第28章 ステファニーの正体
かといって自分の交友関係を調整してクーパーウッドを裏切らないようにしようという考えは、この後もステファニーの頭に浮かばなかった。ステファニー・プラトーを責めるのはよそう。彼女は不安定な化学物質であり、指の先まで美しく、家族に理解されず、きちんと保護されなかった。クーパーウッドと彼の実力と才能への関心は大きかった。フォーブズ・ガーニー……彼を包む詩の雰囲気……への関心も大きかった。ステファニーは二人が会ったいろいろな機会に、興味を持ちながら相手を観察して内気で引っ込み思案だと気づくと誘惑を始めた。ステファニーはガーニーを孤独で鬱屈し貧乏なんだと感じた。すると女らしい同情心が自然に優しい態度をとらせた。
彼女の目的は簡単に達成された。ある夜、ブリス・ブリッジの一本マストの船……快走帆船……で、みんなが出かけたときのこと、ステファニーとフォーブス・ガーニーはマストの前方に座って、真正面にある銀色の月の軌道を見ていた。残りの連中は操舵室で羽目を外していた……笑ったり歌ったりしていた。ステファニーがフォーブズ・ガーニーに興味を持ち始めていることは誰の目にも明らかだった。彼は魅力的で、彼女は奔放だった。時々その進展に茶々が入るのを除けば、二人を邪魔するものは何もなかった。ガーニーは恋愛が初めてで、この幸運の受けとめ方も、始め方もよく知らなかった。北西部の小麦畑での生活や、三歳の時にオハイオから家族が移住した経緯や、毎日の労働がどんなに大変だったか、をステファニーに語った。日に何度も畑仕事の手をとめて、木の下にたたずんで詩を書いた……大したものではなかった。あるいは鳥を観察したり、大学かシカゴへ行けたらいいのにと願った。ステファニーは夢見る目で相手を見た。月明かりを浴びて色黒の肌が青銅色に変わり、黒髪は妙に明るい灰青色で輝いた。どこからどう見ても美しいことに気がつくと、フォーブズ・ガーニーはようやく思い切って彼女の手に……ノールズ、クロス、クーパーウッドの女に……触れた。ステファニーは頭のてっぺんからつま先までぞくぞくした。この青年はとてもすてきだ。縮れた茶色い髪がギリシャ人的な天真さと印象を与えた。ステファニーは動かなかったが、相手の先の動きを期待して待った。
「自分が感じるままを話せたらいいのに」ようやくガーニーは声をからして喉につかえていたことを口にした。
ステファニーは片手を彼にのせて
「あなた、すてきよ!」と言った。
ここでガーニーはしてもいいのだとわかった。すさまじい恍惚感が彼を襲った。ガーニーは相手の手をなで、腰に腕をまわし、自分からそむけて夢の方を向いている色黒の頬に思い切ってキスをした。ステファニーの頭部がたらし込むように彼の肩に沈んだ。ガーニーは興奮のあまり取りとめのないことをつぶやいた……何てすてきなんだ、美しいんだ、すばらしいんだ! ステファニーが思うに、結末は一つしかありえなかった。相手をうまく誘って、自宅へ呼び寄せ、最上階の居間で自分の本や演劇を研究させ、歌を聞かせた。いったん抱かれてしまえば、あとはほのめかすだけで済んだ。ガーニーはもうステファニーが純潔ではないことを知った。するとそれからは……
その一方でクーパーウッドは、大きな動力施設や、巨大なピストンエンジンや、現在二千人で中にはストライキで威嚇する者もいる従業員の賃金体系の問題や、ラサール・ストリート・トンネルと、ラサール、マンロー、ディアボーン、ランドルフの各通りを走るダウンタウン・ループの確保、契約、整備の問題について考えながら、ステファニー・プラトーがしていそうなことを心の中で問いかけ想像していた。時々会う約束しかできなかった。クーパーウッドは彼女が日々の所在と自由に付き合っている相手について書き送った情報を利用するようになってから、ガードナー・ノールズ、レーン・クロス、フォーブズ・ガーニーの話題が減って、ジョージア・ティンバーレーク、エセル・タッカーマンの話題が増えたことに気づかなかったわけではなかった。なぜ急に減ったのだろう? ある時、フォーブズ・ガーニーのことで「彼は苦労しているのよ、服だって何もそこまでというほどよくないものなの、かわいそうに!」と言った。クーパーウッドの贈り物のおかげで、ステファニー自身はこのところ華やかだった。好みの持ち衣装を完成させるだけのものをもらっていた。
「私のところに来させたらどうだい?」クーパーウッドは尋ねた。「彼のために何か見つけられるかもしれない」自分がずっと行動を管理できるようなどこかの部署に配置してしまおうとすっかりその気だった。しかしガーニー氏は職を探していなかった。ステファニーは彼の貧困を話題にするのをやめた。六月にステファニーに二百ドル贈ったあと、ワシントン・ストリートで彼女とガーニーに偶然出くわした。青白くて感じのいいガーニー氏は実に立派な服装だった。飾りのピンをつけていた。クーパーウッドはそれが昔ステファニーのものだったのを知っていた。ステファニーは全く慌てなかった。最後にステファニーは、夏の間ニューハンプシャーに出かけたレーン・クロスがアトリエの管理を自分に任せたことを打ち明けた。クーパーウッドはこのアトリエを見張ることに決めた。
この時クーパーウッドが雇っていた者の中にフランシス・ケネディという名前の野心家で目端が利く二十六歳の若い新聞記者がいた。クーパーウッドと彼の計画を解説し、彼がいかに非凡な人物であるかを指摘しながら、とても高度な記事を〈サンデー・インクワイヤー〉に書いたことがあった。これがクーパーウッドを喜ばせた。いつだったかケネディが、報道の仕事から足を洗いたいとはっきり表明して、路面鉄道の業界で何かやることがありませんかと尋ねてやって来たとき、クーパーウッドは彼が役に立つ道具になるかもしれないと思った。
「しばらく秘書として試してみるよ」クーパーウッドは快く言った。「やってほしい特別な仕事が少しばかりあるんだ。それをうまくやってくれたら、後で何か他の仕事を見つけてあげてもいい」
ケネディが自分の下で働くようになってまだ日が浅いある日のこと、クーパーウッドは言った。「フランシス、新聞業界でフォーブズ・ガーニーという名の青年を聞いたことがありますか?」
二人はクーパーウッドの私室にいた。
「ございませんが」フランシスは歯切れよく答えた。
「ギャリック劇団という団体について聞いたことがありますね?」
「はい」
「では、フランシス、私のためにちょっとした探偵の仕事を賢く穏便にやれますか?」
「できると思います」フランシスは言った。今朝は茶色のスーツ、深紅色のネクタイ、紅玉髄のカフス・ボタンという非の打ち所がない出で立ちだった。靴は完璧に磨き上げられ、若くて健康な顔は輝いていた。
「あなたにやってもらいたいことを話そう。ステファニー・プラトーという名前の若い女優、というかアマチュア女優がいて、ニューアーツビルのクロスという名前の画家のアトリエによく出入りしている。彼女はそいつの留守中にそこを使うかもしれない……その辺はわからない。ガーニー氏とこの女性の関係をあなたに調べてほしいんです。ある仕事で、知っておく理由があるんだ」
ケネディ青年は全神経を集中した。
「まずは、このガーニー氏について、どこで調べられるのか、教えていただけませんか?」ケネディは尋ねた。
「そいつはガードナー・ノールズという名前の評論家の友人だと思う。彼に聞いてみたらいい。私の名前を出してはいけないことは言うまでもないね」
「ええ、よくわかってます、クーパーウッドさん」ケネディ青年は考え事をしながら出発した。これをどうしようというのだろう? 本物の取材の腕前を発揮して、まず他の新聞関係者にあたった……こっちから少々、あっちからも少々……ギャリック劇団の特徴と、そこに所属している女性たちについて学んだ。ケネディは一幕ものの劇を書いていてそれを自分で制作したがっているふりをした。
それから、レーン・クロスのアトリエを訪れ、新聞の取材を装った。クロス氏は町にいないとエレベーター係は言った。アトリエは閉鎖されていた。
ケネディ氏はこの事実についてしばらく考えた。
「夏の数か月の間に、誰かがそのアトリエを使いますよね?」と尋ねた。
「確か、ここに来る若い女性がいるな……ええ」
「それが誰なのか、ひょっとして知りませんか?」
「知ってますよ。名前はプラトー。一体、何を知りたいんですか?」
「ほら、これなんだが」ケネディは本気で説得しよという目で、かなりみすぼらしいなりの係員を値踏みしながら声高に言った。「ちょっとした小遣い稼ぎをしたくないですか……五ドルか十ドル、そっちには迷惑かけませんよ」
週給八ドルぴったりのエレベーター係は耳をそばだてた。
「このプラトーさんと一緒に来るのは誰なのか、いつ来るのか……そういうことを全部知りたいんだ。知りたいことがわかったら、十五ドル出そう、先に五ドル渡すよ」
エレベーター係はその時ポケットに六十五セントしか持っていなかった。男は多少の不安と多くの欲望を抱えてケネディを見た。
「といっても、何ができるかな?」男は繰り返した。「俺は六時過ぎたらここにいないんだ。六時から十二時までは、管理人がエレベーターを動かすんですよ」
「この近くのどこかに空き部屋はないかな?」ケネディは試しに尋ねてみた。
係員は考えた。「ああ、あるな。ちょうどホールの向こうに一つある」
「女はいつも何時に来るんですか?」
「夜のことは知らんけど、日中は午前中の時もあれば午後の時もあるな」
「連れの様子は?」
「男ひとりの時もあれば、女の子が一人か二人の時もあるな。本当のところ、そんな人を気にしたことないですからね」
ケネディは口笛を吹きながら立ち去った。
この日からケネディ氏はこのいつどうなるかわからない状況の監視役になった。主にガーニー氏の出入りを観察しながら出たり入ったりした。ケネディは自分が普通に疑ったとおりの事実をつかんだ。ガーニー氏とステファニーは変な時間に何時間もここで費やした……たとえば友人グループが楽しんだ後、ガーニーを含めた全員が立ち去ってから、ガーニーはこっそり戻ってきた。ステファニーが他のメンバーと一緒に立ち去ったときはステファニーと一緒に、後に残っていたときは独りで戻ってきた。来ても滞在時間はまちまちだった。ケネディは完全に正確に、曜日、日付、滞在時間を記録し、書き留めたものをクーパーウッド宛の密封した封筒に入れて朝のうちに届けた。クーパーウッドは激怒した。しかしステファニーへの関心が大きすぎて行動できなかった。彼女がどこまで嘘を突き通すか確かめたかった。
この状況の変化とそれがクーパーウッドに与えた影響は大きかった。彼の頭脳は日中働き詰めでも、絶えず思いが舞い戻ってくるのだった。彼女はどこにいるのだろう? 何をしているだろう? 平気で嘘がつけるところなど自分を思わせるものがあった。とりわけ自分が街を発展させる立役者として輝いているこの時期に、ステファニーが自分より他の誰かを好きになることばかりを考えていた。老いと、若者に完全に追いやられた感があった。それが身を切り痛いほどだった。
ある朝、彼女のこと考えて異様に腹立たしい夜を過ごしてから、クーパーウッドはケネディに言った。「ひとつ提案がある。現地で協力してもらっているこのエレベーター係に、このアトリエの合い鍵を調達させて、内側にかんぬきがあるかどうかを確認してもらいたい。うまくいったら知らせてくれ。鍵は私によこしてほしい。次に彼女がガーニーと一緒の晩があったら、すぐに電話してくれ」
ヤマ場はこの気の進まない調査が始まって数週間後のある夜に来た。空には真っ黄色な月があり、暖かく甘美な夏の風が吹いていた。ステファニーは四時頃オフィスにいるクーパーウッドを訪ねて、行きがかりで計画したダウンタウン行きの代わりに、ジョージア・ティンバーレークのガーデン・パーティーに出席するからウエストサイドの自宅へ行くと告げた。クーパーウッドは……彼にしては……陰気な目で相手を見た。明るく、和やかに、楽しい冗談に徹していたが、その間ずっと、何て恥知らずな得体の知れない女だ、うまく自分の役を演じたものだ、随分馬鹿にしてくれたものだ、と考えていた。彼女の若さ、情熱、魅力、生まれつき貞操観念がないことをそれなりに評価した。しかし、他の大勢がそうしたように、自分を完全に愛さない彼女を許すことはできなかった。ステファニーは夏らしい白と黒のドレスを着て、すてきな茶色の麦わら帽子をかぶっていた。左耳をおおうフレアーには真っ赤なヒナゲシが飾られて、白と黒のシルクの独特なフリルが山の部分を囲んでいた。その様子は妙に若く、屈託のない、ヘブライ人とアメリカ人らしさを感じさせた。
「楽しい時間を過ごせそうかい?」クーパーウッドは得体の知れない不可解な目つきで相手を見ながら、優しく、気取られぬように尋ねた。「すてきな取り巻きに囲まれて輝きそうだね! みんなが……ブリス・ブリッジ、ノールズ、クロスが、きみとダンスをしようと並んでいそうだね?」
ガーニー氏を加えそこねた。
ステファニーは楽しそうにうなずいた。無邪気な外出気分に見えた。
クーパーウッドはほくそ笑んだ。そのうちに……おそらくごく近いうちに……必ず目に物見せてやると考えていた。ステファニーの嘘を見破るつもりだった。言い逃れできない状況に追い込むつもりだった。どこかで、多分このアトリエで、軽蔑して捨てるつもりだった。昔のトルコに住んでいたら、この女を絞め殺して、袋に詰めにして、ボスポラス海峡に投げ込んでやっただろう。今では捨てるくらいしかできなかった。クーパーウッドは彼女の手をなでながら何度も微笑んだ。立ち去りぎわには「楽しんでおいで」と声までかけた。その後は自宅にいた……真夜中になろうという頃……ケネディ氏が電話をよこした。
「クーパーウッドさん?」
「そうだ」
「ニューアーツビルのアトリエをご存知ですね?」
「ああ」
「今、中にいます」
クーパーウッドは使用人を呼んで馬車を用意させた。ダウンタウンの鍵屋に、柄の先端に穴の空いたツメがある丸い鍵を作らせてあった。溝が彼の持つアトリエの鍵の先端にぴったりはまって、外から簡単に回るようになっていた。クーパーウッドはそれがポケットにあるのを確認すると、馬車に飛び乗り、先を急いだ。ニューアーツビルにたどり着くと、ホールでケネディを見つけて帰らせた。「ご苦労さん」無愛想に言った。「あとは私がやる」
エレベーターを避けて、階段を駆け上がり、向かいの空き部屋へ行き、それからアトリエのドアを探った。ケネディが報告したとおりだった。ステファニーはそこにいて、ガーニーと一緒だった。青白い詩人は、彼女に喜びの一夜を与えるために、そこに連れ込まれていた。この時間は建物が静かなので、二人のこもった声が交互に話すのと、一度ステファニーが曲の繰り返し部分を歌うのが聞こえた。クーパーウッドは怒っていたが、相手がわざわざご丁寧に足を運んで、夏の野外パーティーとダンスに行くと知らせてくれたことに感謝した。相手の驚く様子を考えながら、残忍に冷笑した。そっとツメのついた鍵を取り出して、中に先端が隠れて回るくらいまで差し込んだ。音もなく、しっかり反応した。次にノブを試しに回してみると、ドアに少しバネが効いているのを感じた。それから、すっかりおなじみの喉を鳴らすような笑い声のおかげで、気取られずにドアを開けて踏み込んだ。
無礼を承知ではっきり咳払いをすると、二人は跳ね起きた……ガーニーはカーテンの奥、ステファニーはソファーのカバーの陰に隠れた。ステファニーは口がきけず、見間違いでないことが信じられなかった。ガーニーは男らしく受けて立ったが、決して冷静とは言えず、問いかけた。「あんた誰だ? ここに何の用だ?」クーパーウッドはまったく飾らずに微笑んで答えた。「大した用事じゃない。多分、そこにいるプラトーさんが、教えてくれるよ」クーパーウッドは女の方角にうなずいてみせた。
ステファニーは、クーパーウッドの冷ややかな探るような視線に射すくめられ、緊張して縮こまり、ガーニーどころではなくなった。ガーニーはとっさに悟った……自分は対応を要する前の愛人……怒り狂った恋人……に出くわした。それに手際よく上手に行動する準備ができていなかった。
「ガーニーさん」クーパーウッドは、軽蔑の念を込めて、厳しく焼き焦がすようにステファニーを見つめてから満足げに言った。「私はあなたに何の用もないし、もう少ししたら、あなたとプラトーさんの邪魔をしようとも思いません。理由もなくここにいるわけではないんです。この若い女性はずっと私を騙しつづけた。ちょくちょく私に嘘をつき、無実を装ったんです。私は信じませんでしたがね。今夜もウエストサイドの野外パーティーに行くと私に言いました。何か月も私の愛人だったんです。お金も、宝石も、望むものは何でも与えました。ついでに言うと、その翡翠イヤリングだって私の贈り物のひとつです」クーパーウッドは楽しそうにステファニーに向かってうなずいた。「これ以上は私に嘘をつけないことを証明するために、ここに来ただけです。これまでは、私がこういうことを問い詰めるたびに、泣いて嘘をついたものなのでね。あなたが彼女をどのくらい知っていて、どのくらい好きなのかは知りません。私はただ、あなたにではなく、彼女に知ってもらいたいだけです」……振り返ってステファニーを見つめた……「私に嘘をつく日常が終ったことをね」
このかなり異常な演説の間、緊張し、怖くて、動けなくなったが、それでも美しいステファニーは、その悩ましい東洋風のソファーの隅でうずくまったまま、他の人とはいい加減な付き合いだったかもしれないが、自分はやはりクーパーウッドが好きだと……大好きだとはっきり態度で示してじっと見つめていた。無情に自分と対峙している彼の強固で頑なな姿は、彼女が抱いた世界のイメージにぴったりだった。ステファニーは体の一部こそ何とか隠していたが、茶色い腕、肩、胸、すらっとした膝、足の一部はむき出しだった。黒髪のあどけない顔は今、うなだれ、悩み、悲しみに暮れた。ステファニーは本当におびえていた。本当はいつもクーパーウッドは彼女を威圧していた……不思議な、恐ろしい、魅力的な男性だった。ステファニーは座って顔を向け、表情と魂の哀れさに物を言わせて懲りずに相手を誘惑しようとした。一方、クーパーウッドは彼女を軽蔑し、彼女の愛人とありうる抵抗をあからさまに侮って、ただ微笑みながら二人の前で立っていた。ステファニーは自分が失いかけているものは何なのか、今になって思い知った……恐ろしい、すばらしい男性だった。それに比べたら、青白い詩人のガーニーはかなり痩せていた……束の間のロマンスに過ぎなかった。ステファニーは何か言いたかった、弁明したかった。しかしクーパーウッドがそれを受け付けっこないのは明白だったし、その上ガーニーがいた。喉が詰まった。ここでも目がうるうるした。反発が始まりかけたが感情が神秘的な泥炭火災の状態に陥った。クーパーウッドはその表情よく知っていた。それは彼が収めた勝利の感覚しか伝えなかった。
「ステファニー」クーパーウッドは言った。「私にはもうきみにかける言葉はひとつしかない。もちろん、もう私たちが会うことはない。きみは良い女優だ。自分の仕事に専念することだ。仕事と恋愛を混同しなければきみは仕事で輝くかもしれない。自由恋愛は、おそらくきみのあり方とは矛盾しないんだろうが、世間は受け入れないからね。さようなら」
クーパーウッドは背を向けると足早に立ち去った。
「ああ、フランク」驚いている恋人が目の前にいるのに、ステファニーは見慣れない、魅力的な、絶望のにじんだ態度で叫んだ。ガーニーは口を開けたまま見つめていた。
クーパーウッドは気に留めなかった。暗い廊下を通って階段をおりて外に出た。美しく、謎めいた、身持ちの悪い、ふしだらな女の魅力は……毒の花だったとはいえ……一度は彼を悩ましつづけた。「……ったく!」クーパーウッドは叫んだ。 「いずれにせよ……小さなけだものだ! あの……! あの……!」クーパーウッドはとても辛辣で、とても下品で、とても嘆かわしい言葉を使った。愛しているのに失うことがどういうことなのか……自分なりに熱烈に求めたのに今もこの先も手に入らないことがどういうことなのかを一度味わっていたからだ。自分とステファニー・プラトーの進路は二度と交わるべきではないと腹をくくった。




