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第五話 休暇 後

筋肉親父の登場です。コイツもモブだとはおもいますが、味のあるキャラにできたらいいなぁ。

 この世界には「エルフ」と呼ばれる種族は存在しない。ぼくたちの認識だと「エルフ」と呼びたくなるような「人種」が、魔人の中にが存在するだけだ。


 それと同じように、「ドワーフ」という種族も存在しない。魔力が勝手に筋肉を作り上げていくような回路を持っている「人種」がいるだけだ。小さいころから勝手に筋肉がモリモリできあがっていくから、概して背が低い。イメージとしてはまさにドワーフだ。




「筋肉が足りねえな」


 目の前のドワーフ様が無表情に言った。もちろんぼくは武器庫の床に這いつくばっている。こぶしでの語り合いでボコボコにされたためだ。


「ど、どうもすみません」


 とにかく一発一発の威力がシャレにならない。彼はこちらのパンチを防ぐことなどまったく頭になかったようで、三、四発はぼくもいいのを彼にいれた。しかし、すべて彼の筋肉にはじき返されてしまい、反対にむこうのパンチはこちらの防御をぶち抜いて入ってくる。五発耐えた。そしてそれが限界だった。


「その身体でこの力が出せるんだから、筋肉の質は悪くねえ。あとは、同じような質のいい筋肉をもっとふやすことだ」


 筋肉の質がいいのは、管理者のささやかなチートのおかげだろうな。しかし、ためになる教えなのだが、ふたことめには筋肉という言葉が出てくるのが、どうにも落ち着かない。ボディを作る系の人のことが思い浮かんでしまうのだ。


「しかしダンガ、わたしも自慢じゃないが筋肉の量はそんなに多くないぞ? むしろアズマよりも少ないくらいだ」


 横から師匠が助け船を出してくれた。 師匠、スタイルは巨匠の生み出す芸術品のようだものな。それから、この武器庫のあるじがダンガという名前であることがわかった。


「あんたは身体のつくりが違うからな。筋肉の繊維せんいも、骨の成分も、おれたち普通の魔人に比べてはるかに上物だ。あんたの身体は芸術品だよ」


 美女の身体をめてもエロい感じがまったくしてこないのは、ダンガの人徳なのかドワーフゆえか。


「そうか。そう言ってもらうと少し照れるな」


 師匠は本気で頬を赤らめて照れていた。この人は、女性に対する普通のめ方をしてもなんの反応も示さないのだが、筋肉と骨を褒められると照れるようだ。いまひとつツボがわからない。


「とにかくだな、もっと筋肉をつけろ。武器選びはそれからだ」


「でも、いまの段階でも向き不向きとかあるんじゃないですか?」


 槍を持っていまひとつだった男が剣には圧倒的な才を持っていた話とか、読んだ記憶がある。


「おまえさん、今どんな武器を使ってもそれなりに使いこなしてるだろ?」


「そうです。よくわかりますね?」


「それは筋肉のつきかたにメリハリがついてないからだ。この先もっと筋肉を増やしていけば、骨格にあわせて筋肉量の濃淡が出てくる。そこまでいって、初めて武器の向き不向きが出てくるんだよ。武器は筋肉が選ぶんだ。いまは結局『そこそこ』しか使いこなせない」


 いま、ぼくは本当に勉強になる話を聞いている。素直に心が受け入れられるように、繰り返される「筋肉」という単語をなんとかしてほしい。


「これからの訓練でその辺は考えてみよう。ダンガ、邪魔をした」


「そいつにもう少し筋肉がついたら連れてきな」


 最後の瞬間まで話は筋肉だった。




「どうしてアンネロッテ様は勇者を召喚したんでしょう?」


 師匠と王宮内のカフェテリアで一服しているときに、ぼくはいままで訊いてみたいと思いつづけていたことをぶつけてみた。


「ん、どうした? なにか悩みでもあるのか? ならひとつ……」


「違います、こぶしの語り合いは不要です! あのですね、師匠にしても、ロレッタ料理長にしても、ダンガさんにしても、普通にぼくより強いですよね? たぶん王宮の中だけで、ほかにもヤマほど強い人がいると思うんですよ。わざわざ外からよそ者を呼ばなくたっていいんじゃないかな、と思っちゃうんです。そもそも、アンネロッテ様だって、ものすごく強いですよね?」


「ああ、わたしも一番槍などと呼ばれてはいるが、王宮の中でアンネロッテ様と勝負すれば、わたしなど瞬殺だよ」


 絶句した。とてつもなく高いカベである師匠が瞬殺?


「王宮の中で?」


「そこに気づいたか。王宮の外であれば、もう少し頑張れる。こないだきみが行ってきたガルストンの領地あたりまで行けば、うまくいけば引き分けられるかもしれない」


 そういえば、ミステルがみょうに「王宮の中」にこだわっていたよな。


「魔族というものはね、生まれたときから魔素とともに育つ。だが、魔素というものは場所によって少しずつ質が違う。どのような魔素をどのように取りこんで育ってきたかが、魔族の強さを決めると言ってもいいんだ」


「王宮のある場所の魔素が質がいい、とか?」


「いいセンだね。この王宮は、魔族領全体に行き渡る魔素の源泉げんせんの上に築かれているんだ。王族の居住区域はその中心部にある。アンネロッテ様やご兄弟姉妹は、ほとんど混じり物のない純粋な魔素を、ふんだんに取りこみながら育ってきた。強くならないはずがないだろう?」


「聞いただけでゾクゾクしてきますね。純粋培養の魔人ですか」


「純粋培養か。言い得てみょうだね。そしてそこがアンネロッテ様の弱みでもあるんだ。アンネロッテ様は、この純粋な魔素を取りこんで強さを十二分に発揮する。外の純度の低い魔素の中では、本来の力を出せない」


 ハイオク仕様の車にレギュラーガソリン突っ込んで走るようなものだね。


「でも、魔素が希薄な人間の領域でも聖騎士団の団長を瞬殺したとか」


「ミステルから聞いたんだね。もともとの強さが圧倒的だから、人間の領域でもじゅうぶんすぎるほど強い。だが、わたしが引き分ける可能性が出てくる程度には弱くなるんだ」


 それは弱いとは言わないレベルだ。というか、師匠も聖騎士団長を瞬殺できるんだな、この言いかただと。


「アンネロッテ様だけじゃない。大半の魔族は自分の領地を離れると、程度の差はあれ弱くなる。だから、魔族の間で領地の取り合いはあまり起きない。違う魔素の土地では力を出せないからね。領地を広げようとすれば、少しずつ魔素をなじませながら時間をかけてやっていくしかないんだ。普通、めんどくさがりの魔族はそんなことはしない」


「じゃあ、人間の領域への侵略とかは?」


「領地が境界に接している魔族が、たまにやる程度だね。それも、いま言ったような問題があるから、少しずつだ」


 話が変だ。じゃあ、大規模な魔族の侵攻とか、起きようがないじゃないか。


「じゃあ、どうして人間は勇者を召喚するんでしょう?」


「さてな。いろいろ都合があるんだろう。そして、こちらの都合できみが召喚されたというわけだ」


「その都合というところをもう少し詳しく!」


「勇者は人間だ。特殊な能力を持っているようだけどね。ということは、魔素の質にその強さが影響されない。いっぽう、われわれは勇者に対抗するために援軍を送ろうとしても、魔素の質の問題で送られたものたちは本来の力を出せない」


「じゃあ、アンネロッテ様が勇者を召喚したのは……」


「わたしのような鉄砲玉には、アンネロッテ様の心中はなかなか見えないのだよ。ふだんは、『人間に対する意趣返しです』と、笑いながら言っている。だけど、アンネロッテ様はきみに魔族がくらす領域を守る手伝いをしてほしいんだと思うね」


 なんというか……カッコいいぞ! 黙って同族を守ろうとするアンネロッテも、その心を知っていて自分を「鉄砲玉」と言いきる師匠も。


出来損できそこないの勇者ですみません。アテが外れちゃいましたね」


「なに、きみはそう捨てたものでもないよ。もうしばらく、わたしとアルテミスがガッチリ鍛えてやろう」


 アルテミスはぼくの属性魔法の師匠で、ファンタジー的に言えばエルフだ。


「お手柔らかにお願いします」


 ぼくの心には、先ほどまでよりも少しだけ前向きにトレーニングに向き合う気持ちが生まれてきた。


お読みいただき、ありがとうございます。


勇者として喚ばれた背景が少しわかってきました。

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