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巨人  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
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第25章 東洋からの風


クーパーウッドがステファニーに本物の第一印象をもったのは、ギャリック劇団でのことだった。そこにはアイリーンと一緒に『エレクトラ』の上演を見に行った。この役柄のステファニーを特に気に入って、美しいと思った。それから間もないある晩、クーパーウッドは自宅で、ステファニーが自分の翡翠、特にブレスレットとイヤリングの列を見ていることに気がついた。動くとSの字を連想してしまう、一定の起伏のボディラインが好きだった。そのときふと、すてきなお嬢さんだ……とっても……何か重大な未来が待つ運命を感じた。同時に、ステファニーも彼のことを考えていた。


「そういうものに興味があるんですか?」傍らに立ち止まってクーパーウッドは尋ねた。


「すばらしいと思います。あの深緑色といい、あの淡い脂肪のような白も! 中国を背景に考えたらどんなに美しいか目に浮かびます。いつか中国か日本の作品を探してつけてみたいといつも思ってるんです」


「ええ、こういうイヤリングはあなたの黒髪に似合うでしょうね」クーパーウッドは言った。


これまで彼女の容姿に意見を述べたことはなかった。ステファニーは暗いこげ茶色の目を彼に向けた……黒い光を放つビロードのような目だった……今度はクーパーウッドがその目が実際にどんなにすばらしいか、手がどんなにすてきか……まるでマレー人のように茶色いことに……気がついた。


それ以上は何も言わなかった。しかし翌日、荷札のない箱がステファニーの自宅宛に届けられた。中身は一対の翡翠のイヤリングと、ブレスレットと、漢字が彫刻されたブローチだった。ステファニーはうれしくて我を忘れた。両手で中身をひろい集めてキスすると、イヤリングを耳につけて、ブレスレットと指輪を調整した。友人、親類、舞台の仲間、愛人を相手にした経験はあっても、まだまだ世間知らずだった。心はもともとロマンチックで無垢だった。これまで誰も彼女に大したものを与えてこなかった……実の両親でさえくれなかった。これまでの人生で小遣いといったら、衣類を除けば週たったの六ドルだった。自分の部屋でこっそりとこのかわいいものを眺めながら、クーパーウッドは自分を好きになりかけているのだろうかと変なことを考えた。ああいう強くて、厳しい実業界の人間が自分に興味を持つだろうか? 大富豪になりかけている人だと父親が言うのを聞いたことがあった。自分は、一部の人が言うような大女優だろうか、クーパーウッドのような強くて有能なタイプの男が自分を好きになるだろうか……最終的に? レイチェル、ネル・グウィン、聖なるサラや彼女の恋愛話を聞いたことがあった。ステファニーは高価な贈り物をつかんで、アクセサリーや秘密のもの専用の黒い鉄の箱に入れて鍵をかけた。


こういう物を黙って受け取っただけで、クーパーウッドは相手が好意的である心象を十分に得た。根気よく待っていると、ある日、「フランク・アルガーノン・クーパーウッド、親展」の手紙が自宅ではなく会社に届いた。小さく、きれいで、丁寧な手書きの、まるで印字のような文字で書かれていた。 

 



すばらしいプレゼントをいただき、どうお礼を申し上げたらいいのか、わかりません。あなたからいただくつもりで言ったのではありませんが、あなたが送り主であることは承知しております。喜んで頂戴し、愛用させていただきます。謹んでお礼申し上げます。 

 


       ステファニー・プラトー 

 



クーパーウッドは、筆跡、紙、言葉遣いを研究した。二十歳そこそこの女の子にしては、賢く、控えめで、そつがなかった。自宅の自分宛でもよかったかもしれないのだ。一週間の猶予を与えてみた。すると、ある日曜日の午後、自宅でその姿を見つけた。アイリーンは外出中だった。ステファニーはアイリーンが帰宅するのを待っているふりをしていた。


「あの窓のところにいるあなたは見応えがありますよ」クーパーウッドは言った。「背景にもぴったり合いますしね」


「私がですか?」こげ茶色の目が情熱的に燃えた。後ろのパネルは暗い色のオーク材で、冬の午後の日射しを浴びて光っていた。


ステファニー・プラトーはこのチャンスを狙った身じたくをしていた。豊かで短い黒髪は、血のように赤い子供用のリボンで受けとめられて、こめかみから耳にかかって低い位置でおさえてあった。印象的な丸みがとてもよく調和しているしなやかな体は、青りんご色のボディスを着て、裾に赤いひだのある黒いスカートをはいていた。なめらかな腕は肘から下が素肌だった。片方の手首には、彼が与えた翡翠ブレスレットがあった。ストッキングは青りんご色のシルクで、その日は寒かったにもかかわらず、足は真鍮のバックルがついた薄いスリッパを気を引くようにはいていた。


クーパーウッドはオーバーコートを掛けにホールへ行き、笑顔で戻ってきた。


「家内はその辺にいないのかな?」


「執事は外出していると言いましたが、せっかくなので少しお待ちしようと思ったんです。お戻りになるかもしれませんから」


ステファニーは悩ましげな謎めいた目で、腹黒い笑顔を向けた。クーパーウッドはようやくこの女優の全てをはっきりと理解した。


「私のブレスレットが気に入ったようだね?」


「美しいの何のって」ステファニーはうつむいて、うっとりとながめながら答えた。「いつもはつけないんです。マフに入れて持ち運びますから。ちょっとつけてみたところなんです。いつも肌身離さず持ち歩いています。とっても気に入りました。これを肌で感じるのが好きなんです」


ステファニーは傍らの小さなセーム革のバッグを開けてイヤリングとブローチを取り出した……バッグは、ハンカチといつも持ち歩いているスケッチブックと一緒に置いてあった。


こうした本物の関心の表れを認めて感激するのを不思議に感じながらもクーパーウッドは胸が熱くなった。彼も翡翠は大好きだったが、それ以上にこれを別の物で表したい気持ちが大きかった。大雑把に言うなら、女性の若さと希望が……特に若い娘の美と野心に結びついた若さが……彼を動かしたと言えたかもしれない。それが何であれ、クーパーウッドはこの世の中で何かをしたい、何かになりたいという女の衝動に敏感に反応して、優しく、寛容に、まるで親が見守るように、その生意気で、身勝手な、うぬぼれの数々に目を向けた。命の木に生えている哀れな小さな生物は、燃え尽きてすぐに消えてしまう。彼は昔の花の物語を知らなかったが、もし知っていたらそれは彼に訴えかけただろう。彼は手当たり次第に奪いたいわけではなかった。しかし、気質や好みがその人を彼の方向に傾ければ、その人たちは彼のせいで人生で大きな苦労をしなくなるのだ。女性に関する限り、この男は基本的に寛大なのが現実だった。


「すてきですね」クーパーウッドは笑顔で言った。「いいですね」それから傍らのノートと鉛筆を見て尋ねた。「何をしてるんですか?」


「ただのスケッチです」


「見せてくれませんか?」


「大したものじゃありません」ステファニーは謙遜して答えた。「あまりうまく描けないので」


「才女ですね!」それを手に取りながら答えた。「油絵、デッサン、木彫り、演奏、歌、演劇」


「どれもお粗末で」ステファニーは物憂に首を振って顔をそむけながら、ため息をついた。スケッチブックには自分の最高傑作を全て入れてあった。裸婦、ダンサー、胴体、走る姿、眠っている少女の悲しみ、憂鬱、色っぽい頭部と首、あがった顎、つむった目、自分の兄弟、妹、両親をスケッチしたものだった。


「面白いな!」クーパーウッドは新しい宝物に生き生きと鋭く反応して叫んだ。さて、その間彼の目はどこを向いていただろう? 自分のすぐそばにある宝石だ……無垢の汚れない……本物の宝石だ。このデッサンは、くすぶり続ける日の目を見ない炎を連想させた。それこそクーパーウッドを興奮させるものだった。


「私はこういうのを美しいと感じるんだ、ステファニー」クーパーウッドは簡潔に言った。不思議なはっきりしない感じ方だったが本物の愛情が自分に忍び寄っていた。この男が最も愛しているのは芸術だった。それは彼にとって催眠術だった。「絵を学んだことがあるんですか?」クーパーウッドは尋ねた。


「全然」


「それでは、演劇も学んではいなかったんですか?」


「ええ」


ステファニーはゆっくりした哀愁を感じさせる魅惑的な態度で首を振った。耳を隠している黒髪が彼を不思議な気分にさせた。


「私にはあなたの舞台での演技が本物だとわかります。あなたには自然に演じる技術が備わってますよ、私にはそう見えるんです。あれ、私としたことがどうしてしまったんだろう?」


「いえ、そんなんじゃないです」ステファニーはため息をついた。「何でも遊び半分でやってるようにしか自分には見えないですけどね。この先どうしようかと考えると、時々涙が出そうになります」


「二十歳なのに?」


「いい歳ですわ」ステファニーはおちゃめに微笑んだ。


「ステファニー」クーパーウッドは慎重に尋ねた。「正確にはいくつなの?」


「四月で二十一歳になります」ステファニーは答えた。


「ご両親はあなたにとても厳しく接してきましたか?」


ステファニーはぼんやりと首を振った。「いいえ、どうしてそんなことを聞くんですか? 両親とも私にはあまり関心がありませんでした。いつだってルシール、ギルバート、オーモンドが最優先でしたから」その声には、悲痛な、無視された者の響きがあった。舞台の最高のシーンで使った声だった。


「あたなに立派な才能があることに気づいていないのかな?」


「多分、母は私に何かの能力があるかもしれないと思ってます。でも父は違いますね。それが何か?」


ステファニーは物憂げで悲しそうな目を上げた。


「ステファニー、知りたいのなら言うけど、私はあなたがすばらしいと思っている。この間の夜、あなたがあの翡翠を見ていたときにそう思ったんだ。突然そう思ったんだ。あなたは確かに芸術家ですよ。私はずっと忙しくて、それを見過ごしてきた。ひとついいかな」


「はい」


ステファニーは静かに息を吸い込んで、胸をいっぱいに膨らませながら、黒髪の下からクーパーウッドを見つめた。両手は膝の前で無造作に組まれていた。それからつつましくうつむいた。


「さあ、ステファニー! 顔あげて! 聞きたいことがあるんだ。私と知り合って一年以上たつよね。私のことが好きですか?」


「とてもすばらしい方だと思ってます」ステファニーは小声で言った。


「それだけ?」


「それで十分じゃないですか?」ステファニーは相手の方向に鈍い黒のオパールの視線を放って微笑んだ。


「今日、私のブレスレットをつけましたね。つけてとても楽しかったですか?」


「ええ、それはもう」ステファニーは息苦しそうに息を吸い込んでため息をついた。


「本当に何て美しいんだ!」クーパーウッドは立ち上がって相手を見下ろしながら言った。


ステファニーは首を振った。


「そんなことないです」


「美しいですよ!」


「いいえ」


「さあ、ステファニー! こっちへ来て私のことを見て。とても背が高くて、ほっそりしていて、上品ですね。東洋人みたいですよ」


クーパーウッドがそっと腕を伸ばすと、ステファニーはしなやかに向きを変えてため息をついた。「こんなこと、すべきじゃないと思いますけど?」しばらくして相手から離れながら素朴に尋ねた。


「ステファニー!」


「そろそろ帰った方がいいですね」



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