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第一話 能力検査

問答無用で急展開に巻き込まれる主人公です。というか、たぶん全体がそういうお話です。

「こんなカビ臭いところに長居はしたくありませんので、場所を移しましょう。わたくしの部屋に参ります。ついてきてくださる?」


 ていねいな言葉とはうらはらに、アンネロッテ王女のぼくを見る視線はゴミを見るそれに近い。うわー、人によってはすごいご褒美ほうびだ。


 ぼくは勝手にスタスタ歩き出す彼女に抵抗したかったのだが、なぜか足は勝手に彼女を追って動き出した。腕も自由がきかない。見えないロープで縛られ、引きずられていっている感じである。これはいわゆる魔法的な何かということだろうか?




 けっこうな距離を歩き、周囲が地下拷問室的な雰囲気から宮殿のようなそれに変わってきた。アンネロッテ王女は長い廊下の真ん中付近にある扉の前で立ち止まり、なにやらつぶやいた。すると扉は静かに開き、彼女とぼくが部屋に入るとやはり静かに閉じた。扉が呪文に反応して開閉しているとすれば、すでに逃げ場なしである。


「あなたの名前を教えてくださる?」


 彼女はそう言いながら複雑な刺繍をあしらった高価そうなソファに身体を沈め、長い足を無造作に組んでぼくを見つめた。目をそらさないでいられたのは、管理者がメンタルを強化したとか言ってた、そのおかげだろうか? ふだんのぼくなら一撃で土下座しているレベルの強烈な眼力である。


「ヨシカワ アズマです」


 彼女の正面に座りながらぼくは答えた。座ったというか座らされた感じだ。


「名前が二つあるのですか? 変な風習ですね。どちらで呼べばよろしいかしら? ヨシカワ? アズマ?」


「あー、それじゃアズマでお願いします」


「それではアズマ、とりあえずあなたの力を見せていただきます」


 そう言った彼女は目を閉じてなにかを念じたように見えた。次の瞬間、ぼくと彼女は広いが無愛想な空間にいた。この間、ぼくが自分を主張するスキはいっさいなかったと言っておきたい。




 壁際には様々なタイプの武器がところ狭しと並んでいる。剣あり刀あり槍あり斧ありと、まるで武器屋のような品揃えだ。アンネロッテ王女はざっと見渡すと、一本の剣を手に取り、鞘から抜いて、片手で二、三度振った。そう軽そうには見えないのだが、軽々と扱っている。そしてその剣をぼくに持たせた。自分は少し離れたところにある刺突剣を手にした。


 渡された剣を眺めてみる。彼女は軽々と扱っていたが、当然ながら相当に重い。いったいこれをぼくにどうしろと……。


 ふいに「なにか」を感じたぼくは後ろに飛びのいた。ぼくのいた場所はアンネロッテ王女の刺突剣がきれいに通過している。あわてて彼女のほうを見ると、すでにぼくに向かってさらなる突きを繰り出す寸前だ。


 彼女の剣はぼくの顔に向けてまっすぐに突き出されてきた。その瞬間、ぼくの頭ではなく身体が反応する。もてあましていた剣をぼくの右腕が強引に動かし、ぼくの目に向かって滑ってくる剣先を払いのけた。刺突剣は宙を飛び、カランという音とともに床に転がった。


「な、なにをする……」


「感覚は悪くないようですし、身体は十分に動いていますね。魔法の心得はおありですか?」


 これまでのぼくの人生を振り返ると、そんな評価を受ける要因はかけらもないはずだが、管理者が言うところの「身体の基礎能力を上げといた」おかげなのだろうか? いやいや、いま問題にすべきはそこではない。


「そんなことよりも、なにをする……」


「おありですか?」


「ないです」


 突然、頭の中が何かでかき混ぜられているような、猛烈な不快感を伴う激痛がぼくを襲った。思わず頭を抱えてうずくまる。数瞬ののち、どうにか痛みは去った。だが、不快感は依然として残っている。


「器はまあまあの大きさですが、魔力を出し入れするにはもろすぎます。何とかしておかないといけませんね」


 アンネロッテ王女は独り言のようにそう呟いた。どうやら、先ほどの痛みは、彼女がぼくの頭の中を覗きこんだことによるもののようだ。すると、「何とかする」というのは……?


 次の瞬間、再びぼくの頭に激痛が戻ってきた。こんどは脳の中に強引になにかを埋め込まれているような、妙な圧迫感を伴う痛みだ。それが徐々に全身に回っていく。ぼくの身体はもはや頭を支えていることができず、その場に転がってのたうち回った。彼女はそんなぼくをじっと見下ろしている。……あ、いや、なにか早口でつぶやいている。




 最初の痛みより多少時間がかかったが、どうにかこんどの苦痛も去ってくれた。情けなくも床に転がっていたぼくが目を開けると、アンネロッテ王女が先ほどと同じように見下ろしていた。その目は、ただぼくに「早く起きろ」と語りかけている。心配などという感情はかけらもない。


 ちょっと頭を振ると、霞がかかったような頭の中が少しすっきりした。目の前には……ドレスの下から伸びる、彼女の麗しきふくらはぎがあって、しばし目の保養ができた。そして見上げると、ふたたび彼女と目が合った。こんどの視線には感情がある。怒り、ではない。軽侮、といったらいいだろうか。


 次の瞬間、ぼくは横面を激しく蹴りつけられ、あっさりと意識を手放した。




 気づくと、そこははじめに入ったアンネロッテ王女の私室らしき部屋だった。彼女はソファに脚を組んだ姿勢で座り、お茶を飲んでいた。横には正統的なメイド衣装をまとった侍女らしき女性が控えている。


侍女はぼくが目を覚ましたことに気づくと、こちらにきてぼくのそばにひざまづき、ほおに手を当てた。てのひらが触れているところから、あたたかい活力のようなものが流れ込んでくる。これって、いわゆる治癒魔法っていうヤツかな?


 侍女はぼくの背中を支えて上半身を起こしてくれた。ここに来て初めて触れる人の優しさだ。目がウルッとしてきたが、そんなぼくの耳に彼女は唇を寄せた。


「これ以上アンネロッテ様のお時間を無駄にするようなら、わたしが骸にしてもとの世界に送り返してさしあげますよ?」


 やはりここにぼくが求める優しさなどなかった。ぼくは跳ね起きて、直立不動の姿勢を取り、アンネロッテ王女の言葉を待った。


 どう考えても、ぼくに勇者などつとまるはずがない。それは王女も十分にわかっただろう。お払い箱か? それもいい。この世界をフラフラ生きてから、もとの世界に戻るのも悪くないだろう。身体は丈夫みたいだしね。


 そして、侍女の言葉が気になる。彼女は、ぼくが死ぬともとの世界に戻ることを知っているのだろうか?


「アズマ、あなたの力はだいたいわかりました」


 そらきた。


「以後あなたはわたくしに仕える勇者です。そのおつもりで」


「なんでっっっ!?」


 絶叫が口をついて出たぼくを責められるものはいるだろうか?

お読みいただき、ありがとうございます。


二人目の女性キャラもヤバそうです。ひょっとしたら、そんなのばっかりかもしれません。

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