第3話 筋肉、大空へっ!
鷹(のような大きい鳥)に両肩を掴まれたままの私は、鷹と共に風に乗り、いま大空を飛んでいた。
前世では沖縄を旅行中にパラセーリングをしたこともあるが、あれはせいぜい40メートルほどの高さしかでしかなかった。
それがどうだ?
いまは大地があんなに遠くに見える。
鷹と共に空を舞う。
これはある意味、いまの私は鷹匠の理想のなかにいるのではないだろうか?
そう思うと胸と筋肉が高鳴ってしかたがなかった。
しかし、残念ながら私と私を掴んで離さない鷹はそんな良好な関係などではない。
鷹は私を獲物――つまりは『餌』として運んでいる真っ最中なのだ。
いったいどれだけの距離を飛んだのだろう?
いつしか眼下には広大な森が広がっている。
鷹が高度を下げはじめたところをみるに、巣が近いのではないだろうか?
このまま巣に運び私の肉体を――もとい筋肉をついばみ食する腹づもりなのだろう。
これは由々しき事態である。
前世での私は鳥のササミをミキサーにかけ、ペースト状にして飲むなどの行為を繰り返していたものだが、これはその報い。
いわば因果応報というものなのかも知れないな。
前世での業を今世で背負う。
そんなのは当たり前のことである。
だが、しかしだ。
ここで私が命を散らすと、親父殿と母殿は深く悲しんでしまうことだろう。
それに私を転生させてくれた天使と神にも合わせる顔がなくなってしまう。
人は誰もがいずれ死ぬ運命にある。
だが、生後3ヶ月である私が死ぬにはまだ早すぎるはずだ。
ならば――
私は右手て鷹の右脚を掴み、空いている左手でもって鷹の指を握る。
「ばーぶー!!」
そして、その指を一本一本へし折りはじめるのだった。
突然の痛みに鷹が暴れ始めるが、脚を掴む私の腕が外れることは決してない。
世界最強の握力器具であるキャプテンズ・オブ・クラッシュグリッパーを握るように、渾身の握力を込めて掴んでいるからだ。
かくて、全ての指をへし折られた鷹はバランスを大きく崩すことになり、私と鷹はぐるぐるともつれ合いながら地面へと落ちていくのであった。
ぐんぐん地面が近づいてくる。
――危ない。
――ぶつかる。
そう思った私は地面へと墜落する寸前で反射的に鷹と体の位置を入れ替え、鷹の体をクッション代わりにして衝撃を殺すことに成功した。
墜落の衝撃は思ったよりも大きく、残念ながら鷹は地面と私にサンドイッチされた衝撃で絶命してしまったようだ。
凄まじい衝撃だった。苦しむ間もなく即死したのだろう。
きっと私も筋肉を鍛えていなかったら即死だったに違いない。
そんなのは当たり前のことである。
「おぎゃあ……」
できることならササミを部分を切り取り私の血肉――というか主に筋肉となって供養してやりたいところではあるのだが、あいにくとまだ私は歯が生えていないのだ。
歯が生えていない私は肉を噛み切ることはおろか、喋ることすらままならない。
そんなことは当たり前のことである。
絶命した鷹を見て、私は途方に暮れてしまった。
生存競争の結果とはいえ、ひどく心が痛むからだ。
せめて墓でも作ってやるか。
そう思い穴を掘ろうとした時だった。
草木を掻き分け、黒い毛並みの大きな熊が2頭、私の前へと現れ出てきたのだった。