まだ知らない時の先へ
君の右手の上に私の左手を重ねて包む。
交わる手の中に咲くネメシアの花。
花言葉は、包容力、偽りない心、そして過去の思い出。
この時間もやがて過去になり、大切な思い出になって行く・・・・・・。
~ Nemesia day3_まだ知らない時の先へ ~
3人の左手の薬指に、それぞれ違った3種類のリングが光る。
それは。私たち、特にみあに対するドッキリのため。あえて指輪は外していたんだって。
「酷いわね、あなたたち。なんだか裏切られた感じよ。あ、でもさわっちは素直に喜べるわよ」
「まーヒロくん責めるんはやめたげて。責めるならうちだけにしてくれへん」
「別にあなたたちを責める事はしないわよ。ただね。私らもそんな歳なんだなぁって痛感しただけ」
「いやいや。そこはもっと早く気づく所ですよ?私の場合は色々とありましたから婚期が遅くなったんですけどね」
さわさんの色々と言うフレーズには、文字通り色々な問題があったと言う所だけど。
あえてそこは触れさせないであげようと思い、私はみあにこう言ったの。
「みあだって結婚しようと思えばすぐ出来るでしょ?戻って来たんだし」
私はアキトの方に指をさした。
何も答えない彼と、彼に視線を合わさない彼女。
あ、あれ?私ってばドジった?
そんな事を考えてそわそわしていると、ノッポさんが私の頭に手を乗せて軽うなずく。
そしてアキトの方に歩いて行き、こう言ったの。
「ヒロを通じてあんたの事は知っているし、お前さんも知ってると思うから挨拶は抜きだ。んでだ、俺は回りくどい言い方は得意じゃないから率直に言わせてもらうけど、あんたは彼女を幸せにさせてあげられる唯一の存在だと思う。だからちゃんと腹割って話してみろ」
「お前はみあに惚れてないのか?」
「勝てない戦はしないし、俺には高嶺の花だ」
ノッポさんはそう言って歩いて行く。
「アキト、みあ、変な空気にさせてしまって悪かったな。でも、僕も2人で話してみるのは賛成だ」
そう言い残し、ヒロもノッポさんの後を追って行ったの。
・・・
・・
・
アイツの後を追って行くと、懐かしいベンチを見つけたんだ。
ここは僕にとっては忘れられない場所。
僕は自然に足が止まり、軽くベンチを撫でた時。
「お前はベンチにも優しいんか?」
気がつけば目の前にハクトの姿があった。
「ハクちゃんほどの優しさは持ってないけどな」
「なんやそれ。とりあえず座って話しでもしようや」
「じゃ~私も混ぜてよね」
僕たちがベンチに座わりかけた時、ベンチの後ろ側で彼女の声が聞こえた。
「お、しよもおいで・・・・・・って、さ、さわちゃん?」
「えへへ。どう?今度は騙されたでしょ?」
「ははは。これで完璧なコピーの完成だな」
とりあえず。
さわちゃんを真ん中に、彼女から見て右に僕、左にハクトが座る。
正直。このメンバーで、思い出のベンチに座って、話す事なんて想像もしていなかった。
まぁ2人にしてみれば、ここはただの公園なのだけれどね」
「あっちの話は気まずくて、こっちへ逃げて来ちゃったよ」
「ま、俺らは所詮蚊帳の外の人間だからな。お前は行かなくていいのか?」
「僕も今回はこちら側だから。しかし誰にでも好感度高いよな、ハクちゃんは」
「そうだよね。私もすんなり仲良くなれたし」
「ははは。人徳があるからな俺。でもな~惚れた女は他人の彼女ってパターンが多いのよ」
僕とさわちゃんが、同じタイミングでお互いを見て笑った。
「「そんなにみあさんに惚れたんだ」」
「う~む。彼女の内面が、俺にはグッと来たって言うかな」
「へぇ~そっか。あ、ね~ね~ヒロさん。しよ姉との関係はわかったんだけど、あの色黒の可愛い人とも付き合ってた?」
「やっぱお前。実はモテてたのか?羨ましいなコノヤロー」
「なんかヒロさんて、草食かと思ってたのに、以外と肉食なのね。私も犠牲者の1人になる所だったよ」
「さわちゃん。誤解されるような設定を作らないでよ。じゃ、しのとの事も含め、バイト時代の事を少しだけ話すよ」
僕は2人に語り始める。
ついでにこのベンチの事も話してあげようかな・・・・・・
・・・
・・
・
あれから数分。私とアキトは沈黙を守り続けている。
さすがに気まずい空気よね。話し合うのはいいのだけれど、どうしても気になる事があるのよ。
まずはそれを解決してからにしたいと思ってるわけ。
「ほなアペちゃん、しよちゃん。うちらはあっちで座ってようか」
「ちょっと待って、ここにいてちょうだい。2人で話す前に、どうしてもはっきりさせておきたい事があるから」
そう言って、私はみんなを集めてアキトに質問したわ。
「なぜあんたは、アペリラにakuaの依頼をしたのよ?」
「簡潔に言えば、会いたかった。もっと深く言えば、この状況を作りたかった」
「なんだか引っかかる言い方をするのね。会うだけなら、ゲームをしなくても集まれたんじゃない?」
「せやな。その場合、うちとその他のメンバーの何人かはいなかった事になるけどな」
「ウン。そうだよおねーちゃん。おにーちゃんの最初の目的は、みあおねーちゃんに会いたかったんだ」
「なら連絡くらいよこしなさいよね。言ってくれれば、いつでも会えたわよ」
「いや、俺が会えなかったんだよ」
それはどう言う意味なのよ?と私は聞くと、アペリラが私の前に立ち、頭を下げて来たわ。
どうやら、アキトはアペリラと出会った事により、彼女のゲームの手伝いをしていたようなのよ。
そう。奪うだけの存在、石油王改め、時の番人としてね。
だから、アペリラが行く所に彼は付いて行き、時には海外まで足を運んでいたみたいね。
「で。私らに会うためにゲームをさせて、わざわざこの状況を作ったってわけ?」
「そんな所だな。細かく説明すると長くなるからその解釈でいい」
「ねぇ、変じゃない?アキトはみあに会いたいだけなら、私は必要なかったでしょ?」
「ウウン。しよおねーちゃんも必要だったんだ。だって、おにーちゃんの目的は、少しずつ変わって来たんだ」
「なるほど。ヒロくんやな」
「ああ。アイツの過去を、みんなに知ってもらいたかったんだ。俺達の中で、恋愛にとっては1番下手で奥手なアイツが、気がつけば先を歩き始めている。しよには申し訳ない事をしたと思っているけど、現実を知ってもらい、新たな恋を見つけてほしいと思った」
アキトの言葉に、少し曇りがちの表情を見せつつも、彼とアペリラを見て、しよは口を開いたわ。
「ま。結果は残念だけど、ヒロの事を知れてよかったと思ってるよ」
「そっか。なら、ボクの目的も達成出来たってわけだね」
「ん?それはどう言う事なのよ?アペリラの目的って、アキトの依頼じゃないの?」
私はアペリラに桜餅を手渡しながら質問したわ。
喜びながら桜餅を手に取り、食べる前に話しを続けるアペリラ。
「おねーちゃんたちは、ボクがゲームを始める前に言った言葉は覚えてる?それがボクの目的なんだ」
『ボクの目的はね。おねーちゃんたちの"手助けと過去の清算"』
「手助けと過去の清算・・・・・・まさか、その時から?」
「どうやらそのようやね。この子は最初から最後まで、全て思惑通りやったと言うわけやな」
「何なに?もしかしてずっと騙されてたってわけ?」
「いや、正式には踊らされていたって事とちゃうかな?そんで最後にこの状況を作り出して、アキトくんの目的も達成されたっちゅーわけやな」
「ウン。これで全ての目的は達成出来たよ。色々と例外もあったけどね」
彼女は美味しそうに桜餅を食べている。
例外ってのは私でも理解出来るわ。だってその状況を作り出したのは私。
しのの登場により、シナリオは修正するしかなかったようね。
「もしかして、結果的に私が邪魔をしたんじゃない?」
ふと言葉にして、アペリラに問う。
「ウウン。みあおねーちゃんの"最初の行動"があったからこそ、全て上手く行ったんだ。あのおねーちゃんの事は少し驚いたけど、結果はもう決まっていたしね」
最初の行動?
それは何かと考えていると、しよが私の目の前に来て、私に右手の人差し指を、唇にそっとくっつけたわ。
「どう?思い出した?あなたしか出来なかった魔法よ」
「あの時のメッセージ?でもあれなんて上手く行くとも限らなかったでしょうに」
「そうだな。だから俺が修正させてもらったって事で繋がるか?」
なるほどね。私が最初に考えていた事を、アペリラとアキトは、見事に利用してくれたって事なんだ。
「そう。で、これからアンタはどうするわけ?アペリラとまたどっか行くの?」
「わからない。正直、もう落ち着こうと思っているがな。なにせ今は住む所がないんだ」
「じゃ、じゃ~しのちゃん。散歩しよっか」
「せやな。ほな」
2人は気を利かせて席を外してくれる。別に気にしなくてもいいのにね。
残された私らは、さっきの話しの続きに戻ったわ。
「ね?アペリラ。あんたはこの街の他に、行きたい場所とかあるの?」
「ウウン。今の所はないかな。ボクはおにーちゃんに任せるよ」
「なら決まりね。あなたたち、私と一緒に暮らしなさい」
「ええ!?」「わーい」
「とは言ってもね、私も引越の準備とかあるから、しばらくは一緒に住めないけど、私の家を自由に使ってちょうだい」
「本当にいいのか?家賃は今すぐは払えないぞ?」
「でしょうね。お金は気にしなくていいわ。でもね、これからちゃんと働くと約束して」
「それはいいが、本当に一緒に住んで構わないのか?」
「別に断ってもいいのよ?アンタにその気がないのならね。でもアペリラは何て言うかしら」
「おにーちゃん。ボク、みあおねーちゃんと一緒がいいな」
「・・・・・・わかった。お前もそれで本当にいいのか?」
「さーね。言っとくけど、私らの事はこれから考えましょう。住むって言っても、結婚とかまでは考えられないの」
「ああ。わかった。では、ありがたく甘えさせてもらう」
彼は深く頭を下げて、しばらく動かなかったわ。
1度は止まった2人の時間。しかし、アペリラのおかげで再び動き出した。
この先、私と彼はどこへ向かうのか?それは今はわからない。
でも。これも時間が答えを出してくれるわね。きっと・・・・・・
「あ。その前に、私はハクトとデートするからね。文句は言わせないわよ?」
「はは。なんとも強力なライバルになりそうだな・・・・・・」
「それと、石油王の時のあの喋り方ってなんだったのよ?」
「ああ。あれはな・・・・・・・・・・・・役作りだ」
・・・
・・
・
私としよちゃんが向かっている先。それは懐かしのベンチ。
私も彼女も、この場所で泣いたり、笑ったりしました。
とは言え、私と彼女は恋のライバルではありません。
共通している所は。好きになった男性が、同じ人だったって事くらい。
そう。私はただ好きになっただけ。
「みなさんここにいたんですね」
「お。ちょうど今、君たちの話しをしていた所なんだよ」
「ほへ?どんな内容なの?」
「それはもちろん決まってるじゃないですか」
さわさんが、私を見てニヤニヤしているし。きっと私の、私達と彼の話しでしょうね。
おおよその予想はやはり的中していて、ベンチからハクトさんが立ち上がり、私の元に歩いて来ました。
「いや~、初々しい時代もあったもんだね~。うん」
「な。なんやの?からかいに来たんですか?」
「そうではないがな。しのさんは、ヒロの恋愛対象者第1号と聞きましたんでな。で、あん時のアイツのどこがよかったのかね?」
「な、なな何でそんな事を答えなくちゃダメなんです?」
「な~んかしのさんて、こう言う話しは弱いんですね。乙女って感じで可愛いな~」
「別にあの時のヒロくんは・・・・・・」
あれ?隣りですごい見られている感覚。
その視線を辿って行った先には、満面の笑みを魅せるしよちゃんがいたのです。
「ど、どないしたん?しよちゃん?」
「へへへ。私も聞きたいな」
「なんやのみんなして。そっとしといてーな」
「ははは。そんなに秘密にしたいって事は、やっぱ下系なんだろうか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「お、おいハクちゃん。もうそのくらいにしとけ。おそらく、怒らすと1番怖いのはしのだぞ」
そう言って、彼は、私とハクトさんの元に割って入って来たんです。
「え?マジなのヒロさん」
「ああ。何せ僕が本気で抵抗しても、面白いくらいに全て受け流されて、どうする事も出来なかったしな」
『何が大丈夫なんだ?バカにするなよ!こんな状況なら子供でも理解出来るぞ!』
『それはうちでもわかるんや!でも先に説明させてーな!』
ふと、あの時の事を思い出したの。あの時は私も必死だったからな。
って。酷いなヒロくん。私は恥ずかしいだけで、怒ってなんかいないんだけどな。
でも。状況を納めるには、この言い方がいいのかもね。
「あ~気を悪くしたなら謝る。すまん。んでだ、しのさんは護身術を身につけてるのかね?」
「え?あー多少は。合気道をやってました」
「あ、合気道とな?」「ええ」
「じゃあ。人をクルクルと投げ飛ばす事も可能なのか?」
「ええ。両手を使って、武舞台の外へ出す事も可能ですよ」
私が左手の人差し指を伸ばして、ハクトさんにドヤ顔で指差しました。
すると。ハクトさんはヒロくんと顔を見合わせて、2人で謎の言葉を発しました。
「「リアルろ~りんぐ場外」」
「ほへ?何それ?ギャグなの?」
いつの間にか、ベンチを背景に、みんなで立ち話になっていました。
「しっかしあんたも人が悪い。初めからヒロの友達って言わないで、彼氏と言ってほしかったな」
「あ~ごめんなさいノッポさん。それに元彼女ですって」
「ノッポさんだって。しよ姉が呼んでるから、これから私もそう呼ぼうっと」
「こらこら~変な名前を付けるでない」
「てか、元はハクちゃんが付けたんじゃないか」
「あ、そうか。正式には"3丁目のノッポさん"だがな」
「なんやそれ。3丁目って何よ?」
「う~ん。それはだな・・・・・・て、やめようぜ。ギャグの説明なんて、するだけ虚しいだけやしな」
「なんだ。ここにいたんだ」
会話の途中でみあちゃんが合流して来ました。
「もう話しは終わったん?」
「ええ。あと、そっちの彼に用があって来たのもあるのよ」
みあちゃんは、ハクトさんに指を指して話し出す。
「ね?ハクト。アキトとは話し着けて来たわ。結論から言えば、結婚は今の所しない。これで満足?」
「そうか・・・・・・余計な事をし」「それが今の答えなんだよな?」
ハクトさんの謝罪をヒロくんが言葉で割り込み、みあちゃんの前に立ちました。
「ええ。そうよヒロ。あんたが自分で決めたように、私も少し考えて決めてみるわ」
「ああ。彼もアイツも"僕の友達"だ。どうかよろしく頼む」
「ほほう。みあちゃんが、人前でヒロくんに素直になるなんてね」
「ずっとこのままでいたら楽なのにね」
「うっさいわね。と言うわけでハクト。近いうちにデートをするわよ。断ったって私は逃がさないからね。女に恥をかかせないでよ」
「僕のライバルがそこまで言うのは初めてだ。ちゃんと答えてあげなって」
「お、おう。なら約束を守ってもらうとしますか。デートしようぜ、みあ」
「所でハクト。3丁目って何よ?」
・・・
・・
・
さっきまで騒がしかったこの場所も、今では静けさを取り戻していたの。
2日前の朝、私はこのベンチを撫でた。そこであなたを思い出した。
それと同時に、秘めていた想いも蘇ったのが始まり。
そして君は僕を見つける旅に出たんだ。
理不尽なルールと非現実な手段を背負って。
すれ違い、勘違い、嫉妬、不満、出会い、後悔、そして真実。
それを経験しここに君はいるんだよ。
2人は座る。あのベンチへ。
君の右手の上に私の左手を重ねて包む。
交わる手の中には今も変わらない僕と君がいる。
繋いだ温もりを感じ互いがそっと見つめ合う。
楽しかった時間ももうすぐ終わる。
だから話そう。今までの事を終わらす為に。
そうね話そう。新たな道へと歩み出す為に。
「私はね、ヒロの過去を見て来れて、よかったと思ってるんだ」
「プライバシーを完全無視されてるけどね」
「ま~そこは諦めてよ。知りたいなら、私の過去も全部魅せてあげるよ?全然楽しくないけど」
「いや、興味あるけどやめとくよ。何か弱みを握ったら悪用仕兼ねないから」
「ヒロはそんな人じゃないでしょ?そんな事誰でも知ってる」
「はは。僕もこんな形だったけど、しよに会えて本当によかった。あの時より、ほんと綺麗になったな」
「今更そんな事改めて言う?恥ずかしいよ」
「ほんと。だからこそ。もっと早く会いたかったかもな」
「本音だよね?」
「うん。期待させてる言葉になったかな」
「ううん。でも本気なら、それはこっちからお断りするよ?」
「大丈夫。僕がそんな事するなんて思ってないだろ?」
「ま~ね。ねぇ?奥さんって私に似てるの?」
「ええ?いや、全然似てはないんだよ。ちなみに、しのやみあにも似てない」
「そっか。私も本音言っていい?」
「ああ。聞かせて」
「あの時、わがまま言わなきゃよかったなって」
「これも運命だったのかもな」
「そうね。お互い口を開けば後悔ばかり言ってしまうね」
「確かに。あ、そうだ。スマホ借してくれない?」
「いいよ。はい」
「・・・・・・これでよしっと。はい」
「ホントにいいの?」
「今度は片道じゃないから。ちゃんと繋がってる。これでいつでもしよを応援出来る」
「上手い事言って、浮気とか考えないでよ?」
「ははは。しよは料理さえ克服出来たら完璧だと思うぞ」
「あ~やっぱり?よし。特訓するか。見てなさいよヒロ。いつかいい人見つけて、自慢してあげるんだから」
「ああ。楽しみに待ってるから」
いつの間にか会話が途切れ、お互い見つめ合う2人。
次に言う言葉はお互い決まっている。
これで僕たちは・・・・・・これで私たちは・・・・・・
「だぁ~もう焦れったい。ヒロさんもしよ姉も、こっちがなんか恥ずかしくなるよ」
「「さわちゃん」」
「ほんまお前さんは、端から見れば"終わり"じゃなく"始まり"に見えるんだがな」
「「ハクちゃん」」
「ね?どう思うしの?」
「ええんとちゃう?これが2人のやり方やって」
「結局おにーちゃんとおねーちゃんはどうしたいの?」
「もういいだろみんな?雰囲気台無しだろ」
「みんな、ずっと見てたの?せめてもう少しだけ」
「それが出来たら、こんな状況になってないと思うよ。行くよ!しよ」
僕は握った手に力を入れて、ベンチから立ち上がり、彼女を連れて走り出す。
私はみんなに笑顔を見せて、彼の行き先へ付いて行く。
言いそびれた"さようなら"を、互いが言葉にする事はない。
いや。言う必要もなかったんだ。
ええ。だって、私たちはもう進み出したんだもの。
・・・
・・
・
楽しい時間と言うものは、いくつになっても早く過ぎるものだと思う。
非日常のあのゲームから、出会った新たな仲間たち。
「それじゃ~しよ姉。今度は2人でヒロさんを誘惑しに行きましょう」
「おいおい。冗談でもやめてくれよ」
「ははは。いいわね。さわさんとなら楽しめそうだし」
「しよまでなんて事を言うんだよ」
しっかり者だけど、恋愛に関しては平気で暴走してしまう。顔は似てても性格はまったく似ていない。
でも私は、彼女が大好きになった。
「ま~人生、まだまだ楽しんで下さいね。みなさんも」
元気な笑顔と明るい性格を残して、さわさんは帰って行った。
「ま。ヒロと君はお似合いだと思うぞ。今更で悪いがな」
「ノッポさん、ほんと優しいんだね。私ともデートしてみる?」
「こ、こらしよ。何あんたらしくない言葉を言うのよ?」
「心配しなくても、みあの邪魔はしないわよ」
「そ、そんなんじゃないし」
「ま~しよさんには、さすがに手は出さんよ。アイツが嫉妬するだろうからな」
社交的でお人よし。それでいて真面目な一面を持つ彼。そんな彼の魅力に、みあは少し興味を持って来ている。
「でもノッポさんと上手く行けば、私は彼の近くでいれるんだよね?」
「さ~な。俺はそれでも構わんが、ノッポはいい加減、忘れてくれないか」
「あ。ごめんなさい。では改めて。みあに飽きたら、私の事も考えてくれない?ハクト」
「おいおい。アイツが惚れた理由が、少しわかった気がしたな」
「こらしよ!いい加減にして」「あ~ごめん。今のは冗談ですよ?」
「ああ。何とも楽しい人達だな。次はいい報告を頼むぞ。しよさん」
ハクトさんは背を向け、振り返らず右手を振って去って行く。
「おねーちゃん。もし、また過去を見たくなったら、いつでも言って」
「ありがとうアペリラ。でも。とりあえず今は、目先の事を見るようにするね」
「ウン。わかった。ボクに会いたくなったら、みあおねーちゃんかおにーちゃんに連絡して」
「ええ」
非日常の主犯であり、桜餅を愛するサクラ色の髪をした少女。
この子のおかげで過去を知る事が出来た。でも、それを他人に語る事なんて、出来ないよね。
「それじゃボクはお邪魔だろうから消えるね。またね、みんな」
アペリラは、瞬間移動でどこかへ向かったみたい。
残るは懐かしのメンバーたち。
若かりし、あの頃の私たちは、恋に憧れ、恋に溺れて、恋に泣く。
約25年を経て、それぞれの理想の形は違ったけれど、それでもみんなで笑ってられる。
「この中で1番安定した恋愛が出来たのって、しのだけだよな」
出番の少ないアキトが口を開く。
「そ、そうでしょうか?まーみなさんと比べたら普通ですしね。私も混ざりたかったかも」
「やめときなさい。私が言うのもなんだけど、あんな後味の悪い恋愛はもうごめんよね?」
「みあが言っても説得力ないけどな。一方的に被害を受けたのはしよだよ」
「ん~。でも恋愛って、友情を壊してまで手に入れたい気持ちは、私もわかる気がするの」
「まーね。昨日のあんたは、正にそれだったわね」
「そうだな。人を捨ててまで、ヒロを手にしたい独占欲は、俺も驚いたがな」
「あ~。あの時は本当に反省してます。ごめんなさい」
「精霊化だっけ?。姿が変わったりする?」
「そりゃ変わったわよ。ヒロには絶対に魅せれない程の変貌ぶり。でも綺麗な瞳だったわね」
「はう~もうやめよ?ね?とりあえず私も女なの。素直な気持ちを出す時だってありますよ」
「ふふふ。よかったねヒロくん。しよちゃんにとっては、貴方はきっと」
しのちゃんの言葉を途中で遮った2人の手。
「しの、あまり言い過ぎると気持ちが揺らぐ」「そうよ。そこまでにしなさい」
「今回は気が合うな。みあ」「勘違いよヒロ。私はしよの為よ」
「そっか。アキトとアペリラを引き取るらしいな」
「部屋を提供するだけよ?アキトは真面目に働かせるわ。いつまでも"石油王"や"ロリコン王"をさせるつもりもないしね」
「お前、俺はロリコンじゃないし」
「ま~アキトって以外と変態」「いい歳したおっさんが、未成年に手を出すなんて違法ですよ?」
「違う!言っとくがロリでもなけりゃ法も犯してない」
「そもそもアキトは、どうやってアペリラに出会ったのさ?」
ヒロの問いかけで、アペリラとの出会いを語り出すアキト。
「今から約10年前。俺は海外へ飛んだ。行き先はハワイ」
「いいな~海外。それは旅行で行ったとかかな?」
「簡単に言えばそうなる、が。本当はみあのいない場所へ行こうと思った」
「あのね、だからって何で海外なのよ?発想が大き過ぎるのよ」
「まーみあちゃん落ち着いて。続けてアキトくん」
「そして俺は、マウナケアビーチで"名もなき少女"に出会ったんだ。それがアペリラだ」
「ねーしよ。マウナケアビーチってわかる?」
「ハワイ島の北西にある、珍しい天然の白砂ビーチよ」
「ちょっと待って。さっきアキトくんは、アペちゃんの事を"名もなき少女"って言ったよね?」
「ああ。アペリラと言う名は、俺が付けたんだ。彼女は独りでずっと海を見ていた。ただ黙って、食事もとらず」
「それを見過ごせなかったから一緒に暮らすようにしたと?」
「そうだな。俺は滞在中に、彼女に名を与え、兄妹になる事で生活を教えた。そして今のアペリラになった」
「なるほど。そう言えば、アペちゃんが使う能力の言葉は"ハワイ語"が多いよね。あれは意味あったりするのかな?」
「そうなの?しよは気づいてた?」
「ええ。なんとなくね。でも、単語を並べた言葉ばかりだったし、地球人ではないと言われたから、何か理由はあるとは思ってたけどね」
「アペリラの使う能力には、特に言葉は必要ないんだ。だが、俺とハワイで会った事が嬉しくて、現地の言葉を使うようになったみたいだな」
その後。彼と彼女は、時間移動の能力を使い。様々な人たちに、ゲームと言う形を使って、過去の清算を行っていたと言うの。
平たく言えば、困った人の手助け。常識の先の非常識。それでも救われた人もいると言う。
「ついでに聞かせてくんない?アキトはこの先、ずっとアペリラの兄妹でいるわけ?」
「同じ種族がいれば返してあげたい。でも地球上に家族がいるとも思えない。だから今はあいつの傍にいてやりたい」
「そ。ならそうしたらいいわ。私も賛成よ。ここで私を優先してアペリラを捨てるようなら、今すぐぶん殴ってた所よ」
「今の言葉はグッときたぞ、みあ」
「さすが姉さんね」
「可愛いですよ、みあちゃん」
「な、何よ?みんなして。ま、素直に喜んどいてあげるわ。ありがと」
アキトとみあの恋の行方は、この先どうなるのだろう?気になる所だけど。
「ヒロの次は俺とお前、どっちが先かだな」
2人は公園を後にしようとしていた時、アキトが私に残した言葉。
「しよ。しの。私はこの街でいるから、近いうちにまた会いましょ」
「うん。わかったよ」「アペちゃんにもよろしく言うといてやー」
「あ。それと、ヒロ」
「ん?胸の件は忘れないぞ」
「な、違うわよ。てか忘れな・・・・・・くていいけど、落ち着いたら、私の家に遊びに来なさい。奥さんも連れてね」
「なんか、こうも素直になると調子狂うけど。ありがとうな。是非行かせてもらうよ」
こうして2人は帰って行く。
『ヒロの次は俺とお前、どっちが先かだな』
こればっかりはね、競争じゃないんだよ?アキト。
でも、お互い頑張ろうね。
・・・
・・
・
「ではしよちゃん。うちもこの辺で。残りの時間は彼にあげて」
「いいえ。一緒に行きましょう。どうせ、帰る所は途中まで同じなんでしょ?」
「まーバス停までなら一緒やね」
「なら私は、先に家から荷物を取ってくるよ。だからヒロ。しのちゃんをお願い出来る?」
「ああ。行って来な」
そう言って、彼女は公園を出て行った。
残された僕としの。
彼女は、僕を男として見てくれた人。彼女には感謝しかない。
君がいなかったら僕はしよも愛せていなかった。
そうだ、だから今のうちに言っておこう。
「なぁ、しの」
「うん。なーに?」
「過去の僕が、君を他人呼ばわりしてしまった事を謝りたい。本当にごめん」
「ええ?あーええよもう。泣かす事はヒロくんのスキルみたいな物でしょ?」
「うぅ。ほんと情けないです。僕はやっぱダメな人間だな」
落ち込む僕に、上目遣いの優しい瞳が、そんな事はないよ。と伝えて来る。
それから君は、過去の想いを語り出した。
「うちは、私はね、学生の頃、ヒロくんともっと一緒にいたかったの」
「それは僕も同じだったよ。あの時は驚いた」
「だよね。でもお互い離れてしまって、違う人を好きになったでしょ?その結果、私は結婚した」
僕は静かにうなずき、次の言葉を待った。
「後悔はしてないんだ。だからヒロくんも、幸せになってもらえたらいいなって思ってた」
「僕も幸せになったよ?」
「ふふっ。ヒロくん。私が言いたい事わかってて誤摩化したよね?」
「やっぱしのには敵わないな。でも今が幸せなのは本当だ」
「うん。ごめんなさい。意地悪したかったわけじゃないの」
「なら僕からも、少し意地悪な事を聞いていいか?」
「ええ。いいよ」
「もし君が僕だったら、僕はどうするべきだったと思う?」
「え?そ、それは・・・・・・・・・・・・自分を愛してくれる人を大切にするかな」
「なら答えは僕と同じだな」
「あ。・・・・・・後で奥様に謝っといて下さい」
「いや。こっちも、間違ってなかった事が確認出来たからよかったさ」
「お互い理想とは違ったけど、今を大事にしましょうね」
「ああ。だからしの。これからも、あの2人を支えてあげてもらえないだろうか?」
「当然です。ヒロくんもそのつもりでいるのでしょ?」
「だな。せっかく再会出来たんだし、僕の事で必死になってくれたお返しを、今度は僕がする番だ」
「ふふっ。この事は2人には秘密にしましょう」
・・・
・・
・
3日間の連休も終わろうとしている。
ヒロにバス停へと送ってもらった私としのちゃん。
「じゃ~気をつけて帰るんだよ」
「うん。ヒロくん、ありがとう」
「ありがとね、ヒロ。奥さんを大切にしろよ」
「ああ。しよもいい報告を待ってるぞ。しのも旦那さんと仲良くな」
「ええ。では私はこっちだから、先に行くね」
彼女は、左手を胸元付近で可愛く振り、一礼して歩いて行く。
3歩くらい歩いた後、私たちに振り返り。
「過去も今も未来も、うちはずっと貴方達の仲間だからね。困った事があれば、いつでも連絡してや。ま、相談事より世間話を所望ですけどね」
優しい笑顔を咲かせて、彼女は再び歩き出したの。
「さて、僕もそろそろだ」
「・・・・・・うん。会えてよかったよ」
「そんな顔するなって。また"会ってくれるんだろ?"」
「いいの?本当に行くかもしれないよ?」
「ああ、いつでも来な。でも、いい人も探せよ?そして、今度は僕から君を祝いたい」
「わかった・・・・・・・・・・・・ありがとう」
彼の右手が私の頭を軽く撫で、そっと雫を拭き取る。
私はその手を握って、彼に、今出来る精一杯の笑顔を魅せたの。
バスが来るまでの間、私は少し歩く。
ふと目の前に、舞い降りて来る桜の花びら。
ん?この光景は、どこかで見た事があるような?
「しよおねーちゃん」
突然、私の目の前に姿を現したアペリラ。
「うわっ。ど、どうしたの?みあの家に行かなかったの?」
「ウウン、行ったよ。とりあえず、おにーちゃんと2人っきりにさせてあげたくて散歩中」
「そうだったの。以外と大人なのね」
「おとな?そうだね。大人なんだボク。しよおねーちゃんは乗り物待ち?」
「うん。ねぇアペリラ。お別れの前に、最後に聞いておきたい事あるんだ」
「ウン。なーに?」
「それはね・・・・・・」
・・・
・・
・
走り去るバスを、道路照明灯の上に立ち見送る少女。
右手で軽く髪をとかし、左手に視線を送る。
「時の・・・・・・先ね。しよおねーちゃんも欲が深いんだ」
『それはね・・・・・・アペリラは未来に飛ぶ事は出来ないの?』
『オモシロイ事を言うんだね。行ってみたいの?』
『ううん。ただ知りたかっただけ。もしアペリラが未来を見れるなら、私たちのこれからも、知ってるんじゃないのかなってね。ま~見れるなら興味はあるけど』
『残念だけど、ボクの能力はそこまで持ってはいないよ。ただ、頑張れば出来るようになるかもだけどね』
『もしそれが出来たらさ、アペリラは、現代の"時の番人"になるよね』
『ボクはそこまで時間に干渉するつもりはないよ。困った人の為に、この力を使うと決めてるんだ』
『そっか。ありがとね。私もおかげで、色々と整理出来たよ』
『お礼は言わなくていいよ。ボクの方こそ"愉しませてくれて"ありがとう』
『それじゃ~アキトとみあを頼むね』
『ウン。ボクは大人だし、任せといてよ』
「こんな事聞いたら、ボクも興味出て来たよ。これから長くこの街にいそうだしね。ちょうどいい暇つぶしになるかな」
左手をギュッと握り。意識を集中させる少女。
いつか飛んでみせるよ。
ボクがまだ知らない時の先へ・・・・・・
「おい、アレって人だよな?」
誰かが道路照明灯の上にいるシルエットを見つけた。
が、瞬きより早くそのシルエットが闇に消える。
明るく照らされる道路の上に、一輪の桜の花びらを残して。
~ Nemesia end ~
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