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第15話 筋肉、奴隷少女と出逢うっ!

 蟲王カオス・マンティスの素材を売り払った結果、私は大金持ちになっていた。

 素材の換金に手を貸してくれたスーザン先輩パイセンの話によれば、一生遊んで暮らせる金額とのこと。

 つまり、望めばいつでもニートになれる贅沢な身の上となったのだ。


 部屋に引きこもり、一日中トレーニングに没頭することだってできる。

 そんな生活に憧れを抱かないでもないが、ボディビルダーのトレーニング時間は存外短い。


 回復魔法を用いた私独自のトレーニング法、『マッスル流トレーニング』ですら、日に3時間程度しかかからないのだ。

 となれば、残った21時間を睡眠・食事・交遊、と使うのも当然のこと。

 そんなわけで、私はいま親しい友人たちを連れて王都の繁華街へと来ていた。


「ふむ、みな集まったようだな」


 街の広場に立つ3人の女人が、私を見つめている。


「マッスルくん、急に『街に行こう』だなんて、どうしたの?」


 と親友で幼馴染のエリィが言えば、


「わたしは…‥マッスルさんに誘われて嬉しかったです」


 とリアーナが俯きがちに言い、


「それでアームストロング君、わたくしたちを呼び出したのはどんな用があってのことかしら?」


 スーザン先輩パイセンが問うてくる。


「なあに、大したことではない」


 私は笑い、言葉を続ける。


「せっかく臨時収入が入ったわけですからね、みなで食事でもと思いまして」


 そうなのだ。

 テーブルに山と積まれた金貨を見た私は、どれ、いっちょ豪快に使ってみるか、と思い立ち、こうして三人を呼び出したのだった。

 カネ持ちはカネを使い、経済を回さなくてはいけない。

 そんなのは当たり前のことである。


「今日は私の奢りだ。なんでも好きな物を頼みたまえ」


 スーザン先輩のおすすめのスイーツ店にはいった私たちは、メニューを広げ顔を寄せ合う。


「いいのマッスルくん!? ならあたしはミックスベリーのタルト!」


「あ、エリィさんの美味しそうですね。ならわたしは……あ、これ! このメロンパイを食べてみたいです!」


「リアーナのも美味しそうね。どうしよう……」


「エリィさん、せっかくですから食べ比べしましょう!」


「いいの!?」


「もちろんです」


「やったぁ! ありがとリアーナちゃん。もう大好き!」


「うふふ、ふたりとも仲がよろしいんですのね。ならわたくしは南国のマンゴーを使ったパフェにしますわ」


「よし、みな決まったようだな?」


 私の言葉に全員が頷く。

 その瞳は、スイーツへの期待により輝いていた。


「では頼もうか。そこのお姉さん、注文してもいいだろうか?」


「は、はいっ」


 ウェイトレスの反応が僅かに鈍い。

 おそらくは、私の有するはち切れんばかりの肉体に見惚れていたのだろう。


「ミックスベリーのタルトに、メロンのパイ、それとマンゴーのパフェ」


「はい、ミックベリータルト、メロンパイ、マンゴーパフェ……っと。以上ですか?」


「それを――」


「それを?」


「40セット頼む」


「ッ!? よ、40セットですかっ? ひとつづつではなくて!?」


「はっはっは、ナイスジョークだお姉さん。私たちは4人いるだろう? なら40セット頼むのは当然ではないか」


「「「「ッ!?」」」」


 私の言葉にウェイトレスだけではなく、なぜかエリィたち3人も驚きの表情を浮かべる。


「ま、マッスルくん! あたしたちそんなに食べれないよ!」


「そうですわアームストロング君、確かにここのお店のものはどれも美味しいですが……そ、そんなに食べたら太ってしまいますわ」


「はっはっは、ノープロブレムだ。筋肉をつけ基礎代謝を上げればなんの問題もない」


 そうは言ってみたものの、誰一人として同意してはくれなかった。

 けっきょく、わたしはひとりで39セット食べることになったのだった。



 ◇◆◇◆◇



 スイーツ店でカロリーを摂取した私たちは、街を気ままに散策することになった。

 あてももなく歩き、気まぐれに道を曲がる。

 そうして歩いていると、いつの間にやら怪しげな雰囲気が漂う区画へと出ていた。


 看板には半裸の女人の絵が描かれていたり、道に立つ派手な格好をした女人が私の筋肉を舐めるようにして見ていたりと、エリィたち3人と童貞の私にはやや刺激が強すぎる場所だった。

 そう。ぶっちゃけ風俗街だったのだ。


「マッスルくん、戻ろ」


「マッスルさん、そろそろ日も暮れますし、学園へ戻りましょう」


「ふたりに賛成ですわ。わたくしたち学生がいていい場所ではなさそうですからね」


「そのようだな。ではもど――」


 戻るとしよう。そう言いかけた私の視界に、首に鎖を繋がれた女人の姿が映りこむ。


「あの少女は……?」


「奴隷、ですわね」


 私の疑問にスーザン先輩が答える。

 さすがは先輩だ。物知りさんだ。


「奴隷?」


「そうですわ。こんな場所にある奴隷商館なら、きっと『そういうこと』のために売られているんでしょうね」


 スーザン先輩がなにやら含みのある言い方をする。

 ファンタジー界隈ではお馴染みの身分、奴隷。


 学園で生活しているかぎり目にする機会がなかった奴隷であるが、それがいま、私の目の前に。

 よく見れば狭い店内には、女人の他に幾人も鎖に繋がれているではないか。


「むう……」


 酷くやせ細った少女だった。

 ボロボロの服を纏い、体は薄汚れている。

 きっと『獣人』と呼ばれる種族なのだろう、頭部には犬のようにピンとたった耳が生えていた。


「アームストロング君、早く行きま――」


「そこの旦那、奴隷をお探しで?」


 スーザン先輩が踵を返しこの場から去ろうとしたタイミングで、奴隷商の店主らしき男が私に近づいてきた。

 揉み手をしながら営業スマイルを浮かべる男は、私を客とでも勘違いしたのであろう。


「旦那、尋常じゃない体格してますね。その分じゃアッチ(・・・)の方もそうとうお強いんじゃないですか?」


「ふむ。アッチとはドッチのことかな?」


「またまたぁ~、とぼけちゃってこのー」


 奴隷商の店主はエリィたちを意味ありげに見たあと、肘で私をぐりぐりしてきた。

 スーザン先輩を筆頭に、エリィもリアーナも軽蔑の眼差しを奴隷商の店主へ向けている。


「それで、どんな奴隷をお探しですか? 旦那はうちの店は初めてですよね? 初めてってことで特別お安くしておきますよ~」


 と、そこまで言ったとところで、奴隷商の店主は私の視線がガリガリガリ子ちゃんな獣人の女人に注がれていることに気づいたらしい。

 顔を引きつらせ、ため息をひとつ。


「旦那、その獣人のガキはあまりおすすめしませんぜ。なんせ、『呪い』持ちですからねぇ」


「む、『呪い持ち』? なにかなそれは?」


「おっと、ご存じありませんでしたか。『呪い持ち』とは、体や能力に『制限』がかかった者たちの総称でしてね、この獣人の場合――」


 奴隷商の店主が獣人の女人を無理やりに立ち上がらせる。


「ほら、立つんだ」


「あ……」


 じゃらりと鎖が鳴り、ガリガリガリ子ちゃんがもたくさ立ち上がる。


「この娘なんですがね、獣人のくせに『身体能力半減』の呪いがかかってるんでさ。そのせいで戦奴としてもまるで使えやしない。いや、あっしも教会で解呪しようともしたんですぜ? でも3度やって3度とも失敗しましてねぇ。呪い持ちなんて誰も買いたがらないですから、こうやって仕方なく大安売りしているんですよ」


 ガリガリガリ子ちゃんがうつろな目で私を見あげる。

 呪いのせいで忌避され、碌に食事も与えられていないのか、なんともみすぼらしい姿であった。


「名はなんという?」


「あ……え……?」


「はははははっ! やだなぁ旦那、冗談はよしてくださいよ。奴隷に『名』なんてありゃしないですって」


「店主に聞いているのではない。私はこの獣人の女人に訊いているのだ」


「……し、失礼しました」


 私に見据えられた奴隷商の店主が黙り込む。

 視線を獣人へ戻し、私は再び問いかけた。


「君の名は?」


「……ガガ。レデイの里のガガ」


「そうか、ガガか。ガガ、君に問おう。自由になりたいか?」


「……え?」


「奴隷などと身分にも『呪い』とやらからも解放され、自由になりたいかと問うている」


 私の問いかけにガガは黙り込み、やがてポロポロと涙を流しながらその体を振るわせはじめた。


「……たい」


「聞こえないぞ。望みとは大きな声で言うものだ」


「じ、自由に! ……なりたい……です」


「フッ、そうか。わかった」


 私は頷くと、懐から金貨の詰まった革袋を取り出し店主に渡す。


「店主、ガガをお持ち帰りさせてもらおう。お会計を頼む」


「は、はひっ! ただいまっ!!」


 店主は革袋の中身に目を見開き、失禁するほど驚いていた。

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