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第23話 筋肉、覚悟を決めるっ!

 ダチンコになった私と破滅竜は、一晩中語り明かした。

 ぼっち歴が人類の歴史よりも長い破滅竜は、私の他愛もないジョークで大いに笑い、お返しとばかりにこの世界の創生秘話や、かつて栄華を誇っていた文明(破滅竜が滅ぼした)について語ってくれた。

 きっと、歴史家や親父殿の友人であるポール氏がいたら食い気味に食らいついていた話題であろう。


 この星の歴史を、その眼で見てきた目撃者自身が語ってくれているのだ。

 その言葉に途方もない価値があることは、筋肉にしか興味のない私でもわかる。


 ただ、生憎と筋肉にしか興味がない私には、破滅竜の言葉も右から左であったが。

 そんな感じに夜を明かし、翌日。

 私は破滅竜と別れを惜しむ言葉を交わしていた。


『マッスルよ、本当に我の背に乗らなくて良いのか? 我の翼ならこの大陸のどこへだって貴様を連れて行ってやることができるのだぞ?』


「破滅竜殿、ありがたい申し出ではあるが、貴殿は人類にとって余りにも大きな存在。貴殿の姿をひと目見ただけで大騒ぎになってしまうのである。だから、気持ちだけ受け取っておくのである」


『そうか……。わかった』


「そんな寂しそうな顔をしなくても良いのである。こんどは私の家族や友人も連れて遊びにくるゆえ、楽しみにしてて欲しいのである」


『さ、寂しがってなどおらぬわっ。最強の我を――いや、なんでもない。……マッスル、また貴様がここに来る日を楽しみにしておるぞ』


「うむ! ではそろそろ行こう。破滅竜殿、シーユーアゲインなのであるっ」


 私は破滅竜に別れを告げ、帰路へとついた。

 破滅竜から土産代わりにもらった鱗で、股間を隠しながら。



 ◇◆◇◆◇



 大陸の果てから王都へとジョギングで帰ってきた私が目にしたのは、


「道を開けろ! 騎士団が通るぞ!」


「15歳以上の男子は武器を取って隊列に加われ! これは人類の存亡を賭けた戦いだ!!」


「糧食を集めろ! 戦いは幾日にも及ぶ。いくらあってもすぐ足りなくなるぞ!!」


「鍛冶師でも商人でも誰でもいいっ! 武器があったら軍に寄付してくれ!!」


「これは我々の存亡を賭けた戦争だ!!!」


 武装した集団――すなわち、軍隊・・であった。


「はて? これはいったい何事であるのかな?」


 思い当たることといえば、やはり破滅竜の存在だろうか。

 親父殿や母殿、ポール氏などの進言により破滅竜の存在を知った国王が、軍に討伐命令出す。

 これが一番しっくりくるのだが……。


「剣や槍で倒せるほど破滅竜殿は易い相手ではないのだがなぁ」


 腕を組み、首をかしげる私の耳に、とんでもない言葉が飛び込んできた。


「大魔王フレディー・マーキュリアスが我ら人間族や亜人族を滅ぼすために全ての魔族を率いて進軍してきている! 諸君っ! 決戦の日は近いぞ! 立てよ国民っ!!」


 将軍っぽい騎士が声を張り上げ演説している。


「な、なんと……。魔族が攻めてくるのであるか」


 私が王都を留守にしている間に、事態は急変していたらしい。

 人類の天敵――魔族。

 その魔族のキング・オブ・キング。大魔王フレディー氏が進軍してきているというではないか。


 これは人間だけでなく、獣人やエルフなどの亜人族にとって由々しき事態である。

 私は詳しい事情を聞くため、学園を目指して駆け出した。

 破滅竜から土産代わりにもらった鱗で、股間を隠しながら。



 ◇◆◇◆◇



「エリィはいるかっ!?」


 学園の寮についた私は、寮母への挨拶もそこそこにエリィの部屋の扉を開け放った。

 本来なら女子寮は男子禁制の神聖なる場所。

 そんなのは当たり前のことである。


 しかし、いまは事態がひっ迫しているのだ。

 緊急事態なのだ。


「おおっ、そこにいたかエリィ」


「ま、マッスルくんっ!? ……って、きゃーーーーーーーーーーーっ! マッスルくんのバカ! アホウ! スケベ! 変態! 筋肉ぅ!!」


 股間のみ鱗装備の私を見たエリィが、悲鳴をあげ部屋にあるものを手当たり次第ポイポイ投げつけてくる。

 バカだのアホだのディスりつつ、さりげなく『筋肉』と褒め称えているところが高ポイントだった。


「お、落ち着いてくれたまえ。この格好には深い事情が――」


「いいから服着なさいよね!!」


「う、うむ。承知した」


 私は一時撤退し、自室で学生服ピチピチを着てから改めて寮母に「ただいま帰りました」と挨拶をし、エリィの部屋を訪ねた。

 私の肉体美をひとりで堪能してしてしまったエリィに、なぜ私があんな格好だったのかじっくりと説明する。


 母上クマの森で別れたあと、私が破滅竜の元を訪ねダチンコになったこと。

 その過程でありのままの姿になってしまったこと。

 王都までジョギングしながら帰ってきたことなど、時折小粋なジョークを挟みながら余すことなく伝えた。


 一通り説明し終えたところで、再度エリィに問いかける。


「してエリィ、外の騒ぎはいったい何事であるか?」


「マッスルくん……。実はあたしたちが王都に戻った数日後に、魔王軍が人間・亜人連合に宣戦布告してきたの。『どちらかが滅びるまで戦おう』って」


「そんなことが……」


「うん、きゅ、急だよね……。きっかけはね、魔族の街が壊滅したことだったらしいの」


「魔族の街? ハッ!? まさか――」


「たぶんそう。破滅竜が滅ぼした街があったでしょ? 魔族は街を滅ぼしたのはあたしたち人間族だと勘違いしたみたいなの。マッスルくんのお父さま、勇者シドさまが大魔王フレディー・マーキュリアスに誤解を解きに行ったそうなんだけど、話し合いの場も作られずに追い返されたそうよ」


「親父殿が……」


「ほら、破滅竜を見たのはあたしたちだけじゃない? いくら勇者のシドさまの言葉でも、お伽噺にしか出てこない破滅竜のことは誰も信じてくれなかったの。大魔王だけじゃなくて、この国の……王さまですら」


「国王陛下がであるか? しかしスーザン先輩パイセンも破滅竜殿を見たではないか?」


「……『エンシェント(古代)ドラゴン()と見間違えたのだろう、王さまはスーザン先輩やシドさまにそう言ったそうよ」


「なんてことだ……。では戦争は?」


「戦争は……もう避けられないってさ。いま人間族すべての国の軍が魔族領との国境付近に集結しているみたいなの。魔族を……迎え撃つために。マッスルくん、歴史上最大規模の戦争が起きるんだって。もう……避けられないんだって。どうしようも……ないんだって」


 エリィはそう言うと、暗い顔で俯いてしまった。

 床板に、ぽつぽつと雫が落ちる。


 魔族は人間より数は少ないが、その力は強大だと云う。

 人間のトップランカーである親父殿ですら、パーティを組んで魔王を倒すのが精一杯。にも関わらず、魔族のビッグボス、大魔王が自ら出陣してきているそうではないか。

 如何に人間軍が数で勝ろうとも、個々の質という点では大きく劣っているのだ。


 昔、親父殿が言っていた。

 もし人間と魔族が全面戦争することになったら、ぶっちゃけ人類に勝ち目はないだろう、と。


「シドさまもおばさまも、セクロスピストルズのみなさんも国境に行っちゃったわ。15歳になって成人したスーザン先輩も元生徒会の5人を連れて一緒にね。明日になれば、もう王都に残ってるのはお年寄りと戦えない女のひとに小さな子供、それとあたしたち学生ぐらいでしょうね」


 エリィの震える肩に、私はそっと手を置いた。

 瞬間、弾かれたようにエリィが私の腕の中へと飛び込んできた。

 私のバッキバキに割れた腹筋に顔を埋め、大きな声でわんわんと泣きじゃくる。


「マッスルくん。戦争がっ、また戦争が起きるの! お父さんとお母さんを奪った魔族との戦争が……またはじまっちゃうんだよぉ。どうしよう? どうしたらいいのぉ!?」


 エリィにかける言葉を見つけられず、ただただ抱き寄せることしか出来ずにいた。

 私は……なんと無力な存在なのだろうか。


 いくら私が常軌を逸した筋肉を持ち合わせているとはいえ、まだ13歳。

 大人に対する発言権すらない、13歳の無力な少年に過ぎないのだ。

 そんな未成人の少年の話を、いったい誰が真剣に聞いてくれるというのだろう?


 私がいくら声を張り上げて「戦争はいけない」と訴え掛けたところで、誰も聞いてはくれないのだ。

 なぜなら私は無力な少年だから。

 

「昔ね、お父さんが言ってたんだ。『魔族だって人間族と言葉を交わせるんだ。いつかきっと分かり合える日が来る』って」


「…………」


「マッスルくん、その日は……永遠に来なかったんだね」


「…………」


 絶望に沈むエリィ。いや、エリィだけではない。

 この国の――この世界にいる全ての人間が絶望に沈もうとしている。


 私になにかできることはないのか?


 エリィの涙を――


 この国の――


 この世界の哀しみを――止めることができないだろうか?


 私が大いに頭を悩ませたその時だった。


「ッ!?」


 落雷のような閃きが脳内を駆け抜ける。


 いまの私にできるだろうか?

 いや、これはできるできないではない。


 やらねばならないのだっ!

 私がっ、私だからこそやらねばならぬのだっ!!


 決意を固めた私は頷き、エリィの頬に手をあて顔を上げさせる。

 エリィのきれいなお目々と、私のブルーな瞳が見つめ合う。


「エリィ、君に頼みがある。戦争を止めるために、哀しみを生まないために協力してほしい」


「戦争を……とめる?」


「ああ。そのためには協力者が必要なんだ。どうか力を貸してほしい」


 無言で見つめ合うこと、少々。

 エリィは制服の袖でぐいと涙を拭う。


「マッスルくん、あたしにできることならなんでも言って。あたし……なんでもやるっ。戦争を止められるなら――なんでもやるよっ!!」


「ありがとう。なら、さっそく準備するのであるっ」


「うんっ!」


 頷くエリィの瞳には、力強い意思の炎が燃え盛っていた。

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