アペリラ
澄み渡る水色の空にピンク色の花びらが踊る。
その花びらの追いかけた先に1人の人物あり。
見た目は中学生くらいの背丈で小柄、そして"サクラ色の髪"
あれ?見つかっちゃった?
あ、まってよ。せっかくだからお話しない?
そう言った瞬間、突然姿が消える。
が、近くにあった桜の木の側で姿を現し語り出す。
突然だけど、葉桜は好き?
まぁ好きな人は少ないよね?
ボクは好きなんだ。だって、葉桜を見てると桜餅が食べたくなるしね。
じゃなかった。あ、でも桜餅は食べたくなるんだよ。
えっと、本当に言いたい事は、何事も散り際って綺麗な感じがしない?
花は短し恋せよ乙女ってね。
そういや学生だった女の子たちも・・・・・・もう40を迎える年頃だっけ。
さて。どんな咲き方をして、どんな散り方でボクを愉しませてくれるのかなぁ?
さぁ、始めようか。
ねぇ?
Do you Re:member me?…… Let's start again?
~ Nemesia day1_アペリラ ~
2017年 4月。某日、金曜日。
この日の私は久々のオフ。次の日が休みだから3連休と言うわけなの。
なんて言えるのは週休2日制の社員が言うセリフ。
私は3交代制の変則勤務。まぁ週休2日制なんだけどね。土日が休みって時はほぼないの。
そう、あの頃のバイトの時と同じ。
でもね、今は違うのよ!
私は3連休をいただいた。なぜかって?
世の中には社員の見方、有給ってものが存在するのよ!
だから~、今日がオフなのは本当。で、土日は有給を使ったのです。
まぁ~こんな事は滅多にしないし、会社でもそこそこの地位にいるから、少しのわがままは許してくれたしね。
で。私は連休を使って、何年も戻っていない地元に帰って来たと言うわけなの。
実家に到着し、荷物を置き、家族との会話を済ませ、私は友達に会いに行く。
ふと鏡の前で立ち止まり、軽くなった髪を撫でる。
「ちょっとやり過ぎたかな?」
人生。ほぼ同じ髪型で過ごして来た私が、最近イメージチェンジを試みた。
きっかけは、彼女からの電話だったの。
『と言うわけで、髪を切ってみない?私もやるからさ』
『・・・・・・そうね、たまには違った自分になるのもいいかもね』
『じゃ、今度会う時に、どちらが面白くなってるか勝負よ!』
『勝負って・・・・・・間違いなく坊主にすれば勝てるよ?』
『ま、そう言う事ね。でもお互いそれはやめましょ。リスク高過ぎだし、職を変えるレベルよ』
「よし、じゃ~行きますか」
私は彼女とのやり取りを思い返して歩き出す。
愛用の黒髪ロングヘアの装備を外し、少し明るい、茶系のゆるふわショートボブへと装備を変えて。
・・・
・・
・
「確か・・・・・・ここだったよね?」
私は昔の記憶を頼りに、今となっては・・・・・・もう誰も使用していない、あの"公園"に来ていた。
ここに来るとあの時の記憶が蘇る────。
あれから随分と経ったよね?
しばらく歩いていると、あの時のベンチが色あせて残っていたの。
右手でそっと撫でて"あの人"を思い出す────。
あのね。私、帰って来たよ?
「ねぇ。今も元気にしてるかな?」
ベンチに座り空を見上げて小声でつぶやいた私。
「あれからもう25年よ?どこにいるかわからないけれど、元気にやってるわよ、きっと」
独り言だったはずの問いに、抜群のタイミングで答えを出して来た事に驚いた私。
そして声の方に視線を向けた。その先に見える1人の女性。
「よ!ほんと久しぶりね、"しよ"」
「ええ。相変わらずだね、"みあ"」
彼女の名前は"みあ"。ちなみに私の名前は"しよ"。
2人は高校で知り合い、仲良くなったり、絶交寸前だったり。ま~色々とあったけど・・・・・・
今でもこうして縁は続いてるって事は、お互いが思いやってるからだと思うんだ。
でもね、どうしてもツッコミたい事が1つ。
「髪切って来るって言ったでしょ?何で昔と変わってないのよ?」
そうなのよ。彼女から勝負とか言っておきながら、実際会って見たら
無造作ウェーブのセミロング。髪の色はダークブロンド。長さは昔と変わらない。
まぁ変わったとこをあえて言うならば、髪の色とウェーブをあてたって事くらい。
「え?切ったわよ?私は最近までしよと同じロングヘアだったのよ?」
そう言って、彼女は私の隣に座り、スマホを取り出し、ロングヘア姿の画像を見せてくれたの。
「た、確かに長いね・・・・・・」
「まー25年間、ろくに連絡もしないで、お互いの情報交換も年に5つあったらいい方だし・・・・・・無理もないわね」
「ほんとごめんね。ずっと忙しい日々だったからさ」
「それはいいって。今日は無理やり会ってもらってるんだし」
「ははは・・・・・・で、結局の所。勝敗はどっちが勝ったの?」
その言葉で互いがもう1度、髪を見つめ合うという・・・・・・なんだか異様な光景と時間が流れたの。
「どう見ても私の負けね。だって、短くなったし可愛くなったし、それに・・・・・・痩せてるのに胸だけは更に大きくなってるって・・・・・・ほんと罪な女よね」
「勝ってバカにされてる気がするのは私だけなのかな?」
「さぁーなんの事かしらね」
「あ、パクらないでよぉ」
それからしばらくの間、積もりに積もったお互いの知らない情報交換の時間となったの。
彼女とは高校卒業後に離れ離れになり、私は仕事一筋に、彼女は仕事もしつつ恋愛も順調だったみたい。・・・・・・けどね。
「彼と別れたのはいつ頃だったっけ?」
「え?そうだなー。もう10年は経つんじゃないかしら?」
「原因は浮気?」
「そんなんじゃないんだけどね・・・・・・ただ、結構"待つ"のって疲れるのよね・・・・・・」
待つ・・・・・・か。
もし、君は今も待っててくれてるのなら・・・・・・って。都合のいい解釈だよね。
「嫌いになったから別れたんじゃないのよね?」
「ええ。何?もしかして"よりを戻したい"わけ?」
「いやいや、そんなんじゃないから。みあこそまだ好きなら、よりを戻したらいいのに」
「うーん・・・・・・消息不明なのよね。何やってんだか知らないけど」
そう言ってバッグからコーヒーを1本取り出した彼女。
「はい、飲みなさいよ」
「ほへ?1本しかないんだし、みあが飲みなって」
「いいえ、バッグにあるから先に飲んでていいわよ」
「そう?じゃ~いただきます」
彼女の好意を素直に受け止め、コーヒーをいただく私。
それを横目で見つめる彼女。
な、なぜか獣のような鋭い目つきをしているのは気のせいかしら?
「飲んだ?じゃー次は私がいただくわね」
そう言って、私が飲んでいたコーヒーを右手で奪ったの。
ちょっとみあ!って言う間も無い勢いで、コーヒーを口に運ぶ彼女。
「そんなに私と間接キスしたかったわけ?」
半ば呆れた顔と棒読みで彼女に問う私。
「あはは、さすがにしよはアイツと違うわね」
何かを思い出して1人で楽しんでいる彼女。
「もう、一体なんなの?」
「あーごめんごめん。昔さ、アイツに、あ。しよの元彼にも同じ事をしたのよね」
「え?・・・・・・そうなんだ」
少しだけ表情を曇らせた私。それを見た彼女が慌てて弁解に入る。
「あー誤解されたら困るから、とりあえず話し聞いてね?・・・・・・ね?」
・・・
・・
・
とうわけで話はあの時に遡るわね────
『しよのどこが好きになったの?』
『そだな~・・・・・・やっぱ笑顔かな』
『確かに笑顔似合ってるわね。今でも好きなのよね?』
『もちろん・・・・・・ま、笑顔は見れないけどな』
少し視線を下げ黙り込むアイツ。
『私が笑ってあげようか?』
予想もしていない言葉に驚き、アイツは私の顔を見る。
『お?そんなに見たいの?』
『そ、そうじゃなくて・・・・・・あまりにも、みあらしくない発言だったから』
『それはどう言う意味かしら?』
『あ~ごめん。もし僕が見せてと言えば笑ってくれるのか?』
『あんたが望んでるならね』
『やめとくよ、君は彼女の代わりじゃないからね』
『・・・・・・普通はそんなに大袈裟に考えないと思うけど?』
『そう?でも君の彼氏にも悪いなって思ったし』
アイツの言葉を聞いた後、少し考え事をする私。
『じゃーお互いの”普通”がどれくらいかはっきりさせましょう』
そう言って私はショルダーバッグからコーヒーを取り出した。
『ここにコーヒーがあるわ。でも1本しかないのよね』
『僕はいいからみあが飲みな』
『それがあんたの普通でいいのね?』
『ああ。僕が持ってても君にあげたかな』
『そう。ならこのコーヒーあげるわ』
『何で?1本しかないんだから僕はいいって』
『違うわよ!実はあと1本バッグに入ってるから先に飲んでいいわよ』
その言葉を信じて、アイツはコーヒーを一口飲んだ。
『飲んだ?じゃー次は私がいただくわね』
アイツの飲んだコーヒーを奪い取り、何事もなかったかのように一口飲む私。
驚くアイツの姿を見て私はこう言ってやったわ。
『言っとくけど、コレ間接キスだからね』
『な、何やってるのさ?」
『私は気にしないのよ。これが私の”普通”』
『・・・・・・まいったな。今回はみあの勝ちでいいよ』
『今回もでしょ?つまらない意地はもうお互いなしにしましょ』
さっき飲んだコーヒーをアイツに差し出す。
今度は自然に受け取り、続けて飲んでくれたのよ。
それを見て私はアイツに笑顔を魅せたってわけ────
・・・
・・
・
「・・・・・・・・・・・・浮気者」
「な、ち違うわよ!何すねてるのよ?」
あれ?ほんとだ。何でワタシは・・・・・・
「別に、すねてなんてないですよ~」
「いいや。自分の事は気づかないから言ってあげるけど、しよは結構"独占欲"は強い方なのよね」
「そ、そんな事・・・・・・もう別れたし関係ないもん」
なぜか心が痛む感じ・・・・・・もしかしてアイタイの・・・・・・?
「ねぇしよ。あんた、まだアイツの事を」
「言わないで!・・・・・・・・・・・・ごめん」
寂れた公園に静かな風が吹く。
黙り込む2人。お互いを察し合ってるのが伝わる。
静寂の空間にひらり舞い落ちて来た"桜の花びら"
2人が気づき花びらに視線が流れる。
追いかけた視線の先に見える・・・・・・"サクラ色の髪の子"
「おねーちゃんは過去に忘れ物をしちゃってるよ?」
いつからいたのか知らないけれど、サクラ色の髪の子は私に話して来たの。
「ねぇ。君、忘れ物ってな~に?」
私はサクラの子に聞いてみる。見た目は中学生っぽいし、多分からかってるのだとこの時は思ったの。
「わからない?今も心の奥に隠してるその痛みだよ」
「!!!」
なに?なんなのこの子?・・・・・・心を見抜かれてる?
「ど、どうしたの?しよ?・・・・・・てか、あんた何者なのよ?」
動揺してる様に気づいたみあが、喋りながら私の前に立ち、すぐさまかばうようにしてサクラの子と向き合う。
「"アペリラ"。ボクの名前だよ、おねーちゃんたち」
そう言って軽く頭を下げて────キミは不気味に微笑んだの────




