表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨人  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
PR
13/62

第13章 賽は投げられた

 

 この訪問の持つ意味は、すぐに自ずと明らかになった。大きな案件が動き出すと、頂点に立つ人たちの人間関係は、ほとんど説明ができないほどもつれてくる。この問題が関心事となった今、マッケンティはすべての側面から――シュライハート側の思惑と取り引きする方が利益が大きいのではないか、など――このガス問題を知りたくなった。しかし、彼が出した最終結論は、クーパーウッドが概説した計画が政治的に見て最もうまくいきそうだ、というものだった。主な理由は、現時点で市議会に何かを要求する立場にないシュライハート派は、市役所の海賊並みに欲深い勢力に一切の働きかけをし忘れるほど愚鈍ぞろいだからだ。

 

 クーパーウッドが次に自宅を訪れたとき、マッケンティはすっかりその気になっていた。「さて」マッケンティはなごやかな前置きを少し述べたあとで言った。「状況を検討した。あなたの提案はいい線いっている。会社を作って、暫定的な計画を立てて、条例案を提出してください。それから何ができるかを確認しよう」二人は、発行予定の株式をどう分けるか、旧ガス会社との最終提携か新合併会社のもとで合意条件が満たされるまで、株式は第三者預託の形でどのようにマッケンティの馴染みの銀行に預けられるかといった細部について、長い踏み込んだ議論に入った。それはかなり複雑な取り決めで、クーパーウッドにとって思惑どおりに満足できるものではなかったが、勝利を確実にするという点では満足だった。これにあたってしばらくの間、ヴァン・シックル将軍、ヘンリー・デ・ソト・シッペンス、ケント・バロウズ・マッキベン、ダウリング市議会議員の不断の努力が必要だった。しかし、ついに決め手を打つ準備が整った。

 

 市議会の規則では、この種の条例は木曜日に提出されることになっていたが、その次の月曜日の夜に、公にされてからまだほんの少ししか経っていないのに、この計画はすばやく市議会で審議され、可決された。公然と議論する時間は事実上なかった。もちろん、これこそが、クーパーウッドとマッケンティが避けようとしていたことだった。この条例が確実に可決される運びとなるよう、議会に提出された木曜日の翌日、シュライハートは自分の弁護士と既存の会社各社の役員たちを新聞社に駆け込ませ、この件全体を明らかな強盗と非難した。しかし、彼らはどうすればよかったのだろう? 扇動する時間はほとんどなかった。この巨大資本の影響力に従順な新聞社は、「既存のガス会社も公平に扱え」とか、一社で足りる分野に競合する二つの大企業は無駄だと言い始めた。しかし、マッケンティ側の活動員に反対の話を教わったり、吹き込まれたりした市民は、それを信じようとしなかった。既存のガス会社のために抗議の声をあげてやるほど、市民はそれほど手厚いサービスを受けてはいなかった。

 

 法案が最終的に可決された月曜日の夕方、靴ブラシのような頬髯を生やした、小柄で、ひょろっとした〈サウスサイド・ガス社〉の社長サミュエル・ブラックマンは、市議会の扉の外に立ち、強い口調で言い放った。

 

「これは卑劣極まりないやり口だ。法案に署名するなら、市長は弾劾されるべきです。今夜、あの場で買収されなかった票はありませんよ――一票も。シカゴにこんな山賊まがいのやり方を持ち込むとは。何年も働いて事業を築き上げた人たちだって、おちおちしていられませんよ!」

 

「そのとおりだ、一言一句にいたるまで」〈ノースサイド社〉の社長ヨルダン・ジュールズは不満を述べた。背の低い、がっしりした男で、縦に置いた卵ような頭、ほんの一房しかない髪、鋭い青い目をしていた。彼と一緒にいるのは、背が高くて、ぶらぶらした足取りの西シカゴ会社の社長ハドソン・ベーカーだ。三人とも抗議しに来ていた。

 

「フィラデルフィアから来た悪党の仕業だ。あいつがすべてのトラブルの元凶です。シカゴのまともな実業家たちは、自分たちが相手にしなければならない男がどういう人間なのかを、そろそろ認識してもいい頃だ。あいつはここから追放されるべきです。フィラデルフィアでの経歴をご覧なさい。向こうでは奴を刑務所に送ったんです。ここでもそうするべきです」

 

 つい最近シュライハートに招かれ、その手先になったベイカーも、当然悔しがっていた。「あの男はペテン師だ」とブラックマンに抗議した。「やり方がフェアじゃない。奴がまともな社会に属していないことは明らかだ」

 

 それでも、こうした抗議にもかかわらず、条例は可決された。これは、ノーマン・シュライハート、ノリエ・シムズ、そして不運にも巻き込まれたすべての人々にとって苦い教訓になった。既存の三社から成る委員会が市長を訪ねたが、市長はマッケンティの道具に過ぎず、自分の将来を敵の手に委ねていたので、やはり同じように条例に署名した。クーパーウッドは運営権を手に入れた。彼らがどれほど不満であろうが、こうなった以上、後の時代の言葉で言うなら「腹をくくって船長の前に出る」しかない。ただシュライハートだけは、クーパーウッドとの決着がまだついていないと感じていた。いずれどこか別の土俵で対決するつもりだった。次回は相手と同じやり方で戦うつもりだった。しかし、抜け目ない男だったので、今回は妥協する覚悟を決めた。

 

 その後、シュライハートは屈辱を極力隠して、クーパーウッドが会員になっている両方のクラブで彼を探しつづけた。しかしクーパーウッドはこの騒ぎの期間中、両方とも避けていたので、結局、マホメットの方が山まで行かなければならなかった。眠たくなるような六月のある午後、シュライハートはクーパーウッドの事務所を訪ねた。明るい鉄灰色の新しいスーツに、麦わら帽子。当時の流行にならい、ポケットからはこぎれいな青い縁取りのシルクのハンカチがのぞいていて、足は新品でぴかぴかのオクスフォード靴をはき、非の打ち所がなかった。

 

「私は数日後にヨーロッパに向けて出航するんです、クーパーウッドさん」シュライハートは穏やかに言った。「このガスの問題であなたと私が何かの合意にたどり着けないか、立ち寄って確かめようと思いましてね。既存の会社の役員たちは、当然、業界に競争相手を抱えたくないと感じているし、あなただって誰の得にもならない無益な値下げ競争など続けたくはないはずだ。以前あなたが折半の条件なら妥協するつもりでいたのを思い出しましてね。今でもその考えに変わりはありませんか」

 

「まあ、どうぞ、おかけください、シュライハートさん」クーパーウッドは愛想よく言って、新たな来客に椅子を勧めた。「またお会いできてうれしいです。ええ、私だってあなたがた以上に、値下げ競争など望んではいませんよ。本当は、避けたいところですが、このとおり、あなたにお会いしてから、事情がいくらか変わりました。この新しい市内向けのガス会社を作って、自分のお金を投資した紳士たちは、すっかりその気で――実際にかなり熱心でして――このまま続けて本格的な事業を確立したがっています。自分たちならこれをやれると自信満々ですよ。私も同じ意見です。新旧双方の会社間で妥協は成立するかもしれないが、前回提示した条件にはなりません。あれから新しい会社が組織されて、株式が発行され、莫大な出費がありました」(これは事実ではなかった。)「その株式は、いかなる合意になるにせよ、組み込まねばなりません。すべての会社が一つにまとまることは望ましいと思いますが、比率が一対一でも、二でも三でも四でも――どう決まろうとも――関係するすべての株式は額面で評価されねばなりません」

 

 シュライハートは渋い顔をして「それはいささか無茶だとは思いませんか?」と厳粛な面持ちで言った。

 

「とんでもない、そんなことありませんよ!」クーパーウッドは答えた。「この新たな出費が、好き好んで投じられたわけじゃないことは、ご存知でしょう」(この皮肉をシュライハートが聞き逃すはずはなかったが、彼は何も言わなかった。)

 

「それは認めますが、あなたの株式は今、事実上、無価値なんですから、その分が額面で受け入れられるなら、それで満足すべきではありませんか?」

 

「なぜそうなるのか、私にはわかりませんね」クーパーウッドは答えた。「我々の前途は洋々ですよ。ここで公平な調整を行うか、何もしないかです。私が知りたいのは、旧株主たち全員を満足させたあと、あなたがこの新会社の運営のために、どのくらいの株式を金庫に残しておくつもりなのかです」

 

「そうですね、前にも考えましたが、総発行数の三十から四十パーセントですかね」シュライハートは未だに有利な調整を期待しながら答えた。「この条件なら話は進められると思いますが」

 

「それで、誰がそれを受け取るのですか?」

 

「まあ、まとめ役ですね」シュライハートははぐらかすように言った。「あなたか、あるいは私だ」

 

「どう分けるつもりですか? 半々ですか、以前のように?」

 

「それが妥当でしょう」

 

「それでは足りませんね」クーパーウッドはきっぱりと言い放った。「私は前回あなたと話してから、その時は予想もしなかった債務を背負ったり、契約を結んだりしなければならなくなりました。今できる精一杯の妥協は、四分の三を受け取ることです」

 

 シュライハートは決然と反発するように背筋を伸ばした。言語道断だと思った。こんな話はありえない! なんという厚かましさだ! 

 

「それは絶対に無理ですよ、クーパーウッドさん」シュライハートは語気を強めて答えた。「ただでさえ、あなたは価値のない株を大量にこの会社に押し付けようとしている。ご存知のように、既存の会社の株式は今も、百五十ドルから二百十ドルで取り引きされています。なのに、あなたの株には価値がないんですよ。それがあなたに一対二か一対三で割り当てられ、金庫の残りの株式の四分の三まで受け取れるというなら、私は関わりたくない。あなたは会社を支配することになるでしょうが、そんな会社は水ぶくれもいいところだ。これでは、ただ取りだ! 私が既存の会社の株主たちに提案できるのは、せいぜい五分五分です。あなたには率直に言いましょう、別に信じなくても構いませんが、あなたに支配権を与えるような計画に、既存の会社側は参加しませんよ。みなさん、怒り心頭ですから。感情が高ぶり過ぎているんです。これは長くて高くつく戦いになるし、彼らは絶対に妥協しません。もしあなたに本当に妥当な提案があるのなら、よろこんで聞きますよ。そうでなければ、この交渉はどうにもならないと思います」

 

「均等に分けて、残りの四分の三はもらいます」クーパーウッドは険しい顔で繰り返した。「私は支配したいわけじゃない。もし先方が資金を調達して、この条件でこちらを買い取りたいというなら、よろこんで売りますよ。私は自分が投じた資金に見合った利益がほしいし、それを手に入れるつもりです。後援者の意向までは代弁できませんが、私を通じて取引をする以上、彼らが期待するものはそれなんです」

 

 シュライハートは怒って立ち去った。極限まで憤慨していた。クーパーウッドが今、述べた案は、贔屓目に言っても海賊行為だった。シュライハートは、必要なら、自分は既存の会社から手を引き、持ち株を処分し、あとは会社が好きなようにクーパーウッドとやり合えばいいと腹を決めた。自分が関わる以上、クーパーウッドがガス事業の支配権を握ることがあってはならない。彼の案を受け入れて、資金を調達し、たとえ法外な金額であっても買い取ってしまった方がいい。そうすれば、既存のガス会社側は、昔からのやり方で、邪魔されずに商売を続けられる。この海賊め! 成り上がりのくせに! なんと狡猾で、すばしっこい、強烈な手をうったのだ! これはシュライハートをひどく苛立たせた。

 

 結局、これは妥協で終わった。クーパーウッドは、新規発行株の余剰分の半分と、彼の新会社の株式一株につき二株を受け取り、同時に既存の会社側にすべてを売り払った――これで完全に手を引いた。これは莫大な利益の出る取引で、彼はマッケンティとアディソンだけでなく、他の関係者全員にも十分に報いることができた。マッケンティとアディソンが請け合ったとおり、快挙だった。これだけの大仕事をやりとげた今、彼は征服すべき他の分野に目を向け始めた。

 

 しかし、この一方での勝利は、それに見合う逆風を別の方面にもたらした。クーパーウッドとアイリーンの社交界での将来は、今や大きな危機に瀕していた。社交界で力を持つシュライハートは、クーパーウッドの手にかかって敗北したために、今や激しく敵対していた。ノリエ・シムズは当然、昔からの仲間たちの側についた。しかし、最悪の打撃をもたらしたのは、アンソン・メリル夫人だった。新築披露の直後に、ガス事業をめぐる議論と陰謀の告発が最高潮に達していた頃、彼女はニューヨークに出かけ、そこで偶然フィラデルフィアの古い知人のマーティン・ウォーカー夫人に出会った。彼女は、かつてクーパーウッドが入りたくても入れなかった社交サークルの一員だった。メリル夫人は、クーパーウッド夫妻がシムズ夫人たちの関心を集めているのを知っていたので、確かなことを探れるこの機会を歓迎した。

 

「ところで、フランク・アルガーノン・クーパーウッドという人か、その奥さんについて、フィラデルフィアで聞いたことありません?」彼女はウォーカー夫人に尋ねた。

 

「まあ、ネリーったら」メリル夫人のように洗練された女性が彼らを話題にしたことにひどく困惑して、友人は答えた。「あの人たち、シガゴに住み着いたの? あの人のフィラデルフィアでの経歴は、控え目に言っても派手だったわ。五十万ドルを横領した市の財務官と関わっていて、二人とも刑務所に行ったの。でも、最悪はそれだけじゃないのよ! ある若い娘と親密になったの――ミス・バトラーっていう、今じゃむこうでも大物のオーエン・バトラーの妹なんだけど、それでね――」と彼女はただ目を上げた。「彼が服役中に、娘の父親は亡くなり、家庭は崩壊したわ。老いた父親が自殺したという噂まで聞いたわ」(彼女はアイリーンの父親のエドワード・マリア・バトラーのことを言っていた)「出所すると、クーパーウッドは姿を消したの。私が聞いた話では、西へ行って、奥さんとは離婚し、再婚したそうだけど。最初の奥さんは今でも二人の子どもと一緒にフィラデルフィアのどこかに住んでいるわ」

 

 メリル夫人は当然、驚いたが、それを表情には出さなかった。「実に興味深いお話ね?」クーパーウッド夫妻のことなど、簡単にどうにでもなると考え、さらに自分が彼らに一切関心を示さなくてどんなによかったかと思いながら、よそよそしく言った。「それで、その人――彼の新しい奥さんに会ったことはあるんですか?」

 

「会ってると思うわ、場所までは覚えてないけど。フィラデルフィアでよく馬や馬車を乗り回していたわね」

 

「髪は赤毛かしら?」

 

「そうね。とても印象的なブロンドだったわ」

 

「じゃあ、きっとその人ね。最近シカゴでも新聞に載りましたもの。そのことを確かめたかったのよ」

 

 メリル夫人は、将来使えそうな気の利いた言い回しを考えていた。

 

「今度はシカゴの社交界に入り込もうとしているのかしらね?」ウォーカー夫人は、クーパーウッド夫妻だけでなく、シカゴ社交界のことまで見下すように、蔑んで微笑んだ。

 

「東部なら、そういう試みも成功するかもしれませんね――私にはよくわかりませんけど」侮辱に憤慨したメリル夫人は辛辣にやり返した。「でもシカゴでは試みることと、達成することはまったくの別物ですから」

 

 その答えで十分だった。話はそこで終わった。次にシムズ夫人がうっかり、クーパーウッド夫妻、特にクーパーウッドにまつわる妙な評判を口にしたとき、彼女の今後の態度は彼女の意思に関係なく、決定的に方向づけられてしまった。

 

「もし私の助言を聞き入れてくださるなら」メリル夫人はついに言った。「あの方たちとのお付き合いは控えた方がよろしいわ。私は彼らのことをすべて知っています。最初からお気づきになってもよかったくらいですわ。あの人たちは決して受け入れられません」

 

 メリル夫人はあえて理由を説明しなかったが、シムズ夫人はすぐに夫から事情を聞かされ、当然、憤慨し、さらに恐怖さえ感じた。いったい、誰のせいでこうなったのかしら? 彼女は考えた。あの人たちを紹介したのは誰だったかしら? そうだ、アディソン夫妻だ。しかし、アディソン夫妻は全能ではないにせよ、社交界で揺るぎない地位にある。だから、その上で最善を尽くすしかない。でも、クーパーウッド夫妻なら、自分や自分の友人たちのリストからすぐに外せる。そして、さっそくそうなった。彼らの社交的価値は突然下がり始めたが、それほど急速ではなく、当面は実情を見誤らせるほど緩やかだった。

 

 アイリーンが最初の変化の兆しに気づいたのは、これまで大量に届いていた日常的な挨拶状やレセプションの招待状などが目に見えて減り始めたときと、まだ時期尚早と思いつつも思い切って始めた水曜日午後の自宅への訪問客が、ほんのひと握りまでになったときだった。最初、彼女はこれを理解できなかった。自宅での催しが明らかに成功した直後に、自分の地元での重要性がこれほど著しく低下するなど信じる気にならなかった。訪ねてくるか、もしくはカードを置きに来るかもしれないと見込んでいた七十五人から五十人のうち、新築披露から三週間以内に反応を示したのは、わずか二十人だった。一週間後には十人に減り、五週間もすると、ほとんど誰も来なくなった。確かに、ごく少数の重要ではない人たち――アイリーンの影響力を当てにした人たちと、クーパーウッドとの仕事上のしがらみから保身で来ているテイラー・ロードとケント・マッキベン――は依然として律儀だったが、彼らなら本当はいない方がましだった。アイリーンは、失望、反発、悔しさ、恥ずかしさで、いたたまれなかった。サイのように面の皮が厚く、鉄の魂を持ち、最終的な勝利を希望に、どんな拒絶にも耐えることができて、苦痛を感じない鈍感な者はたくさんいるが、彼女はそうではなかった。かつては世間の評判も先妻の権利もかえりみないほど大胆だったにも関わらず、すでに彼女は自分の将来や、過去が自分にとってどういう意味を持つかについて敏感になっていた。実際のところ、彼女の以前の行動は、若さゆえの情熱とクーパーウッドの強烈な男性的魅力のなせるわざだったのかもしれない。もっと幸運な状況であれば、彼女はその後のスキャンダルに巻き込まれず無事に結婚していたかもしれない。こうなれば、自分に対し、さらには彼に対して、自分の正しさを証明するためにも、ここの社交界での将来を満足できる形で仕上げねばならない、と思った。

 

「サンドイッチは冷蔵庫に入れておいて」〝在宅日〟の自宅訪問が失敗していた最初の頃、あまるほど用意された、ピンクや青のリボンつきの小さなお菓子が、食べられないまま、美しいセーヴルの皿の上でその存在感を誇っているのを見ながら、アイリーンは執事のルイスに言った。「花は病院に送って。クラレットやレモネードは使用人が飲んでいいわ。ケーキは夕食用にちゃんと保存しておいて」

 

 執事は会釈して「かしこまりました、奥さま」と言った。それから、気まずい雰囲気をやわらげようとして、付け加えた。「今日はあいにくのお天気でした。そのせいでございましょう」

 

 アイリーンは瞬時にカッとなった。「出過ぎた真似を!」と叫びそうになったが、思い直した。「ええ、そうかもしれないわ」と答えて、上の階の自室に向かった。一度の侘びしい〝在宅日〟が使用人にまで口出しされるようでは、事態はかなり深刻だ。これは天気のせいなのか、それとも世間の見方が本当に変わったのかを見極めるため、アイリーンは翌週まで待った。結果は前回よりもさらに悪かった。雇った歌手たちは、せっかく来たのに歌わないまま帰されねばならなかった。ケント・マッキベンとテイラー・ロードは、今ちまたを飛び交っている噂にちゃんと気づいていても来てくれたが、どこかよそよそしく、困惑した様子だった。アイリーンにもそれがわかった。この二人と、ウェブスター・イズラエルス夫人とヘンリー・ハドルストン夫人しか訪問者がいない事態は、何か悪いことの悲しい徴候だった。体調不良を理由に、中止せざるを得なかった。三週目、前回よりひどい敗北を恐れたアイリーンは体調不良を装った。カードが何枚置かれるかを確かめたかった。たったの三枚。それで終わりだった。彼女は、自分の〝在宅日〟が誰の目にも明らかな失敗であることを悟った。

 

 同時にクーパーウッドもまた、現在広がっている自分への不信と社交での逆風からは逃れられなかった。

 

 事態の現状に最初に気づいたのは、アイリーンがまだ確信を持てずにいた頃、それ以前に受けた招待に基づいて、不幸にも出席したディナーがきっかけだった。これはもともとサンダーランド・スレッド夫妻に催されたものだった。夫妻は社交界での地位があまり高くなく、このときはまだ、広まりつつあるたちの悪い噂や、少なくともクーパーウッド家に対する社交界の新しい態度に、気づいていなかった。この頃には、ほぼ全員――シムズ家、カンダ家、コットン家、キングズランド家――のあいだで、大きな間違いが生じていた、クーパーウッド夫妻は断じて受け入れられない、という態度が共通認識になっていた。

 

 このディナーには、夫妻が知っている人たちが何人も招かれていた。クーパーウッド夫妻の出席を知ったり思い出したりすると、全員が一様に土壇場になって「誠に残念ながら」と欠席の知らせを送った。スレッド夫妻以外にはクーパーウッド夫妻が特に気にかけていない他のメンバー――スタニスラウ・ホエクセマ夫妻――しかいなかった。退屈な夜だった。アイリーンは頭痛を訴え、二人は帰宅した。

 

 その直後の、かなり前に招待されていた隣人のハートシュタット家のレセプションでのこと、主催者は相変わらず十分に友好的だったが、明らかに二人を避ける雰囲気があり、完全に新しい局面に入っていた。それまでは、面識のない著名人がこの種の催しに出席していると、アイリーンの美しさでいつも目立つクーパーウッド夫妻によろこんで紹介されたものだった。この日は、アイリーンにもクーパーウッドにも明確な理由がわからないまま(もっとも二人とも勘づいてはいたが)ほぼ一様に紹介が拒まれた。顔見知りや、何げなく言葉を交わす人は何人もいたが、全体の傾向としては全員が二人を避けていた。クーパーウッドはすぐに異変を察知した。「早めに帰った方がいいと思う」少ししてからアイリーンに告げた。「ここはあまり面白くない」

 

 二人は自宅に戻った。クーパーウッドは議論を避けるためにダウンタウンに出かけた。まだこれについての自分の考えを話したくなかった。

 

 最初の本格的な打撃がクーパーウッド本人に加えられたのは、ユニオン・リーグ主催のレセプションを控えていた頃で、しかも間接的に加えられた。ある朝、レイク・ナショナル銀行で話をしていたとき、アディソンが極めて内密に、しかも不意を突くように切り出した。

 

「話しておきたいことがあるんだ、クーパーウッド。シカゴの社交界のことなんだが、あなたはもうある程度は知ってるだろう。それと、初めて会ったときに話してくれたあなたの過去について、私がどういう立場をとっているかも知っているね。実は今、その件に関するあなたの噂でもちきりなんだ。あなたと私が所属している二つのクラブは、新聞の陰謀論に踊らされた、裏表のある紳士面した偽善者であふれかえっている。メンバーに旧ガス会社の株主が四、五人いて、あなたを追い出そうと躍起になっているんだ。彼らは、あなたが私にしてくれた話を調べて、両方の運営委員会に告発しようと画策している。まあ、両方とも何も起きませんよ――私のところにも話を持ちかけてきていますから。でも、次のレセプションのときは、どうすべきかはおわかりですね。主催者はあなたに招待状を出さなければならないが、招待は本意ではないわけです」(クーパーウッドは理解した)「私の判断では、この騒ぎはきっと収まります。私が手をつけられることが何かあれば、収まるんだ。でも、当面は――」

 

 アディソンは好意的にクーパーウッドを見つめた。

 

 クーパーウッドは微笑んで、「実を言うと、この事態は予想していました、ユダ」と平然と言ってのけた。「最初からずっとね。私のことは心配いりません。これはすべてわかっていたことです。風向きを見てきたから、帆の張り方はわかっています」

 

 アディソンは手を伸ばして彼の手を取った。「しかし、何があっても退会してはいけませんよ」と慎重に言った。「それでは弱さを自分で認めるようなものだし、向こうもそこまでは期待していない。私もあなたにやめてほしくない。踏ん張りどころです。この騒ぎはいずれ収まります。どうせ妬みですから」

 

「やめるつもりはありませんよ」クーパーウッドは答えた。「私に突きつける正当な罪状がありませんからね。十分な時間さえあれば、すべて収まることだとわかっています」とはいえ、誰かとこんな会話をせざるを得ない立場に自分がいることを思うと彼は悔しかった。

 

 同じように、他の方面でも、いわゆる〝社交界〟なるものは自分たちの命令と決定を強制することが可能であった。

 

 クーパーウッドがかなり後になって知り、最も憤慨したのは、ノリエ・シムズ邸の玄関でアイリーンに直接加えられた冷たい仕打ちだった。そこを訪ねたとき、彼女は他の来客の馬車が通りに並んでいたにも関わらず、シムズ夫人は不在だと告げられたのである。数日後、アイリーンは本当に病気になった。クーパーウッドは大層悲しみ、驚いた――そのときは原因を知らなかった。

 

 もしガス事業の支配権をめぐる争いで、クーパーウッドがすべての反対勢力を制して最終的な金融面での勝利を収め、敵を完全に打ちのめしていなかったら、状況は実に厳しいものになっていただろう。実際、アイリーンはひどく苦しんだ。この侮辱はそもそも自分に向けられたものであり、決して消えることはない、と感じたからだ。自宅の自分たちだけの空間で最終的に二人は、華麗で力強く見えていようとも、砂上の楼閣にすぎなかった自分たちの家が崩れ落ちたことを、互いに認めざるを得なかった。これほど親密に結ばれた者同士のあいだで交わされる打ち明け話ほど、つらいものはない。人間の魂は絶えず互いを求めてわかり合おうとしているが、それがうまくいくことは滅多にない。

 

「いいかい」あるとき、思いがけず部屋に入った際に、アイリーンがベッドに伏せって目を濡らしているのを見つけ、その日はメイドまでさがらせていたのを知り、ついに彼は口を開いた。「こうなることはわかっていたんだ。実を言うと、アイリーン、むしろ予想していたくらいだよ。私たちは事を急ぎすぎてしまった、私もきみもね。この問題を強引にやり過ぎてしまったんだ。でも、きみのこんな姿は見たくないな、アイリーン。この戦いに負けたわけではないんだよ。きみはもっと勇敢だと思っていたんだがな。どうやら忘れてしまったようだから、言っておこう。これはすべていずれお金で片がつく。私は今、この戦いで勝っているし、他の戦いでだって勝つだろう。歩み寄るのは向こうなんだ。だから、アイリーン、絶望することはない。きみはまだ若い。私は決してあきらめない。きみはこれから勝つんだ。この問題はこのシカゴで解決できる。解決したら、そのときいっしょにまとめて借りを返してやろう。私たちは金持ちだし、これからもっと金持ちになる。それで片がつくんだ。さあ、機嫌を直して、笑顔を見せてごらん。この世界には社交界以外にも生きがいはたくさんあるんだ。起きて服を着なさい。ドライブして、ダウンタウンで夕食を食べよう。きみにはまだ私がいる。それで十分じゃないか?」

 

「ええ、そうね」アイリーンは重くため息をついたが、またベッドに沈み込んだ。そして彼の首に抱きついて泣き出した。耐えていた失意と同じくらい、彼が慰めてくれた喜びは大きかった。「あたしだけじゃなく、あなたにまで大変な思いをさせちゃったわね」彼女はため息をついた。

 

「わかっている」クーパーウッドはなだめた。「でも、もうそのことは心配するな。きみは大丈夫だ。私たち二人ともね。さあ、起きて」それでも、アイリーンがこんなにも弱々しく挫けるのを見るのは残念であり、彼には不快だった。この件について、いつかきっちり社交界と決着をつけてやると心に決めた。こうしているあいだに、アイリーンは元気を取り戻しかけていた。クーパーウッドがどれほど力強くこのすべてに向き合っているかを見て、彼女は自分の弱さが恥ずかしくなった。

 

「ああ、フランク」アイリーンはようやく叫んだ。「あなたはいつだってとてもすばらしいわ。ほんとうにすてきな人」

 

「気にしないことだ」クーパーウッドは明るく言った。「もしシカゴでこの勝負に勝てなければ、よそで勝てばいいんだ」

 

 クーパーウッドは、既存のガス会社とシュライハートとの問題を調整した鮮やかなやり方を考えていた。そして、時が来れば、他の問題も完璧に処理するつもりだった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ