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巨人  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
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第55章 クーパーウッドと知事


身勝手な運営権の延長条項が付け加えられていなかったら、公共事業委員会法は今会期中に事実上穏やかに成立していたかもしれない。これは、州政府の作業計画の変更があまりに斬新で多少問題が出るかもしれない、という薄っぺらな根拠に基づいていた。これは、ある特定の企業に利益をもたらすことが、あまりにもはっきりし過ぎていた。新聞記者たちは事態の真相をいち早く察知した……スプリングフィールドの州議事堂のホール周囲にハエのように群がる彼らは、もともと注意深くて自分の新聞社に忠実だった。新聞記者ほど強欲な連中はいなかった。(鼻をくんくんさせて泥をほじくり返している対立側の新聞に雇われた)哀れな連中は、政治家の審議会にいたり、対立団体に雇われたり、知事の信任があったり、上院議員や地方代議士の秘密を知っているだけではなく、あちこちで互いの機密を握っていた。ニュースの断片が……噂や夢や空想が……スミス上院議員からジョーンズ上院議員へ、あるいはスミス下院議員からジョーンズ下院議員へとささやかれ、今度は彼から〈グローブ〉のチャーリー・ホワイトだの、〈デモクラット〉のエディー・バーンズへと打ち明けられ、今度は〈プレス〉のロバート・ハズリットや〈トランスクリプト〉のハリー・エモンズへと伝えられる。


一斉に新聞各紙に不穏なニュースが載る。誰も出どころを知らないのに。スミス上院議員もジョーンズ上院議員も誰にも話してはいなかった。チャーリー・ホワイトもエディー・バーンズも確かな言葉は一言も発したことはなかった。しかし、ほら、みなさん……新聞には出ている。調査、意見、反論の嵐が吹き荒れる。誰も知らず、誰の責任でもないのに、記事は載った。ここから闘いが公然と繰り広げられた。


スプリングフィールドの行政府でこのとき議場を仕切っていた知事について考えてみよう。彼は一風変わった、背が高く、色黒の、骨ばった男で、自分の陰気で憂鬱な性格のせいで、波乱に満ちたどこか悲しい経歴を持っていた。スウェーデンで生まれ、子供の時にアメリカに連れてこられて、貧困のあらゆる試練にさらされて自分の道を切り開く闘いを許され、あるいは強いられてきた。精力的で負けず嫌いな性分のせいで、法律の実務とさまざまな公務に長い歳月を費やし、シカゴのスウェーデン人社会で崇拝されるほどの支持を確立した。市税徴収官、市税調査官、地方検事を歴任して、六年だか八年、州の巡回裁判官を務めた。このすべての役職で彼は見たとおりのまま正しく行動し、公平に行動する傾向があった……こういう資質は理想主義者に好まれた。正直者で、貧しい人々のみじめさに絶望を感じて思い悩む同情しやすい彼は、巡回裁判所判事として、また地方検事として、富裕層や権力者には全然人気のないさまざまな判決を、損害賠償訴訟や詐欺事件や鉄道請求訴訟で下していた。市も州も、さまざまな強力な鉄道会社に土地……正当な主張ができない操車場や沿岸地帯など……を占拠させない方向で動いていた。同時に、民衆は彼の行動に関する記事を読み、さまざまな機会に彼が話すのを聞いて、彼を大好きになった。第一に、心が優しく、穏やかな考えで、激しい気性で、優れた演説家であり、活動的な人だった。付け加えると、女に飢えていた……世界中の家庭的な性に飢えた知識人ならこれをわかってくれるだろう。嘘の時代が恥ずかしいが、これは、その最大の欲望、最大の悲しみ、最大の喜びと一致しない荒唐無稽な教義のせいである。この全ての要因が、地域社会の超保守派を彼の反対派にしてしまい、彼は危険視された。同時に、慎重な経済活動と投資とで、かなり大きな財産を築いた。しかし最近、高層ビルのブームにのせられて、かなり粗末な造りの、利益が出ないオフィスビルに、保有資産の大半をつぎ込んでしまった。このミスのせいで、財産を棒に振る恐れがあり、未だに大手の保証会社のドアをノックして援助を求めていた。


この男は、対立する金融関係者と新聞社と一緒になって、クーパーウッドの公共事業委員会構想に備えて、簡単には打ち負かせない手強い三者連合を構築した。新聞はやがて、この構想の本当の狙いを嗅ぎつけ、その恐るべき情報を読者に向かって叫んだ。他の金融機関もそうだが、シュライハート、アーニール、ハンド、メリルの事務所でも、この状況にかなり戸惑っていた。やがて、抜け目のない知的な結論が出された。


「あなたは、奴が何をたくらんでいるかわかりますか、ホズマー?」シュライハートはハンドに尋ねた。「奴は、自分がこのシカゴで身動きがとれなくなったのに気づいている。現在の情勢では、奴は市議会に行って、州法に基づく二十年以上の運営権を申請できない。いずれにしても、あと三、四年はそれができません。奴の運営権はすぐに切れるわけではないが、期間が切れるまでに、どれだけ買収しようと、奴が市にたっぷり見返りをよこそうという気にならない限り、議会が奴の要求に応じなくなるほど、我々が市民感情を盛り上げるつもりでいることも知ってます。そうなれば、〈ユニオン鋼索鉄道〉二億ドル分を六パーセント利回りで売却する奴の計画は頓挫します。マーケットは奴を支持しないでしょう。奴は、市に二十パーセントを納めることも、乗換の自由化も、二億ドル分の株に六パーセントの利息を払うこともできない。そしてみんながそれを知るんです。奴はこれで一億ドル稼ごうとうまいこと企んだわけですが、まあ、そんなことはできませんよ。新聞には奴のこの法案を叩きつぶしてもらわねばなりません。奴が地方議会に顔を出すときは、鉄道の総収入の二、三十パーセントを市に支払わねばならないときです。奴の鉄道はどこからどこへでも乗り換えを自由にしなけばなりません。これで奴はおわりです。社会主義的な思想が育てられるのを見るのはいやだが、仕方がない。そうするしかありません。奴さえ追い出してしまえば、新聞は黙らせることができるし、世間はそんなもの忘れてしまう。少なくとも、そう願いたいところです」


一方で、知事は『賄賂』をささやく声を聞いた……不正な立法がらみの資金を当時はそう言った。決して了見が狭い人間ではなく、クーパーウッドに反対している金融関係者の活動に関与しているわけではなく、彼に対する過熱した糾弾に心も感情も影響されなかったが、それでもじっくり考えた。漠然と、クーパーウッドの夢がわかる気がした。この路面鉄道王によく浴びせられた女ったらしという非難は、くびきにつながれた保守派には衝撃的でも、彼は全然気にならなかった。何世代もの進歩の後ろで、彼自身が神秘のアフロディテとその魔力を感じた。クーパーウッドは進んでいるのだ……大きな障害に直面しても全力でどんどん押し進んでいる……と彼は認識した。同時に、シカゴの現在の路面鉄道サービスが決して悪くないことも知っていた。もし自分がクーパーウッドの主張寄りの立場をとったら、自分はイリノイ州の大切な有権者たちに課せられた信頼に背くことになるだろうか? 自分はむしろ全ての人々の見ている前で、その生き生きとした主張……貪欲、身の程をわきまえない野心、キリスト教の理想や民主主義的統治理論の無私とは対照的な桁違いの利己心……を明らかにしてはいけないのだろうか? 


物質の所有を巡る争いのいつどこででもいいが、理想を考え始めると、人は劇的な、そしてさらには芸術的な高い次元に上昇する。トロイのかがり火を永遠に燈し、アルベラの馬の蹄やワーテルローの大砲を永遠に響かせたのも、これだった。ここには理想がかかっていた……市、州、国の究極の夢とはおそらく対照的なひとりの男の夢……這いつくばり、のたうち回っている民主主義が、ゆっくりと闇雲によろよろ立とうとしている。この争いの対立軸は、知事の見たところ、ひとりの男性の理想と集団の理想だった……衝突場所は奥地の小屋が点在する一帯で、集団というのは百姓や小作人、地元の祭で踊っているバイオリン弾きである。


スワンソン知事は熟慮の末にこの法案に拒否権を発動することに決めた。クーパーウッドは、相変わらず魅力的で、相変わらず自分の論理と個人という考え方に忠実であり、勝つためにはやるだけのことを全てやらねばならないと決意した。それが最後に彼を彼が築く華麗な玉座へと導くのだ。クーパーウッドはまず不正な手段でこの法案を議会で成立させようとしたが、あらゆる段階で新聞に叩かれた。次はいろいろな人……州議会議員、CW&Iの代表、関係ない企業の人間を派遣して知事に会おうとしたが、スワンソンは頑なだった。どうすれば良心に恥じずに法案を承認できるか知事にはわからなかった。ついにある日、クーパーウッドがシカゴの事務所に座っていると、現在〈北シカゴ路面鉄道〉の首席弁護士であるネイハム・ディッケンシーツ判事がやけに自信あり気に悠然と現れた。この運命の部屋は、後に彼の財産を食いつぶすことになり、今は気苦労と落胆が絶えない時期であるのが存在理由となっている、曰く付きのビルの中にあった。判事はまるで山のような体をした男だった……髭のない顔、感じのいい服装、きついのに取り入ろうとしている目、思慮深く、理路整然としていた。スワンソンは判事の評判だけはたっぷり聞いて知っていたが、個人的には会えば話をする程度でしかなかった。


「ご機嫌いかがですか、知事? またお目にかかれてうれしいです。シカゴにお戻りだとうががいましてね。サザックの公共事業法案が提出されたのを朝刊で見ました。もし異論がなければですが、その件で少しお話がしたくてうかがった次第です。知事がどちらかの結論に達する前に少しお話しようと、三週間ばかり、スプリングフィールドに来る機会をうかがっていたんです。拒否権を行使することに決めたのかどうかをうかがっても構いませんか?」


元裁判官は香水をかすかに漂わせ、清潔で、感じがよく、大型の黒い手さげ鞄を持ち込み、脇の床に置いていた。


「いいですとも、判事」スワンソンは答えた。「私は事実上、拒否権を行使することに決めましたよ。法案を支持する現実的な理由が見あたりませんしね。現時点で私が見る限り、あれはもっともらしくみせた特別扱いです。この時期に特に求められていないし、必要ありません」


知事はかすかにスウェーデン訛がある、知的で、特徴のある話し方だった。


この問題の長所と短所すべてに関する長くて穏やかな淡々とした議論が続いた。知事はうんざりして身が入らなかったが、すでに十分精通している方向に沿ってさらに論じたがるのを寛容な態度で聞く準備はできていた。もちろん知事はディッケンシーツが〈北シカゴ路面鉄道〉の顧問弁護士であることも知っていた。


「あなたの話を聞けてとてもよかったですよ、判事」最後に知事は言った。「私がこの問題を真剣に考えたことがないと思っていただきたくありませんね……考えた上でのことです。スプリングフィールドで行われたことのほとんどを私は知ってます。クーパーウッドさんは有能な方です。私としては、現時点で活動している他の二十の機関に反対している以上の反対を彼にするわけじゃありません。彼が何に困っているかは知ってます。私が彼の敵に同調していると責めることはできませんよ。向こうは絶対に私に同調しませんからね。こちらだって新聞の話さえ聞いてはいないんです。これは民主主義に対する信念の問題です……私自身と他の大勢の方々との理想の違いなんです。私はまだこの法案に拒否権を発動していませんが、私に署名させない事態が発生しないとも言っていません。すでに聞いた話よりもはるかにいい話を聞かない限りは、今のところ私の意向は拒否権の行使です」


「知事」ディッケンシーツは立ち上がりながら言った。「お時間をいただきありがとうございました。公平な対応についての考え方があなたの個人的信念や私感とも違うのに、あなたに影響を与えたいと思うのは、世界で私が最後でしょう。同時に私は、この地方の路面鉄道の運営権管理業務が、感情や情動、大衆の激情、妬み、選挙目当ての演説、その他クーパーウッドさんの仕事を挫折させ行き詰まらせるために働くあらゆる影響力の領域から引き離されることが、いかに不可欠であるか、いかに公平で正しい扱いであるか、をあなたに説明しようとしました。すべては妬みによるものだと申し上げます。彼の敵は、彼が排除されるのを見るためなら、公正や平等のあらゆる原則を犠牲にする気でいます。要するにそういうことなのです」


「すべてはそうなのかもしれませんね」スワンソンは答えた。「それでもなお、あなたが見ていないのか、考慮したくないのか、ここに関係するもうひとつの原則があります……当時の契約と、最初の運営権で合意されたやり方を、検討、再評価する州憲法に基づく国民の権利です。あなたの提案は贅沢禁止令です。市民には州議会の影響と支配を抜きにしてこの問題を存分に自由に考える権利があるというのに、これでは市民と鉄道会社間の合意を無効、空洞化してしまいます。影響力やその他の手段に訴えて州議会を説得することや、この時点での介入、干渉は不当です。こういう法案にかかわる判断は、市民のいいように賛否が次の選挙で市民に問われるべきなんです。この問題はそうやって決着をつけるべきです。議会に乗り込み、影響力を振りかざしたり、票を買ったりせずに、すべての問題を満足いく形にした上で私が署名することに期待することです」


スワンソンには興奮も敵意もなかった。冷静で、意志が固い、善意の人だった。


ディッケンシーツは広くて高いこめかみを手で覆った。彼は何かを考えているようだった……まだ言っていないことか、一連の行動のようだった。


「では、知事」彼は繰り返した。「私はとにかくあなたに感謝申し上げたい。過分なご配慮をいただきましたからね。ところで、こちらにはずいぶん大きな金庫がございますね」ディッケンシーツは持参してきた鞄を持ち上げていた。「一日か二日これをあなたにお預けしてもいいでしょうか? 地方にまで持ち歩きたくない書類が中に若干入ってましてね。金庫に保管していただいて、使いをよこしたときに渡してもらっても構わないでしょうか?」


「構いませんよ」知事は答えた。


知事は鞄を受け取り、下の方の収納スペースに置いて、扉を閉めてロックした。二人の男はにこやかに握手を交わして別れた。知事は考え事に戻り、判事は車を捕えようと先を急いだ。


翌日の午前十一時頃、スワンソンはまだ事務所で働いていた。全く費用に見合っていない、今後も垂れ流す一方のビルの利息、修理費、その他諸々の費用の支払いにあてる十万ドルを捻出できるような何かの方策はないかととても悩んでいた。よりによってこんな時に、事務所のドアが開いて、とても若い事務員がF・A・クーパーウッドの名刺を持ってきた。知事はこれまで彼と面識はなかった。クーパーウッドは元気よく、颯爽と、力強く入室した。新札のドル紙幣のようにパリッとしていた……きれいで、切れがあり、顔立ちがしっかりしていた。


「スワンソン知事でいらっしゃいますね?」


「はい、そうです」


二人とも守勢に立って互いに相手を観察していた。


「クーパーウッドと申します。少しお話したいことがあってまいりました。決してお時間はとらせません。私はすでに繰り返された議論を繰り返したくはありません。あなたがすべてをご存知なので満足しています」


「ええ、昨日、ディッケンシーツ判事と話しました」


「受け賜っております、知事。あなたの立場をすべて知った上で、もうひとつ言わせてください。私はあなたが少々お金に困っていることを知っています……現在、資産のことごとくが、事実上このビルで塩漬けですからね。十万ドルの融資を申し込んだのに、現状で限度額まで抵当に入っているこのビル以外に差し出すほどの担保がないという理由で拒否された場所を二か所知っています。ご存知でしょうが、あなたが闘っている相手は、私とも闘っています。私が悪党なのは私が利己的で野心家……実利的な人間だからですが、あなたは悪党ではなく危険人物ですね。何しろ理想主義者ですから。あなたがこの法案に拒否権を行使しようがしまいが、私と闘っている相手が思惑どおりにあなたとの闘いに勝てば、あなたは二度とイリノイ州知事に選出されないでしょう」


スワンソンの黒い目が明るく燃え上がり、同意の印にうなずいた。


「知事、できますれば、私はあなたに賄賂をおくりに今朝ここに来たのです。私はあなたの理想には賛同しません。どう見ても、そんなものがうまくいくとは信じてませんのでね。あなたが信じていることのほどんどを信じていないのは確かです。人生はあなたや私が考えるものとは根本的に違うのかもしれません。それでも他の連中に比べれば、私はあなたに共感します。私があなたにその十万ドルをお貸ししましょう。お望みならば、さらに二十万でも三十万でも四十万でもお貸しします。一ドルも返済には及びません……まあ、お望みならば、返していただいても構いませんが。お好きにしていただいて結構です。ディッケンシーツ判事が昨日ここに持ってきて、あなたの金庫の中にあるあの黒い鞄の中に、現金が三十万ドル入ってます。判事にはそこまで言う勇気がありませんでした。法案に署名して、私を叩こうとしてる連中を、私に叩かせてください。今後は州でも国でもあなたが選ぶどんな政争でもやれるよう、私が注ぎ込める限りの資金と影響力を使ってあなたを支援します」


クーパーウッドの目が大きくて人懐っこいコリーの目のように輝いた。その中には豊かで深い共感に訴えようとする暗示があり、それ以上に、言葉に出せないものを淡々と認識する力があった。スワンソンは立ち上がった。「まさか本気でこの私に公然と贈賄を渡そうとしているんじゃありませんよね?」スワンソンは尋ねた。厳粛な言葉で悪事を糾弾したいいつもの衝動に駆られたが、スワンソンはしばらく相手の真意を測らずにはいられなかった。彼らは違うところで働き、違う道を進んでいたが、最後はどこへたどり着くのだろう?



「クーパーウッドさん」知事はゴヤが描く表情で続けた。ある種の合意が成立して目が輝いた。「これに憤慨すべきだと思うのですが、私にはできません。あなたのお考えはわかりました。残念だが、あなたのことも自分のことも助けられない。私には政治信念と理想があるので、この法案に拒否権を行使せざるを得ません。そうしなかったら、私は政治家として終わるんです。二度と知事に選ばれないかもしれない。しかしそれも問題ではない。あなたのお金を使えばいいのかもしれないが、そのつもりはありません。別れを告げなくてはなりません」


スワンソンはゆっくりと金庫へ向かい、金庫を開けて鞄を取り出して戻ってきた。


「受け取っていただかないとなりません」とつけ加えた。


二人は不思議と、名残惜しく一瞬お互いを見た……片方は金と政治と道徳の悩みを心にかかえ、もう片方はたとえ負けても最悪な形にはすまいという譲れぬ覚悟があった。


「知事」クーパーウッドはこの上なく穏やかで、満足な、落ち着いた声で、最後に言った。「あなたは生きているうちに別の議会がこの法案を可決して、別の知事が署名するのをご覧になりますよ。確かに、今会期中には成立しないでしょう。でも必ず成立します。私は終わってません。だって正しくて公平なのは私ですから。法案を拒否してからでも、私に会いに来てください。ご入用でしたら、十万ドルはお貸しします」


クーパーウッドは退出した。スワンソンは法案に拒否権を発動した。その後、スワンソンはクーパーウッドから十万ドル借りて、破滅を免れたと記録にのっている。




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