第53章 愛の告白
今、ベレニスは生まれて初めて、自分に何ができるのかを真剣に考えた。結婚について考えたが、ブラックスマーに連絡をしたり、もっと納得できない相手をいやいや追いかけるよりは、母親の金がなくなって、何かの仕事をせざるを得なくなった……多分、ダンスを教えるかダンスの仕事を始めざるを得なくなった……と一言挨拶して友人たちに知らせた方がましかもしれないと判断した。ある日、このことを冷静に母親に提案した。事実上ずっと食客だったカーター夫人は、本格的に何かをやってお金を作ろうと考えたことはなく、怖がった。自分と、愛娘のベヴィと、あおりをくらった息子が、退屈で平凡な普通のあくせく働く人生に落ち着くのか。しかもさんざん夢を見た後で。カーター夫人はクーパーウッドに慎重に事情を説明して、戻ったらニューヨークで二人っきりで会いたいと手紙を書き、ため息をついて、ひそかに泣いた。
「もう少し続けた方がいいと思わない?」カーター夫人はベレニスに言ってみた。「あなたほどの能力のある人が、ダンスの先生にまで身をやつさなくてはならないかと思うと胸が締め付けられるわ。もう少しの間、やれるだけのことをやっておいた方がいいわよ。あなたはちゃんとした結婚をすればいいの。それですべてがうまくいくんだから。私のことは問題ないわ。生きていけますから。しかし、あなたは……」カーター夫人の引きつった目が、実感している惨めさを表した。ベレニスは自分に向けられたこの愛情に感動した。これは本物だとわかった。しかし母親は何という愚か者だったのだ。自分は何という弱い葦にすがろうとしていたのだ! カーター夫人と相談したときにクーパーウッドは言った。ベレニスが自分の立場を修正し、上流の生活を避けて、どんなものであれ就労生活を送って自分のすばらしい魅力を台無しにしたがるなど、現実的ではないし、気が立っていて間違えたのだ。カーター夫人と事前に示し合わせてクーパーウッドは、ベレニスがひとりでいるとわかったときにポコノへ駆けつけた。ビールズ・チャドセイの一件以来、ベレニスは彼を避けていた。
一月の身の引き締まるある日の午後一時頃、クーパーウッドが到着したとき、地面には雪が積り、周囲の景色は、無限に輝く面を目に返す水晶のような光で覆われていた……きらりと光って空間を切る宝石の光だった。このころには自動車が登場していた。クーパーウッドは八十馬力のツーリングカーに乗っていた。そのダークブラウンの光沢仕上げの表面は、ラッカーのように光っていた。立派な毛皮のコートを着て、丸くて黒い子羊のウール帽をかぶって、玄関にたどり着いた。
「やあ、ベヴィ」カーター夫人の不在を知らないふりをして、クーパーウッドは叫んだ。「元気でやってますか? お母さんはどうしてます? いらっしゃいますか?」
ベレニスは、冷ややかなじっと凝視する目で、大胆であるのと同じくらい率直に鋭く相手を見つめて、どうとでも取れる歓迎の笑顔を向けた。青いデニムの絵画用エプロンを着け、多くの色がそろったパレットが親指の下で光っていた。ベレニスは絵を描いたり、考えごとをしていた……最近は考え事が特別な時間の過ごし方になっていた。舞台、ダンス、絵画だけではなく、ブラックスマー、クーパーウッド、キルマー・デュエルマ、その他半ダースもの人のことを考えていた。ベレニスの人生は、言わば目の前の、るつぼの中にあった。バラバラのパズルのようだった。そのピースは、もし彼女が耐えることさえできたら、再び何かの面白い絵になるかもしれなかった。
「お入りください」ベレニスは言った。「寒いですね? さあ、こちらで暖まってください。生憎、母はここにはいません。ニューヨークに行きました。アパートでなら、会えたかもしれません。ニューヨークには長くいるんですか?」
ベレニスは陽気で、明るく、にこやかだったが、よそよそしかった。クーパーウッドは自分と彼女を隔てて守っているものがあるのを感じた。それはいつもそこにあった。たとえ彼女が自分を理解して好きになっても、まだ何かが存在すると感じた……慣習、野心、自分の側の欠点……自分から彼女を引き離して絶えず遠ざけているものだった。
クーパーウッドは部屋を見回して、彼女が取り組んでいる絵(坂を見下ろした雪景色)と、自分が窓から見たそのままの景色と、彼女が最近描いてしばらく壁に掛けてあった何枚かのダンスのスケッチ……かわいい短いチュニックをモチーフにしたもの……を見た。クーパーウッドは面白いお似合いの絵画用エプロンをつけたベレニスを見た。「ベレニスはいつだって真っ先に芸術家なんですね。これがあなたの世界なんです。あなたは絶対にそれから逃れられないんです。これらはすてきですね」合唱の一節を指揮するように手袋をしていない手を振った。「いずれにしても、私が会いに来たのはあなたのお母さんではありません。あなたに会いに来たんです。お母さんからおかしな手紙をもらいましてね。あなたが上流の世界をあきらめて、先生だか何だかを始めたがっていると言うので、そのことであなたに話がしたくて来たんです。自分がずいぶんと軽率な振るまいをしているとは思いませんか?」
まるで自分とはまったく関係がない何かの理由が存在して、それが自分をこの彼女への関心に駆り立てているかのように話した。
ベレニスは、画筆を手に絵のそばに立ったまま、冷静で、好奇心のある、反抗的な、あいまいな表情を向けた。
「そうは思いません」ベレニスは静かに答えた。「あなたは事情をご存知だから、率直に話しますけど、母が常に良かれと思ってやったことくらい、私だってわかっています」
ほんの少し口が悲しげに動いた。「頭よりも心がすてきな人なんです。あなたの動機も、善意のものだったと信じてます。実際にそうだったことを知っています……これ以上のことをしていただくわけにはいきません」(クーパーウッドの動かない目の奥底で何かが動いたように見えた。)「だから、私たちは、これまでどおりでいるわけにはいかないと思います。うちにはお金がないんです。どうして私が何かをしてはいけないんですか? 他にどうすればいいんでしょう?」
ベレニスは話すのをやめた。クーパーウッドは黙ったままで相手を見つめた。堅苦しくないふっくらした絵画用エプロンをつけ、結んでない赤い髪の下から青い目で様子をうががうベレニスは、これまでに彼が知った最も完全なものに思えた。とても鋭くて、安定した、尊い精神。ベレニスはとても有能で、とても立派だった。ベレニスの目は彼の目と同じで恐れを知らなかった。彼女の精神の平衡は保たれていた。
「ベレニス」クーパーウッドは静かに言った。「言わせてください。さっきお母さんにお金を渡した私の動機を善意と言ってくれましたね。まあ、私からしても、身に覚えがある最高の善意でした。最初私がどう思ったかは言わないでおきましょう。それが何であったか、今はわかっています。二人がここにいる間に、あなたが許してくれるなら、率直にお話します。このことをあなたが知っているかどうか、知りませんが、私はあなたのお母さんに初めて会ったときに、彼女に娘さんがいることを偶然知ったに過ぎません。それに、そのときは特に関心がありませんでした。あの家に行ったのも、お母さんの大ファンだという私の金融関係者の友人の招待でした。初対面で私もお母さんのファンになりました。生まれながらの貴婦人だとわかったからです……面白い方でしたしね。ある日、たまたまご自宅であなたの写真を見ました。そのことに触れる前にお母さんが片付けてしまいました。覚えているかもしれませんよ。横顔で……あなたが十六歳の頃に撮ったものです」
「はい、私は覚えています」ベレニスは簡単に答えた……まるで告白を聞いているように静かだった。
「それで、その写真がとても気になりました。あなたのことを尋ねて、できるかぎりのことを聞き出しました。その後、ルイビルの写真館の窓で引き延ばされたあなたの別の写真も見ました。買い取りましたよ。それは今、事務所にあります、シカゴの私の個人事務所にね。あなたがマントルピースのそばに立っているやつです」
「覚えています」ベレニスは答えた。感動はしたが確定できなかった。
「少し私の身の上話をさせてくれませんか? 長話はしません。生まれはフィラデルフィアです。家族はずっとそこにいました。仕事はずっと金融と路面鉄道をしてきました。最初の妻は長老派の信者で、信心深く、社会の枠にしばられていて、私より六、七歳年上でした。しばらくは幸せでした……五、六年は。子供が二人いて……いずれも健在です。それから、今の妻に会いました。私より年下です……少なくとも十歳、そしてとてもきれいでした。最初の妻より多少知性がありました……少なくとも社会の枠に縛られませんし、寛大だと思いました。私は恋に落ちて、最終的にフィラデルフィアを離れ、離婚して、彼女と結婚しました。その時は大恋愛だったんです。私にとって理想の伴侶だと思いましたし、彼女には自分を魅力的にする長所がたくさんあると今でも思っています。しかし、女性に対する私の理想は、常にゆっくりと変化をとげてきました。いろいろと試してみて、彼女が私にとって全然理想的な女性ではないとわかったんです。彼女は私を理解してくれません。私が自分を理解しているとは言いませんが、どこかに私が自分を理解している以上に私を理解してくれて、私が自分についてわかっていないこともわかってくれて、とにかく私を好きになってくれる女性がいるかもしれない、と思うようになりました。私はずっと女性を愛し続けてきたと言った方がいいかもしれません。私にとってこの世界に理想的なものはひとつしかありません。それは自分が手に入れたいと思う女性です」
「あなたが手に入れたい女性らしさを見つけるのは、どんな女性でもかなり難しいわ」ベレニスはついおかしくなった。クーパーウッドは臆しなかった。
「相手がたまたま私の話にぴったり該当する女性でもない限り、そういうことになるでしょうね」思わせぶりに答えた。
「その女性はどんな状況でも大変な務めを背負い込むことになりますね」ベレニスは軽く、同情をにじませた声で付け加えた。
「私は告白をしているんです」クーパーウッドは真面目に、少し深刻に答えた。「弁解というわけではありませんが、私が知り合った女性は他の男性の理想の妻になることはあっても、私にとってはそうではありません。人生は私にたくさんのことを教えてくれました。人生が私を変えたんです」
「じゃあ、その変化は止まったと思いますか?」相手を戸惑わせ、魅了し、ものともしない、高尚な冗談のつもりで、ベレニスはうまく切り返した。
「いや、それを言うことはないでしょう。でも、明らかに私の理想は固まりました。もう何年も固まったままです。他のことが問題ではなくなるんです。たとえば究極の目標ってありますよね。自然科学だと北極星がそうです」
こう言いながら、クーパーウッドは我ながらとてもいい告白をしていると思った。クーパーウッドは最初、ベレニスを魅了してその判断力をコントロールするためにここに来た。実際は、ほとんど逆だった。ベレニスがクーパーウッドを支配しているも同然だった。しなやかで、細くて、機転が利き、役者のベレニスはクーパーウッドの前に立ち、彼に自分の身の上話をさせていた。しかし彼の方はそんな彼女を見ておらず、見たり、感じたり、理解したりすることのできる、大きく、優しく、母性的な知性という視点で見ていた。彼女ならこれがどういうことかわかるだろう、とクーパーウッドは信じていた。努力すれば自分を理解させることができるはずだ。彼が何者であれ、何者であったにせよ、小さな物の見方はしないだろう。彼女がそんなことをするはずはない。これまでの彼女の答えがそれを保証している。
「はい」ベレニスは答えた。「北極星ならありますけど、あなたはそれを見つけられそうもないわ。生きている女性の中に自分の理想が見つかると思うんですか?」
「見つけたんです」クーパーウッドは彼女の考え…この問題に対する自分の考え……すべての考え…の創造性と複雑さに驚きながら答えた。それは奥がとても深くて、その底知れぬ深さは彼を時々驚かせた。「これから言うことを真面目に受けとめてほしい。そうすればたくさんのことの説明がつきますから。あなたの写真に興味を持ち始めたときに、私は見つけました。心に抱いていた理想と一致したんです……あなたはすぐに変わるくせにと思うでしょうね。それが約七年前でした。それ以来まったく変わりませんでした。リバーサイド・ドライブの学校であなたを見たときに、完全に確信しました。口に出したことはありませんが、気持ちは続いてました。あなたはそんな気持ちを抱く権利は私にはないと思うかもしれません。ほとんどの人があなたと同じ意見だろうと、私はそう感じました。今も同じ気持ちです。これであなたのお母さんとの関係が説明つくでしょう。ルイビルでお母さんが私のところに来て、自分の窮状を語ったとき、私は喜んであなたのためにお母さんを助けました。お母さんは知りませんが、それからというもの、これがずっと私の理由でした。ベレニス、あなたのお母さんは、いろいろな点で少し鈍いですからね。これまでずっと私はあなたを愛してきました……熱烈にです。今そこに立っているあなたが私には驚くほど美しく見えます……私が話してきた理想なんです。だからって気にしないでくださいね。配慮を押し付けたりはしませんから」(ベレニスはほんの少し揺れ動いた。自分のことと同じくらいに、彼のことが気になった。彼の力はとても大きくて、すごかった。相手が真剣である以上、ベレニスは真剣に受けとめざるをえなかった。)「私はあなたとお母さんのために何でもしてきました。それはあなたを愛していたからであり、あなたには私がなってほしいと思う立派な人になってほしかったからです。あなたの知らないことですが、五番街に家を建てている原因はあなたなんです……主な理由がね。私はあなたにふさわしいものをつくりたかった。夢ですかね? そうですね。我々がやるすべてのことには、そういった性質があるように思えます。そこに美しさがあるならばその原因はあなたですよ。あなたのことを考えながら美しく作ったのですから」
クーパーウッドは話をやめた。ベレニスは何の反応も示さなかった。ベレニスの最初の衝動は反発だった。しかし、彼女の虚栄心、芸術への愛、権力への愛……すべてが心を動かされた。同時に彼女は、相手が自分をただ愛人にしたいだけなのか、妻として対面をたてられるまで待つつもりでいるのか、今は知りたくなった。
「私があなたと結婚しようと思っていたのかいなかったのかを考えているのでしょうが」クーパーウッドはベレニスの頭の考えを読み取って続けた。「その点では多くの男性と少しも変わりません、ベレニス。はっきりしています。手に入れられるならどんな形でもいいから、あなたのことがほしかった。私はずっと、あなたが私と恋に落ちればいいと願って生きてきました……私があなたと恋に落ちたようにね。少し前にブラックスマーが登場したとき、私はここで彼を嫌いましたが、決して邪魔しようとは考えませんでした。あなたを諦める覚悟はちゃんとできていました。あなたと一緒にいるのを見かけたすべての男性を……若い人も年寄りも……妬ましく思ってきました。そばにいられないときなど、あなたの近くにいられるお母さんを妬んだことさえあります。同時に、どんな形でもいいからあなたの役に立ちそうなものは、すべてあなたに持っていてほしかった。あなたが私を愛せないとわかっても、あなたが本当に愛せる相手を見つけた場合は、あなたの邪魔をしたくありませんでした。あなたが知らないところに、すべての物語があるのです。でも、私が今日来たのはそのためではありません。こんな話をしに来たのではないのです」
まるで相手が何か言うのを期待しているかのようにクーパーウッドは話をやめたが、ベレニスは「はい?」と先を促しただけで何も言わなかった。
「私が言いに来たのは、今までどおりのあなたでいてほしいということです。私のことや、私が今話したことをどう思っても構いませんが、私が今あなたに話していることに私が誠実に損得抜きで向き合っていることを信じてほしいのです。あなたにかけた私の夢はまだ終わっていません。あなたがその気になれば、チャンスは私にもあるかもしれませんからね。でも、私のことは抜きにして、あなたには今までどおりを続けて、幸せになってほしいのです。私は夢を見ましたが、言ってみればそれは見間違いでした。あなたは堂々としていればいいのです……あなたにはその権利があります。立派な女性になってください。どなたであれ、本当に愛する人と結婚してください。私が相応の持参金を持てるようにしましょう。私はあなたを愛しています、ベレニス、でも今後はそれを父親の愛情にします。死ぬときには、あなたに遺言を残します。でもこれまでどおりの気持ちでいてください。あなたが幸せになれると思わないと、実は私が幸せでいられないのです」
クーパーウッドは話をやめて、じっと相手を見て、しばらくは自分が言ったことを正しいと考えていた。もし彼が死ねば、ベレニスは彼の遺言に自分が記されているのを見つけるだろう。今までどおりの生活をして社交界に入って探せば、愛する人が見つかるかもしれない。しかし、そうなる前に、クーパーウッドにもっと好意を抱くかもしれない。少なくともベレニスの友情、共感、好感、信頼を得てクーパーウッドは満足して喜んだが、ベレニスは被後見人としてどんな代償を払うことになるのだろう?
ベレニスは常に多少なりともクーパーウッドに関心を持っていた。彼が効率的で、わかりやすく、率直で、力強かったために気質的に彼に傾いてしまうわけだが、今回は特に彼の単刀直入で寛大なところに心を動かされた。将来的には彼の気質的な支配が誠実さを上回るかもしれないと疑問を持ったが、現時点で彼が誠実であることはほぼ疑いようがなかった。さらに、彼が長年にわたって密かに愛し憧れてくれたことと、これほど力強い男性がこんなふうに自分を夢見ているかと思うと、とてもうれしかった。これは、ベレニスの悩めるむなしさと、それまでにあったことへの恥を和らげた。彼のストレートな告白には、衝撃的、感動的な、ある種の気高さがあった。ベレニスはそこに立つクーパーウッドを見た。こめかみのあたりが少し白かった……ある種の女性にとっては男性の最大のチャームポイントだった。ベレニスはどうしても、ある種の優しさ、思いやり、母性的な愛情に感動させられずにいられなかった。明らかに彼は、その態度が必要だと示しているような女性を、つまり教養、精神、感性、色っぽさを備えたある種の女性を、必要とした。まあ、少なくともそういう女性の夢を見る権利はあった。ベレニスの前に立つクーパーウッドは、ある種の超人に見えた。それでいて悪ガキだった……ハンサムで、力強く、希望に満ち、今のベレニスよりもそんなに年上ではなく、休まず彼を悩まし続ける何か燃えるような内なる力に駆り立てられた。本当はどれくらい自分を気にかけているのかしら? どのくらいのことができるのかしら? どのくらい誰かのことを気にかけることができるのかしら? 自分の気を引こうとして彼がしたすべてのことをみればわかる。あれはどういう意味だったのかしら? こんなことを言うためだったのかしら? こんなことをするためだったのかしら? 外には彼の茶色い車があり、雪の中で輝いていた。彼はシカゴの大物フランク・アルガーノン・クーパーウッドだった。その彼がただの小娘に過ぎない彼女に、自分に優しくしてほしい、あなたの人生から閉めださないでくれと頼んでいるのだ。それが彼女の知性、彼女のプライド、彼女の想像力を刺激した。
ベレニスは声に出して言った。「今、あなたのことが一層好きになりました。本当にあなたのことを信頼しています。以前は決してそうではありませんでした。だがらといって、あなたのお金を私や母のために使わせていいとは思わないんです……私は。でも、ありがとうございます。私があるのはあなたのおかげです。それがどういうことなのか理解しているつもりです。あなたの野心が何なのかもわかっています。自分ではわかっているといつもある程度感じていました。でも、もうこれ以上は話さないでください。自分で考えたいんです。あなたが言ったことをじっくり考えたいんです。その気になれるかどうかわかりませんけど」(クーパーウッドの目が再び一番深いところで動いたように見えたのにベレニスは気がついた。)「でも、今はもうこれ以上この話をするのはよしましょう」
「しかし、ベレニス」必死に懇願するような声で付け加えた。「あなたが理解しているかどうかわかりませんが、私はとても孤独でした……私は……」
「ええ、わかっています」ベレニスは手を差し出しながら答えた。「これから何があっても私たちは友だちです。だって私はあなたのことが本当に好きですから。でも今日はその他のことを決めるよう求めないでください。それはできませんし、したくありません。考えたくないんです」
「駄目ですか、喜んですべてをあなたに渡したいのに……私にはそんなものほとんど必要ないのに?」
「私が自分で考え終わるまで駄目です。でもそうは考えないわ。駄目です」ベレニスは気取って答えた。「後見人のお父さま」笑って彼の手を押しのけた。
クーパーウッドの心ははずんだ。ベレニスを抱きしめるためなら、何百万ドルでも払うつもりだった。そのまま、誘うように微笑んだ。
「いっそのこと私と一緒にニューヨークに行きませんか? もしお母さんがアパートにいなければ、ネザーランドにでも泊まればいいでしょ」
「駄目です、今日は。いずれ近いうちに。私からお知らせします、あるいは母から」
しばらく話し合った後、クーパーウッドは慌ただしく外に出て車に乗り込み、夕方の紫色の雪の向こうのベレニスに手を振った。夕食までにニューヨークへたどりつく段取りをたてながら車は東へ突き進んだ。こうして仲良く心の通う関係を続けていけたらなあ。それだけでもできたらなあと願った。




