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第21話 筋肉、最強に物申すっ! 前編

 私が地を駆けること、10日あまり。

 道中で亡国の姫君を救ったり、母を探すエルフの少女に助勢したり、辺境の巫女の頼みを聞いて地下迷宮ダンジョンで復活した邪神を筋肉を用い小さく畳んで収めたりと、成り行きでちょっとした冒険を経つつ、ついに私は破滅竜の下へと辿り着いた。


 動植物が一切存在しない、荒れ果てた最果ての地。

 そこに、途方もなく巨大なドラゴン――破滅竜はいた。


「貴殿が破滅竜殿であるか?」


『ニンゲン……? 地虫如きが我に何用か』


 破滅竜は、とても大きかった。

 親しいもののなかで一番大きい義弟(※クマ科 身長130m)が小動物に見えてしまうような、途方もないサイズだ。


 ここからでは全体像を見ることは出来ぬが、全長2キロを下回ることはなさそうだ。

 前世で近所にそびえ立っていたスカイツリー4塔分、といったところか。


「私の名はマッスル」


『我を恐れず名乗りをあげるか。地虫がずいぶんと驕り高ぶったものだ。して、我に何用だ?』


「うむ。実は貴殿にこれ以上無益な殺生をせぬよう、ひと言物申しにきたのである」


『……ほう。我を咎めに来た、と?』


「然り」


『…………クックック、付け上がりおって。――――死ね』


「むっ!?」


 突如、山のように大きな塊が私を押し潰さんと迫る。

 その刹那、『勇者の鎧』と『勇者の盾』が強い輝きを放った。


 『勇者の鎧』が私の全身を覆うフルプレートメイルに自己進化し、『勇者の盾』は私の体よりなお大きい大盾へとパンプアップ(サイズアップ)する。

 私は咄嗟に『勇者の盾』を迫る塊に向け――


「ぬぉぉぉおおおっ!?」


 筆舌し難い衝撃に襲われた。

 きっと、『勇者の盾』の下部から杭が飛び出て地面に打ち込まれていなければ、吹き飛ばされていたことだろう。


『ほう。神が創りし防具か。小賢しいものを持っているな』


「くぅ……」


 私に叩きつけられた『塊』。

 それは破滅竜の尻尾であった。

 破滅竜はまるで羽虫を潰すかのように、邪魔だとばかりに尻尾を振るってきたのだ。


「破滅竜殿! 待っていただきたいっ。私は争いにきたわけではないのであるっ!」


『何を言うかと思えば……。最強たる我の前に立ったのだ。死は覚悟の上であろう?』


「いいえ! 私はただ貴殿と対話を――」


『黙れ』


「ぐあああぁぁああああああああぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁっ!?」


 破滅竜のとてつもなく大きく太い前脚が振り下ろされる。

 反射的に『勇者の盾』頭上へと掲げる。


 衝撃。


 私の下半身が地面へ埋まってしまう。


『ほう。これでも壊れぬか。神が創りし武具も思いの外頑丈ではないか。少しは……遊べそうだな』


 破滅竜が口角をあげる。

 頑丈であるがゆえに、されるがままの私を見て嗜虐心を刺激されたのかもしれない。


「破滅竜殿! なぜ貴殿は世界を滅ぼすのですっ?」


『そんなもの、ただの退屈凌ぎよ』


「なんですとっ!?」


『退屈凌ぎに地虫(人類)の巣をいくつ燃やそうが我の勝手よ』


「そんなこと――そんなこと赦されるはずがないのであるっ!」


『赦されるのよ』


「赦される……ですと?」


『当然であろう? 我は――』


 破滅竜が己の力を誇示するかのように翼を広げ、続ける。


『我は最強・・。この世界は果てから果てに至るまで我の所有物。我のものであるこの世界をどうしようと、我の勝手であろう?』


「ち、違うっ! 断じて違いますっ! なぜならこの世界は――この世界はっ、この世界に生きる全てのモノたちのもの! 決して貴殿だけのものでは――」


『思い上がるな、地虫め』


「ぬわああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああっ!?」


 こんどは後ろ足で踏みつけられ、私は肩まで地面に埋まる。


『貴様ら地虫(人類)は我のものである大地を我が物顔で歩き、我の赦しもなく増殖してゆく。なれば、増えすぎた地虫を片付けるのは世界の所有者として当然であろう?』


「私たち人類を……『地虫』と申すのであるか?」


『地を這うしか脳のない貴様らに相応しかろうよ』

 

「…………」


『どうした? さっきまでの威勢がなくなっておるぞ』


「……いまわかったのである。少なくとも、私はいまの貴殿とは理解わかりあえない。対話するだけ無駄だったようであるな」


『違うぞ地虫。我が永き眠りから目覚めた以上、貴様ら地虫は生まれてきたことすら無駄だったのだよ』


「…………言わせておけば――ふんっ!!」


 私は腕を、脚を使い地中から抜け出す。

 そして破滅竜を見据え、叫んだ。


「私の名はマッスル・ジョー・アームストロング! 父シドと母ナンシーとビッグマザー(クマの母上)に誓って、傲慢な貴殿を止めてみせるっ!!」


『地虫が……我に大言を吐いたこと後悔させてやろう』


 叩いても踏んでも壊れない私。

 破滅竜は最強・・のプライドを傷つけられたのか、怒りで染め上げた双眸を私に向ける。


 だが、私は決して怯まない。

 なぜなら私の双肩には、この世界の未来が託されてくるからだ。

 退かぬ。媚びぬ。顧みぬ。

 そんなのは当たり前のことである。


「いまこそ己に課した禁を破ろう! てぇぇぇぇいっ! パンチッ!!!」


 私は地を駆け、助走をつけた拳を破滅竜の巨体に叩き込み――


『…………地虫。いまなにかしたか?』


「なっ、なんとっ!? 効かぬだと!?」


『クク……我の鱗はオリハルコンより硬い。非力な地虫が何をしようと無駄よ』


「私が……非力? う、う、うおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」


 私は攻撃の手を休めず、無我夢中になって拳を叩き込んだ。

 しかし、いまの私では破滅竜の鱗1枚すら割ること叶わない。


 いかん。やはりこのままでは――


『もう、殺してよいか?』


 ニヤリ、と破滅竜が嗤う。


「くっ……」


『貴様の打撃ひとつにつき、ひとつ地虫の巣を滅ぼしてやろう』


「な、なんと!?」


『貴様は先に冥界で待っておれ。だが寂しがる必要はないぞ。直に大量の地虫がやってくるだろうからのう』


「それは――ぐうぅぅっ!!」


 初撃よりもなお強い力で尻尾が振るわれた。

 私は父より譲り受けた『勇者の盾』と『勇者の鎧』を使い、凌ぐ。


 破滅竜の大きく鋭い爪が私を貫かんと突いてくる。

 母殿とエリィとリアーナがかけてくれた防御魔法が発動。

 これを寸でのところで受け流す。


 破滅竜が翼で突風を起こす。

 真空の刃が私を切り裂かんと迫る。

 ポール氏の属性防御が発動。

 真空の刃を消失させる。


「皆……ありがとう」


 私は――決してひとりなどではなかったのだ。

 ここにいない皆が、いまも私を守ってくれているのだ。

 私はひとりで破滅竜と相対してるわけではなかったのだ。


『神の武具……それに防御魔法か。……小賢しいぞ地虫が。ならば――』


 破滅竜が顎門を開く。

 口中に恐ろしいまでの魔力が収束していき――


『地虫めがっ! 我がブレスの前に散れ!』


 凄まじい熱波が放たれた。


「ぬううううううぅぅぅぅぅぅぅぉぉぉおおおおおおおおおおっ!!」


 私は『勇者の盾』を前面に押し出す。

 破滅竜から放たれた光の奔流が私を襲う。

 皆がかけてくれた防御魔法が一瞬で消し飛び、『勇者の盾』と『勇者の鎧』にヒビが入っていく。


「ぐっ、ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああぁぁぁぁ――――……」


 瞬間、視界が真っ白にな――――――




 つづく

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