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巨人  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
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第35章 政治協定


この当時シカゴの第一区と第二区……ビジネスの中心街、サウスクラーク・ストリート、湖岸や河川堤防などを含む選挙区……に二人の男がいた。マイケル(通称、笑顔のマイク)ティアーナンとパトリック(通称、エメラルド・パット)ケリガンは、絵に描いたようなすてきな性格と浅ましい雰囲気を持っていて、市の他の場所でもたとえ全国でも右に出る者はいなかった。『笑顔の』マイク・ティアーナンは、この地域で最大の広さといかがわしさを持つ四軒の酒場を所有しているのが自慢の、大柄で人当たりのいい男だった……おそらく身長は六フィート一インチ、つり合いのとれた広い肩、ある角度からは弾丸の形に見える牛のような頭、大きくて健康的な毛深い手、大きな足をしていた。溝掘りから始まって、この自分の愛する選挙区から出て市議会の議席を占めるまでたくさんのことをやり、いろんな目的のために定期的に裏切りを働いた。しかし今一番楽しいのは、クラーク・ストリートで最大のホテル〈銀の月〉の奥の部屋にある、紫檀の机の丈夫なマホガニーの手すりの後ろに座ることだった。ここでいろんな資産……酒場やカジノや売春宿、現政権の黙認だかお目こぼしのおかげでうまく切り盛りしているもの……からの収益を計算したり、部下やテナントの頼み事や要求に耳を傾けた。


このかなり手の焼けるいかがわしい地域で唯一ティアーナンと渡り合えるケリガンの特徴は多少違っていた。小柄な男で、かなりお洒落で、痩せこけてどことなくやつれた顔だが、決して病弱な体ではなく、でかい目障りな口髭、きれいに片方に分けた豊かな炭のような黒髪、抜け目なく愛想のいいこげ茶色の目をしていた……全体が一緒になって、会っても全然不満を感じない、かなり感じのいい、華麗な姿を構成していた。耳は大きく、コウモリが羽をひろげたように頭から突き出ていて、目は油断のならないずる賢い光を放っていた。ティアーナンよりも金融に明るく金持ちだった。ティアーナンが四十五歳なのに対し、三十五歳にも満たなかった。第一区のティアーナンのように、ケリガンは第二区の実力者で、とても使い勝手のいい危険と隣り合わせの浮動票を支配した。彼の酒場は、都会でいくらでも見受けられるたくさんの浮浪者のたまり場だった……港湾労働者、鉄道員、荷役人夫、放浪者、チンピラ、泥棒、ポン引き、飲んだくれ、刑事などがいた。ケリガンはとてもうぬぼれ屋で、自分をハンサムだと思っている『女殺し』だった。結婚して二人の子供と物静かな若い妻がいるのに、年ごとに変わる愛人と中間の娘たちがいた。服装はどれも目を見張るものだった。宝石をつけないのが誇りだったが、一万四千ドルの巨大なエメラルドは例外で、それを時々ネクタイにつけて、そのすごさがディアボーン・ストリートと市議会中に広がり『エメラルド・パット』の異名を勝ち取った。シカゴ中の酒場に最も多く樽のビールを売りさばいてシカゴのビール工場に授けられた、金とダイヤモンドのメダルをよろこんだように、最初はこの呼び名を本気でよろこんだ。近頃は新聞が、二人の成功と人柄をやり玉にあげて自分とティアーナンを面白がり始めたものだから、それに憤慨していた。


現在の政治情勢とこの二人との関係は独特で、結果的にクーパーウッド=マッケンティ陣営の弱点になった。そもそもティアーナンとケリガンは隣人であり友人であり、政治でも商売でも協力し合い、時には共同戦線をはって互いに便宜を図り合うこともあった。二人がやっていた事業は卑しい見下げ果てたものだったので、助言や慰労が必要だった。人を理解することも政治的に掌握することも、マッケンティのような男には到底及ばなかったが、それでも成功していくうちに、多少マッケンティとその高い地位を妬んでいた。クーパーウッドと組んだ後でマッケンティがどれほど大きくなったか、さまざまな分野でどのようにして自分の意向を押し通したか……警察からは通行料、市のガスや水道局ご用達のメーカーからは毎年多額の選挙の寄付を絞り出したのを、二人は推測と多少の嫉妬の目で見ていた。マッケンティはこういうことを自在に操るのがもともと上手で、緊急時に政治資金がどこで手に入るか知っていたし、躊躇せずに要求した。政治活動にあたってティアーナンとケリガンはいつもマッケンティに正当な扱い方をされてきたが、まだ謀議の中枢に加えられたことはなかった。何かの用事でダウンタウンに来たときに、マッケンティが彼らのところへ立ち寄って、握手をしたり、仕事の首尾を尋ねたり、何か二人にしてやれることはないかと尋ねることはあったが、下手(したて)に出て頼み事をするとか、個人的に何かの報酬を約束したことはなかった。それはダウリングや、彼が仕事のときに間に立てる他の連中の仕事だった。


当然のことだが、強くて、反抗的で、獣の気質の人間なのに、すべての成長中の能力に完全に見合った出口を見つけられずにいたので、ティアーナンとケリガンはどちらも、どういう手段をとれば自分たちの名誉と取り分を増やせるかを知りたがっていた。二人の選挙区は市内どこよりも、いわゆる票の積み増しの余地が大きくなっていて、正味の正当な票はあまり大したことはなかった。しかし住民の移住や、多重投票や、投票箱への詰め込みはいくらでもやりようがあった。危うい市長選挙では、第一区と第二区と、そこに隣接している第三区の一部が(必要であれば投票時間外に)指名された上級職の顔ぶれを完全に変えるのに十分な違法票を登録することになる。選挙の時期になると、民主党郡委員会からティアーナンとケリガンに巨額の資金が送られて、二人の裁量で処理された。二人はただ自分たちが必要とする概算を送るだけで、いつも要求より少し多めに受け取った。その後、収支報告を作成したことも作成を求められたこともなかった。ティアーナンは一万五千から一万八千ドル、ケリガンは時々二万から二万五千ドル受け取ることがあった。こういう事情で彼のところは重要な選挙区だった。


この二人が多少影響力をもつようになっていたので、マッケンティは、すぐにでももっと十分な配慮がなされないといけないと最近認識し始めていた。だがどうやって? 彼らの選挙区での評判や、用いる手段は言うまでもなく、人柄が世間の信頼を集められるものではなかった。その一方で、都市のものすごい成長や、彼らの私的な事業の成長や、不正投票や多重投票の量や、要求される内容のせいで、二人はますますじっとしていられなくなっていた。もっと高い役職の候補ではいけないのだろうか? このところ、二人はよく自分に問いかけた。ティアーナンは郡保安官か市財務官にでも指名されたら喜んだだろう。本人はその資格が十分にあると思っていた。前回の市の党大会でケリガンはダウリングに、自分を道路下水局の局長候補に指名するよう密かに働きかけた。利権があるとされていたためこの役職がほしかったのだ。しかし、よりによってこの年に限って、手強い共和党の対立候補を打ち負かすために汚点のない候補者を立てる必要があって、この指名ができなかった。そんなことをしたら、街の立派な人たち全員の反発を招いただろう。その結果、ティアーナンもケリガンも過去と今後の自分たちの貢献度を考えて、とても大きな不満を募らせた。二人とも本当はあまり頭がよくなかったので、自分たちが党にとって……特定の活動分野以外で……どれほど危険かわかっていなかった。


ハンドとの会談後に、ギルギャンは現金の約束を口にしながら市内を歩き回って、共和党の主張にかなり熱い関心を呼び覚ますことができた。いわゆる『良識派』が優勢な選挙区や地域では、新聞の道徳偏重の姿勢のおかげで、今回はかなりの票がほぼ確実にクーパーウッドに反対の立場でまとまりそうだった。もっと貧しい選挙区では、事はそう簡単ではないだろう。確かに十分な資金を投入すれば、実の兄弟でもナイフで刺せと説得できそうな、かなり大胆不敵な節操のない連中は見つけられるかもしれないが、結果はわからなかった。ケリガンとティアーナンが不満を募らせていることはあちこちで聞いていたし、たとえ共和党員でも自分の方がマッケンティやダウリングよりもはるかに民主党色が強いと自認していたので、ギルギャンは、その欲深い二人のところへ行って、彼らを現在の権力の中心から遠ざけたらどうなるかを確かめようと決心した。


よくよく考えた末にギルギャンはまず、ディアボーン・ストリートにある〈エンポリアム・バー〉で、個人的に面識はあるが政治的には決して親密ではない『エメラルド・パット』ケリガンを探した。この特別な酒場には、この当時のシカゴの政治のような特徴があった。他のすばらしい酒場の中でもひときわ大きな店で、直径十二フィートの桜材の丸いカウンターがあり、それがお決まりの無色や色付きのグラスや、ボトル、ラベル、鏡と一緒になって小さな山のように輝いた。床は暗い赤と緑の小さな大理石でできていて、天井はピンクの豊満な裸婦が透明な雲の間を浮遊し、壁はサクランボ色と茶色の紫檀材パネルが交互に張られてあった。他に急ぎの用事がないときは、数人の友人と立ち話をしたり、とても手広くやっている水商売の盛況ぶりを眺めているケリガンの姿が決まって見受けられた。ギルギャンが訪れた日、ケリガンは鮮やかな赤いストライプが入ったこげ茶色のスーツ、コードバンの革靴、かなり有名なエメラルドを飾ったワイン色のネクタイ、外に向かって大きくひろがっている斬新な編み方の麦わら帽子という出で立ちだった。胴着はベストではなく、当時の奇抜な格好のひとつである量産型のシルクのサッシュを着用していた。ケリガンは、クリーム色の派手な質感の上質で軽いツイードと、麦わら帽子と、黄色の靴という格好で、かなりしっとりして、ピンク色に染まり、ほてった体で現れたギルギャンとは面白いくらいに対照的だった。


「調子はどうだい、ケリガン?」ギルギャンは穏やかに言った。両者の間に政治的反目は全くなかった。「一区の方はどうだい、それと商売の調子は? エメラルドはまだなくしてないと見えるな?」


「ああ。そっちは何の心配もないよ。商売は全て順調だ。それに一区の方もな。ギルギャンさんこそ、どうなんだい?」ケリガンは心から手を伸ばした。


「あなたに話があってね。時間はありますか?」


答える代わりにケリガンは奥の部屋へ案内した。すでに彼は、次の選挙で共和党が強い対立候補を立てる噂を耳にしていた。


ギルギャンは腰かけた。「もちろん、あなたに会いに来たのは今度の秋の件ですよ」と笑顔で切り出した。「あなたと私はフェンスを挟んで対峙していることになっている。いつもはそうだ、しかし今回はその必要があるのかないのかを考えてるところなんですよ」


見た目は単純そうだが抜け目のないケリガンは感じのいい目でじっと見た。「どういう腹だい?」ケリガンは言った。「いい話があるんならいつでも聞くよ」


「つまり、こういうことですよ」ギルギャンは感触をさぐりながら始めた。「あなたのベストのポケットには立派で大きな選挙区が入ってる。周知の事実だが、ティアーナンもだ。もしあなたと彼の活躍がなかったら、毎回民主党の市長が選出されないことも周知の事実だ。まあ、この件を調べて思ったんだが、あなたもティアーナンもそれだけのことをしている割に、意外と取り分は大したことないですね」


ギルギャンはしばらく間をおいたが、ケリガンは慎重を期すあまりそれについて何も言わなかった。


「つまりね、私に一つ計画があるんですよ。受ける受けないは、あなた次第で、どちらになっても恨みっこなしだ。今度の秋は共和党が勝つと思うんですよ……マッケンティか反マッケンティか……一区、二区、三区は、我々かそうでないか、を選ぶんです。あの大物と」……マッケンティのことを言っていた……「ノースクラーク・ストリートの相棒」……ギルギャンは時々少し謎めいた言い方をした……「のやっていることは今に大変なことになりますよ。あなただって新聞の論調はわかってるでしょう。私はたまたま、この鉄道屋を毛嫌いする大物投資家たちが、この勝負にいくらでも金をつぎ込んでくれるってことを知ったんですよ。私にわかるのは、ラサールとディアボーン・ストリートの資産家の面々ってことです。理由はわかりませんがね。でも、そういうことなんです。多分あなたの方が私よりも詳しいでしょう。とにかく、今はそういうことになってるです。現状でもともと共和党の区が八つあって、いつも予断を許さない区がさらに十あることを加えて考えれば、私が言いたいことがわかってくるでしょ。この今言った十の区は除外して、確実に勝つ八つの区だけに賭けるんです。すると、我々共和党が常にあなたがたに敗れた二十三の区が残る。だが、そのうちの十三の区と、私が問題にしている八つの区を何とか制すれば、議会で多数派になる、そして」……ピシッ! と指を鳴らした……「さよならだ……あなたがた、マッケンティも、クーパーウッドも、残りの全ても。もう運営権も、道路の舗装契約も、ガスの事業も認められない。何もできない……とにかく二年間は。まあ、その後もでしょう。我々が勝てば、仕事もうまみのある取引もこっちのものだ」ギルギャンは話をやめて、楽しそうだがいどむようにケリガンを見た。


「さっき街中を回ってみたんです」ギルギャンは続けた。「一区一区くまなくね。だから、自分の言ってることが何となくわかるんです。今回は全面戦争をやるだけの人材も資金もある。今年の秋は我々の勝ちです……私とラサール・ストリートの大物たちと、共和党でも、民主党でも、禁酒法支持者でも、我々に味方する者はみんながです……あなたはこっちにつきますか? 我々はシカゴがこれまで経験したことがない最大の政争を仕掛けるつもりです。今はまだ名前を明かせないが、その時が来ればわかりますよ。それで、私があなたに頼みたいのはこれです。私は言葉を濁したり、まわりくどい言い方をするつもりはない。あなたとティアーナンは、私とエデストロムと組んで市政を引き継ぎ、次の二年間の運営にあたりませんか? あなたが味方すれば、我々は圧勝できる。そのときは全てを山分けです……警察、ガス、水道、道路、路面鉄道、何もかも……事前に分けて白黒つけておきましょう。あなたとティアーナンが一緒に働くのは知っています。さもなければこんな話はしません。エデストロムには思いどおりに配置できるスウェーデン人がいる。この秋はそれで二万票獲得するでしょう。アンゲリッヒにはドイツ人票がある。我々の仲間が、後で彼と取引をして、彼の望む役職を何なりと与えるかもしれない。もしも今回勝てば、とにかくどう見ても六年か八年は市政を牛耳れる。それからは……まあ、あんまり先走りすぎても無駄だな……とにかく、議会で過半数を握って市長を支えるんです」


「もしもか……」ケリガンは冷淡に言った。


「もしもですよ」ギルギャンは説き伏せるように応じた。「あなたの言うとおりです。ここに大きな『もしも』がつくのは認めますよ。しかし、この二つの選挙区が……あなたのとティアーナンのところが……万が一、共和党にとられたら、他の区の四つか五つ分に相当するでしょうね」


「そういうことだ」ケリガンは答えた。「もし共和党にとられたらな。しかし無理だな。いずれにせよ、あなたは私にどうしてほしいんです? 議席を明け渡して、民主党から追い出されろっていうんですか? どんな魂胆なんですか? 私を馬鹿にしてんじゃないでしょうね?」


「『エメラルド・パット』の異名をもつ男には申し訳ないが」見え透いたお世辞でギルギャンは答えた。「そんなつもりはない。誰もあなたに議席を失えとも、民主党から追い出されろとも頼んじゃいませんよ。あなたは当選して、残りの候補が落選して、どこが困るんですか?」ギルギャンは『裏切れ』と言ったも同然だった。


ケリガンは微笑んだ。以前からシカゴのことで不満はあったが、ギルギャンの話がこんなことにつながるとは思ってもみなかった。これは興味深い考えだった。『裏切り』なら経験があった……落選すればいいと思う特定の候補ならあちこちにいた。もしも民主党がこの秋に負ける危険があるのなら、そして、ギルギャンが本心から分割統治を望んでいるのであれば、まんざら悪い話ではないかもしれない。クーパーウッドも、マッケンティも、ダウリングも、これまで何か特別な形で自分を優遇したことはなかった。もしも自分のせいで彼らが負けても、自分さえずっと権力を維持できていれば、彼らは自分を相手に話をつけなければならないのだ。自分を突き放すわけにはいかないのだ。立候補者を裏切っても構わないのではないか? これは控え目に言っても、考えてみる価値があった。


「とてもすばらしい話だ」ひととおり考えてから、ケリガンは冷淡に言った。「しかし後であなたが豹変して協定を反故にしないとどうして私にわかる?」(こう言われてギルギャンはいらっとした。)「デイブ・モリッシーは四年前に助けを求めて私のところへ来たよ、後でとんだ思いをしたがね」ケリガンは、郡書記官になるのを手伝ってやったのに、自分が見返りに交通局の局長に就任する支持を求めに行ったら、手のひらをかえした男のことを言っていた。モリッシーは重要な政治家になっていた。


「言うのはとても簡単だ」ギルギャンは怒って答えた。「でも、私はそんなんじゃない。私の区の誰にでも聞いてみるがいい。私を知る人間に聞いてほしい。もしあなたが一筆書くのなら私も協定の自分の責務を明記しよう。もし私が履行しなかったら、後で暴露したまえ。私の支援者たちに引き合わせますよ。資金をお見せします。今回は現物があるです。いずれにしても、あなたが何を失うんです? 投票用紙を破棄したって向こうはあなたを追い出せないんですよ。証明できないんですから。我々は公正な投票に見せかけるために、ここに警察を入れます。向こうがこの選挙区につぎ込む以上の資金をかけるんですよ」


ケリガンは急にこれは大成功するとわかった。ケリガンはここでいわゆる汚い仕事をするために民主党から二万から二万五ドルを『引き出す』ことができた。ギルギャンはそれ以上出すという……これは由々しき事態だ。いずれにしても、求められる得票数は、一万五千から一万八千は必要になる。最後の瞬間、投票箱に詰め込みをする前に、市の大勢はわかるのだ。共和党が有利に見えたら、さっさと勝利を確定して、部下が買収されたと文句を言えばいいのだ。民主党が確実に見えれば、ギルギャンを放り出して資金をいただけばよかった。どっちに転んでも、二万五千から三万ドルが手に入って、自分は議員のままなのだ。


「いいことずくめだが」ケリガンは感じてもいない退屈を装って答えた。「それにしてもえらくややこしい仕事だな。もし勝てたとしても、そんなことにかかわりたいとは思わないし。確かに市役所の連中は、あまり私の手のひらで踊ってくれなかったが、ここは民主党王国で、私は民主党員だからな。もし私が党を捨てたことが知れたら、それは生涯私について回るんだ」


「私は約束を守る人間です」ギルギャンは立ち上がりながら力強く宣言した。「これまでの人生だって、人も賭けも投げたことはありませんよ。十八区の記録を見てください。私がそんなことをしたと言う話を聞いたことがありましたか?」


「ああ、聞いたことないな」ケリガンは穏やかに答えた。「しかしあなたが提案している内容は、かなり大きなものだからね、ギルギャンさん。これをどう思ったかを即答しようとは思いませんね。この選挙区は民主党のはずなんですから。これが大騒ぎにならずに、共和党への鞍替えができるわけがない。あなたはまずティアーナンに会ってみて、彼の言い分も聞いた方がいい。その後でなら、この先の話をしてみたくなるかもしれないな。しかし今は駄目だ……今はね」


ギルギャンは意気揚々と引き上げた。全然落ち込んでいなかった。



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