第39章 新政権
スティムソンが、スラスを罠にはめて合法的でない行為をさせる仕事を命じた相手はオリバー・マーチバンクスだった。この若い狐は駆けずり回って最終的に、チャフィー市長がクーパーウッドの敵の積極的過ぎる道具になったときに、彼に極めて不愉快な思いをさせる一つの物語を組み立てた。この事件の主役はクローディア・カールシュタットで、冒険家であり、気質は探偵であり、一種のにこにこ顔の売春婦であり、金で動く人間だった。それでいて立派に人前に出せる経験豊富な人だった。言うまでもないが、クーパーウッドはそんな細かいことまでは知らなかった。しかし彼の最初の静かなうなずきがこの不法行為全体を動かした。
クローディア・カールシュタット……チャフィー市長を破滅させる道具……はブロンドの細身で、まだとてもぴちぴちしている二十六歳だった。欲深くて、何も考えていないタイプ……この言葉のもっと広い哲学的な意味で、何も考えていない人だけがなれる無慈悲で、無意識に残酷でいられる人だった。彼女がこうなった理由を知るには、彼女が生まれたサウス・ハルステッド・ストリートの活気のない世界を見なければならない……古いひびだらけのボロ家が立ち並ぶ地域のひとつで、時々、身持ちの悪い女がビール缶を持ってぶらつき、蝶番の壊れた雨戸が揺れていた。クローディアは若い頃『ビールを買いに』行かされ、ハルステッドとハリソン・ストリートの角で新聞を売らされ、最寄りのドラックストアでコカインを買わされた。小さな服と下着は、いつも一番粗末なみすぼらしい生地で、破れて汚れていた。ぼろぼろのストッキングはよく細い小さな足の白い肌をのぞかせていて、靴は擦り切れて穴があき、冬場は水や雪がしみ込んだ。仲間といえば、近所の哀れな取るに足りない路上でたむろする少年たちで、彼らから悪態をついたり、物事を理解たり、悪い習慣におぼれることを学んだが、子供にはよくあるように、そうだからといって完全に堕落することはなかった。十一歳で、母親が死んだとき、収容されていた養護施設を脱走した。哀れな境遇を語って、二人の娘が大型スーパーで従業員をしているというアイルランド人一家に助けられ、ウエストサイドにかくまってもらった。こういう生い立ちからクローディアは現金な女になった。その後も、過去に負けない奇妙な波乱の人生が続いた。クローディアの生まれ持った知性はかなりのものだったと言ってもいい。二十歳のときに……靴メーカーの息子や金持ちの宝石商との関係を通して……うまいこと小金を貯めて持ち衣装を増やした。新たに選出されたハンサムで若い西部の下院議員が、役所で働かないかとワシントンに誘ったのがその頃だった。速記とタイプライターの技能が必須で、すぐに習得した。その後、西部の上院議員の紹介で秘密の活動を要する組織に誘われた。そこは合法的機関とのかかわりはなかったが儲かった。普通の賄賂が効かない場合に、彼女はよく甘言蜜語で秘密を聞き出した。イリノイ州の下院議員の裏金の関係者をたどっていたら最終的にシカゴに戻ってしまい、そこで若いスティムソンが彼女と巡り合った。スティムソンからクーパーウッドに敵対する政財界の陰謀を聞かされて、妙にひきつけられた。下院議員の友人から聞いていたので、すでにスラスのことは多少知っていた。もしうまく市長を譲歩させられたら、二、三千ドルの報酬と経費が出るとスティムソンは指摘した。こうしてクローディア・カールシュタットは、スラスの輝く人生にそっともぐり込まされた。
この仕事はそれほど達成が困難ではなかった。マーチバンクスはジョエル・エイブリーを通して、スラスの政界の友人の紹介状を若い未亡人のために入手した……一時的に困っている有能な速記者が新政権のために働きたがっていた。クローディアは闘いに備えて装備を整え市長室に現れた。妙に厚手の魅惑的な黒いシルクをまとい、地味な真珠で首と指を飾り、こめかみのあたりで黄色い髪を優雅にカールさせて整えた。スラスは多忙だったが会う約束をしてくれた。次に現れたときは、黄色と赤のビロードのバラがコサージュに添えられていた。ワシントンの高級売春婦が一番取り入れている、歩く、座る、立つ、かがむの作法を身につけた、スタイルのいい、女盛りの娘だった。スラスはたちまち興味をもったが慎重に慎重を重ねた。自分は今や大都市の市長であり、衆人環視の対象だった。女性がブランドン夫人だと名乗ると、スラスはすでに面識があったのを思い出した様子だった。夫人は会った場所を思い出させた。二年前にリシュリューで食事をしたのだ。その楽しかった出来事の詳細をすぐに思い出した。
「ああ、そうだ、あれ以来ですね。確か、結婚されて、ご主人がお亡くなりになった。お悔やみ申し上げます」
スラスは考える間に、高い地位にある男性にふさわしい万国共通の態度をとった。
ブランドン夫人はあきらめた様子でうなずいた。眉と睫毛は顔の輪郭をひきたてるように入念に暗い色にされ、片方の頬にはオレンジスティックを使ってえくぼが作られた。繊細な女性を絵に描いたような人で、いかにも悩みを抱えていそうだが、どうみても仕事ができそうだった。
「以前お会いしたときは、ワシントンで政府関係の仕事をされてましたね」
「はい、財務省の小さな部署にいたんですが、こんどの新しい政権が追い出したんです」
上目遣いに身を乗り出したところ、上体がなまめかしい形になった。財務省の仕事の他にもいろいろなことをしてきた人という雰囲気があった。夫人が語る間、スラスはどんな小さなことも見逃さなかった。履き口が布のボタン留めのエナメル革の靴と、手の甲に白い縫い目があって黒いガーネットのボタンで留められた滑らかな黒い子ヤギの革の手袋と、このときしていた珊瑚のネックレスと、黄色と赤のビロードのバラに注目した。たとえ最近、夫に先立たれたばかりだとしても、元気な希望に満ちた未亡人であることは明らかだった。
「ところで」スラスはじっと考え込んだ。「お住まいはどちらですか? ちょっと住所をひかえさせてください。バリーさんはとても丁寧な紹介状をくれましたね。私に何ができるか考えるのに二、三日くれませんか? 今日が火曜日ですから金曜日にもう一度いらして下さい。何かあるか確認しましょう」
スラスは彼女と一緒にオフィスのドアまで歩いた。 そして彼女の足取りが軽くて弾んでいることに気がついた。別れ際、彼女はとろけるようなまなざしをスラスに向けた。すぐにスラスは、できることなら彼女に何か見つけてあげようと思った。彼女は今までに現れた中で最も魅力的な陳情者だった。
これでチャフィー・セアー・スラスの最後はそう遠いことではなくなった。スラスに言われたとおり、ブランドン夫人は戻ってきた。今度はスカートのきらめく黒のブロード生地の下に、その魅力的なひだ飾りが見えるように工夫された、赤いシルクのペチコートで着飾っていた。
「おい、ありゃ何だい?」前政権から留任したドアマンのひとりが同期の相方に言った。「新政権で流行ってんのかな、え? 我々もぐずぐずしていられないな?」
男はコートを引っぱって、見てくれがよくなるように襟をいじくり、楽しそうに相手をじろじろながめた。二人とも六十歳過ぎの冴えない連中だった。
相方は腹をつついた。「まあ、落ち着けって、ビル。慌てなさんな。本当はまだ始まってないんだ。もう六か月くれよ、張り切るのはそれからだぜ」
スラスはブランドン夫人に会えたのがうれしかった。スラスが同じ庁舎の真向かいに事務所がある新しい税務署長のジョン・バスティネーリに話をしたところ、相手は後々市長に便宜を図ってもらうこともあるかもしれないとみて、女性を引き受けることに快諾した。
「バスティネーリさん宛ての手紙をお渡しすることができて、とてもうれしいですよ」スラスは速記者を呼ぶ間に言った。「旧友のバリーさんだけじゃなくあなたの役にも立てましたからね。バリーさんをよくご存知なのですか?」スラスは気になって尋ねた。
「ほんの少しです」自分を推薦してくれた人たちとあまり親しくないのを知ればスラスは喜ぶだろうと思ってブランドン夫人は認めた。「私はアマーマンさんという方に言われて、彼のところへ行かされたんです」(夫人はまったく架空の人物の名前を出した。)
スラスは安心した。スラスが手紙を渡すときに、夫人はもう一度、感謝のこもった、説得力のある、魅力的な眼差しで相手を見つめた。おかげでスラスはめまいがして血の巡りが悪くなり、見知らぬ女性に正しい判断ができなくなり警戒心を失った。
「ノースサイドにお住まいという話でしたね?」スラスは弱気な間の抜けた笑みを浮かべて尋ねた。
「はい、リンカーン・パークを一望できる素敵な小さいアパートにいます。続けていけるかわからなかったけど、もう就職できましたから……あなたがとても親切にしてくれたおかげです、スラスさん」相変わらず、私って面倒みてもらわないとだめなの、といった態度でしめくくった。「私のことを完全に忘れないでほしいわ。もし私があなたのお役に立てるのでしたら、いつでも……」
この女性らしさ満載の魅力的な人が一時的にすぐ近くまで来たのに、もういなくなって、完全に消えてしまうかもしれないと思うとスラスは気が気ではなくなかった。二人がドアに向かって歩く間に、必死の努力で思い切って口にした。「いつかあなたのその小さなお住いを拝見して、あなたがどれくらいうまくいってるか確かめないといけませんね。私もそうやって生きてるんです」
「その節はお願いします!」夫人は心から叫んだ。「とても助かるわ。このとおり天涯孤独の身の上なんです。ひょっとしてトランプとかおやりかしら。私、とてもおいしいパンチの作り方を知ってるんですよ。私の悠々自適な暮らしをお目にかけたいわ」
これでスラスは一番の弱みを握られて降参した。「うかがいます」スラスは言った。「必ずうかがいます。あなたの予想するよりも早くね。あなたがどんな調子でやってるかを見せてくれないといけませんよ」
スラスは相手の手をとった。夫人はそれをあたたかく握りしめた。「じゃ、約束しましたからね」しゃがれた猫なで声で、夫人は喉を鳴らした。数日後の昼食時に、スラスは市役所で夫人に会った。夫人は改めて誘うつもりで、文字どおり待ち伏せしていた。やがてスラスが現れた。
市長室付きで市役所の周辺で働く残留組の職員たちは、今後ブランドン夫人とスラス氏が出入りする時刻を証人として記録するよう指示された。不利な状況を作り上げるために、スラスがブランドン夫人に書いた手紙が慎重に保管され、二人がホテルやレストランにいたことを示す証拠が集められた。全ての作業におよそ四か月かかった。それからブランドン夫人は突然ワシントンから声がかかって、出発することに決めた。夫人宛ての手紙は、スラスがクーパーウッドへの反対活動で手に負えなくなったとき、スラスに使うために、最終的にスティムソンの事務所に集められた資料の一部だった。
その間にギルギャンがティアーナン、ケリガン、エデストロムと一緒に考案した体制は難航と呼んでもいいかもしれないものに遭遇していた。一部の新人市議の気質と、彼らの政治的支援者の独善的な態度のせいで、ハンドやスラスたちや他の改革派の倫理審査の承認がない限り、いかなる種類の運営権も認められないことが判明した。とりわけ、いかなる種類の金銭も、誰にも何に対しても支払われないことになった。
「とにかく、ああやって張ったりをかましたり国民受けばかりを狙うのをどう思うよ?」ティアーナンはやむをえず会議を欠席していたので、ケリガンはギルギャンと話し合った直後にティアーナンに尋ねた。「街全体を高架鉄道にする条例が起草されたんだぞ。そんなもん作っても誰も何も得しないのに。なあ、奴ら、我々のことを何だと思ってんのかね? えっ?」
ティアーナンはエデストロムと話してから、いわゆる情勢の掌握で忙しかった。調査して信じるに至ったのは、ノースサイド出身の利口でご立派なドイツ系アメリカ人のクレムという名の市議が議会の共和党のリーダーになることと、彼と他の十ないし十二名が道義心だけを理由に、健全な法案しか成立させないと決めていることだった。これではまともに進むはずがなかった。
さまざまな場面で自分の得票用に数千ドルを準備していたケリガンは、この知らせを受けて信じられないと目を見張った。「まったく、あきれたよ! あいつらどういう神経してんだ! なあ?」
「二十区のこのクレムって奴と話してたんだが」ティアーナンはせせら笑った。「いやあ、大した奴だ! トレモントでそいつに会ってハブラネクと話をしてたんだ。気のない握手をする奴でな。私に何と言ったと思う? 『これは二区のティアーナンさんじゃないですか?』と言うから、
『いかにもそうだが』と言うとね、
『どうやら、思ったほど荒くれ者には見えませんね』だとさ、ハッハッ! 『どかないのなら、軽くお仕置きをしてやるぞ』と言いたい気分だったぜ。ああいう奴は暗い路地でとっちめたいよな」(ティアーナンはほとんど苦悶のうめき声だった。)「そして、いろんな新しい会社が路面鉄道事業に参入するのを認めるのに、どこに合理的な反対の余地があるのかわからないと言い始めたんだ。『どんな形であれ、市民が独占に反対なのははっきりしてますから』だとさ」(ティアーナンは、クレムの声と言葉を馬鹿にしていた。)「ほんとかよな!」言い聞かせるようにしめくくった。「奴がこの話をガンブルとピンスキーとシュラムボームに持ち込むまで待っててみ……ハッハッハッ!」
ケリガンは収賄やリベートのあらゆる特権に慣れたあの健啖家の市議たちを思い浮かべて背もたれにもたれかかり、腹の底から大笑いした。「ようするにだな、マイク」きつい、とても趣のある、イギリス風のズボンを引っ張り上げながら、ひょうきんに言った。「我々はこのギルギャン派の中のしみったれどもと対立してるんだ。奴らを懲らしめてやらんとな。彼は他のみんなと同じでそれをよくわかってる。私のまわりには、ああいう説教くさい騙しあいを始めるやつはいないぞ。クーパーウッドは奴らを怒りっぽくて嫉妬深い連中の集団だと言うが、当たってるね。もしクーパーウッドが自分のゲームから相手を締め出すために大金を積む気なら、相手にもそうさせてゲームに留まらせてやればいい。これはチャリティーの福袋じゃないんだからな。我々はシュライハートとマクドナルドに欲しいものを手に入れさせるのに十分な数の新しい仲間を集めなきゃならないんだ。ギルギャンの口ぶりから、あいつが現実的な相手と取り引きしているんだと思ったよ。選挙に勝つために金を払った奴らだぞ。そうしたいのなら、念願の運営権獲得のために払わせてやればいいだろうよ、えっ?」
「まったくそのとおりだ」ティアーナンは同調した。「私も同じ意見だ」
この会話のすぐ後で、クレム議員を通じて活動していたトルーマン・レスリー・マクドナルドは、頭数を数えてみて自分が思ったほど強くないことを知って驚いた。政治的忠誠心なんてそんな気まぐれなものだ。奇妙な名前の、ホーバック、フォーガティ、マクグレイン、サムルスキーなど数名の市議が、買収されている兆候を見せた。彼はすぐにこの不穏な情報を持って、ハンド、シュライハート、アーニールのもとへ急行した。彼らは、もし直近の勝利が他に何の結果も出さなかったとしても、少なくとも全土に及ぶ『L』鉄道の運営権を得られるし、これでクーパーウッドを跪かせるに十分だ、と内祝いをしていた。
ハンドはマクドナルドの連絡を受けてすぐにギルギャンを呼び寄せた。クレムに提出されたゼネラル・エレクトリックの運営権の議決はだいたいいつ頃になりそうかと問われてギルギャンは、各方面でかなりの反対が出て大きくなっているらしいことを認め、ひどく悲嘆してみせた。
「どういうことなんだ?」ハンドは少し怒って言った。「これに関して我々は明白な取り決めをしたんじゃなかったのか? 要求した金は全額受け取っただろう? 我々の合意に則って投票する市会議員を二十六名そろえられるとあなたは言ったはずだ。まさかその取り決めを破るつもりじゃあるまいな?」
「取り決め! 取り決めってな!」好戦的な性格のギルギャンはむかっとして言い返した。「私は、二十六名の共和党市会議員を選出することに合意して、それを実行した。肉体と魂まで所有してはいないんですよ。全項目に該当する者を指名したわけじゃない。それぞれの選挙区で、一番見込みがあって、市民が求めてる人たちと取り引きしたんだ。私の背後で起きている不正な活動は、私の責任ではないでしょ? 彼らが言うとおりにしないからって、そこまで私には責任ありませんよね?」
ギルギャンは不当な扱いをされ釈然としないという表情だった。
「だが、あなたがこの連中を選んだんですよ」ハンドは攻勢に出た。「その誰もがあなたが個人的に推薦したものだ。あなたが彼らと取り引きをしたんでしょ。クーパーウッドと死力を尽くして闘うという神聖な契約に、彼らが背くというつもりじゃないでしょうな? 自分たちが何をするために選ばれたのか、彼らに誤解があってはならないんだ。新聞は、クーパーウッドに有利なことは何も通らなくなるという記事でいっぱいだったのに」
「それはそうですがね」ギルギャンは答えた。「全員の個人的な忠誠心まで責任を負えませんよ。確かに私はこの連中を選びましたよ。確かに選びました! でも他の共和党員と一部の民主党員の助けを借りて、彼らを選んだんだ。勝てる人選をするためには、最高の条件を出さなければならなかった。私が知る限り、そのうちのほとんどは、クーパーウッドのためになることをしなくても平気ですよ。問題が生じているのは、他の人たちに有利な条例を成立させる作業なんです」
ハンドの広い額に皺が寄り、青い目がギルギャンを疑うように見た。「いったい誰なんだそいつらは?」ハンドは尋ねた。「そいつらのリストがほしい」
ギルギャンは自分の狡猾さで事なきを得て、造反組と思しき者を犠牲者に用意した。彼らには自分の闘いをしてもらわねばならない。ハンドは圧力をかけようと決心しながら名前を書きとめた。また、ギルギャンにも見張りをつけることにした。計画に支障が出ると判明したら、新聞に知らせてちゃんと雷を落とすように命じなければならなかった。自分に課せられた大きな信頼に背いていると判明した市会議員は、いぶり出されて、自分の選挙区に戻され、後援者にさらしてやらねばらなない。名前も一般紙で大きく取り上げてもらうべきだ。クーパーウッドの悪だくみと策謀をいつもそれとなく伝える記事は、もっと増やさないといけない。
一方では、スティムソン、エイブリー、マッキベン、ヴァン・シックルたちが、クーパーウッドのために、いろいろな無所属の市会議員……気質的にずっと改革案には賛同していない者……に個別に働きかけて、今後二年間、反クーパーウッド法案の支持をやめられるのなら、年棒二千ドルというボーナスか他の形の贈り物……たとえば困っている手形の裏書きとか担保の引き受けとか……一般市民には決して知られないという保証つきですぐ用意すると理解させていた。こういう申し出が直接されることはなかった。友人や隣人、あるいは人当りのいい誰だかわからない見知らぬ人が、謎のメッセージを持ってきた。この方法で、約十一名の市会議員が……マッケンティと彼の影響力のおかげで、頼れる正規の民主党議員十名とは全く別に……すでに買収されていた。シュライハート、ハンド、アーニールは知らなかったが、彼らの計画は……たとえ彼らが計画していても……こうして骨抜きにされていた。彼らが努力しても、待ち望んでいた包括的な運営権の条例は、いつまでたっても成立しなかった。彼らはシュライハートの本拠地のサウスサイドにある『L』鉄道一本の運営権と、重要ではない一路線だけを走るゼネラル・エレクトリック向けの運営権で、しばらく満足しなければならなかった。それはクーパーウッドが権力を握り続ければ、いずれ簡単に引き継げるものだった。




