だけだってさ?どうする?と言う表情と仕草で私に確認するみあ。

・・・・・・届けに行くって決めたんだ。やり直せるのは今回だけと言うのなら、断る理由なんてないよね。


「ええ。行こっか、みあ」

「ま、そう言う事ね。しよの忘れ物をアイツに届けるまで、次は私が守ってあげる」



必ず届けてみせるよ・・・・・・”ヒロ”



こうして────私たちの"本当の物語"が始まったのです────


「「mana ekahi(マナ エカヒ)」」

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