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第四話 休暇 前

少しだけアズマの行動範囲が広がります。でも、代償も大きい……。

「たまにはぼくもお休みをいただいて街にでも出てみたいのですが、お許しいただけませんでしょうか?」


 午後のトレーニングが終わったところで、ぼくはいつもどおり立ち会っていたアンネロッテに土下座してお願いした。




 ぼくが勇者という名のアンネロッテの小間使いとなってから、かれこれひと月半ほどだ。その間、初任務ということでガルストンの領地に行った以外、この王宮から一歩も出ていない。その初任務も、転送の魔方陣のおかげで、最前線との往復にかかる二日を含めて、王宮を離れていたのは二日半ほどだ。


 この二日半以外は、管理者によってアンネロッテにこの身を捧げられ次てしまった次の日から、判で押したように同じような生活を送っている。毎日、起きる→朝食→トレーニング→昼食→トレーニング→夕食→トレーニング→就寝というリズムをまったく崩していないのである。そしてぼくは、規則正しい生活がすがすがしい毎日の基本、という言葉がウソであることを確信するに至っている。


 朝食後は武術全般、昼食後は魔力の取り扱い、夕食後は属性魔法と、テーマは違うがすべてエンドレスという共通点がある。食事の直前まで倒れることも許されずにしごきあげられ、吐きそうになりながら食事をする。食べ終わると食休みもなく次である。起きてから寝るまで、食事とトレーニングの繰り返しということだ。その食事も体力、魔力に対する効果重視で、なんとなくプロテインでお腹を膨らませているような感じがする。力はついても、心は貧しくなる一方だ。




「たまに休みを取るのは許可してもいいですが、街などありませんよ?」


「はい?」


「生活に必要な施設は王宮の中にそろっています。そもそも魔族は自給自足が基本ですし、種族も様々で嗜好もバラバラです。その上に人間より数が少ないので、商業が成り立ちません。街を作って群れて住んでも不便なだけです」


 おお、経済学的にきっちりと説明されてしまった。内政チートへの道がひとつ閉ざされた。


「それじゃ、王宮にないものはどうするんですか?」


「各自で調達してくることになりますね。まあ、あなたの場合どこで何が手に入るかもわからないでしょうから、どうしても必要で、あてがあるのなら、人間の街に行ってきたらどうですか?」


 それはちょっと無理だ。息抜きするために何日もかけることになる。


「それはとりあえず棚上げしときます。じゃあ、一日くらい王宮の中をゆっくり見て回ることは? まだ寝室と食堂と訓練区画しか出入りしてないんです。たまにはふつうの食事もしてみたいですし」


「別にかまいませんよ。今日明日は訓練は休みにすることにしましょう。といっても、ひとりで行かせても迷うだけですね。アンドロメダに一緒に行ってもらうといいでしょう」


「え?」


 ぼくはアンネロッテを止めようとしたがすでに遅く、侍女のフランカが小さく頷いて退出していってしまった。フランカというのは、ミステルのほかにもうひとりいる筆頭侍女で、不言実行の塊のような女性だ。人間であるミステルと違って魔族だが、ぼく的にはエルフと呼びたい。しかもダークエルフだ。常に気配を消しながら、その金色に輝く瞳ですべてを見透かすように見つめる。カッコいい。まだ声を聞いたこともないのだけど。




 フランカに呼ばれてやってきたアンドロメダとアンネロッテの部屋を出たぼくは、おそるおそる彼女に話しかけた。


「あの、師匠、面倒かけてすみません」


「ん? 別にかまわん。きみもこの城で暮らす仲間だからな。きみも我ら以外に言葉を交わす相手がいない状況は不安だろう?」


 アンドロメダはぼくの武術関係の師匠だ。並外れた身体能力であらゆる武器を使いこなし、攻防にすきなく戦いで圧倒的な存在感を誇るという彼女は、アンネロッテの一番槍と呼ばれている。悠然ゆうぜんと戦場を歩く彼女の通るあとには、いつもしかばねの山が築かれるそうだ。


 そして、ぼくらのファンタジー知識でいうところのダンピールに近い存在である彼女は、平時においては、王宮をいろどる大輪の花として多くのものの心をつかんでいる。今も、深紅しんくのドレスをさりげなく着こなす彼女は、近づきがたいほどに美しい。黙っていれば、だ。


「心配しなくていい。。こぶしはあらゆる心のカベを打ち砕く。今日という日が終わるころには、この城のものはきみを心から受け入れているだろう」


 アンドロメダ師匠は骨の髄まで脳筋なのだ。どんな相手でもいちどりあえばわかり合えると、心から信じている。この城の人たちに受け入れてもらうために、これからぼくは何回殴り合いをさせられるのだろうか? 土下座までして休暇をもらった意味はどこにある?




 最初に連れていかれたのは厨房ちゅうぼうだった。シェフはロレッタという鬼人きじん族の妙齢の女性だ。鬼人きじんというイメージとは裏腹に、ほっそりした優しい感じで、笑顔の美しい人だ。




「きみがアンネロッテ様が召喚されたという勇者か。一度会ってみたくてね。はやく食事をしに来ないか、と待っていたんだよ。うん、きみならぼくのつくる料理もおいしそうに食べてくれそうだ。うまくやっていけそうで嬉しいよ」


「ど、どうも……」


 楽しそうに笑いながらぼくに手をさしのべる白衣を着たロレッタ料理長の前で、ボコボコにされたぼくは、うめきながらようやくそれだけを口にした。なんで料理長がこんなに強いんだよ。相手の料理の好みは殴り合って初めてわかるとか、意味がまるでわからないよ。


「お疲れさま、はい、どうぞ」


 誰かがぼくの前にしゃがみ込んで、コップを差し出してくれている。見上げると、やはり白衣の女の子だ。子供っぽい感じの小さい子。かぶっている帽子が少し小さいから、料理長の部下だろうか?


 ぼくは差し出されたコップを受け取り、中を確認せずに一気にあおった。そして、気を失った。 




 意識が戻ると、ぼくはあいかわらず厨房ちゅうぼうの床に横たわっていた。


「お、復活したね、アズマくん」


 ロレッタさんがぼくが身じろぎしたのに気づいて声をかけた。ニコニコ笑っている。まったく心配とかそんな雰囲気ではない。


「な、な、なんだったんですかあのなぞ液体!?」


 美味おいしいとか不味まずいとか、そんなことを感じる前に一瞬で意識をりとられたのだ。


「わたしの自信作です! 失った体力を回復する特製ジュースなんです! ついでにちょっとした傷ならふさいじゃいますよ! 皮膚ひふの再生を促進そくしんする成分が隠し味に入ってますから!」


 白衣の小さな女の子が、元気に自分の作品を自慢していた。たしかに身体はラクになっているから、効果はすばらしい。だが、できるならお世話になりたくない。強制的に意識を奪われることがこれほど不安をかき立てるものだとは……。成分という言葉と隠し味という概念も、組み合わせとしてあまり相性がいいとは思えない。


 彼女はピノという名前で、思った通りロレッタさんの下で厨房ちゅうぼうの助手的役割をこなしているとのこと。種族的には魔人と呼ばれているらしい。この魔人という種族は非常に幅が広く、アンネロッテもこれにあたるそうだ。




「これできみは今後、食で悩むことはないぞ! 次は武器庫だな!」


 意気揚々とアンドロメダ師匠が歩いて行く。武器庫か……。屈強なドワーフなんかが出てくるのかな? あの回復ジュース、やっぱりもらっといた方がいいだろうか?


お読みいただき、どうもありがとうございました。


ブックマーク、評価、感想などをいただけると励みになりますので、ぜひよろしくお願いいたします。


キャラがふえましたけど、アンドロメダ姐さんを除くと、NPC扱いですね、たぶん。

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