表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨人  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
31/62

第31章 厄介な発覚


ハグエイン編集長がセシリーとクーパーウッドの関係を発見したのは、この世の中の騒ぎと、その後にあった公聴会と同じ時期だった。発端は、もはやこの問題でクーパーウッドと争う気をなくしていたアイリーンではなく、ハグエインの社交界担当の女性編集者だった。出どころ不明の社交界の噂を聞きつけるこの女性は、ハグエニンにはいろいろ便宜を図ってもらった恩義があったので、単刀直入に彼の耳に入れた。報道の仕事をしている割りに世間知らずなハグエインはこれを真に受けなかった。クーパーウッドはとても上品な仕事人間だった。彼について……過去の話を……いろいろ耳にしてはいたが、自分が見たところ、シカゴでのクーパーウッドの現状は、この種のつまらない問題を起こすようには見えなかった。しかし自分の娘の名前が出てきたので、セシリーに問いただしたところ、娘は問い詰められて白状した。自分は大人なんだから、自分の人生を生きたいといつもの言い訳をした……主にクーパーウッドの考え方から得た理屈だった。ハグエインはセシリーをネブラスカの叔母のところに送ろうと思って最初は何もしなかったが、娘が言うことをきかないとわかり、十万ドルにおよぶ手形を裏書きしくれたクーパーウッドの反撃や報復を恐れて、まず問題を検討することにした。つまりは、関係を断ち切ることと、何かと不自由になる資金繰りの見直しを迫られることになるが、やらざるをえなかった。クーパーウッドがセシリーに関する最新の動きをまだ知らずにいて、ハグエインと話し合うために多少変更の幅をもたせた審議の計画を持って電話で昼食に誘った時、ハグエインはちょうど彼のところへ出向こうとしていた。ハグエインは非常に驚いたが、ある意味ではほっとした。「こっちは忙しいですね」ハグエニンはかなり重苦しい気分で言った。「でも今日中に事務所までお出で願えませんか? ちょっと会いたい用件があるんです」


クーパーウッドは自分の利益になるかもしれない何かの報道か地元の政治の進展があったと想像して、四時ちょっと過ぎに約束をいれた。〈プレス〉ビルにある新聞社まで出かけると、険しい顔ですっかり消沈した男に迎えられた。


「クーパーウッドさん」颯爽と、元気に、温厚な余裕のあるいつもの雰囲気を全身に漂わせて資本家が入室すると、ハグエインは切り出した。「あなたと知り合いになって、もうかれこれ十四年になります。その間、私はあなたに敬意と善意しか示してきませんでした。確かに最近あなたは財政面でいろいろ便宜を図ってくれました。それは何よりもあなたが私に抱いた真摯な友情のおかげだと思ってました。まったくの偶然ですが、私はあなたとうちの娘の間に存在する関係を知りました。最近、娘と話したところ、私が知らねばならぬことをすべて認めました。人並みの良識があったら、あなたが堕落させた女性のリストから、うちの娘を除外してもよさそうなものなのですが。そうでなかった以上、これだけは言っておきたい」……ハグエイン氏の顔はとても緊張して蒼白だった……「あなたと私の関係は終わりました。あなたに裏書きしていただいた十万ドルは、早急に別の形で手配します。だからあなたが担保として持っているうちの新聞の株は私に返してほしい。クーパーウッドさん、違うタイプの人間は苦しみ方が違うのかもしれませんね。あなたは子供がいないか、いても親の心がないんだと思います。さもなければ、こんな風に私を傷つけることはできなかったはずです。生きていくうちにわかるでしょうが、こんなことはシカゴだろうが他のどこだろうが報われませんよ」


ハグエインはゆっくりと自分の机に向き直った。クーパーウッドはまつ毛ひとつ動かさず、とても辛抱強くじっと話を聞いて、こう言っただけだった。「ハグエニンさん、どうやらこの問題であなたと私が理性的に折り合える共通の立場はなさそうです。あなたには私の考え方が理解できないでしょう。私だって、おそらくあなたの考え方はできません。ですがご希望どおり、私の裏書きを引き取り次第、株はあなたにお返しします。それ以上は言えません」


こういう立派な人物の支持を失うのは手痛かったが、なくてもやっていけると思いながら、クーパーウッドは振り返って気にせず歩き出した。親が娘に向かって、そういうものになってほしくないと言い張るのは馬鹿げていた。


クーパーウッドが帰った後ハグエインは机のそばに立ち、どこで十万ドルを工面したものか、どうしたら娘に自分の非をわからせることができるか、悩んだ。友人の家で受けたのは驚愕の一撃だったと彼は思った。二つの新聞を大成功させているウォルター・メルヴィル・ヒソップなら手を差し伸べてくれるかもしれない、〈プレス〉がもっと順調になったら後で恩返しできるかもしれない、と思いついた。ハグエニンは人生と偶然のことで途方に暮れながら家に向かった。一方、クーパーウッドは〈シカゴ信託〉に行ってビラーダと協議し、その後帰宅して、この失点をどう補うかを考えた。セシリー・ハグエニンの立場と運命は、この時の彼の脳裏にあった他のどの問題と比べてもそれほど重要ではなかった。 

 


最近、著名な投資家であり資本家の妻のホズマー・ハンド夫人と築いた関係を考える方がそれよりもはるかに重要だった。ハンドは堅実で、粘液質で、思慮深い人物だが、数年前にとても貞淑だった最初の妻を亡くしていた。その後、数年間は孤独な投機家で、自分の大きな仕事に専念していた。しかし最後には、巨万の富と、かなり立派な容姿と高い社会的地位のおかげで、ジェシー・ドルー・バレット夫人に散々たらし込まれて、娘のキャロラインと結婚することになった。賢い、切れ者で、計算高くて、かなり陽気な、颯爽と跳ね回る娘だった。社会的な野心があったので、大した愛情はなくても、ハンドの巨万の財産と、夫が死んだら自分の立場がどれほど恵まれたものになるかを考え、鈍くさくて若さのない容姿にあっさり目をつむり、恋人として見ることができた。もちろん、批判はあった。ハンドは犠牲者で、キャロラインと母親は跳ねっ返りとか、性悪女だと思われた。しかしこの裕福な資本家が実際に罠にはまっていたので、友人や将来の取り巻きたちは丁重に接しなければならず、そのように振る舞った。結婚式はとても盛大に行われた。ハンド夫人は景気よく、ハウスパーティー、ティーパーティ、ミュージカル、レセプションを催し始めた。


クーパーウッドは路面鉄道の計画が軌道に乗るまで、彼女にも夫にも会ったことがなかった。急遽二十五万ドルが必要になって、〈シカゴ信託〉や〈レイクシティ銀行〉などには自分の有価証券が大量にあったことに気づき、ふとハンドを思いついた。クーパーウッドは日常的に巨額の債務者だった。彼の手形は大量に出回っていた。こうやって頻繁に有力者に自分を紹介してまわり、状況に応じて高利でも低利でも、長期でも短期でも融資を受け、時には一緒に仕事をしたり利用できる相手を見つけていた。ハンドの場合、表向きは敵陣営……シュライハートとユニオン・ガスとダグラス信託のグループ……だったが、それでもクーパーウッドは彼のところに行くことを躊躇しなかった。悪い印象を克服したい、防ぎたいと考えた。抜け目ないが正直な性格の真面目な人間のハンドは、たくさんのよからぬ噂を聞いていたが、公平な立場に立ち、最もいい面を考えがちだった。ひょっとしたら、クーパーウッドは嫉妬深い敵のただの犠牲者だったのかもしれない。


クーパーウッドが初めてルークリイビルの事務所を訪れたとき、ハンドはとても親身になってくれた。「お入りください、クーパーウッドさん」ハンドは言った。「あちこちで……主に新聞だが……あなたの評判は随分耳にしてますよ。どういったご用件でしょうか?」


クーパーウッドは五十万ドル分の〈ウエスト・シカゴ路面鉄道〉株を持参していた。「明日朝までにこれで二十五万ドルを用立ててもらえないか知りたいんです」


穏やかなハンドは和やかにその株券を見た。「ご自身の銀行はどうしたんですか?」〈シカゴ信託〉のことを言っていた。「そちらではあなたのお力になれんのですか?」


「ちょうど今、別口でいっぱいなんですよ」クーパーウッドは取り入るように微笑んだ。


「新聞の言うことを鵜呑みにできるのなら、あなたはここらの道路やシカゴや自分まで破壊するつもりらしいが、私は新聞を頼って生きてるわけじゃない。期間はどのくらいですか?」


「六か月もあれば。よろしければ、一年でお願いします」


ハンドは金印を眺めながら株券をひっくり返した。「金利六パーセントのウエスト・シカゴの優先株五十万ドル分か」ハンドは言った。「あなたは六パーセントも稼いでいるんですか?」


「今のところは八ですね。あなたが生きているうちに、これが二百ドルで売れて、十二パーセントの配当がつく日が見られますよ」


「しかも、元の会社の発行株を四倍にしたんですよね? まあ、シカゴは発展していますからね。明日までここに置いておくか、持ち帰ってください。人をよこすか、連絡をくれれば、お返事しましょう」


二人はしばらく路面鉄道や会社のことを語り合った。ハンドはシカゴ西部の土地……レーベンズウッドに隣接する一画……について知りたがった。クーパーウッドは最高の助言をした。


その翌日、電話したところ、ハンドは株券をひきうけると返答した。小切手を送るつもりでいた。こうして暫定的な親交が始まった。これはクーパーウッドとハンド夫人との間に関係ができて発覚するまで続いた。


キャロライン・バレットは自分から合図を送ることもあったことなどから、クーパーウッドと同じくらい落ち着きがなくて移り気だったが、あまり賢くはなかった。社会的野心を抱く彼女は、社会的慣習にはしばられなかったし、ハンドを大切に思っていなかった。結婚したらせいぜい羽根を伸ばして、ほどほどに自分の労をねぎらうつもりだった。彼女とクーパーウッドとの関係は、湖を見渡すノースショア・ドライブにあるハンドの豪邸での晩餐から始まった。クーパーウッドは彼女の夫といろいろなシカゴの問題を話し合うために来ていた。ハンド夫人はクーパーウッドが流す浮名に胸をときめかせた。真っ白い歯、紅を差すのをためらわないときがある赤い唇、茶色の髪、陽気で物を探しているような反抗的な光を宿した小さな茶色い目の小柄な女性で、面白く、賢く、気を利かそうと精一杯頑張って実現していた。


「いずれにしても、フランク・クーパーウッドの評判は存じ上げてます」ハンド夫人は小さな白い宝石で飾った手を伸ばして声高に言った。爪の甘皮がヘナで染まり、手のひらは少し赤かった。目はギラギラし、歯はキラキラした。「シカゴの新聞って他に読むところがありませんしね」


クーパーウッドは最高に人を引き付ける笑みを返した。「お目にかかれて光栄です、ハンドさん。私もあなたの記事を読みましたよ。でも新聞の私の記事は鵜呑みにしないでほしいですね」


「鵜呑みにしても、あなたへの私の評価は傷はつかないわ。することは、このところ話題にされることでしょ」


ハンドの力を借りたかったので、クーパーウッドはいいところを見せていた。月並みな会話にとどめていたが、その間中ずっとハンド夫人とこっそり気づかれないように微笑みを交わしていた。すぐに夫人が金目当てでハンドと結婚したことに気がついた。多少嫉妬しながら様子を探って、とにかく楽しいひとときを過ごそうとした。監視され逃げ出したいと願う人が抱くある種の熱い思いがある。それは解き放たれるチャンスがあると、楽しそうに電気がつくようにパッと明るくなる。ハンド夫人はまさにこれだった。女性のこの問題にかけては昔から詳しいクーパーウッドは、夫人の手、髪、目、笑顔を研究した。少し考えてから、他の条件が同じなら、ハンド夫人はうってつけだ、夫人が自分に大いに関心を持つなら、自分の方でも関心を持つことはできると判断した。胸の内を語っている目と微笑みと、紅潮した頬の色が、しばらくすると、夫人がその気であることを物語った。


初めて出会ってから間もないある日のこと、街でクーパーウッドに会った夫人は、ウィスコンシン州オコモノウォックの友人を訪ねるつもりでいることを伝えた。


「あなたは夏場にそんな北の果てまで行くことはないわよね?」夫人は気取って尋ねて微笑んだ。


「行ったことないけど」クーパーウッドは答えた。「からかわれたら何をしでかすかわかりませんよ。乗馬やカヌーはやるんでしょ?」


「ええ、テニスだって、ゴルフだってするわ」


「しかし私のようにただぶらっと遊びに行く者は、どこに泊るんでしょう?」


「あら、いいホテルがいくつもあるわ。その辺の心配は無用よ。あなたは乗馬をするんでしょ?」


「一応は」ベテランのクーパーウッドは答えた。


その後、ある日曜日の朝早く、ウィスコンシンの色づいた丘陵地帯で、馬に乗ったフランク・アルガーノン・クーパーウッドとキャロライン・ハンドの偶然出会う姿が目撃された。楽しそうにレース用のゆるい駆け足で並走し、人や風景や便利なものについて無駄話をした。クーパーウッドがいつものように率直に口説いて、愛を交わし、それから、その後はというと……


こう言っていいものかどうか、その後、決算の日が訪れた。


ひょっとしたら、キャロライン・ハンドは後先のことを全然考えていなかったのかもしれない。本気で愛していなくてもクーパーウッドのことが大好きだった。クーパーウッドが彼女を面白いと思ったのは、主に、若くて、気立てがよく、しっかりしていて、新しいタイプだったからだ。やがて二人はウィスコンシンではなくシカゴで会った。次はデトロイト(夫人の友人がいた)その次は妹が移住したというロックフォードだった。時間も金もあるクーパーウッドにとっては簡単だった。最後に、クーパーウッドのこともその評判も知っているドゥエーン・キングスランドという信心深くて、道徳に厳しい、古い価値観を持つ小麦粉の卸売り業者が、ハンド夫人とクーパーウッドに出くわした。最初はある夏の日にオコモノウォックの附近で、次はランドルフ・ストリートのクーパーウッドの独身者向けアパートの近くだった。自分は男であり、ハンド老人をよく知っているのだから、彼の妻がクーパーウッドと親密な知り合いなのかを尋ねるのが義務だと考えた。ハンド家は大騒ぎになった。夫と対峙したハンド夫人は、自分とクーパーウッドとの間に何かの間違いあるという話を当然否定した。年老いた夫は、妻の態度にあったある種の自明の興奮と鬱憤から、これを信じなかった。ハンドはクーパーウッドと対峙しようと一度は考えた。しかし厳しく現実的になり、彼との仕事の関係をすべて断ち切って、別の方法で戦おうと最後に決断した。ハンド夫人は厳重に見張られ、買収されたメイドが、夫人がクーパーウッドに書いた古い手紙を発見した。数年前に一度バトラー老人がアイリーンを行かせようと試みたのと同じで、妻をヨーロッパへ行かせようする説得は猛反対にあった。しかし行くことになった。ハンドは友好的ではないにしても中立だったのに、すべてのクーパーウッドのシカゴの敵の中で最も危険で手強い相手になった。彼は強力な男だった。その怒りは果てしなかった。彼は今、クーパーウッドを、邪悪で危険な男……シカゴから排除すべき男……と見ていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ