あの時キミに出会ったのは
彼の家を見上げスマホを耳にあてる。その姿を静かに見下ろす冬の夜空。
見知らぬ番号からの呼び出しは、やはり繋ぐ側にも抵抗があるものだろう。
しかし、偶然なのか、必然なのか?
私の着信は、3コール辺りで繋がったの。
「あなた様がおかけになった電話番号は、おそらく間違いだと思います。ですから切りますね?」
「あ、ま、待って下さい。お願い!」
彼が間違い電話だと思い、通話を終えようとしたので、慌てて大声で叫んでしまった私。
「あ。すみません。どうかほんの少しだけでいい。話しを聞いて下さい」
「わ、わかりました。でも勧誘とかならお断りですよ?」
「ふふっ。大丈夫です。どちらかと言えば、クイズに近いです」
「クイズですか?僕はあまり得意じゃないですがね。お話し聞きましょうか」
なんとか聞く体制をとってくれた彼。後は私が、どう伝えるかにかかってるわけだけど。
ま、ありのままに話してみよう。
「高校生の頃。私は、とあるバイト先で働いてました。そこで知り合った気の合う男の子2人と、笑い合ったりケンカをしたり、恋をしたり。結果。どちらとも別れてしまいました。それから長い歳月が経ち、私は別れた彼にもう1度会いたくて、今。こうやってあなたに声を届けています。さて問題で」
「そんな女性は君しかいないよ。ああ。忘れるもんか」
私が最後まで伝える前に、彼は言葉を挟む。
「お久しぶりだね。元気にしてた?」
「また君の声が聞けるなんてね。ほんと嬉しいよ。"しよ"」
~ Nemesia day3_あの時キミに出会ったのは ~
「ほなうちは、ヒロくんが出て来る前に隠れておくから。ごゆっくり」
「あ、うん。ほんとありがとう。しのちゃん」
「・・・・・・あのな、しよちゃん。アペちゃんがゲームの時間を短くした本当の意味、知りたい?」
「ほへ?ええ。知ってるなら聞きたい」
「それはな・・・・・・"この時間に必ず来る"って事がわかったからなんよ」
「な、何を言ってるの?」
「その答えは、これから来る彼とちゃんと話してみればわかる。今はこれだけしか言えんけれど」
「・・・・・・うん。わかった」
玄関に明かりが灯る事を確認した所で、しのちゃんが急いで身を隠す。
そして遠くから手を振って、口パクで"がんばれ"と言ってくれたの。
数秒すると玄関の明かりも消え、ドアが開いて彼が出て来た。
「こんばんは。随分と大人になったね」
「な~に?それは老けたって事なの?」
「いやいや、それはお互い様だろ。とりあえずその格好、寒くないか?」
「あ、うん。平気」
季節外れの服装で再会した私に、少し違和感を覚えた彼が、何も言わず、着ていたジャケットを私に羽織らせてくれたの。
「さ、どうする?家に入るか?」
「え?ええ!?いや、あの、とりあえず歩こうよ」
「ああ。なら行こうか」
2人は自然な距離を保ち歩き出す。
外見は互いに老いはしているけれど、心はあの頃のまま。
私はこんな時間が過せる事をみんなに感謝し
今度こそ彼に・・・・・・想いを届けると心の中で決意する。
「あ。ここ僕の通ってた小学校なんだ。ここでお話しする?」
「うん。そうしよう」
歩く事数分。誰もいない小学校のグランドに、私たちは到着したの。
ここが私の決戦の場所。
ちゃんと見守ってて、しのちゃん。
「へぇ~。ここが少年時代に過したグランドなんだ」
「ああ。小学校の時はよくサッカーをしていたな」
「そうなんだ。って事は?」
「ああ。アイツも一緒にやってたよ」
そう言って彼がグランドにあるサッカーゴールへ歩き出した。
「やっぱ2人は小さい頃から・・・・・・」
彼の背中に向かって言葉を投げている途中、辺りが灰色に染まる。
どうやら15分が過ぎたみたいね。
「水を差すようだが、こちらも決まり事なのでな」
「仮面さんは悪くないですよ。ルールですしね」
「今回で最後だと思うのだが、本当にお前でいいのか?」
「ええ。約束しましたし、最後くらいは自分でなんとかしてみせます」
「承知した。では、これで私の役目もおしまいだな」
仮面さんが右手を私に向ける・・・・・・
「最後に言っていいですか?」
「ああ。聞こう」
「"お前は笑顔がよく似合う"。この言葉は過去に2人だけ、同じ事を言ってくれた人がいました。もしかしてあなたは」
「そう思い込むな。答えはもうすぐわかる事だ。今は彼を優先しろ」
「なるほど。では最後くらいは自分から行きます」
私は仮面さんの目の前まで歩いて行き、彼の右手のゼロ距離地点で立ち止まったの。
そして仮面さんの耳元で、"やっぱりあなただったのね"と囁いて私は微笑んだ時。
「色々と迷惑をかけたな。しよ」
そう言い残して、彼は消えて行ったの。
・・・
・・
・
・・・・・・ごめんなさい。
完璧だった計画が、私のミスでまさかの事態になってしまう。
時は数分前の事です。
『なら今回はお願い。で、次は私が奪われるから。それでいいよね?』
『それもアカンけど、しよちゃんも以外と頑固やから仕方ないか』
私は彼女とリスクを交互に振り分ける約束をしました。
しかし、この時に気づくべきだった。
リスクは、移動する度に増える。そして時間を遡る深さによって重くなる事を・・・・・・。
時は戻り、学校のグランドへ遅れながら到着した私。
短いスカートが仇になり、身体中がすっかり冷えてしまい、ジャケットを着ているしよちゃんが、若干羨ましいと思えて来た時。
辺り一面が灰色に染まって行くのがわかりました。
「アラブの人か。今回はしよちゃんの所に現れたんやな」
彼と彼女が何か話しているのがわかるけれど、声はこちらには届きません。
近づいてもよかったのですが、下手に近くに行って、時間が動き出した時に見つかると困るので、今回は見守る事にしたのです。
思えばここが、事態を防ぐ最後の場所だったのだと、後になってわかりました。
「やだ。何?しよちゃんってば仮面さんにあんなに近づいて・・・・・・どうするの?え?えぇ!?ウソ。アラブの人の頬にキスしちゃった(※してません)」
きゃっ。何なに?どうしたのしよちゃん。は。もしかして、あの時のお詫びに強制的にキスさせられたの?(※違います)
とりあえず後で聞いてみようっと。
なんて浮かれていたのもつかの間、時間は動きだし、最悪は訪れました。
「し、しよちゃん!。ヒロくん!?。あかん。早く行かなくちゃ」
冷静でいられなくなった頭の中。気がつけば私はグランドへと向かって行く。
・・・
・・
・
仮面さんが去り、動き出す時間。それと同時に"両足"を奪われる私。
彼に羽織らせてもらっていたジャケットがグランドに落ちる。
そして私の身体も、仰向けに倒れるようにして、グランドへ落ちて行ったの。
「しよ!どうしたんだ」
えへへ。倒れちゃった。
「突然何があったんだ?とにかく僕に捕まって」
ありがとう。
私は両腕を彼の背中に持って行き、なんとか上半身を起こしてもらったの。
とりあえず、どうやって説明しようかと考えて彼の顔を見た時。
彼はさっきより余計に慌てている。
一体どうしたの?
私は彼にそう言った・・・・・・つもりだった。
気がつけば自分の"声"が出ていない。
そう。奪われたのは両足だけじゃなかったの。
よりによって声、正式には"声帯"を奪われていた。
「しよ?な。さっきから声が出てないじゃないか?どうしてだ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「待ってろ。今すぐ救急車を呼んでやるからな」
そう言って、彼は立ち上がりスマホを取り出した時。
「それだけはアカン!話しを聞いて・・・・・・きゃっ」
彼を止めるべく急いで駆けつけたしのちゃん。
途中、松葉杖が滑って私たちの近くで倒れ込んだの。
・・・
・・
・
夜のグランドで四十がらみの男女が2人。
デートスポットに選ぶのは、せいぜい学生さんくらいであろう。
でも僕たちには、これくらいがちょうどいいのかもしれない。
突然の電話の呼び出しは、別れた彼女であった。
でも彼女には何年か前に会った事がある・・・・・・と思うような夢を見た。
それもあるのか、自分の中の未練なのか?
とにかく僕は、彼女の事はずっと忘れてはいなかったのだ。
『お久しぶりだね。元気にしてた?』
『また君の声が聞けるなんてね。ほんと嬉しいよ。"しよ"』
こうして僕たちは再会した。長い年月を経て。
僕たちは同じ歩幅で歩く。
彼女に合わせるとかじゃなく、僕に合わせてくれているのでもなく。
それはごく自然な行動。お互い気づいていたけれど、野暮な事だと思い口には出さない。
『へぇ~。ここが少年時代に過したグランドなんだ』
『ああ。小学校の時はよくサッカーをしていたな』
『そうなんだ。って事は?』
『ああ。アイツも一緒にやってたよ』
そう言って僕がグランドにあるサッカーゴールへ歩き出した時、彼女に異変が起こる。
「やっぱ2人は小さい頃から・・・・・・」
言葉の途中で彼女が倒れたんだ。
急いで駆けつけ声をかける。
「しよ!どうしたんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「突然何があったんだ?とにかく僕に捕まって」
「・・・・・・・・・・・・」
さっきまでの明るい元気のある声が聞こえない。
いや。声が出せないのか?
「しよ?な。さっきから声が出てないじゃないか?どうしてだ?」
「・・・・・・・・・・・・」
間違いなく彼女の身に何かが起きた。なんとかして助けなきゃ。
「待ってろ。今すぐ救急車を呼んでやるからな」
そう言って、僕は立ち上がりスマホを取り出した時、突然"見知らぬ女性"が飛び込んで来たんだ。
「それだけはアカン!話しを聞いて・・・・・・きゃっ」
彼女は僕らの前で倒れた。いや、転んだようだった。
左手には松葉杖を持っているのが見えた。
「そこの君、何で救急車を呼んじゃダメなんだ?彼女は突然、足も動かないし声も出なくなった。この状況で緊急事態だと思わないのは異常だ」
「それは、違うんや。冷静にうちの話しを聞いて」
「ああ。聞いてあげるよ。連絡した後でいくらでも」
僕は松葉杖の女性の話しを押しのけ、スマホを操作しようとした時。
「しよちゃん。ごめんやで」
彼女は松葉杖を外して、両手右足を地面につけ、片足の力だけで地面を蹴り、僕に向かって飛んで来た。
急いで持っていたスマホを投げ捨て、飛んで来る彼女を両手で包むようにして、後ろに倒れ込む僕。無論、彼女は無事だ。
「何するんだよ?てか君は誰なんだ?悪いが僕の邪魔はしないでくれ。大事な人が大変なんだよ!」
そうだよ。こんな状況で、冷静になんてとてもじゃないけど無理なんだ。
「だからしよちゃんは大丈夫や言よるやろ。頼むから落ち着いてよ!お願いや!」
強引に起き上がろうとするけど、彼女が必死に押さえつけ、僕を説得する。
「何が大丈夫なんだ?バカにするなよ!こんな状況なら子供でも理解出来るぞ!」
「それはうちでもわかるんや!でも先に説明させてーな!」
「さっきから話しを聞けとか説明させてとか、君は一体何者なんだよ?彼女は僕が助ける。僕にはその義務があるんだ」
「うちも止める義務がある。今ここで君としよちゃんを引き離す事なんてさせへん」
「さっきから意味不明な事ばかり言わないでくれ。”他人が”僕たちの事に口出しするなよ」
その言葉を聞いた途端。彼女の動きが止まり、力が抜けて行くのがわかったんだ。
そして、僕の顔に落ちてくる雫を、肌で感じた時。
彼女は弱々しい声で、”私は思い出してくれないの?”と言ったんだ。
「・・・・・・・・・・・・」
気がつけば。地面を這うようにして、しよが僕たちの所に来ていて、両手で松葉杖の彼女にしがみついたんだ。
「しよ・・・・・・ちゃん。ごめんなさい。私のせいで・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
しよは首を左右に降って笑った。
「しよ?なぜそんなに普通でいられるんだ?君は両足も声だって・・・・・・」
「これは一時的なものなんです。私の足も、彼女の両足と声も、あと2時間もしないうちに元に戻ります」
「そんな事を僕に信じろと?」
僕はしよの顔を見ると、彼女は明るい顔でうなずいてくれる。
「ふう。どうやら私はもう必要ないようですね。すみませんでした。痛かったですか?」
そう言って、僕の身体に、やや馬乗りになっていた彼女が立ち上がろうとしていた。
「いや、それよりごめん。おかげで少し落ち着いたよ」
さり気なく手を貸して彼女を支える。
「よっと。ありがとうございます。取り乱すのは正常な証拠。だから」
彼女はしよの顔を見て口を開く。
「最後まで見守れなかったけど、後は自分でなんとか出来る?」
しよは若干寂しそうな表情になったけど、大きくうなずいて微笑む。
次に彼女は、僕の方をじっと見つめてこう言ったんだ。
「詳しい説明は、彼女から聞いて下さい。貴方が愛した人からなら、信用出来るでしょ?」
「君は・・・・・・僕を知っているのか?」
彼女は軽くうなずき、僕の記憶の扉を開く。
「あの時のメモ用紙。私は今も持ってるよ」
「まさか・・・・・・”しの”?」
彼女は優しく微笑んでくれて
「やっと思い出してくれたんだね。”ヒロくん”」
そう言って、僕の目の前から姿を消したんだ。
・・・
・・
・
心地いい風が公園を吹き抜け、私の髪が靡いた時。
あの子が突然、姿を現したのよ。
「ただいま、お2人さん。ほんまごめんな、うちのせいで事態は最悪や」
「おねーちゃんの責任じゃないよ。これはしよおねーちゃんが自分で選んだ事」
「ま、そう言う事ね。今回は誰を責めるとかはなしにしましょ」
「みあちゃん、アペちゃん」
まーなった事はもう仕方ないわよね。
でも今回は私も冷静でいられるわ。
ん?それはなぜかって?
だって、彼女はまだ諦めてない。だったら私らは信じるしかないじゃない?
「後はしよに、ヒロに任せましょ」
「せやな。ほんならうちらは準備しよっか。アペちゃん、悪いけどお願いしたい事あるんやけど、ええ?」
「ウン。何をするの?」
「ちょ、待って。今度は何をする気なのよ?」
私は、当たり前のように事を進めて行く彼女に、理解出来るように説明を求めたわ。
「何をって、”打ち上げ”の準備に決まっとるやん」
「はぁ?買物行くのなら私でも大丈夫よ?」
「いや。アペちゃんには”招待状”を届けてほしくてな」
「届けるって、瞬間移動でもしてもらうの?」
「惜しいなーみあちゃん。今から届けても公園にはすぐに集まれんやろ?ま。あの人には今日渡したんやけど。とりあえずお世話になった人を、どうせなら呼んじゃわない?」
「もしかして。あの子を呼ぶわけ?」
彼女はただ笑う。
ほんと。昨日の事や朝の件、そして今もだけど。あんたの行動力は見習わなきゃいけないわね。
とは言え。これもどこかで計算してるのかしら。
「あのおねーちゃんって、スゴイね。わざと戻って来たのは、きっとみあおねーちゃんの事もあるからだね」
「え?わざとなの?しの」
「さぁ、どうでしょうね。アペちゃん、余計な事は言わないで下さいね」
「う、ウン。おねーちゃん、そんな顔でボクを見ないで」
明らかに、アペリラに睨みをきかせて話すしの。
今は何も聞かない方が身の為だわね。
さて、本当にこれで最後よ?
結果は帰って来てからゆっくりと聞かせてもらうからね、しよ。
「ね、しの?私も何か手伝える事はないの?」
・・・
・・
・
地面に落ちていたジャケットを、彼女に羽織り直して、グランドのはしっこにある木に背中をもたせかける。
僕も寄り添うようにして木にもたれた。
さっきまで他人だと思い込んでいた人が、僕の大事な"恩人"だったとは、彼女には本当に悪い事をした。
次に会う事があるのであれば、まずは謝罪から始めたい。
でもなぜ、しよとしのは身体に異変があったのに平気な顔をしていられるのだろうか?
それに。なぜ今頃になって、僕の所に突然同時に現れたのか?
僕が見た夢には彼女はいなかったと思うのだけれど・・・・・・
とにかく。まずはしよに説明をお願いしようか。
でもどうやって?
彼女は声が出せない。だから口で説明は不可能だよな。
待てよ?伝える手段なら他にもあるよな。
そう思い、僕はスマホを彼女に渡して、文字を打ってもらって会話をしようと考えたんだ。
彼女はうなずいて文字を打ち出す。
そして、僕が知らない、理解出来ない説明を、彼女はしてくれたんだ。
正直。全てを受け入れる程の柔軟性は僕にはないけれど、僕の目の前で、自ら消えたしのを目の当たりにしては、もう信じるしかないと思ったんだ。
おそらく彼女は、そうする事こそが僕に説明する最終手段。後はしよなら僕を説得出来ると思ってくれたのだろう。
「て、事は。君は今の時間に存在しない、別のしよって事?」
彼女は真面目な顔で軽くうなずいた。
例えばそれを信じるとして、彼女が時間を超えてまで、僕に会いに来てくれた理由は何だろう?
気になる所ではあるけども、僕はどうしても確認しておきたい事が1つあった。
「実は今年の夏。東京に行ってた時に、確かゆりかもめ新橋駅のホームで、僕は君と会った事があるんだ。あの時は、その人が誰だかわからなかったけれど、今日。君の姿を見て、顔が似ていたのを思い出したんだ。あの時も時間移動を使ったのかい?」
彼女はうつむいてスマホを使う。
あの時キミに出会ったのは私。私はキミを探していたの。
なるほど。空港での待ち人は彼女だったんだ。
夏に果たせなかった約束。季節は違ったけれど、君はこうして会いに来てくれたのか。
さっきは例えばとか思ったけれど、撤回しよう。
僕は君を信じる。
君がどの時代から来たとかどうでもいい。理由なんて、理屈なんて関係ない。
だってそうだろ?"しよ"は"しよ"なんだから。
「話そう。さっきの続きを。こうして会えたんだ。そしてもっと今と言う時間を楽しもうよ」
僕は笑って、彼女に心のゆとりを持たせる。
彼女もまた、笑ってくれた。少し瞳を潤ませながら。
・・・
・・
・
夜空の星たちが静かに詠い、白い月が静かに照らすグランド。
その隅にある木の下に、私たちは寄り添い、小さな画面を見ながら会話をする。
ま~要するに、お互いがスマホで会話をしていると言う事なの。
なぜって?
それは私からの提案で、1つのスマホを私が言葉を打ち込んで、それを彼に見てもらうのなら、お互いのスマホで会話した方が、色々と手間も省けるかなって思ったから。
とは言え、彼が言葉をまったく発しないわけでもないのだけどね。
とりあえず私たちは、まだ知らない彼のお話で盛り上がっていたの。
幼い頃ってさ、異性を異性としてはあまり認識しないじゃない?
ん?でも性別は違うから、男と女の区別は昔からあるでしょ?
ま~そうね。だけど、その異性の子を愛するって感情は曖昧じゃない?
あ~確かに。好きって感情はあったと思うけど、それは無責任な好きだったのかもね。
今の子供たちは大人っぽいから、私が話している事は間違ってるかもしれないけれど、少なくとも幼い時に好きだった子と、将来を誓えるお付き合いが出来たか?って聞かれたら、NOと答えると思うのね。
ま~そうかもな。しよは幼い頃に好きな子いたんだね?
ほへ?何でそんな流れに?
だって、今話してる内容ってさ、しよの体験談なんだろ?
私はスマホを足下におろし、彼の顔をまっすぐ見て、首を左右に降り、右手の人差し指を彼の鼻先に当てて、君の事だよとゼスチャーしてみせる。
「ぼ、僕の?ま、あの時は無理矢理そんな流れになった事もあったっけ」
再びスマホを持ち文字を打ち始める私。
ほ~ら。やっぱあるんじゃん。
いや、だからあの時は流行ってたんだよ。好きな子をみんなで言い合う事が。今考えると、公開処刑みたいなものだな。
ふふふっ。まさかその時も、彼と同じ人を好きになってたとか?
冗談はやめてくれ。いくらなんでもそんな最悪な奇跡はしよだけで十分だよ。
あは。そ、そだね。
「そういやこの木だったんだ」
私が少しだけ気まずい顔をしたのを見逃さず、すぐに彼が話題を変える。
この木に何かあるの?
正式にはこの木の下に埋めたんだよ。
埋めた?何を?
"タイムカプセル"さ。小学校の卒業前にクラスのみんなで埋めた。よくあるイベントだよ。
へぇ~。何を埋めたか覚えてる?
う~ん、さすがにもう忘れたかな。
そっか。今もあるのかな?
「じゃ~確かめてみようか」
そう言って彼は立ち上がり、地面を掘り出したの。
数分後。
「あれ~おかしいな?絶対ここだったんだけどな」
幼い記憶の誤差なのかしら?
彼が一通り掘った木の下には、何も埋まっていなかったの。
「ごめんな。期待させてしまったのにこんな結果で」
彼は私に謝罪するけれど、わたしは笑顔を見せて、気にしないでと答える。
こんな事ってよくある事ない?
例えば。幼い日の約束を、10年後や20年後に果たそうと言っておきながら、約束を忘れてるとか。
だから今回のタイムカプセルの件も、推測するに、埋めたけど誰かが掘り返したとか、彼の記憶が曖昧で場所が違ってたとか。かな。
でも、その中には何が入ってたのかしらね?少しだけ興味はあったかも。
楽しかった時間もあっと言う間。
刻一刻と、終わりの時間が近づいて来ている。
私は後悔しないよう。少し早めの決断を心に決めたの。
ねぇ?私があなたに会いに来た理由を伝えていい?




