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第10話 筋肉、いじめっ子と再会するっ!

 月日が流れるのは早いもので、私が学園に通いはじめてもう2年が過ぎた。

 この2年は、トレーニングと授業に没頭する毎日だった。


 神聖魔術科でエリィとクラスで主席の座を争うまでになった私は、学んだ回復魔法(初級)を使いこなしハードなトレーニングを敢行。

 いじめ抜いた筋肉たちをすかさずヒールで癒しては、よりハードなトレーニングを己に課す。

 そんな日々を2年もの間繰り返した結果、いまでは極度の筋肉量を誇る12歳の少年となっていた。


 神聖魔術科にはいって本当によかった、そう思わぬ日はない。

 ただ、毎日が充実しているかと訊かれると……どうしても答えに詰まってしまう。


 なぜなら、『学園』という青春を謳歌する場にいながら、私には友人と呼べる存在がエリィと筋肉しかいなかったからだ。

 せっかく学園にいるのだから、友だち1000000人程度はつくりたい。

 しかし、私の筋肉が大きくなればなるほど、クラスの女子たちが私から距離を置いているように感じる。


「ふう……。ままならないものだな」


 放課後、授業を終え寮へと向かう道中で、私は足を止めため息をついた。

 ボディビルダーの肉体は、触れるものではなく眺めるもの。

 その考えは理解できるのだが、やはり思春期の手前に位置する私としては、多くの友人たちと一緒に鬼ごっこやかくれんぼをしたり、グループディスカッションや筋肉連想ゲームをやってみたりしたいのだ。


「いや、求めすぎはよくないか。私にはエリィという掛けがえのない友人がいるのだ。それで十分じゃないか」


 私は己に言い聞かせるように呟く。

 エリィがクラスの女子たちと椅子を寄せ合い、楽しそうにお喋りしているのを見ると、思わず私も空気椅子を近づけて一緒に会話に混ぜてもらいたくなるときがある。


 いや、わかってはいるのだ。

 女子トークは女子だけで行うもの。

 そんなのは当たり前のことである。

 筋肉が混ざっていい場ではないのだ。


「いかんいかん、こんな沈んだ気持ちでトレーニングしては筋肉たちに失礼だ。よし、今日はいつもの倍トレーニングするぞ!」


 私が気持ちを切り替え、再び歩き出そうとしたその時だった。


「や、やめてくださいっ」


 グラウンドの方から、なにやら聞き覚えのある声が……。


「……おや? あの子はリアーナか?」


 声のする方に視線を向けると、クラスメイトのリアーナが複数人の男子生徒に囲まれているところだった。

 みんなリアーナよりも体が大きいところを見るに、おそらくは上級生であろう。


 リアーナは銀色の髪をした美しい少女で、学園の美少女コンテストで上位に入賞したこともあるべっぴんさんだ。

 エリィから聞いた話では、同級生はもちろん、上級生からもしょっちゅう恋文のたぐいをもらっているらしい。

 モテモテなのだ。モテモテな女子なのであった。


「ふむ。なにやら様子がおかしいな」


 私の視線の先で、リアーナはぐいと上級生に腕を引っ張られている。

 無理やりどこかへと連れていかれようとしているのだろうか?


「はなしてっ! はなしてくださいっ!」


「いいからこいって。そもそもお前がいけないんだぞ? せっかく俺様が誘ってやってたのに断り続けやがって……」


「わっ、わたしは誰ともお付き合いする気は――」


「だから『その気』にさせてやるって言ってんだよ。さっさとこいよな。俺様はこの学園のエリートなんだぜ? 俺様と付き合えばいい思いさせてやるぜ?」


「そーだそーだ! ジョビィ君の言うとおりだー!」


「年下なんだから反抗するなよなー。ジョビィ君のお父さんはおカネ持ちなんだぞー」


 誰かと思えば、あの上級生とその取り巻きは、かつてエリィをいじめていたボンボンのジョビィ君ではないか。

 まさか同じ学園にいるとは思いもしなかった。


「さっさとこいっ!」


「いやっ、放して! だ、誰か、誰か助けてくださいっ!!」


 リアーナが周囲の生徒たちに助けを求めるが、誰も動こうとはしない。

 誰もかれもが目を逸らし、見なかったことにしているようだった。


 その間にも腕をひっぱるジョビィ君に対しリアーナがささやかな抵抗を試みるが、年上の男子の筋力には敵わない。

 そんなのは当たり前のことである。

 半ば抱きかかえられるようにして、いずこかへと連れ去られそうになっていた。


「これは由々しき事態だな」


 放課後ということもあって、周囲には生徒がたくさんいる。

 なのに、誰も助けにはいろうとしないのはなぜだ?


 いや、いまはそんなことを考えている場合ではない。

 ひとりの男として、なにより一個の筋肉として、クラスメイトを救いにいかなくては。


「ふんっ」


 私は下肢に力をこめてから50メートルほど跳躍し、件の現場に着地する。


「いったい……私のクラスメイトになにをしているのかな?」


「んなっ!? お、お、お、お前は筋肉おばけ!?」


「フッ、『筋肉おばけ』か……。懐かしい呼び名だ」


 私は僅かに笑みを浮かべたあと、真っすぐにジョビィ君を見つめる。


「久しいなジョビィ君。まさか君がこの学園にいるとは知らなかったぞ」


「くっ……。お、俺は知ってたけどな」


「……ほお」


 一方的に私の存在を知られていたとは……。

 これもボディビルダーの宿命か。


「ああ……。知ってるぜ。お前が『神聖魔術科』なんて軟弱なとこにいるのもなぁっ!」


「ふむ。『軟弱』ときたか」


「あたりまえだろ! 神聖魔術科なんてよぉ……戦士の後ろに引っ込んで隠れてるだけじゃねぇか!」


「陰ながら戦士を支えている、とも考えられるのではないかな?」


「へっ、ものは言いようだなオイ。さすがコソコソ隠れる卑怯者ばっかが集まった神聖魔術科の生徒様だ。言い訳がうまいな!!」


 なにやらジョビィ君が神聖魔術科をディスってくれている。

 回復魔法や補助魔法を使う僧侶や神官は、縁の下の力持ちとして広く認知されているのだが……どうやらジョビィ君の認識は大きく歪んでいるようだった。


「神聖魔術科をそうまで悪しざまに言うとは……ジョビィ君は戦士科なのかな?」


「ハハハッ、バカ言いやがって。あんな底辺職の消耗品共と一緒にするなっ!」


 こんどは戦場の主力である、戦士科をディスりはじめるジョビィ君。


「ではいったい――」


「俺様は一握りの選ばれた者にのみ入ることが許された、魔法戦士科なんだよぉっ!!」


「そーだそーだ! ジョビィ君は魔法戦士科なんだぞー!」


「しかもジョビィ君は4年生の魔法戦士科でトップの成績なんだからな! すっごく強いんだからな!」


「へへ、よせよお前ら。筋肉おばけがビビっちまうだろ?」


 ジョビィ君は得意げな笑みを浮かべたあと、


「ま、聞いての通りだ。俺様はエリート中のエリートなんだよ。お前と違ってな!」


 と言って私を睨みつけてきた。


「それに俺様は王国の近衛騎士団から誘いも受けてんだ。卒業までまだ2年もあるって言うのになぁ。そんな将来を約束された俺様が、わざわざこんな女(リアーナ)に声をかけてやったんだ。本来なら泣いて喜ぶべきだと思わないか? あぁん?」


「どーだビビったか? ビョビィ君はすっごいんだぞ! 王国の騎士様になるんだぞ!」


「そーだそーだ! ジョビィ君は将来騎士団長になって、将軍様になって、僕たちを家来にしてくれるんだ!」


「…………」


「ハッ、ビビッて声もでねーってか? 神聖魔術科に相応しいなぁ。ダセェところがよぉ!」


 私が沈黙していることを恐怖しているとでも勘違いしたのか、ビョビィ君はそう吐き捨てると、もう話は終わりだとばかりにリアーナの手を引いて歩き出そうとする。


「待て。私の瞳がブルー()なうちはリアーナを連れて行かせはしないぞ」


「ま、マッスルさん……」


 私がジョビィ君の手首を掴んで引き留めると、リアーナがすがるような目を向けてきた。

 そのつぶらな瞳にはこう書かれている。


『マッスルくん、助けておくれやす』


 なればこそ、クラスメイトのひとりとして、そしてなにより筋肉を愛する紳士のひとりとして、助けを求める女人にょにんの想いには応えなくてはなるまい。

 そんなのは当たり前のことである。


「……てめぇ」


 ジョビィ君が双眸に怒りの炎を灯し、手首を掴む私の手を振り払う。


「俺に――4年生の魔法戦士科トップに立つこのジョビィ様にケンカ売ってるってことでいーんだよなぁ?」


「ふむ。どう受け止めるかは君の勝手だ。だが、本人の同意も得ずに私のクラスメイトであるリアーナを連れていくことは認めない。リアーナが自分の意思で行くと言わない限り、君に渡すつもりは毛頭ない」


「ハハ……ハハハッ! ……面白ぇ。そのケンカ…………買ってやるよぉぉぉ!!」


 ジョビィ君はそう叫ぶと、私から距離と取り魔法の詠唱をはじめるのだった。

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