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巨人  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
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第36章 選挙直前


その後、ケリガンはぶらっとティアーナンを訪問した。ティアーナンも折り返し訪問した。その直後、ティアーナン、ケリガン、ギルギャンの三氏は(一緒のところを見られないように)ミルウォーキーの小さなホテルの一室で打ち合わせをした。最終的に、ティアーナン、エデストロム、ケリガン、ギルギャン四氏が顔を合わせて、ここで簡単には言えないほど複雑な分割案を作成した。言うまでもないが、事務方の幹部の分け方や、警察への賄賂、カジノと売春宿の上納金、ガス、路面鉄道、その他の組織の収益の配分比率も含んでいた。たくさんの重大な約束が取り決められた。これに効力があるなら、この四人の結束は何年も続くことになる。裁判官、治安判事、大小の役員、郡保安官、水道局、税務署、全てが彼らに掌握されることになった。これは立派で理想的な政治の夢だった。あらゆる尊重と配慮に値したが突き詰めてみれば所詮は政治の夢に過ぎなかった。それでも関係者は時々感慨深いものがあった。


いよいよ選挙戦は本格的になった。夏と秋(九月と十月)が訪れると、民主党と共和党のマーチングバンドの演奏や、公園、街角、木の小屋、集会場、テント、サロンなど、ほんの一握りの聴衆を呼び集めて、何とかじっとさせておける場所で演説している元気な政治家の声が聞こえるようになった。「権利」や「正義」の提唱者や守護者の営利団体がいつもやっているように、新聞は声高に怒鳴りちらした。クーパーウッドとマッケンティはシカゴのほぼすべての街角で非難された。「路面鉄道会社と市議会のなれ合いを絶て」「もっと通りを盗まれたいか?」「シカゴがクーパーウッドのものになってもいいのか?」などの標語が貼られた台車や、車輪のついた看板が引っぱり回された。クーパーウッド自身も、朝ダウンタウンに出勤して夕方帰宅するときに、こういうものを目にした。大きな看板を見て、自分を非難する演説を聞いて、微笑んだ。この強力な反対活動がどこで始まったのか、もうちゃんとわかっていた。ハンドが背後にいるのはわかっていた……マッケンティとアディソンがいち早く発見した……ハンドと一緒にいるのは、シュライハート、アーニール、メリル、ダグラス信託、いろいろな編集者、トルーマン・レスリー・マクドナルド、旧ガス会社のグループ、シカゴ・ゼネラル……だった。全員が忠誠を誓ったが、クーパーウッドでさえ一定の市会議員が買収されて自分を見捨るかもしれないと疑った。マッケンティ、アディソン、ビダーラ、クーパーウッドは、できるだけ慎重かつ効果的に防衛手段を細かく策定していた。自分がこの選挙……激しく争われる第一区……で負けたら、深刻な連鎖反応を引き起こすかもしれないことをクーパーウッドは重々承知していた。法廷では金で、議会では地位で、市長と市の代理人とはいつでも戦えたので、過度にわずらわされるつもりはなかった。「猫を殺す方法はひとつではない」は、彼の好きな表現のひとつで、彼の考え方と勇気を正確に表していた。とはいえ負けたくはなかった。


選挙戦の面白い特徴のひとつは、マッケンティ側の演説者が共和党と同じくらい大声で改革を叫べと命じられたことだった。ただクーパーウッドとマッケンティを激しく攻撃する代わりに、シュライハートの〈シカゴ・シティ鉄道〉の方がはるかに貪欲であり、これはクーパーウッドの鉄道と、シュライハートとハンドとアーニールの鉄道がまだ手をつけていない全ての通りの包括的運営権を、そっちに与えるための計画だ、と指摘する手はずだった。すさまじい論戦だった。民主党は、いくつかの腹立たしい日曜日の法律について、一様に開放的な解釈を誇らしげに示すことができた。共和党と改革派の政権下では、正直な労働者は往々にして日曜日にグラスやペール缶のビールを手に入れるのが大変だった。一方で共和党の演説家は、各地にある『低俗な怪しい店や酒場』がどうマッケンティに有利に働いているかとか、共和党の市長候補のとても立派な施政下なら、市政府と悪行・犯罪との関係は解消する、と示すことができた。


「もし私が当選したら、フランク・クーパーウッドもジョン・マッケンティも、きれいな手と正直な目的を持って来ない限り、市役所に顔を出しに来ないだろう」チャフィー・セアー・スラス共和党候補は断言した。


群衆は「万歳!」と叫んだ。


「あいつなら知ってる」〈トランスクリプト〉でこの記事を読んだ時、アディソンは言った。「〈ダグラス信託〉の従業員だった奴だ。最近、紙の上の取り引きで少し儲けたんですよ。あんなのはアーニール=シュライハート陣営の道具に過ぎない。二インチのミミズほどの勇気もあるもんか」


マッケンティはこれを読んで簡潔に言った。「お前なんか相手にしなくても、市役所に行く方法は他にもある」少なくとも議会の多数派を頼りにしていた。


しかし、この騒ぎの中の、ギルギャン、エデストロム、ケリガン、ティアーナンの動きは十分に把握されていなかった。後者の二人以上に、洗練された、ずる賢い者はいなかった。一方では密かにギルギャンやエデストロムと気脈を通じて、着々と自分たちの政治工作を展開しておきながら、同時に、ダウリング、デュバンニキ、マッケンティとも協議をしていたのだ。何らかの理由で……その理由までは彼にもよくわからなかったが……結果がさっぱり見通せないとわかってきたので、ある日、マッケンティは二人に会い来るように頼んだ。その手紙を受けとるとティアーナンはケリガンのところへ行き、ケリガンも手紙を受けとったか確認した。


「もちろんだ! もらったとも!」ケリガンは上機嫌で答えた。「こうしてコートの外ポケットに入ってる。『親愛なるケリガン様』」ケリガンは読ん聞かせた。「『明晩七時に私のところで一緒に食事などいかがですか? その後で、アンゲリッヒ氏、デュバンニキ氏、他数名が立ち寄ると思います。同じ時間にティアーナン氏も、お招きしています。

敬具、ジョン・J・マッケンティ』奴らしいやり方だ」ケリガンは付け加えた。「いかにもな」


あざ笑うように手紙にキスをして、ポケットに戻した。


「確かに受け取った、同じだな。文面も同じ、そっくりだ」ティアーナンはうれしそうに言った。「気づき始めている、のかな? えっ! 一区と二区の小物の老いぼれが、今になってなかなかの大物に見え始めている、のかな? えっ!」


「ふん!」はっきりあざ笑っているのを強調してケリガンはティアーナンに言った。「その二人がいつまでもそのままでいるもんか。ズボンに入らないほど大物になっちまったと思うんだがな。長い道のりだよな、なっ? そろそろ潮時だろうよ、んっ?」


「まったくそのとおりだ」ティアーナンはしみじみと答えた。「長い道だこと。ここは市の二大選挙区だ。そんなことは誰でも知っている。もし我々が最後の瞬間に寝返ったら、奴らはどうなるんだろうな、えっ?」


ティアーナンはでかい赤っ鼻の横に太い指をあてて、目を細めてケリガンを見た。


「全くそのとおりだ」小さな政治家は上機嫌で答えた。


事前に打ち合わせたとは見えないように、二人は別々に夕食に出かけ、現地に着くと、まるでお互いが何日も会っていなかったみたいに挨拶を交わした。


「仕事の調子はどうだい、マイク?」


「ああ、上々だ、パット。そっちはどうなんだい?」


「まずまずだ」


「十一月に向けてそっちの選挙区はすべて順調なんだろ?」


ティアーナンは肉厚の額に皺を寄せた。「まだわからんよ」これはすべてマッケンティに向けたものだった。彼は卑劣な党への背信を疑っていなかった。


この会議では、選挙区、当落の得点差、ジーグラーが十二区をどうするか、ピンスキーが六区でシュラムボームが二十区で当選できるか、などが座って全体的に話し合われただけで大したことは何もなかった。既存の民主党安定区から出る共和党の新人候補たちが、情勢を危ぶませていた。


「それで、一区の調子はどうなんだ、ケリガン?」細くて、思慮深く、いかにも抜け目ないドイツ系アメリカ人のアンゲリッヒは尋ねた。アンゲリッヒは、ケリガンやティアーナンよりもマッケンティに気に入られてすでに頭角を現していた。


「ああ、一区は大丈夫だ」ケリガンはおどけて答えた。「もちろん、断言はできないが。このスカリーって奴が何かをするかもしれない。でも大事になるとは思わんね。こっちも同じように警察に手を打っておけば……」


アンゲリッヒは満足した。彼は自分の選挙区で苦戦していた。そこではグラヴァーという名の対立候補がお金を湯水のようにつぎ込んでいるように見えた。勝つために、普段よりもかなり多めの資金を要求するつもりだった。それはデュバンニキも同じだった。


マッケンティはようやく側近たちと別れた……ケリガンとティアーナンに対しては、これまでにないほど気を遣っていた。マッケンティはこの二人を手放しでは信頼しなかったし、この二人も、この二人の何とも荒っぽい有功なやり方も必ずしも好きにはなれなかった。


「パットもマイクも」順番に各人にうなずいて「順調なのがわかってよかったよ」と別れ際に言った。「我々にはみんなが一丸になって出せる最大の力が必要なんだ。きみたち二人がすばらしいものを……何であれ最高のものを……見せてくれることが頼りなんだ。勝利の暁には、我々一同これを忘れないよ」


「ええ、いつもどおり全力でやるんで、この私を頼りにしてください」ケリガンは調子を合わせて言った。「厳しい年になるが、我々はまだ負けちゃいない」


「私だってついてますぜ、大将! まかせてください」ティアーナンは騒がしく言った。「私もこれまでと同じようにうまくやれると思います」


「頼んだぞ、マイク!」マッケンティは肩にそっと手を置いてなでた。「それから、ケリガンもな。きみたちの区は重要な区なんだ。そのことはちゃんとわかってるよ。きみたち二人が議員以上の地位を求めても、指導部が了承できないことを私はいつも残念に思ってたんだ。しかし次にもし、そのときに私に影響力があったら、何の心配もなくなるからね」マッケンティは中に入ってドアを閉めた。外では冷たい十月の風が、道端の枯れ葉や雑草の茎に吹きつけていた。ティアーナンとケリガンは一緒に立ち去ったが、ヴァン・ビューレンに向かうその通りを二百フィート進むまで口をきかなかった。


「少し話そうか、えっ?」通り過ぎたガス灯の明かりでケリガンを見ながら、ティアーナンは言った。


「ああ。あいつらはいつも困るとああするんだな。かなり優しいお言葉だったな、えっ?」


「十年も荒っぽい仕事をやらされた末にだぞ、えっ? そろそろ時間だろ、なあ? だって、党大会期間中の六月に、それを思いつかないのが変だろうよ」


「ふん! マイキー」ケリガンは残忍に微笑んだ。「お前さんは悪ガキだな。あわててパイをほしがりすぎだ。あと二年か、四年か、六年、パディー・ケリガンや他の連中のように待つんだな」


「はい、そうします……なんてわけにいくかよ」ティアーナンは怒鳴った。「待つのは六回までだ」


「もういい。私はやる」ケリガンは答えた。「こっちは来年の仕事をぐちゃぐちゃにしてしまう策略を知ってるんだぜ。なあ?」


「全くもってそのとおりだ」ティアーナンは言った。


そして二人とも無事に帰宅した。



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