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巨人  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
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第13章 賽は投げられた


この訪問の成果がはっきり出るまでに時間はかからなかった。トップともなると、大きな問題ともなると、人生は何とも不可解な人同士のもつれ合いに突入する。この問題が関心事となったマッケンティ氏は、すべての側面から……議論に出たシュライハート側と取り引きする方が得策ではないだろうか、など……このガスの問題を知りたくなった。しかし、彼の最終的な結論は、クーパーウッドが概説した計画が最も政治的に利用しやすいというものだった。主な理由は、現時点で市議会に何かを要求する必要のない立場のシュライハート派は、市役所の強欲な勢力に一切の働きかけをし忘れるほど鈍感だった。


クーパーウッドが次に自宅を訪問したとき、マッケンティは歓迎気分だった。「さて」なごやかな前置きの言葉を少し述べてからマッケンティは言った。「私なりに状況を検討してみました。あなたの提案は実にいいものだ。会社を作って条件のとおりに計画を直してください。それから、あなたが決めたことを議会に提出して、何ができるかを見極めましょう」両者は、今後の株式分割方法や、既存の会社との最終提携か新合併会社との合意条件が満たされるまで、株式がマッケンティ氏寄りの銀行に預託される条件や、その類の詳細に関して、長々と突っ込んだ話し合いに入った。それはかなり複雑な取り決めで、クーパーウッドの思い通りの満足とはならなかったが、勝てるという点では満足だった。しばらくは、ヴァン・シックル将軍、ヘンリー・デ・ソト・シッペンス、ケント・バロウズ・マッキベン、ダウリング市会議員が一致団結して仕事に取り組んでもらう必要があった。しかし最後には反転攻勢の準備が整った。


市議会の規則でこの種の条例は木曜日に提出されねばならないが、この議案はその翌週の月曜日の夜に公然と提出され、ほんの少ししか時間をさかずに、速やかに市議会で審議されて成立した。実は公開討論の時間がなかった。もちろん、これこそが、クーパーウッドとマッケンティが避けようとしていたことだった。この条例が確実に成立するように議会に提出された木曜日の翌日に、シュライハートは新聞社に駆け込み、弁護団と個々の既存のガス会社の役員を通じて、これは明らかな強盗だと非難した。しかしどうすればよかったのだろう? 扇動する余裕などなかった。この大物資本家の影響力に従順な新聞社は「既存の会社へ公平な対応を」とか、一社で十分事は足りている地域に対立する大企業が二社あるのは無駄だと言い始めた。それでも市民は、マッケンティの運動員に反対のことを言われたり、吹き込まれたりして、それを信じようとしなかった。既存の会社の肩を持って抗議をするほど市民はあまり恩恵を受けてはいなかった。


法案が最終的に成立した月曜日の夕方、靴ブラシのような頬髯の小柄でひょろっとした〈サウスサイド・ガス社〉社長のサミュエル・ブラックマン氏は、市議会の入口に立ち、強い口調で宣言した。


「これは悪党の所業だ。法案に署名するならば、市長は弾劾されるべきですね。今夜、買収されなかった票はありません……一票もです。これはシカゴに山賊が現れた立派な証拠です。何年も働いて事業を築き上げたみなさんも、安泰といえませんからね!」


「一言一句にいたるまで、真実です」卵を縦に置いたような頭に、ほんの一房の髪、険しい青い目をした、背の低い、がっしりした男、〈ノースサイド社〉社長のヨルダン・ジュールズ氏は不満を述べた。背が高くて、のんびり歩調の〈西シカゴ社〉社長のハドソン・ベーカー氏と一緒だった。三人とも抗議に来ていた。


「フィラデルフィアから来た悪党の仕業だ。我々のトラブルのすべての根源がそいつです。シカゴのまともなビジネスマンは、自分たちがどういう相手と取引しなくてはいけないかを認識してもいい頃だ。あいつはここから追放されるべきです。フィラデルフィアでの経歴をご覧なさい。向こうは奴を刑務所送りにしました。ここでもそうするべきです」


つい最近シュライハートに招かれ、その手先となったベイカー氏も、当然悔しがった。「あの男はくわせ者だ」とブラックマンに抗議した。「やり方がフェアじゃない。まともな社会の人間じゃないことは明らかだ」


しかし、この努力の甲斐もなく条例は成立した。これは、ノーマン・シュライハート氏、ノリエ・シムズ氏、そして不幸にも巻き込まれてしまった全員にとって苦い教訓になった。既存の三社で構成された委員会が市長を訪ねた。しかしマッケンティの道具に過ぎない市長は、敵の手に将来を託してしまい、署名をした。クーパーウッドは運営権を取得したのだ。それに不満かもしれないが、こうなった以上は、近頃の言葉で言うと「上に行ってボスに会う」必要があった。シュライハートだけは、クーパーウッドとの決着はついてないと密かに感じた。いずれどこか別の土俵で彼と対戦するつもりだった。次回は相手と同じ手段で戦うつもりだった。しかし、抜け目ない男だったので、今回は妥協する覚悟を決めた。


それから悔しさをひた隠しにして、彼が会員になっている両方のクラブでクーパーウッドを探しつづけた。しかしクーパーウッドはこの騒ぎの間、どちらも避けていた。結局マホメットの方が山に出向いて行かねばならなくなった。それで、ある眠たくなるような六月の午後、シュライハート氏はクーパーウッドの事務所に立ち寄った。明るく真新しい鉄灰色のスーツを着て、麦わら帽子をかぶっていた。当時の流行で、ポケットからはきちんと青い縁取りのシルクのハンカチが出ていて、足もとは新品でぴかぴかのオクスフォードの紐靴を完璧にはきこなしていた。


「数日後にヨーロッパに向けて出向するんですよ、クーパーウッドさん」シュライハートは穏やかに言った。「あなたと私がこのガスの問題で何か合意できないかと思って確認しに来たんです。既存の会社の役員たちは当然、業界に競争相手はいらないと考えているし、あなただって誰の得にもならない無益な値引き合戦をやろうと考えてはいないはずだ。以前あなたが五分五分で妥協する気だったことを思い出したんです。今でもその考えに変わりはないかと思いましてね」


「まあ、どうぞ、おかけください、シュライハートさん」クーパーウッドは新しい来客を椅子へうながしながら愛想よく言った。「再びお目にかかれて何よりです。まったく、私だってあなたと同様、値引き合戦など望んではいませんよ。本当は、避けたいところなんですが、このとおり、あなたにお会いしてから、どういうわけか事情が変わってしまいましてね。この新しい都市ガス会社を作って、自分のお金を投資した紳士たちは、すっかりその気で……実はかなり熱心で……このまま本格的な事業化を進めたがっています。自分たちならできるとみんなが自信満々でしてね。私も同じ意見です。既存の会社と新会社の間で妥協は成立するかもしれないが、前回の落としどころでは無理ですね。その後、新会社が設立され、株式が発行されて、莫大な出費がありました」(これは事実ではなかった)「その株式は新しい合意に加算されねばなりません。私はすべての会社がみんな一つにまとまるのが望ましいと思います。しかし、一株にせよ二株、三株、四株にせよ……どう決まるにしても……関係するすべての株式の額面でしなければなりません」


シュライハート氏は浮かぬ顔をした。「それは随分と法外じゃないですか?」シュライハートは厳しい顔で言った。


「そんなことはないですよ!」クーパーウッドは答えた。「この新たな出費は好き好んでしたわけじゃないのはご存知でしょう」(この皮肉はシュライハートに向けたものだったが、相手は何も言わなかった。)


「それは認めますが、そちらの株式は現在事実上、無価値なんですから、その分が額面で受け入れられたら、あなたの方はさぞかし満足でしょうね?」


「どういうことか、わかりませんね」クーパーウッドは答えた。「我々の前途は洋々ですよ。ここで公平な調整を行うか、何もしないかです。私は知りたいのですが、昔からの株主全員に行き渡らせた後で、この新会社の活動に備えて確保するつもりの自己株式はどのくらいなんですか?」


「まあ、以前は総発行量の三十から四十パーセントと考えました」シュライハートは未だに有益な調整を期待しながら答えた。「その基準でなら活動できると思いますが」


「で、それを手にするのは?」


「まあ、設立した者ですな」シュライハートは言葉を濁した。「あなたか、あるいは私だ」


「どうやって分けるつもりですか? 五分五分ですか、以前のように?」


「それが公平というものでしょう」


「それでは足らない」クーパーウッドは厳しく答えた。「私は最後にあなたと話してから、その時は予想もしなかった債務を背負ったり、契約をせざるを得なくなったんですよ。今だと四分の三で手を打つのが精一杯ですね」


シュライハートは断固反対を表明して背筋を伸ばした。これは横暴だ、話にならない! ずうずうしいにも程がある! 


「それは絶対に無理ですよ、クーパーウッドさん」シュライハートは力強く答えた。「どうせあなたは、この会社を使って価値のない株を大量に処分しようとしてるんでしょ。ご存知のように、既存の会社の株式は今も一ドル五十セントから二ドル十セントで売っています。あなたの株式には何の価値もない。これであなたが一対二か三の割り当てと、金庫の残りの四分の三がもらえたら、私は取り引きするものが何もないじゃないですか。あなたは会社を支配することになるだろうが、それではどうせ行き詰りますよ。何もしないで何かを得ようというのですか! 私が既存の会社の株主に提案するにしてもせいぜい五分五分です。別に信じなくてもいいですが、あなたには率直に言いましょう。あなたに主導権を与えるような計画に、既存の会社は参加しませんよ。みなさん、怒り心頭ですから。感情が高ぶり過ぎているんです。つまり、長く高くつく戦いになるでしょうね。向こうは絶対に妥協しませんよ。もしあなたに何か本当に合理的な提案があるのなら、よろこんで聞きましょう。そうしないと、この交渉はどうにもならないと思いますよ」


「均等配分して、残りの四分の三です」クーパーウッドは険しい面持ちで繰り返した。「私は経営したいわけじゃない。彼らがお金を集めて、私が売りたい基準で買収したいかどうかなんです。私は自分がした投資にちゃんとした利益が欲しいんです。そしてそれを手に入れるつもりです。私の背後にいる他の人たちのことは言えませんが、私を通じて取引をする以上、彼らが期待するのはそれなんです」


シュライハート氏は怒って立ち去った。並み大抵の怒り方ではなかった。クーパーウッドが今した提案は贔屓目に見ても強奪行為だった。シュライハートは、必要とあらば自分は既存の会社陣営から撤退し、持ち株を処分して、既存の会社の好きなようにクーパーウッドと取り引きさせようと腹を決めた。自分が関係している限りは、クーパーウッドがガス問題を掌握することはない。相手の提案に応じて資金を調達し、法外な金額でもいいから買収した方がいい。そうすれば既存のガス会社は、自分たちの昔からのやり方で、わずらわされずに商売を続けられる。この欲張り者め! 成上り者め! なんと狡猾で、すばしっこい、強力な手をうったのだ! これはシュライハート氏をひどく苛立たせた。


この結果は、クーパーウッドが、新しい一般株式の余剰分の二分の一と、新会社が準備した株式の一株につき二株を受け入れて、同時に既存の会社に売り払う……完全に清算する……という妥協案になった。大儲けだった。マッケンティとアディソンだけでなく、他の関係者全員に大盤振る舞いができた。マッケンティとアディソンが請け合ったように華麗な大勝利だった。これだけの大仕事をやりとげたとあって、その目は征服すべき他の分野に向き始めた。


しかし、一方で勝ってももう一方ではそれ相応の敗北を喫していた。クーパーウッドとアイリーンの社交界進出は今や大きな危機に瀕していた。社交界に影響力があるシュライハートは、クーパーウッドのせいで敗北し、今や彼と激しく対立していた。ノリエ・シムズは当然、古くからいる仲間と共に味方した。しかし、最悪の痛手はアンソン・メリル夫人からもたらされた。新築祝いの直後、ガスの議論と共謀容疑が盛り上がっていた頃、夫人はニューヨークにいて、そこでたまたまフィラデルフィアの古い知人のマーティン・ウォーカー夫人に出くわした。その昔クーパーウッドが入会しようとむなしい野心を抱いたサークルのメンバーだった。メリル夫人は、クーパーウッド夫妻がシムズ夫人たちに関心を持たれていたのを知っていたので、何か明確な情報を知るチャンスだと歓迎した。


「ところで、フィラデルフィアのフランク・アルガーノン・クーパーウッドという方か、その奥さんについて聞いたことがございますか?」夫人はウォーカー夫人に尋ねた。


「まあ、ネリーったら」メリル夫人のような立派な女性が話題にしたことに、友人はひどく困惑して答えた。「あの人たち、シガゴに落ち着いたんですか? フィラデルフィアでの経歴は、控え目に言っても見せ物でしたわ。その人は、五十万ドルを盗んだ市の財務官とつながりがあって、両方とも刑務所に行ったのよ。それが最悪で終わらなかったんですから! ある娘と親密になったの……ミス・バトラーっていうオーエン・バトラーの妹よ、地元の有力者なんですけどね……」夫人はただ目をつり上げるだけだった。「男が刑務所にいる間に、娘の父親は死に、家庭は崩壊よ。老紳士が自殺したという噂まで聞いたわ」(アイリーンの父親のエドワード・マリア・バトラーのことを言っていた)「刑務所から出るとクーパーウッドは行方をくらまし、西へ行って、奥さんと離婚して再婚したって誰かが言ったのを聞いたわね。最初の奥さんは、二人のお子さんと一緒にまだフィラデルフィアのどこかに住んでいるわよ」


メリル夫人は確かに驚いたが、そんな素振りは見せなかった。「実に興味深いお話ね?」クーパーウッド夫妻の立場を左右するのはいともたやすいことだと思い、そんな人たちに自分は何の関心も示したことがなかったと悦に入りながら、冷ややかに言った。「それでご覧になったんですか……その新しい奥さんのことは?」


「ええ、でも場所は忘れましたけど。確かフィラデルフィアでよく馬や馬車を乗り回していたわね」


「髪は赤毛かしら?」


「そうね。とても印象的なブロンドよ」


「じゃ、きっとその人だわ。最近シカゴでも新聞に載りましたもの。確かめたかったんです」


メリル夫人はこれから発せられる気の利いた文句を考えていた。


「今度はシカゴの社交界に入り込もうとしているんでしょ?」ウォーカー夫人は慇懃無礼に微笑んだ……クーパーウッド夫妻とシカゴの社交界に矛先は向いていた。


「東部ならそういうことを試みれば成功するのかもしれませんね……確かなことは存じませんけど」中傷に憤慨したメリル夫人は痛烈にやり返した。「でもシカゴでは試みることと、達成することは別の話ですから」


その答えで十分だった。話は終わった。次にシムズ夫人が軽はずみに、クーパーウッド夫妻、とりわけクーパーウッド氏に限った評判を話題にしたときに、夫人に向ける将来の意見がはっきりと決まった。


「差し出がましいことを言うようですが」メリル夫人はようやく言うときが来た。「こういう方々とのおつき合いはお控えになった方がよろしいわ。私はあの人たちのことをすべて知っているんです。奥さまは最初からお見通しだったかもしれませんけど。到底受け入れられる方々じゃありませんわ」


メリル夫人はあえて理由を説明しなかったが、シムズ夫人はじきに夫が全てを調べあげるだろうと思った。そして当然のことながら憤慨し、おびえるほどだった。こういうのは誰のせいかしら? 夫人は考えた。誰の紹介だったかしら? そうだ、アディソン夫妻だ。しかし、全能ではないにせよ、アディソン夫妻は社交界では盤石だ。それが最大に利用されたに違いない。しかし、クーパーウッド夫妻はすぐにでも夫人と夫人の友人のリストから除外する気ならできてしまうわけであり、即刻そうなった。クーパーウッド夫妻の社交力は突然陰りを見せた。しかしそれほど急速ではなく、しばらくは見ていてもよくわからなかった。


アイリーンの目に映った最初の変化の兆しは、このところ大量に届いていたパーティーなどの挨拶状や招待状が激減し始めたことと、まだ早いと思ったが思い切って始めた水曜日の午後の集いのゲストがほんのひと握りになってしまったことだった。自宅での催し物が明らかに成功を収めた直後に、自分の地元での重要性が著しく低下するとは信じたくなかったので、最初はこれを理解できなかった。新築祝い後三週間しかたっていないのに、訪問したり挨拶状を置いていった七十五から五十人のうちで返事をくれたのはたったの二十人だった。一週間後にそれが十人にまで減り、結局、五週間で訪問する人はほとんどいなくなった。確かに、大物ではないごく少数の人たち……アイリーンの影響力を期待した人たちと、クーパーウッドに仕事の恩がある保身に徹したテイラー・ロードとケント・マッキベン……はずっと義理堅かったが、これは皆無よりもかえって悪かった。アイリーンは、失望、反発、悔しさ、恥ずかしさ、で我を忘れた。サイのように待つ者、鉄の魂を待つ者、最終的な勝利に望みを託してどんなにはねつけられても平気な人、面の皮が厚過ぎてほとんど悩まない人は大勢いたが、アイリーンはその一人ではなかった。すでに世間体や先妻の権利に対しては独創的な大胆ぶりを発揮していたのに、自分の将来や、自分の過去が自分にどう跳ね返ってくるかという問題には敏感だった。本当はアイリーンの基本的な行動は、自分の若さゆえの情熱とクーパーウッドの強力な男性的魅力のせいなのかもしれない。もっと幸運な状況だったら、彼女は無事に結婚しその後のスキャンダルに見舞われることはなかっただろう。こうなっては、自分自身と彼の正当性を示すためにも、ここでの自分の社会的な未来が、満足いく形で終わる必要があると考えた。


「サンドイッチはアイスボックスに入れればいいわ」最初の頃はホームパーティーが失敗に終わると、過剰に用意したピンクや青のリボンのお菓子のことで、アイリーンは執事のルイスに言った。食べられなくても物がのっていると立派なセーヴル焼きは引き立った。「花は病院にでも送って。クラレットやレモネードは使用人が飲めばいいし、ケーキはディナーで食べるから新鮮に保存しておいてね」


執事はお辞儀をして「かしこまりました、奥さま」と言った。それから、彼なりに状況を収めたくてつけ加えた。「今日は大変な一日でございました。何とかなるものでございます」


アイリーンは一瞬で真っ赤になった。「自分の仕事をしてればいいのよ」と叫びそうになったが考えを改めた。「ええ、そうよね」と答えて自分の部屋にさがった。独りぼっちのわびしいホームパーティーが使用人に心配されるようになったら、もうおしまいだ。これは天気のせいなのか、世間の感じ方が本当に変わったのかを見極めるためにアイリーンは次の週まで待った。状況は前の週よりも一層悪化した。雇った歌手は、歌いに来たのに歌わないまま帰らされるはめになった。ケント・マッキベンとテイラー・ロードは今飛び交っている噂をよく知っていても来てくれるが、よそよそしくて困った様子だった。アイリーンにもそれがわかった。この二人とウェブスター・イズラエルス夫人とヘンリー・ハドルストン夫人しか来る人がいないなんて、何か悪いことの悲しい徴候だった。病気を言い訳にして中止にするしかなかった。三週目は前回よりひどい事態を恐れてアイリーンは病気を装った。どのくらいの挨拶状が残ったか、確かめてみた。たった三通しかなかった。終わりだった。ホームパーティーは大失敗だと認めた。


同じくクーパーウッドも現在広がっている不信と断交を食らわずにはいられなかった。


ことの重大さに最初に思い当たったのは、アイリーンがまだ確信をもてずにいた頃、かなり前に受けた招待をもとに不幸にして出席してしまった晩餐会でのことだった。これはもともとサンダーランド・スレッド夫妻が催したものだった。夫妻はあまり社交的ではなかったので、この出来事の時点では拡散しつつある醜いゴシップや、少なくともクーパーウッド夫妻に対する社交界の新しい態度にまだ気づいていなかった。この時はほぼ全員……シムズ夫妻、カンダ夫妻、コットン夫妻、キングズランド夫妻……に、大きなミスがあったことと、クーパーウッド夫妻は絶対に受け入れられないことが知られていた。


この晩餐会の席にはかなりの人数が招待されていて、クーパーウッドもそれを知っていた。クーパーウッド夫妻が来ることを知ったり思い出したりすると、全員が全員、土壇場になって「誠に申し訳ない」と断り状を送った。スレッド邸の外にはクーパーウッド夫妻が特に面識のない他のメンバー……スタニスラウ・ホエクセマ夫妻……しかいなかった。退屈なひとときだった。アイリーンは頭痛を訴え、二人は帰宅した。


その直後、かなり前に招待されていた隣人のハートシュタット夫妻のパーティーでは、主催者本人はまだ十分に友好的だったが、クーパーウッド夫妻は明らかに避けられていた。まったく新しい局面だった。それまでは、見知らぬ著名人でもこの種の催しに出席すると喜んでクーパーウッド夫妻のもとに連れて行かれた。夫妻はアイリーンの美貌のおかげでいつも目立っていた。この日はアイリーンにもクーパーウッドにも理由は明かされずに(二人とも勘づいてはいたが)ほぼ一様に紹介を拒まれた。夫妻を知っている人や、何げなく話しかける人は何人もいたが、全体の傾向としては二人を避けていた。クーパーウッドはすぐに異変を察知した。「早く帰った方がいいと思うな」少ししてからアイリーンに告げた。「ここにいてもあまり面白くないだろ」


二人は自宅へ戻った。クーパーウッドは議論を避けるためにダウンタウンに出かけた。このことについての自分の考えをまだ言いたくなかった。


最初の本格的な一撃がクーパーウッド本人を直撃したのは、ユニオン・リーグのパーティーの前の、遠回しなものだった。ある朝、レイク・ナショナル銀行で話をしているときに、アディソンがごく内々に不意を突く形で言った。


「話したいことがあるんだ、クーパーウッド。シカゴの社交界のことなんだが、あなたはもう知ってますね。始めて会ったときに話してくれたあなたの過去についての私の立ち位置も知っているはずだ。そのすべてが関わるあなたにまつわる話が今たくさん出回っている。あなたと私が所属している二つのクラブだって、新聞の陰謀論に踊らされた二つの顔を裏表で使い分ける偽善者でいっぱいなんです。メンバーに既存の会社の株主が四、五人いて、あなたを追い出そうとしているんです。あなたが私にしてくれた話を調べて、双方の運営委員会に書面で訴えると息巻いています。まあ、両方ともどうにもなりませんがね……向こうが私にそう言ってきましたから。でも、次のパーティーのときは、どうすべきかおわかりでしょ。主催者側はあなたに招待状を出さねばならないが、本音は違うんです」(クーパーウッドは理解した)「私の判断では、こんなことはきっと収まります。しかるべき手段をとれば大丈夫です、でも今のところは……」


アディソンは親しみを込めてクーパーウッドを見つめた。


クーパーウッドは微笑んで、「実を云うと、こうなるんじゃないかと思っていたんですよ、ユダ」とあっさり言った。「ずっと予期していましたから、私のことは心配いりません。これに関してはすべて承知しています。風向きを見てきましたから、帆の張り方はわかっています」


アディソンは手を伸ばして握手を交わした。「しかし、何をするにせよやめちゃ駄目ですよ」と念のために言った。「そんなことしたら弱さをさらけ出すようなものだし、向こうだってそこまでは期待しちゃいない。私もあなたにそんなことはしてほしくない。踏ん張りどころです。これはすべて収まります。どうせ妬みですから」


「そんなことしませんよ」クーパーウッドは答えた。「正式に私を告発するものは何もありませんからね。十分な時間があれば、すべてが落ち着くとわかっています」とは言いながらも、誰かとこんな会話をしなければならないのかと思うと悔しかった。


他の点でも同じように「社会」……なるものはその命令でも決定でも強制できてしまうのだ。


かなり後になって知ったことだが、クーパーウッドが最も憤慨したのは、ノリエ・シムズ邸の玄関先でアイリーンがじかに食らった冷たい仕打ちだった。他の人たちの馬車が往来にあったのに、アイリーンが訪れたときにシムズ夫人は不在だと告げられたのだ。その数日後アイリーンは本当に病気になった。クーパーウッドは大層悲しんで驚いた……そのときは原因を知らなかった。


ガスの主導権争いで……敵を完全に敗走させ……クーパーウッドの投資が最終的にすべての反対を制して成功していなかったら、この問題は手の施しようがなくなっていただろう。実のところ、アイリーンはひどく苦しんだ。この軽蔑は主に自分に向けられたものであり勢いはこのまま続くだろうと感じた。自宅でひっそりしていると、見た目はきらびやかで力強そうだったのに、二人の砂上の楼閣は崩れ落ちた、と最後は互いに認めざるを得なかった。とても親密に結ばれた人同士でも心を通わせるのは、本当はすべての中でも一番大変だった。人間の魂は絶えず互いを探し求めているが、めったに見つからなかった。


「いいかい」思いがけずに部屋に入ったところ、アイリーンが涙ぐんでベッドで病に伏しているのを見かけ、その日はメイドをさがらせてあったので、ようやくクーパーウッドは言った。「こうなることはわかっていたんだ。実を言うとね、アイリーン、これはむしろ予想してたんだよ。私たちは事を急ぎ過ぎていたんだ。私もきみもね。この問題を強引にやり過ぎてしまったんだよ。さあ、きみのこんな姿は見たくないな、アイリーン。この勝負は負けちゃいないからね。ねえ、私はきみがもっと勇敢だと思ってたんだけどな。どうやら忘れてしまったようだから、言っておこう。これはすべていずれお金が解決するんだ。私は今のところこの戦いで勝っている。他の戦いでだって勝つさ。戦いの方がやってくるんだ。ねえ、アイリーン、絶望しちゃ駄目だ。きみはまだ若いんだ。私は絶対に絶望しないよ。きみだってこれから勝つんだからね。こんな問題はシカゴでどうとでもなるんだ。そうなれば同時に多くの問題が帳消しになるんだ。私たちは裕福なんだよ。もっと裕福になるからね。それで解決するのさ。さあ、おめかしして楽しそうにしてごらん。この世界には社交界の他にも生きがいはたくさんあるからね。さあ、起きて服を着なさい。ドライブしてダウンタウンでディナーにしよう。きみにはまだ私がいるんだ。それじゃ不足かい?」


「そうね」アイリーンは深くため息をついたが、また沈み込んだ。アイリーンは夫の首に抱きついて泣いた。夫がくれた慰めに対する喜びは自分が失ったものに匹敵するほど大きかった。「あなただってあたしと同じくらい大変だったでしょ」アイリーンはため息をついた。


「私は承知の上だからね」クーパーウッドはなだめた。「だけどもう心配しないことだ。きみだってうまくいくよ。私たち二人ともね。さあ、起きて」それでも、アイリーンが気弱にへたばるのを見ると悲しかった。見ていられなかった。この問題に関してはいずれ社会ときっちり決着をつけようと思った。その一方で、アイリーンは元気を回復しかけていた。夫の力強い向き合い方を見て、アイリーンは自分の弱さが恥ずかしくなった。


「ああ、フランク」アイリーンはようやく叫んだ。「あなたはいつだってとてもすてきよ。そういうすてきな人なのね」


「気にしないことだ」クーパーウッドは陽気に言った。「シカゴでこの勝負に勝てなければ、よそでやればいいんだから」


クーパーウッドは既存のガス会社とシュライハートとの問題を調整した鮮やかなやり方を考えていた。そしてその時が来たら他の問題も徹底的にやるつもりだった。



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