第21章 トンネル問題
手荒くはあったが、ソールバーグの問題はこうしてあっさり解決し、クーパーウッドはソールバーグ夫人に目を向けた。しかし、やることはあまりなかった。アイリーンとソールバーグを完全に抑え込んだこと、ソールバーグはもう事を荒立てないこと、手当を出すつもりでいること、アイリーンは永久におとなしくなりそうなこと、を説明した。クーパーウッドはリタに最大の気遣いを見せたのに、リタはもうこの騒動にうんざりしていた。確かにリタはクーパーウッドを愛していたが、アイリーンの怒りを通じて違う立場から相手を見てしまい、逃げ出したくなった。確かに彼のお金は豊富だった。それはある女性にとっては重要だったかもしれないが、リタにはそれほどではなかった。あれば贅沢ができるというだけで、いざとなったらリタは贅沢しなくても生きていけた。おそらくリタにとってのクーパーウッドの魅力は、彼を取り囲んでいるように見えた完全な安心感……ロマンスのキラキラ光る泡……でほとんどができていた。それが一度の凶暴な攻撃ではじけてしまった。同じ嵐や同じ難破の危険にさらされる点では彼も他の男性と同じだと見られた。ほどんどの船員よりましなだけだった。リタは徐々に回復して、故郷へ、ヨーロッパへ旅立った。これは話すと長くなるので詳しくは語れない。ソールバーグは散々考えて息巻いた末に、結局クーパーウッドの申し出を受け入れてデンマークへ帰った。数日喧嘩して、その中でクーパーウッドがアントワネット・ノバクと手を切ることに同意すると、アイリーンは帰宅した。
クーパーウッドはこんなひどい決着を決して喜んではいなかった。クーパーウッドの判断ではアイリーンは自分の魅力を高めてはいなかったが、不思議なことに、彼はアイリーンに冷淡ではなかった。一時期リタの方が自分の妻としてはるかにふさわしいタイプだという気持ちが強くなったことはあったが、それでもアイリーンを捨てたいとは思わなかった。しかし手に入れられなかったものは、手に入れられなかった。クーパーウッドは気を取り直して自分の仕事に専念した。しかし、リタと一緒にいたときや、リタを抱いて新しい詩的な角度から人生を見たあの輝かしい時間を何度も振り返った。リタはとても魅力的で、とても素朴だった……しかし自分に何ができただろう?
その後数年間、クーパーウッドはシカゴの路面鉄道の状況を把握するのに忙しく、関心は高まる一方だった。リタ・ソールバーグのことをあれこれ考えても無駄なのはわかっていた……リタは戻ってくるつもりはなかった……クーパーウッドにはどうすることもできなかった。しかし一生懸命働くことはできた。それが大事なのだ。路面鉄道の仕事が天職であり好きなのは、ずっと前からわかっていた。それが今、クーパーウッドに休みを与えなかった。車両の鈴の音と単調な馬の足音が体の一部なんだ、と彼のことを言う人が確かにいたかもしれない。街を移動するときクーパーウッドは、まるで飢えた人の目で、鈴を鳴らす車両が走るこの拡張中の線路を見ていた。シカゴは急速に発展していた。特定の通りの小さな馬車鉄道は朝も夜も混んでいた……ラッシュアワーはぎゅうぎゅう詰めだった。そのうちの一つでもすべてでも一手に確保できたいいのだが、あるいはすべてを合併させて経営できたらいいのだが! 一財産できるな! これは他のことはできなくても、彼の苦悩の一部を癒せたかもしれない……巨万の富には違いないのだ。詩人が岩や細流に関心を抱くように、クーパーウッドはいつもその場面の様々な側面に忙殺されていた。この路面鉄道を手に入れてやる! この路面鉄道を手に入れてやる! 心の歌が鳴り響いた。
ガス業界と同じように、シカゴの路面鉄道業界は三分割されていた……市の三つの別々のサイド、というか地域を代表して対応している三つの会社があった。サウスサイドに陣取り、三十九番街の南端まで続いている〈シカゴ・シティ鉄道〉は、一八五九年に設立され、それ自体が宝の山だった。すでに約七十マイルの路線を運営し、毎年のようにインディアナ・アベニュー、ウォバッシュ・アベニュー、ステート・ストリート、アーチャー・アベニューへと延長されていた。旧式で藁が散乱する竈のない車両百五十輌以上と、馬千頭以上を所有し、車掌百七十人、運転手百六十人、厩務員百人、それと鍛冶、馬具、修理の担当者を、関係する数だけ雇っていた。冬は除雪車、夏は散水車が通りで忙しく働いた。クーパーウッドは、その株式、債券、所有車両、他の動産の総額をざっと二百万ドル以上と見積もった。この会社の問題点は、そこの発行済株式の大部分が、今やクーパーウッドもしくは彼のやりたいことに断固敵対するノーマン・シュライハートと、これまで親交の兆し一つ見せたことがなかったアンソン・メリルに支配されていることだった。どうすればこの資産を支配できるか彼にはわからなかった。株は二百五十ドルくらいで売れていた。
〈ノース・シカゴ・シティ鉄道〉は、サウスサイドの会社と同時期に、違うメンバーに設立された会社だった。経営陣は古い、ありきたりの、役立たずで、設備も似たようなものだった。〈シカゴ西部鉄道〉は、当初〈シカゴ・シティ鉄道〉だか〈サウスサイド鉄道〉の持ち物だったが、今は別の会社だった。そこはまだ市の他の地域ほどの儲けは出なかったが、都市は全地域が発展中だった。馬の鈴の音があちこちで景気よく鳴っているのが聞こえた。
この光景の外側に立ってその将来性を考えながら、当時の他の誰よりもこの鉄道の将来に多額の私財を投じてきたクーパーウッドは、そのとてつもない可能性に感服していた……もしシカゴが成長を続けるなら巨万の富になる。そしてその進歩を促進したり阻害したりするさまざまな要因を気にかけていた。
この少し前にクーパーウッドは、ノースサイドとウエストサイドの路面鉄道の発展を妨げる大きな障害の一つが、シカゴ川に架かる橋の交通渋滞であることを発見していた。川に接続して都市の二つのサイドを結ぶ通りの両端の間に、この問題の川は流れていた……汚く、臭く、絵のように美しい。重たいのや、楽しいのや、絶えず混雑して移動する船の一団が、いろいろな橋を一時的に動かして、まるで馬車と船の混乱はもう収まらないかと時々思えるほど、川の両側の交通をせき止めた。そこは愛と人間味と自然に満ちたディケンズの世界だった……ドーミエ、ターナー、ホイッスラーが題材にしそうだった。橋の番人で一番暇な者が、船と馬車をいつどのくらい待たせるべきかを自分で判断した。割りと暇な連中は普通の歩行者に加わって、帆船の群れ、荷馬車の行列、前方真下の絵のようなタグボートに目を奪われ立って見入った。クーパーウッドは軽快な小型馬車に座って、遅れにいらついたり、橋が回る前に渡ってしまおうと先を急ぐときに、ノースサイドとウエストサイドは交通の便が悪い、とずっと前から気がついていた。川がなくて地続きのサウスサイドには、そういう問題はなく急速に発展していた。
このため、通行中に、ある日、自然に興味がわいて観察してみると、シカゴ川の下に二か所……一つ目は南北に走るラサール・ストリート、二つ目は東西に走るワシントン・ストリートに……今は水浸しでネズミの棲み着いた誰にも使われていないトンネルが二つ存在した……石油ランプがぼんやり灯るだけの暗くじめじめしたトンネルで、水がしみ出ていた。調べてみると、このトンネルは、今は橋で渋滞を起こしその当時でさえ急速に増加していた、この同じ貨物輸送の問題に対応しようとして数年前に建設されたものだとわかった。投資家や国民には、トンネルの通行料として現金でわずかな対価を課せられる方が、時間で対価の支払いを余儀なくされるよりもはるかにいいように思えたので、ここの交通に遅延を回避するチャンスが与えられた。しかし紙の上や頭の中に浮かぶ他の多くのご立派な事業案と同じで、この計画は正常に機能しなかった。もしこのトンネルが長く緩やかな勾配と、広い道幅と、十分な照明と空調を備えて適切に建設されていたら、利益が出ることを証明していたかもしれない。しかし現実はちゃんと市民が使える代物ではなかった。ノーマン・シュライハートの父親とアンソン・メリルはこのトンネルに投資していた。長い間……百万ドルの費用をかけて……無意味な算段を続けた挙げ句に、採算がとれないことがわかると、トンネルはそれぞれその金額で市に売却された。発展を続ける市の方が、謙虚で野心的で立派な市民の誰よりも、この穏やかならざる金額を失っても平気であると詩的な話が思いつかれた。これは議員が数年前に私腹を肥やした小さな出来事だったが、また別の話である。
このトンネルを発見してから、クーパーウッドは何度かその中を歩いた……今トンネルは板で囲われているが、まだ塞がれていない通路があった……そして、どうしてトンネルが利用できないのか不思議に思った。もし路面鉄道の便数がしっかりあって、収益性が十分で、妥当な金額でトンネルを緩やかな勾配にできれば、現在ノースサイドとウエストサイドの発展を妨げている問題の一つが解消されるようにクーパーウッドには思えた。だがどうやって? 自分がトンネルを所有しているわけではない。路面鉄道も所有していない。トンネルを借りて改修するとコストは莫大だろう。少しでも勾配があれば、人手、馬、御者を余分に使わねばならなくなる。つまりは費用が余計にかかる。唯一の牽引手段が路面鉄道の馬であり、長くて負担の大きい勾配がある以上、この事業が利益の出るものになる確信があまり持てなかった。
しかし、一八八〇年の秋かその少し前に(最終的にリタ・ソールバーグにたどりつく初期の情事にまだどっぷりつかっていた頃)路面鉄道にかかわる新しい牽引システムに気づいていた。それはアーク灯や電話や他の発明品の到来と共に、都会の生活の特徴を完全に変える運命にあるように見えた。
坂があるために満員の路面鉄道の走行が極めて難しいサンフランシスコで、最近、新型の牽引が導入された……ケーブル式である。それは溝の中で溝のついた車輪の上を循環するロープ状のワイヤーが走っているだけで、隣の駅か『動力小屋』などの手頃な位置にある巨大なエンジンによって動かされた。車両は簡単に操作できる『グリップレバー』や、細い隙間から溝に入って動いているケーブルを『掴む』鋼鉄の手を搭載していた。この発明は、重い荷物を積んだ鉄道車両を牽引して急斜面を上り下りする問題を解決した。同じ頃、シュライハートとメリルが主要なオーナーである〈シカゴ・シティ鉄道〉が自社路線にこの牽引方式を導入しようとしていること……ステート・ストリートにケーブルを敷設して、その先の不採算地域を走る他の路線の車両を『トレーラー』として投入しようとしていること、を回り回って耳にした。ノースサイドとウエストサイドの問題の解決策がすぐにひらめいた……ケーブルだ。
先に述べた橋の渋滞とトンネル以外にも、過去のある時期にクーパーウッドの注意を引き続けていた他の特別な事情があった。それは〈ノース・シカゴ・シティ鉄道〉の衰退だった……取締役たちは先が見えなかったので会社の問題を適切に解決できなかった。財務状況はかなり思わしくなかった……実際に、ある種のクーデターは可能だった。会社がサービスを提供するエリアは人口が少なく、ビジネス街からも距離がとても短くて、最初から利益が出ないと考えられていた。しかし、やがてその地域が人で埋まると、経営は上向いた。とたんに橋での長い待ち時間が始まった。経営陣は、この路線は客の入りが悪そうだと考え、質の悪いちゃちな軽量レールを敷いて、冬は氷のように寒く、夏はストーブを炊いたように暑い、薄っぺらい車両を走らせた。いくつかの路線のダウンタウン側の終点を、ビジネス街にまで延長しようという計画さえなかった……北は境に近い川を越えたところで止まっていた。(サウスサイドでは、シュライハート氏が自分の客のために、もっといい仕事をしていた。メリルの店のあたりに、ケーブル方式の環状線を敷いていた。)ウエストサイドのように、冬は乗客の足もとの保温のために、全車両の床に藁が敷かれ、夏は少ししかない開放型の車両が使われた。経費がかるので、取締役会はそういうものの導入に反対した。だから、最初から高い利益が出そうだと確信した地域にだけ路線を増やして、初期に使われたのと同じような安いレールを敷き、走るとガタガタ揺れる旧式タイプの車両を採用し、乗客の怒りが頂点に達するまで延々と続けてきた。最近はいろいろな訴えや苦情が多くて、会社はほとほど困り果てていた。しかしどうすればいいのか、この激しい攻撃にどう立ち向かったらいいのか、よくわからなかった。例えば本部長のテレンス・マルガノン、取締役のエドウィン・カフラス、会社の建築技師ウィリアム・ジョンソンのようなセンスのいい者もちらほらいたが、社長のオニアス・C・スキナー、副社長のウォルター・パーカーのような他の連中は、いかにも高齢者らしく反動的で、保守的で、考えるばかりで、けちで、最悪なのは臆病で、大きなことをやってみようという勇気がなかった。年をとると必ずと言っていいほど新しいことをやり遂げようとする意欲がなくなってしまい「ほっとけばいい」を何かと唱えたがるようになるのは嘆かわしい限りである。
これを踏まえてすでにすばらしい構想を思いついたクーパーウッドは、ある日のこと、社交を兼ねてジョン・J・マッケンティを自宅のディナーに招いた。妻を同伴してマッケンティが到着し、アイリーンが二人に優しく微笑みかけてマッケンティ夫人を精一杯もてなしていると、クーパーウッドは言った。
「マッケンティ、ワシントンとラサール・ストリートの川の下に市が所有する二本のトンネルがあるんだけど、何かご存知ですか?」
「必要もないのに市が引き取ったことと、無用の長物であることかな。私の時代よりも前の話ですよ」マッケンティは慎重に説明した。「確か、市はトンネルに百万ドルを支払ったけな。それが何か?」
「別に大したことじゃありません」この場はこの話題を避けて、クーパーウッドは答えた。「あれが何かに使えないものなのかなと思ったものですから。あの役立たずぶりが時々新聞でやり玉にあがるのを見ますからね」
「形がかなり悪いんだと思います」マッケンティは答えた。「私は何年もどっちらも通ったことがありませんね。もともとの考えでは馬車にそこを通らせて橋の渋滞を解消するはずでした。だが、うまくいかなかった。勾配が急過ぎたし料金が高過ぎたんです。だから御者は橋で待った方がよかったわけです。馬にもかなりの負担がかかりました。この身をもって証言できますよ。積荷を乗せた荷馬車であそこを何度も通りましたから。市は絶対にあんなものを引き取るべきじゃなかった。裏で取引があったんだ。誰がからんでいたかは知らないが。当時はカーモディが市長で、オールドリッチが公共事業を担当していた」
マッケンティはまた黙ってしまった。ディナーが済んで書斎へ移るまで、クーパーウッドはトンネルの話題を休ませた。そこでクーパーウッドはマッケンティの腕に親しげに手をおいた。政治家はこの人なつっこい振る舞いにかなり好感を持った。
「昨年はガス事業がうまくいって、よかったですね」クーパーウッドは尋ねた。
「はい」マッケンティは心から答えた。「あれ以上のことはありませんね。あの時も言いましたが」アイルランド人はクーパーウッドが気に入った。数十万ドルという大金で自分をさらに裕福にしてくれた早業に感謝していた。
「さて、マッケンティ」クーパーウッドは、いきなり、一見脈絡もないように続けた。「ここの路面鉄道情勢が大きく変化しようとしていると、これまでに思ったことがありますか? 私には始まっているのがわかるんです。一、二年以内にサウスサイドには新しい動力が導入されるでしょう。この話は聞いたことがありますか?」
「それなら読んだことがあるな」驚き少し疑問を抱きながら、マッケンティは答えた。タバコをとって話を聞く準備をした。クーパーウッドはタバコを吸わないので椅子を引いた。
「じゃあ、どういうことが話しましょう」クーパーウッドは説明した。「つまり最終的に、この市の鉄道の路線のすべてが……この変化が生じる前に建設されるすべての延長路線ももちろんそうですが……まったく新しい基準でやり直さねばならなくなるんです。つまり溝の中をケーブルが走るんです。今も古い設備にしがみついて進歩しない古い会社も、その改修をしなくてはならなくなるでしょう。自分たちの設備を最新のものにするまでに、何百万ドルもかけなくてはならなくなる。あなたがこの問題に関心をお持ちだったら、ノースサイドとウエストサイドの鉄道がどういう状況にあるかに気づいたに違いありません」
「かなりひどいのは知っている」マッケンティは言った。
「その通りです」クーパーウッドは強調して答えた。「まあ、古い経営陣を研究してわかったことがあるとすれば、これを実行するのは彼らには至難の業でしょう。二、三百万かかるものには二、三百万必要ですからね。彼らではそれだけの金を工面するのさえ簡単にはいかないでしょう……仮に我々が路面鉄道事業への参入を望めばですが、おそらくは我々以外の者にはそう簡単なことではありませんよ」
「ええ、仮にね」マッケンティは陽気に答えた。「でも、どうやって参入するんですか? 私の知る限り、売りに出ている株はありませんよ」
「同じですよ」クーパーウッドは言った。「やりたければできる。どうやるかは私が教えます。でも、今、特にやってほしいことがあるんです。さっき話した二つの古いトンネルのどちらかを自由にできる方法がないか知りたいんです。できれば二本とも。それができると思いますか?」
「そりゃ、できますよ」マッケンティは不思議そうに答えた。「でも、あんなものがどう関係するんですか? あんなものは何の価値もないですよ。いつだったか、若い連中が埋めちまえとか、ぶっ壊せとか言ってましたがね。警察はあの中に悪党が潜んでいると思ってますよ」
「どっちにしても、誰にも手を出させてはいけません……賃貸も何もさせてはいけません」クーパーウッド力強く答えた。「私がやりたいことをあなたには率直に伝えておきましょう。できるだけ早く、ノースサイドとウエストサイドで手に入れられるだけの路面鉄道をすべて手中に収めたい……新しいのも古いのもです。これでトンネルがどこにかかわってくるかわかったでしょう」
クーパーウッドは自分の言いたいことがマッケンティに全て伝わったか確かめるために話をやめたが、マッケンティには伝わっていなかった。
「大してほしいわけでもないんでしょ?」マッケンティは陽気に言った。「どうすればあのトンネルが使えるのか見当が付きませんが、もし重要だとお考えであれば、あなたのためにこれを引き受けない理由は全くありません」
「こういうことなんですよ」クーパーウッドは考えながら言った。「もし私の提案に賛同するのであれば、あなたを私が手掛ける全事業の優先パートナーにいたしましょう。今のような路面鉄道は遅くとも八、九年でことごとくひっぺがされてゴミの山に捨てられるしかなくなるんです。サウスサイドの会社が今何を始めているか見てごらんなさい。ウエストサイドとノースサイドの会社ではそう簡単にいかないでしょう。サウスサイドほど儲からないし、おまけに渡らないといけない橋がある。ケーブル鉄道にとってそれはとても不利なことなんです。第一、余分の重量と負担に耐えられるような橋を架け直さないとならない。ここで問題が持ち上がります……費用は誰が負担するのか? 市ですか?」
「それは誰が頼むかによりますね」マッケンティは愛想よく答えた。
「そういうことです」クーパーウッドは同意した。「次に、円滑な鉄道運行をすれば、この川は通行できなくなります。今だと引き船や大型船が通過する間に八分から十五分の待ち時間が生じます。今、シカゴの人口は五十万人です。一八九〇年にはどのくらいになるでしょう? 一九〇〇年は? 八十万人、百万人になったらどうなるでしょうね?」
「あなたの言うとおりだ」マッケンティは口をはさんだ。「かなり大変なことになりますね」
「そうなんです。でも、さらに問題なのは、ケーブルは支線からのトレーラーやら一輌車だって運ぶんです。橋で待っているのは一輌車じゃありません……列車ですよ、しかも満員の列車です。船が橋を通過する間、ケーブル車両を八分から十五分も遅らせるなんて利口じゃありませんよ。市民はそんなに長い時間我慢しないでしょうね、どう思いますか?」
「おそらくは騒ぎを起こさずにはいないでしょう」マッケンティは答えた。
「じゃあ、どうなります?」クーパーウッドは尋ねた。「交通量が減るでしょうか? 川が干上がるでしょうか?」
マッケンティ氏はじっと見つめた。急に顔が明るくなった。「ああ、なるほど」わかったように言った。「そこで思いついたのがトンネルなんですね。あれが果たして使えるでしょうか?」
「新しいのを作るよりも作り変える方が安くあがる」
「確かにそうだ」マッケンティは答えた。「修理できる状態なら、あなたの望みどおりのものになる」まるで勝ちが決まったかのように強気だった。「あれは市の持ち物です。あれでも一本に百万ドルかかってるんです」
「知っている」クーパーウッドは言った。「じゃあ、私のもくろみはおわかりですか?」
「そりゃあ、もう!」マッケンティは微笑んだ。「大したことを思いつきましたね、クーパーウッドさん。あなたには脱帽しますよ。何なりと言ってください」
「じゃあ、最初に」クーパーウッドは気さくに答えた。「我々がこの他の問題の対処方がわかるまで、どんなことがあっても市がこの二本のトンネルを手放さないという認識でいいですね?」
「手放さないでしょう」
「次は、おわかりでしょうが、今後はノースサイドやウエストサイドの会社が路線延長とか他の何かをしようとしても、できるだけ容易に条例が制定されないようにする、というのは? 私も自分で支線や郊外の路線の運営権を申請したいんです」
「あなたの条例を提出ですね」マッケンティは答えた。「何なりとやらせていただきます。すでに一緒に仕事をしましたからね。あなたが約束を守ることはわかってます」
「ありがとう」クーパーウッドは心から言った。「約束を守るのは大事なことだと知っていますからね。その間に別の問題がどうにかならないか先に確認しますよ。これに何人投入する必要があるかとか、どんな形の組織にするか、はっきりしてないんだ。しかし、あなたの利益は、きちんと守られる、何をするにしても、全てあなたにお知らせして同意のもとで行われる、このことは頼りにしていいですからね」
「いいことずくめだ」目の前に広がる新たな活躍の場を思い浮かべながらマッケンティは答えた。こういう仕事で自分とクーパーウッドが組むのだから、きっとどちらのためにもなるに違いない。それに前回の関係からしても、自分の利益が蔑ろにされることはないと信じていた。
「ご婦人たちをさがしに行きましょうか?」政治家の腕をつかみながら、クーパーウッドは気取って尋ねた。
「そうしよう」マッケンティは明るく賛成した。「立派な屋敷をお持ちだ……すばらしい。なれなれしくて申し訳ないが、あなたの奥さんほど美しい女性は見たことがありませんよ」
「自分でも常々、家内はかなり魅力的だと思っていますよ」クーパーウッドは無邪気に答えた。




