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巨人  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
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第54章 五十年間の運営権を求めて


自分の告白を相手が好意的に受けとめたことで一時的に満足したにせよ、ベレニスの煮えきらない態度のせいで、クーパーウッドは以前の状態のままだった。奇妙な運命の一撃によって、若い恋敵のブラックスマーは取り除かれた。ベレニスは、愛情と自分への奉仕という彼本来の色でクーパーウッドに向き合わされた。しかしベレニスは明らかに、クーパーウッドが独自に評価したその色を受け入れなかった。クーパーウッドは、自分が驚くべき人物の鎖につながれた事実をこれまで以上に意識した。その人物は独特の奇妙な視点から人生を見ていて、彼の意のままになる相手ではなかった。彼を希望のない夢にのめり込ませたのは他でもないこの事実だった……ベレニスの気品と美貌はそれを際立たせたに過ぎなかった。


クーパーウッドは何度も自分に言い聞かせた。「まあ、いざとなったら、彼女がいなくても生きてはいける」しかしこの段階では、ただそう思っただけで急所をえぐられたも同然だった。もしも求める女性を……つまりは愛情を、最も強い者が最も弱い者よりも求めてやまない、精神のあの定義づけできない、名前をつけようがない、甘やかしを……手に入れられないとしたら、結局、人生、富、名声とは何なのだろう? ついに彼は、聖杯の後光を見たときのように、名声、権力、活力が最後にたどり着くのは美であり、その美とは、感性、感情、生まれながらの豊かな教養、情熱、ベレニス・フレミングのような女性の夢が混ぜ合わさったものだとはっきりわかった。そうなのだ。そういうことなのだ。そして、その先には、滅びゆく老化、闇、沈黙以外は何もなかった。


その間に、彼の代理人や助言者たちの事前の活動や駆け引きのおかげで、日曜新聞の各紙は互いに競い合って、ニューヨークの彼の新居のすばらしさ……その建設費、地価、クーパーウッド家がこれから隣人となる裕福な市民たち……を記事にした。その莫大な富のおかげで間違いなく歓迎されるであろう話題の絶えない超大物と指摘する記事と一緒に、アイリーンとクーパーウッドの二段組の写真が掲載された。実際、こんなものはただの新聞のゴシップと憶測に過ぎなかった。総合面は彼の裕福ぶりを記事にして利用したが、流行の最先端を扱う特別な社交欄は彼を完全に無視した。彼の過去に関する情報をばらまいているシカゴの上流社会関係者の陰謀は、すでに、クラブ、組織、教会、つまりは精神的にではなくても俗世間的にもっと良質で高尚な領域との交流につながるある種のパスポートを構成するメンバーの態度の中にも認められた。彼の密使はなかなか活動的だったが、自分たちの成果は一朝一夕に得られそうにないことにすぐに気がついた。地元では大勢が、現れるのを懸念し、クーパーウッド夫妻が到底自慢できない付き合い方を準備して待ち構えていた。高級クラブの一、二件には門前払いをくらい、セント・トーマス教会の入会請求がやんわりとしばらく棚晒しにされるのを目撃し、商取引の過程で出会った数名の億万長者に招待を断られてからは、自分の豪邸は美術館としての最終目的を除くと、ほとんど価値がないと感じ始めた。


それでもクーパーウッドの金融の才能は、主に彼本人とヘッケルハイマー・ゴットリーブ商会のとの間で構築できた攻守同盟が功を奏し、多くの新しい重大局面で常に報われ続けていた。最初の激戦の選挙後、彼が敗北から勝利をもぎ取った不屈の態度を見て、この紳士たちは心変わりし、クーパーウッドが行うかもしれない新事業に今後は喜んで資金を援助すると表明した。他の多くの金融関係者から〈アメリカン・マッチ〉の破綻にまつわる彼の勝利を聞いていた。


「きっと賢いんだな、あのクーパーウッドは」ゴットリーブは両手をこすりながら微笑んで、パートナーの数名と話した。「会ってみたいものだ」


そして、クーパーウッドは巨大な銀行の事務所に通された。そこでゴットリーブが優しく手を差し伸べた。


「シカゴのことはずいぶん耳にしています」半分ドイツ語、半分ヘブライ語なまりで彼は説明した。「あなたのことはもっと聞いています。ここの路面鉄道も高架鉄道も全て独り占めにするつもりですか?」


クーパーウッドはこの上なく無邪気に微笑んでみせた。


「では? あなたの分を少し残してほしいとでも?」


「そういうことではないが、そのうちのいくつかをあなたと共有してもいいかもしれません」


「もちろん、いつでも参加できますよ、ゴットリーブさん。いつだって、あなたをお待ちしてドアはいっぱいに開けてありますから」


「もっと調べてみないとなりません。私にはとても有望に見えますがね。あなたにお会いできてよかった」


クーパーウッドの投資が成功する大きな外的要因はシカゴが絶えず発展を続けているという事実だった……クーパーウッドは最初からこれを予見していた。彼がたどり着いたときは、掘っ立て小屋と、でこぼこ道と、乱雑なビジネス街がまばらにあっただけの、水浸しの汚い平原だったものが、今や人口の百万人の大台を超え、クック郡の大部分を覆って誇らしげに力強く広がる、まさに驚異の大都市だった。かつては、あちこちにぽつんと一つ立派な商業ビルかホテル、さもなければ何かの官庁があっただけの、粗末な間に合わせの金融街だったものが、今や十五階建て、さらには十八階建てのオフィスビルが聖書の聖典のように建ち並ぶ通りがあり、その上層階からは、監視塔から眺めるように、下界の素朴な家庭が広がり続けている広大な地域を見渡せる。その先は、高級住宅街、公園、行楽地、広大な鉄道操車場、工場地区だった。この世界の商業の中心地で、フランク・アルガーノン・クーパーウッドは確かに重要人物になっていた。巨人のように世界を股にかけるほど、あるいはベンガルボダイジュのようにあらゆる枝から根を落として自分が森になるほど、人間が成長するというのは何と素晴らしいことだろう……森では複雑な商業が営まれ、たくさんの物質的側面がその証である。彼の路面鉄道は網のようだった……その寄生する金の糸が、見ての通り、互いに結びついていて、都市の主要な三つの『サイド』のうち二つを飲み干していた。


クーパーウッドが最初に足場を固めた一八八六年には、会社の資本金は六百万から七百万の間だった。(不動産を担保にお金を生み出すあらゆる方策が尽きていた。)今日では彼の経営下で、資本金が六千万から七千万の間になっていた。発行・販売された株式の大部分は二十パーセントが八十パーセントを支配するという金融取引の対象だった。クーパーウッドがその二十パーセントを保有して、それを担保にして資金を借りていた。ウエストサイドの会社の場合、三千万以上の有価証券が発行されていた。鉄道のものすごい輸送力と、苦労して稼いだ五セントを支払う貧しい労働者の朝夕の乗車量増加のおかげで、この株には、建設に要した金額の約三倍の資産価値を会社に保証する市場価値があった。ノース・シカゴの会社は、一八八六年当時、百万そこそこの資産価値しかなかったが、今や七百万未満では同じものは作れず、資本金は千五百万近くあった。この会社は実際に敷設し直すのに必要な額よりも、一マイルあたりが十万ドル以上も高く評価された。自分の存在と必要が生むものを理解もコントロールもできず、貧しく底辺に這いつくばり、こき使われる者は哀れである。


百ドルの出資に対し十から十二パーセントの配当が出るこの大量の持ち株は、クーパーウッドが実際のオーナーではないとしても支配していた。会社の帳簿には出てこない数百万もの融資を現金に換えてしまい、それで、家、土地、家財道具、絵画、純金価値の国債を購入した。こうしておけば金庫に入れて施錠した絶対に安全な財産があるのも同然だった。過労の法務部が多大な苦労を重ねた末に、クーパーウッドはイリノイ州総合鋼索鉄道の社名の下に全ての郊外の鉄道を統合した。各路線が個別に運営権をもち、別々の資本でできていたが、契約と協定というすばらしい手品で、自分の他のすべての会社とうまくひとつにまとめて運営した。今はシカゴの北と西の会社を〈ユニオン鋼索鉄道〉という第三の会社に統合するつもりだった。既存の北と西の二社の十と十二パーセントの株式を引き取って、代わりに新しい六パーセントの〈ユニオン鋼索鉄道〉の百ドル株を一株に対し二株与えて、今の株主を満足させることができた。株主たちはこれによって明らかに多少は裕福になり、それでいてクーパーウッドは八千万ドルに近い結構な利ざやを作って自分のものにした。二十年、五十年、あるいは百年の運営権更新で、この何だか嘘っぽい価値に権利を与える責任をシカゴ市に負わせたら、クーパーウッドには一億近いものが残るのである。


しかし運営権を延長するというのは、とても難しくて複雑な仕事だった。最近油断できないほど増えた自分に対する地元の反発を、制圧するか出し抜く必要があった。これは、彼の高架鉄道に関係するさまざまな細かい問題が原因だった。すでに建設済みの二つの路線に、今度は三つ目の鉄道ユニオン・ループを追加し、クーパーウッドはこれを、自分の鉄道だけでなく、他の外部の高架鉄道と接続する準備をした。その主なものがシュライハートのサウスサイド「L」だった。これでは敵にこの新しい路線に列車を走らせる特権を与えることになる。しかし、新しいループが走る地域は本格的な混雑地帯であり、ここは誰もが昼夜を問わず一度か二度は来たがる場所であるため、不本意でも、申し出られた機会を利用せざるを得なくなりそうだった。こうすることで、クーパーウッドは最初から自分の財産を利息がつくものにするつもりだった。


この計画はクーパーウッドの敵の胸に、かつてないほどの敵意を抱かせた。これはアーニール、ハンド、シュライハートたちに、不愉快極まりないとしか見なされなかった。ハグエニン、ヒソップ、オーモンド・リケッツ、トルーマン・レスリー・マクドナルドらに指揮された新聞は、最後の手段として庶民の利益を叫び始めた。(マクドナルドの父親はもうすでに亡くなっていて〈インクワイヤー紙〉の編集長として考えはもっぱらクーパーウッドをシカゴから駆逐する方向にしか向けられなかった。)(クーパーウッドの鉄道の乗客)全員が座れるようにしろ、ラッシュアワーでつり革を使わなくてすむようにしろ、労働者の運賃は朝夕三セントにしろ、クーパーウッドの鉄道全線で北から西、西から北への乗り換えを自由しろ、彼の路線の総収入の二十パーセントを市に納めろ。大衆は、自分たちの個人の権利と特権を認識すべきである。こういう方針は、現時点では明らかにクーパーウッドの利益に反していて、そのため彼の反対派の大多数に強く支持されているが、それでもホスマー・ハンドのような超保守派にとっては悩ましい要素だった。


「こうなってくるとわからんよ、ノーマン」ある時、ハンドはシュライハートに言った。「こればかりはわからん。大衆を煽ることは簡単でも、忘れさせるのは大変だぞ。これじゃ、おちおち寝てもいられない社会主義の国だし、シカゴはまさにその温床で中心なんだぞ。しかし、それが彼の足をすくうのに一役買うのなら、今はそれでもいいと思う。おそらく新聞が後ですべてを上手に取り繕ってくれるだろう。だが、私にはわからん」


ハンドは社会主義を君主制に支配されたヨーロッパから入ってくる恐ろしいものだと考える人だった。どうして市民は、強くて頭が良くて信心深い地域社会の人間が、市民のために物事を手配することに満足できないのだろう? それが民主主義ではないのだろうか? 確かにそうだった……彼自身がその強い人間のひとりだった。ハンドはこの急進的な大騒ぎすべてに疑念を抱かずにはいられなかった。それでも、クーパーウッドのダメージになるのなら何でもいい……何でもよかった。


クーパーウッドは手遅れにならないうちに、新聞の扇動で、市民感情が今や自分への徹底抗戦を構える危険水域に達していることに気がついた。彼の運営権……その大半は……一九◯三年一月一日前に失効することはないだろうが、このままでいくと、次の選挙は合法的にやっても違法の手段に訴えても、再び勝てるかすぐに怪しくなりそうだった。飢えた市会議員は十分な金さえ払えば頼んだことを何でもするくらい、打算的で強欲かもしれないが、最も面の皮が厚くて、最も貪欲で堕落した政治家でも、世間の鋭い視線と、かき立てられるかもしれない世論の激しい怒りには到底耐えられない。新聞のたゆまぬ努力のおかげで、次第に世論は激しい怒りへと駆り立てられていた。今、議会に出て行って、七年間失効しない運営権を二十年延長するように求めるのには無理があった。これはできなかった。買収された議員でさえ、この時期にそんなものを引き受けたがらないだろう。政治的にも無理なことがいくつかあった。


さらに悪いのは、運営権の効力が二十年では、これからやろうとしていることができなかった。彼は今、北と西の地上路線の統合を目論んでいて、それをもとに現在の十パーセントと十二パーセント利回りの七千万ドルの株式の代わりに、少なくとも二億ドル分の六パーセントの百ドル株式を発行したいと思っていた。その統合を実現するためには、もしできるのであれば、州議会に現在認められている短い年数よりもはるかに長い年数を確保する必要があった。


「世間は短期の運営権じゃあまり興味を示さないでしょう」クーパーウッドがこの問題を徹底的に話し合ったときに、ゴットリーブは言った。クーパーウッドは発行分すべてをヘッケルハイマー商会に一括して引き受けてもらいたかった。「そのくらいじゃ心もとないですからね。もしも五十年とか百年の運営権が得られたら、あなたの株は飛ぶように売れますよ。ドイツだけで五千万ドルさばけるところを知っています」


さもうれしそうにもちかけてきた。


クーパーウッドはゴットリーブには及ばないにしても、そのくらいはわかっていた。フィラデルフィア、ボストン、ニューヨーク、ピッツバーグなどの都市が明らかに地元の会社に、短くても九十九年、ほとんどが無期限の運営権を進んで与えているときに、自分の大がかりな事業がたかだか二十年の延長しか認められないと考えると全然納得がいかなかった。ニューヨークやヨーロッパの巨大資本の会社が好む運営権とはこういうもので、ゴットリーブや地元のアディソンでさえ、そういうものを求めていた。


「運営権を五十年延長してもらうことは確かに重要だ」アディソンはよくそう言った。これは深刻に受け止めようが不快に感じようが真実だった。


絶えず新しい法的対応を模索しているクーパーウッドの法務部のさまざまな専門家たちが、問題の要点を掌握するのに時間はかからなかった。すぐに知恵袋のジョエル・エイブリーが提案をもって現れた。


「ニューヨークの州議会が各地の交通問題で何をしているか、お気づきではありませんか?」クーパーウッドが頼りにしているこの名士は、ある朝、取り次がれてゆっくり入って来て、堂々と腰を下ろした。指の間には半分燃えた葉巻があり、腹黒く知的で積極的な顔と目の上で小さな丸いフェルト帽が妙におしゃれに見えた。


「さあ、気づかなかったな」クーパーウッドは実際には気づいていて問題点を検討済みだったが、それを言うつもりはなかった。「何か見たとしても、大して注意を払っていなかったかな。どういうことでしょう?」


「つまり、四、五人からなる組織に権限をもたせて、ニューヨークに一つ、パッファローに一つ置いて、関係する各地の地域社会の同意を得て、新しい運営権を付与したり、今までの分を延長するという計画です。そこが州や市に納める補償率や運賃の相場を定めることになります。譲渡や株式の発行、あらゆることを規制できるんです。ここでの運営権の更新手続きがいつになっても見通しが立たないとわかったら、州議会に行って、そういう公共事業の委員会をこの州に導入するにあたって、何ができるかを確かめてみてもいいかもしれないと考えていました。これを歓迎する企業はうちだけではありません。もちろん、うち以外からそれを求める幅広いというか特別な要求があがればそれに越したことはない。うちが言い出しっぺになるべきではありませんからね」


エイブリーはじっとクーパーウッドを見つめた。クーパーウッドは考えながら見つめ返した。


「よく検討してみよう。そこに活路があるかもしれない」


これ以降、こういう委員会を設立する考えがクーパーウッドの頭から離れることはなかった。そこに解決の糸口があった……運営権を五十年でも百年でも延長できるかもしれない。


クーパーウッドは後に発見することになるが、この計画は一応イリノイ州憲法で明確に禁じられたものだった。憲法は、いかなる法人、団体、個人に対しても、特別な、あるいは排他的な特権、免責、運営権を与えてはならないと定めていた。しかし「友人同士の間柄で憲法のような小さな問題が何なんだ?」と問う声はすでにあった。法律には流行もあれば、古い法律が押しやられたり忘れ去られたままになって埃をかぶって棚ざらしのものもある。憲法制定者が持っていた多くの最初の理想は、判決や、連邦政府への訴え、州政府への訴え、自治体との契約などでとっくの昔に都合よく曖昧にされたり無効化されていた……どれも微妙な薄っぺらい作文だったが、それでも本来の意図を無効にはする十分だった。それにクーパーウッドは州の農村部の有権者の知性や自衛的な力を軽視していた。彼は自分の弁護士や他から、州議会や州の郡や町の生活の滑稽な話を数えきれないほど聞いていた……場所は、法廷、州選挙が勝敗を決するトウモロコシの皮むき場、地方のホテル、農道、畑さまざまだった。「ある日、私がペタンキーで列車に乗っていたときのことですが」ヴァン・シックル老将軍か、ディッケンシーツ判事か、エイブリー元判事が話を始め……それから地方のゴシップ、退屈さ、政治や社会の見当違いな考えについて驚くような話が続いた。この当時、州の総人口の半分以上が市内にいて、彼はこれだけの人数を管理していた。十二の小都市と農業人口に分かれる残りの百万は軽視していた。とにかく、こんなひと握りの田舎者が何になる?……鈍感で、浅はかで、納屋で踊っている野暮ったい連中が。


偉大なイリノイ州は、イングランドと同じくらい広くて、エジプトのように肥沃な地域で、大きな湖と大きな川に隣接し、自由の身分に生まれたアメリカ人が二百万人以上いた……組織的な工作や支配に適した相手には見えなかった。これほど商売が盛んな社会は、この時代、宇宙を縦横無尽に駆け巡ってもどこにも見つからなかったかもしれない。クーパーウッド自身は、個人として見た田舎の大衆を軽蔑していたが、選挙の大票田としてはいつも重く受けとめていた。マルケットとジョリエット、ラ・サールとヘネピンが太平洋への道を夢見てここにやって来た。奴隷制反対と賛成のリンカーンとダグラスがここで争った。末日聖徒という奇妙なアメリカの教義を立ち上げた『ジョー』スミスが登場したのもここだった。何という州だろうとクーパーウッドは時々考えた。その頭脳は何ということを思いつくのだろう、それにしても、何てすばらしいのだろう! 彼は、セントルイス、メンフィス、デンバーへ行く途中でよくここを横断して、まさにその素朴さ……小さくて新しい木造の町、アメリカの伝統、偏見、力、幻覚……を肌で感じた。白い尖塔の教会、芝生に面した木陰の村通り、穀物がぎっしり並んで育ち、冬には薄っすら雪がつもる、平らで開けた大地の延々と続く広がり……その全てが両親のことを少し思い出させた。二人とも多くの側面がこういう世界にぴったりだった。それでもなお彼は、自分の将来を調整し、二億ドル相当の〈ユニオン鋼索鉄道〉株で儲けを出し、アメリカと世界の金融の少数独裁体制に確固たる地位を築くためでも、この手段を推し進めるのをためらった。


州議会はこの当時、裏工作が得意で詭弁に長けた組織の命をおびた個人たちの小さなグループに支配されていた。彼らはみな自分たちが代表する州の町、郡、市からやって来て、自分たちが代表を務める社会とも、スプリングフィールドの立法府内外の格上や同格の者とも、どんな分野のどこででも人が同盟者と結ぶような同じ関係を持った。彼らを詭弁家呼ばわりして、放逐できるだろうか? 彼らは詭弁家かもしれないが、先へ……上へと言う方がいいだろうか?……掘り進む他のすばしっこいネズミや動物と変わりなかった。こういう個人たちを動かした根底の支配原理は、最も古くて最初に身についた自衛本能だった。よくある出来事を想像してほしい。たとえば……ジョン・H・サザック院議員の例だ。会話の相手はギャラティン郡のジョージ・メーソン・ウェード上院議員、会期末に向かう上院の会議室の一室の立法部のドアの向こうでのこと。サザック上院議員は目配せをして、身なりの立派な同僚を引き止めて引き寄せた。ウェード上院議員は、興味津々で、人目を警戒し、期待していた。(温和で、堅実で、経験豊富、少し腹が出っ張っているが体格のいいウェード上院議員は、ハンサムでもあった。)


「ねえ、ジョージ、これがうまくいったら、最終的にはクインシーのウォーターフロントの改善だって何とかなるんだよ。ほら、これさ。エド・トゥールズデイルが、昨日、町に来ましてね」(「内緒だよ」と言わんばかりのわかったような目つきが伴った。)「ほら、五百あるだ、数えてくれよ」


ベストのポケットから緑と黄色の紙幣をすばやく取り出すと、ウェード上院議員は親指で軽くめくって数えた。「これはすごい」と言わんばかりの理解、承認、感謝、称賛がみるみるうちにひろがった。「ありがとう、ジョン。すっかり忘れていたのにな。すばらしい連中だな? またエドに会ったらよろしく伝えてくれ。ベルビルの論戦が決まったら知らせてください」


ウェードは演説が上手で、法案の成立が危なくなると、賛否を問いただす感じに民衆を扇動する役目をよく頼まれた。今うれしそうに触れたのは、やがて来るそういう機会についてだった。人生、政治、必然、渇望、燃えあがる人間の興味と欲求は事欠かないのだ! 


サザックは、目立たない、感じのいい、静かな男で、地位の高い商人たちからはいつも田舎の詭弁家と見くびられていた。それでも自分の仕事には向いていて、有能で勤勉な受益者であり代理人だった。身なりはよく、まだ四十五歳の中年で、冷静で勇敢で優しかった。目は物々しいが冷たくも険しくもなく、足取りも態度も軽やかで、弾むようで、活気があった。CW&IRR株の保有者であり、地元の郡銀行の取締役で、〈エフィンガム・ヘラルド〉の出資だけのパートナーで、地域の名士で、地元の若手にとても尊敬されていた。しかし、これほどの策士でずるいタイプは、地方議会のどこにも見つからなかった。


サザックを捜し出したのはヴァン・シックル老将軍で、若い議員時代から彼を記憶にとどめていた。交渉を担当したのはエイブリーだった。最初スプリングフィールドで州全体に及ぶ計画を立てていて、サザック上院議員はCWI代表をつとめるはずだった。ここは州を横断する主要な幹線の一本で、シカゴの南部、西部、東部を結んでいた。郊外の走行距離が長くてシカゴや他の地域での運営権を延長したがっていたこの鉄道は、州政界との関係が深かった。クーパーウッドとこの会社との関係はまだ知られていなかったが、奇妙な偶然の一致があって、ニューヨークのヘッケルハイマー・ゴットリーブ商会の大口融資先だった。エイブリーは上院議会の共和党院内幹事のサザックのところへ行って、ディッケンシーツ判事とCWIの法律顧問ギルソン・ビッケルが一緒になって、ニューヨーク式の公共事業委員会をイリノイ州の行政機構に導入する計画のために、さっそく州議会上院と下院の十分な支持を確保にかかるべきだと申し入れた。注目すべきは、この法案には、非常に興味深い重要な小さな但し書きが補足されることになっていた。これによってすべての運営権を保有する企業は、法案の成立日から五十年間、すべての権利、特権、免責が保証されるというものだった……もちろん運営権を含んでいた。これは、公共事業委員会の導入に伴う急激な変化が、まだ何年も効力がある運営権を持つ組織の安定と健全経営を揺るがしかねない、という理由で正当化された。


サザック上院議員はこの考えが間違っているとは思わなかった。しかしこれがどういうことなのか、本当は誰を守るために設計されたのか、当然気づいていた。


「いいだろう」彼は簡潔に言った。「事情はわかってる。で、こっちの取り分はどうなってんだ?」


「成功すればあなたには五万ドル、しなければ一万……ちゃんと努力した場合ですがね。我々勝ったら、あなたに味方したみなさんそれぞれに二千ドルです。それで問題なく納得いただけますか?」


「問題ない」サザック上院議員は答えた。




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