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Nemesia  作者: 五流工房
Nemesia本編
10/18

welina

彼女が私の目を真っ直ぐ見る。それが合図と思った私。

私は静かに、力強く彼女に向かってこう言ったの。


「桜井あやかさん・・・・・・あなたは一体"誰"なの?」


・・・

・・


1時間前。


狭い空間の中、そこそこの音量で鳴り響く音楽。

男3人、女1人の歌声がローテーションで続いてる。

ここは某カラオケボックス。ただいま私の送別会=遊び中なのだ。


「店長さんや、残りの女の子はまだかね?」

ハクさんはマジで合コンのつもりで来てるんだ。

「え?あ~もうすぐ来ると思うよ」

待ち合わせ時刻にはまだ早い時間。こちらもこれから動き出す準備をしなくちゃね。

「さわちゃんが嘘なんてつかないだろ?信用してもう少し待ってみない?」

「んだな。じゃ、次は誰の番だっけ?」

「んじゃマッハ歌っちゃうよー」


マッハさんがマイクを手にしてカラオケ再開。

私はさり気なくフォローしてくれたヒロさんの横に座り、耳元でありがとうと囁く。

そのついでに、これから後の事もお願いねと伝えた。


約束の時間。


私とヒロさんは部屋から出る。

そして、受付でもう一部屋使わせてもらい、その部屋に私らは入った。

私は何気なく彼を見ると、自然と笑顔で返してくれる。そして、少し真顔になってこう言った。

「ごめんな。僕の事で君まで巻き込まれて」

「そんな事はないよ。こっちこそごめんね。私のための送別会をこんな風にしてしまって」

「それは別に構わないけどね。少しは楽しめた?」

「ええ、もちろん。・・・・・・じゃ連絡するね」


私はあの人達に連絡をとるため、スマホを取り出した。


「あ、あのね、ヒロさん。先に謝っとくね。彼女に会うと、きっと私は意地悪をしちゃう」


彼は何も言わず、ただうなずき、少し席を外してくれた。

そして私は通話ボタンを押す・・・・・・




Nemesia(ネメシア) day2_welina(ウェリナ)




さわさんが指定した時間と場所に到着した私たち。

この場所で連絡を待つ事10分。彼女から着信が入ったの。


「すみませんが、隣りにいる変態さんと話しがしたいです」

「わかった。ちょっと待っててね」

私はみあに、さわさんから話しがあると伝えながら、スマホを手渡したの。

「ん?アンタと話すんじゃなかったの?」


やや疑問の残る表情ではあるけども、彼女はさわさんと話す。

内容は聞こえないけれど、彼女の表情が真剣になって来るのがうかがえた。

そして、数分話した所で私と代わる。


「さわさん?私はここで待ってればいい?」

「ええ。今から行きますので、待ってて下さい」


そう言って通話を切る彼女。

「じゃーしよ。私は別の条件を受けるから、側にいられないけど。いいよね?」

「ええ。大丈夫。もし、何かあったら、後はお願いね」

「なーに言ってるの。何かある前に助けに行くに決まってるじゃない」

「みあ。ありがとう」


右手を振りながら店の方へと走って行くみあ。

それと入れ違いでゆっくりと歩いて来るさわさん。


そして、私は彼女と対面するの。


・・・

・・


さわっちが私に伝えて来た条件と言うか、内容は、単純に答えたら"お願い"だったわ。

どんな内容かと言うと、合コン相手になってくれと言うのよ。

しかも相手はハクさんとマッハさんと言う人らしいのだけど、どちらもヒロの友達らしい。

さわっちの言う名前は、なんか"あだ名"で呼んでるっぽくて、実際の名前はわからない。

どうやらヒロがあだ名で呼んでるのを聞いて覚えたとか。

ま、どちらかはノッポさんだろうけど。あ、こっちもあだ名だわ。

とりあえず、こっちをなんとかして欲しいと頼まれたし。

彼女には恩があるから、引き受けたってわけなのよね。


「まさかノッポさんとのデートが、時空を超えて約束の前にする事になるなんてね」


ま。本人は私とは初対面だろうから、これで約束は守ったわ。なんてのは通用しないでしょうね。

てか、デートではないか。


辺りが灰色に変化して行く。

石油王のお出ましってわけね。


「しよの所に来ないでこっちに来てくれたのは感謝するわ。さ。遠慮しないで持って行ってちょうだい」

「ショウチシタ。ヒトツキクガ、オマエハコノゲームデ、ノゾミハナイノカ?」

「そりゃあるわよ。でもね、このゲームは彼女の物語。あえて望むなら、彼女がゲームをクリアする事くらいかしらね」

「ソウカ。ウバウノハ、コレガサイゴニナルトイイナ」

「ま、そう言う事ね」


石油王の右手の掌が私に向き。私の右眼は視力を失う。


「よし。これなら見た目は普通に装える。さてと、お姉さんがまとめて相手してあげるからね」


・・・

・・


周りの景色に色が戻って行くのがわかる。

どうやら仮面さんが帰って行ったようね。

どうか無事でいて・・・・・・みあ。


時は戻り現在。


澄んだ空気の空の下。冷たい眼をした彼女と向き合う私。


「こんばんは、さわさん。話す前にお礼を言わせて。約束守ってくれて本当にありがとう」

私は彼女に、深々と頭を下げた。

「いえ、これはあなたの為じゃなく、彼の為」

「彼の?それはどう言う」「ヒロさんが古い友人に会うためよ」

「そう。なら何で彼の望みの邪魔をするの?私が嫌いだからかな?」


たとえ、彼女に嫌われていても、私は彼女を嫌いにはなれない。

だって、あなたは約束を守ってくれた。

今、この状況があるのは、あなたのおかげ。

だから、ここでお互い悔いのないように話ましょ?


私は彼女の目を真っ直ぐ見る。それが合図と悟った彼女。

彼女が静かに、力強く私に向かってこう言ったの。


「桜井あやかさん・・・・・・あなたは一体"誰"なの?」


彼女から出た言葉は、質問の答えではなく、私への問いかけだったの。

それと同時に、彼女が知りたい事もわかってしまった。

それはとても簡単な事。だけど、私にはそんな事すら許されない。


「そ、それは答えではないよね?」


私の言葉に落胆してしまう彼女。

そして彼女はゆっくりと、私に近づきながら語り始めたの。


「私はあなたの事を彼に話した時。彼は、そんな名前の人は知らないと答えられた。それを聞いた時、あなたは私にウソをついたと考えたの。どうして?私を騙したかったの?それとも似てたから意地悪したかったの?わからない。頼み事をする人間がなぜ自分を偽るのか?だから私は知りたかった。直接本人に聞いて、納得して、彼にあなたを会わせようと思っただけ」


彼女の言葉が終わる頃には私たちの距離はほぼゼロに等しかったの。


彼女の思いは伝わった。でも、ここで真実を話して名を言えば、私の目的は果たせない。

それでも、本当の事を言わなきゃこの先にも進めない。

どちらにしても・・・・・・もう詰んでいる。


ならせめて・・・・・・


「答える前に教えて。あなたは彼の事が好き?」


「はい。ヒロさんは大切な人です」


「・・・・・・・・・・・・そう」


驚く事はなかったの。

だって、心のどこかでそうなんだと思ってたから。

でも、これではっきりした。

彼は私の面影を彼女と重ね、彼女も彼に思いを寄せて、今の関係になったわけね。


そんな関係を壊す事なんて、私には無理。


「あなたなら彼をお任せしてもいい・・・・・・。ごめんなさい。本当は嘘はつきたくなかった。でも、どうしてもそうしなくちゃダメだったの。理由はこれ以上言えないけれど」

「・・・・・・・・・・・・」

「でもね、これだけは誤解しないで。私はあなたの事は嫌っていないし、騙して利用しようなんて思ってなくて、ただ、本音を言うと、あなたに嫉妬はしていた」

「なぜですか?外見は同じじゃないですか」

「だからよ。だから・・・・・・ヒロが好きになるわけよ」


気がつくと頬から伝わってくる雫。

それを見た彼女がそっとハンカチを取り出し、優しく頬を撫でる。


「ごめんなさい。もうこれでおしまい。私の名前はね・・・・・・」「もういいです。"しよ"さん」


「・・・・・・・・・・・・なん・・・・・・で?」


・・・

・・


私はしよさんに名前の真相を説明する事にした。


『なるほど。僕は女の子の友達なんて少ないから、名前を聞けば思い出すと思うけど。その人の名前教えてくれない?』

『その人の名前は"あやか"さんだよ』

『あやか?本当にそう言ったのかい?』

『うん。知らない?桜井あやかさん。私にそっくりな女の子なんだけど?』


その言葉を聞いて驚いていた彼の顔は、今でもはっきり覚えている。

そして、桜井あやかが何者だったのか?が判明する瞬間でもあったんだけど。


その時は私も驚いたわ。

だって、てっきり本名とばかり思っていた名前が、実は"ヒロさんがつけた名前"だったなんて。

しかもその名前は、当時バイトをしていた時に、バイト仲間にドッキリを仕掛けるために作り出した名前だって。

最初は忘れてたみたいだけど、私にそっくりというフレーズで彼女の正体を見破ったのは、明らかに2人は何か繋がりがあるのだと実感した。だからついでに2人の関係も聞いちゃった。


『彼女の名前は"しよ"。僕の元彼女だった人なんだ』

『へぇ~。そんな人がヒロさんに会いたがってるって事は・・・・・・復縁?あらら~修羅場かしら』

『さわちゃん。人聞きの悪い事を。とりあえず、僕に直接会いに来れないって事は、何か理由があるんだよ。きっと』

『ただの臆病者って事はないの?何か障害があるのなら、それを壊す勢いで行けばいいのに』

『ははは。どうやら性格までは似てないようだな。さわちゃん』

『な、どうせ私はそう言う人間ですよ。あ~なんかイライラして来た。何でこんなややこしい事をしたのかしら?』

『ま~人には言えない事情ってあるよね?だから、たとえ教えてくれなくても、彼女を許してあげてくれないかな?』

『・・・・・・・・・・・・考えとく』



「ま~そう言う事です」

「は、はは、は。そうだったのね。ヒロに感謝するわ」

「そうですよ。ヒロさんがああ言わないと、私はあなたを許してなかったかもしれません。が、まさか泣かれるとは思ってなかったので、こちらこそすみませんでした」


私はしよさんに、今までの行動と言動を謝罪する。


「別にそれは構わないよ。こっちも色んな事を話せなくてごめんなさい」

「それはいいです。しよさんの諸々の想いは伝わりました。さ、ヒロさんの元へ向かいましょう」

「ちょっと待って。何でそうなるの?あなたはヒロを好きなのよね?」

「ええ。私は"大切な人"と言いましたよね?彼は私の"恩人"なんです」

「それはどう言う事?」

「簡潔に説明すると、私には彼氏がいます。そんな彼との仲が最悪な時に、色々と相談に乗ってくれたり、助けてくれたりして、なんとか今の状態に納まってる。だからヒロさんは恩人なの」


「じゃ、じゃ~さわさんはヒロと付き合っては」「全くないです」

「でも好きなのよね?」「恋愛感情がないと男の人を好きになってはダメなんですか?」

「なら。私はあなたにヒロを任せなくても」「構いません。むしろ困ります。あ、でも手助けはしますからね」


私はしよさんから、帽子とメガネを奪い取り装着する。


「これで私は"桜井あやか"。あなたはヒロさんの大切な人って事で。さあ、もう時間がないのでしょ?事情はさっき"みあ"さんから聞きました」

「さわさん、みあまで知ってるの?」

「ええ。ヒロさんに、しよさんの隣りに変態がいると言ったら答えてくれました」

「あ~ね」

「では案内しますので、ついて来て下さい」


こうして私は冷えきった彼女の手を握り、店へと走る。


・・・

・・


さわっちの指定した部屋に入ると、そこには、ノッポさんがソファーに腰を深く降ろし、右足を組み左手はソファーの背もたれにおもむろに伸ばし、右手にはワインを飲むかのような格好でグラスを構えている。しかし入っている飲物はコーラだけど。

そしてもう1人は、某、奇妙な立ち方で華麗にキメているオシャレな色黒の人。

2人はドヤ顔で私に向かってこう言ったわ。


「「ようこそ。キミがさわさんの友達の1人かね?」」


インパクトありありの光景は、ある意味”絶景”に見えたわよ。

まーあれよ。

友達は選んだ方がいいわね。ヒロ。


「そうね。さわっちからアンタらの相手を頼まれたわ。とりあえず、今のままで話を続けるなら帰るわよ?」


その言葉を聞いた途端に、普通にソファーに座り直す2人。

まー面白い人って所は嫌いじゃないから、しばらく彼らの事を教えてもらおうかしらね。


「じゃー2人は高校の時に友達になったのね」

「ああ。そして今も腐れ縁で一緒にいる事が多いかな」

今、答えてくれたのがハクさん。またの名をノッポさん。しかし本名不詳。

「ほぅ。じゃ、毎回アンタらは一緒にいるんだ」

「そうだな。結構いるよな?」

ハクさんがマッハさんに質問すると、彼は華麗なターンと指さばきでこう言ったわ。

「かーらーのー」

「「・・・・・・・・・・・・」」


一瞬辺りが灰色になるかのように、時が止まった気がしたのは私だけかしら?

「すまないね。彼の事はあまり気にしないでくれると有難い」

「ええ。言われなくてもそうするわ」


まーそんな会話をしている最中(さなか)


「遅れてすみません。”桜井あやか”到着しましたぁ」


勢いよくドアを開けて、彼女が入って来たのよ。

髪型をサイドテールにし、衣装もすれ違った時とは違う格好になってるわ。おまけにあの帽子とメガネで顔を誤魔化してるわね。

「お、やっと来たわね。さ、こっちおいで」

私は彼女を隣に座らせて、今更ながら挨拶をしたのよ。


「彼女は私の友達のあやか。で、私は”窓乃あみ”。よろしく」


挨拶と少しの会話を楽しんで、カラオケに突入し、ハクさんが歌う。

それを聞きながら、私は彼女にだけ聞こえるくらいの声で囁く。

「ごめんな”さわっち”。色々と迷惑をかけてしまって」

それを聞いたさわっちが同じく囁く程度の言葉で返してくれたわ。

「いえ。それより窓乃あみって何です?それもヒロさんが付けたんですか?」

「あー、これは私が勝手に付けたのよ。アイツのネーミングセンスに負けないように考えたわ」

「はは、私にとっては、どちらもセンスない気がしますけどね」

「そう?それより真面目な話するけど、聞いてくれない?」

「もちろん。何です?」

「私はあと何分かで消えるわ。それはしよも同じなのよ。だから先にお別れを言っておくわね。短い間だったけど、あなたに会えて楽しかった。次があるのなら、今度は友達としてゆっくり話したいわね。ありがとう」

私は彼女に右手を差し出す。

「私も是非ともお会いしたいです。どうかお元気で」

彼女の右手が私と繋がり、お互い笑顔になる。


「2人して何をニヤけてるんかな?」


気づくとハクさんは歌い終わってたわ。

私らは、その場しのぎで笑って誤魔化し、私はマイクを手にしたのよ。


今回も見届けられないけど、後は頑張るのよ。しよ


・・・

・・


さわさんが私の手を握り店へと走る。

彼女の手は温かく、なぜか優しい感覚。


「さわさんの手って、私好きかも」

「な、何を言ってるんです?は!もしかして、あなたも変態?」

「違うわよ。ただ私とはやっぱ違うんだなって。私の手はそんなに優しくないし」

「そりゃあ違うでしょ。お互い他人なんだし、それに・・・・・・負けてるし」

それにの言葉の途中。彼女が一瞬、自分の胸元を見て、小声で呟く。

「え?最後の方なんて言ったの?」

「なんでもないよ~。ほら急ぎますよ」



彼のいる部屋の前に辿り着いた私たち。

お互い、向き合って呼吸を整える。


「この部屋にヒロさんはいます。私が手助け出来るのはここまで。後はしよさんが目的を果たすのみよ」

私は軽くうなずき、彼女を軽く抱きしめる。

そして、耳元で感謝と素直な気持を言葉にしたの。

「本当にありがとう。あなたには、もっと早く出会いたかった。そうすれば、きっといいお友達になれたと思う」

その言葉を聞いた後、彼女は私の背中に腕を廻して

「な~に言ってるんですか。私達はもう"お友達"でしょ?」

「・・・・・・さわさん。ええ、そうね」


「いつか・・・・・・また会えると信じてます」


両手を解いて彼女は歩き出す。

その背中をじっと見つめて彼女を見送る私。


きっかけは勘違い。でもそこから繋がる希望の糸。

彼と私の糸の中心に彼女は存在した。

彼女がいなければ、私と彼は決して繋がる事はなかったよ。

いつか・・・・・・があるのなら、今度はあなたの事を手助けさせてね?

さわさん。


「あ、しよさん」


何かを思い出したかのように振り返る彼女。

せっかくのナレーションが台無のように思えたけれど、私は普通に返事をしたの。


「どうしたの?」

「さっき、外で私がヒロさんの彼女だと勘違いして、私に彼を任せると言ってましたよね?本当の気持ちはどうだったんです?」

「正直、諦めたくなかったよ。でも、さわさんだから、ううん。ヒロが好きになった人なら仕方ないって思った」

「・・・・・・そうですか。相手の気持ちを優先する所。ヒロさんにそっくりですね」

「そうかもね。でも私は意外に頑固な所あるから、こう言う状況になってるのかもよ?」

「あはは。確かにそうかも。なら最後に一言送りますね。"本当に好きなら、奪う勢いで押して行く"。私が彼にやっている事です」

「へ、へぇ~。さわさん以外と大胆な子なのね」

「そうでしょ。愛なんて所詮は奪い合いなんですよ。私なんてしょっちゅうです」


そう言い残し彼女は去って行ったの。

最後の言葉は何だったのかしら?

でも、応援してくれてるって事でいいんだよね?


さてと、では行きますか。



私はドアノブに手をかけ、勢いよく扉を開いた。


「よ。すっかり歳をとったなヒロ」

「ああ。君は相変わらずのハイテンションで安心したけど、その容姿には似合わないかもね」

「それはどう言う意味なの?」

「昔より綺麗になってるからね」

「そ、その言い方やめい」


なんとも懐かしいやり取り、昔も今も変わらないのだと実感する。

少しだけ緊張していた事も、彼の正面にある席に腰を下ろす頃には、すっかり忘れ去られていたの。


「まさか、こんな形で"再会"出来るなんて。夢にも思っていなかったよ」

「そうよね。ヒロがあの子に夢中になってくれたおかげよ」

「おいおい。ま、否定したらどちらにも悪いから白状すると、そりゃ"あれだけ似てたら"って答えで許してもらえます?」

「私も正直驚いちゃった。さわさんとはいつから?」

「詳しくは覚えてないけれど、2年か3年前だと思う。と言っても、僕はお客だし、彼女は店の人だったしね。それに・・・・・・」

「あ。ごめんなさい。これ以上は聞かないでおくね。彼女の事情で話しづらいのよね?」

「お。それは知ってて言ってくれてるのか、年上の余裕ってやつですか?」

「さ~なんの事かしら~」


それから2人は、当時の思い出話しでしばらく盛り上がる。

しかし私にはもう時間がないの。

本当はもっと話していたい。色んな事を知りたい。

知りたい?

そうだ。これだけは聞いておこう。


「ねぇ。さわさんの事、好きになってたでしょ?」

私の質問に、彼は少し視線を落とし、意外な答えを口にしたの。


「・・・・・・忘れようとしてたんだ」


「忘れる?それって・・・・・・」「ああ、君を。"しよ"をね」


ゆっくりと視線を私に向けて、彼は私に語り始める。

「君と別れてから数年、ずっと君の事は忘れていなくてね。他の人を好きになろうなんてのは、考えていなかったんだ。でも30歳を境に、思い出を捨てようと考えたんだ。遠くに行ってしまった君は、もういい人を見つけているのかもしれないしね。だから忘れようとしていた。なのに・・・・・・出会ってしまった。彼女に」

彼は、少し苦笑いをしたように見えた。


「それで、私を"思い出した"と言うわけなのね?」


「そうだね。だから、君の質問に正直に答えるなら、僕はさわちゃんを好きになってた。けどね、付き合いたいとかは思ってなくて、ただ。あの店に行けば"過去の思い出"に会えると思ってたんだ。後は君が知ってる事を足せば、大体理解してもらえるかな?」


『昔が懐かしかったんじゃないかな?あ。これはアイツ限定だけどな』


ふとノッポさんの言葉が脳裏に浮かんだ。

彼はやはり、彼女とあの時の私を重ねていたんだわ。


「ええ。少なくとも私の事はまだ覚えていて、また他人にお節介をしている事が理解出来たわ」

「ま、そう言う事だな。でもおかげで、こうして君に出会えたし、僕としてはよかったと思ってるけどね。で、しよは何か理由があってここに来たんじゃないのか?」

「ほへ?え~とね。ヒロに忘れ物を届けに来たの」


会話的にここしかないと思った私は、覚悟を決める。


「忘れ物?それは何かな?」

私は彼の目を見つめる。その真剣な眼差しに気づき、彼も優しくこちらを見る。

視線が合った瞬間。胸の鼓動が早くなる。

落ち着きなさい、ちゃんと伝えるの。

私は右手で胸の鼓動を押さえつけ、想いを口にする。


「あなたと別れてから数年、私はずっと夢のために頑張って来た。決して振り返らず、ただひたすら前を見て来たのね。で、自分なりに夢は叶ったと思った時、気持ちの余裕が出来てたの。そんな時、みあと久しぶりに会って、あの公園に行った」

「僕らの思い出の場所だね」

「そう。そこで私はあなたを思い出して、あの時の別れ(こと)を後悔した。あの時もっと素直になっていれば、あなたの事をちゃんと見ていれば・・・・・・ってね。だから」

彼は静かにうなずき、言葉の続きを待ってくれる。

「今更だけど、あなたに届けるね・・・・・・私はずっと・・・・・・あなたの・・・・・・」


言葉の途中で右手の甲が”紅色”に光り出したの。

嘘でしょ?もう時間が来たの?

「しよ。右手が?」「だ、大丈夫だから」

私は慌てて左手で右手を覆う。

「何か助ける方法はあるのか?」「ち、違うの。それより話しを最後まで聞いて」

「今はしよの手が心配だ」「私には時間がないの!」

叫びに近い私の声で、彼は無理やり納得する。


「私はずっと、あなたの傍に・・・・・・」



時が止まる。

辺りが灰色になり、時空の狭間(トキノハザマ)へ飛ばされる。そして、仮面さんが現れた。

それと同時に膝から崩れ落ち、涙が滲む。


「ザンネンダガ、ジカンダ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぃゃ」

「ルールダ、アキラメロ」

「・・・・・・・・・・・・ぃゃょ」


少し離れた所が光り、みあが降ってきた。

それと同時に2人の手の甲の光が消える。


「よっと。今回は受け身をとってやったわよ。ん?どうしたの?しよ」


明らかに様子がおかしいと思ったのか、私の所に急いで駆け寄って来る。

「ね、どうしたの?なんで泣いてるの?ちょっと石油王!あんたが泣かしたの?」

「ヒテイハシナイ。ガ、コレモヤクメダ」


あと少し、あと少しで届けられたのよ?

ちゃんと伝えたかった。私の想い。

そして彼にもう1度・・・・・・愛して欲しかった。


それがワタシの望みなの?

・・・・・・そうかもしれない。


だったら素直になりなさいよ?

・・・・・・私は彼に愛されたい。


今帰ると、彼と過ごしてた時間は無かったことになるわよ?

・・・・・・それは嫌。私は・・・・・・ワタシは。


私の中の”黒い願望”が再び膨れ上がる。

想いの強さも重なって、パンドラの箱が開き始める。


「な、何?しよの右手がまた光って」

「イカン」

仮面さんが危険を察知し、みあを私の側から引き離す。

「ちょ、しよ!一体何がどうなってるの?」

精霊(アペリラ)の力」

「え?てかあんた、声が。普通に話せるの?」



「どうせ無くなるのなら・・・・・・ワタシはこの時で彼と一緒に・・・・・・」



気づけば涙は枯れ、私は力強く立ち上がる。

紅色の光を右手の甲に宿し、黒い炎が右腕に灯る。

そして私は叫ぶ。


welina(ウェリナ)

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