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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

マジでキスする5秒前。

作者: イカ墨

思考加速装置内蔵果莉那ちゃん

「キス、しよっか」

「え!?」


 友人の唐突なキス宣言に果莉那かりなはただただ驚くしかない。

 何も考えられないまま、果莉那はあれよあれよという間に志保子しほこの細腕によって壁へと押し付けられていた。

 どうしてこうなった。

 果莉那の部屋でだらだらとおしゃべりして、会話が途切れた後は各々好きなことをして過ごすいつもの風景。果莉那はベッドに腰掛けて携帯ゲームに興じ、志保子はカーペットの床に寝転がって棚から勝手に取った少女漫画を嗜む。何度も繰り返された日常だ。

 それなのに――。


「嫌なら押し退けてもいいんだよ?」

「ぁ、う……」

「5秒だけ待ってあげる」


 クスッと彼女の口元にあるホクロが愉快げに吊り上がった。


「5……」


 無情にもカウントは始まってしまう。猶予はあまりにも少ない。


「4……」


 果莉那の脳内には志保子との思い出が走馬灯のように駆け巡る。

 友達になったのは小学5年生、クラス替えの時分。きっかけは係活動で一緒になったというありきたりなもの。第一印象は日陰に咲く紫陽花アジサイのような子だった。内向的な性格だったのに、今ではこんな大胆なことをするほどたくましく育ってしまった。それが嬉しくもあり寂しくもある。


「3……」


 ただの友達から関係が変わり始めたのは中学3年生の夏。進路希望調査で偶然同じ私立高校を志望していることが判明した。それからお互い協力して励まし合い、教え合い、二人揃って志望校に合格した時にはもう無二の親友となっていた。

 ――そして、今まさにその関係も変わろうとしている。

 どうして志保子はキスしようだなんて言い出したのだろうか?

 もしかして私のことを女だけど恋愛対象として見ていたのか、それともただの冗談なのか。にしてもいきなりのキスは突飛すぎるでしょう。好きならまずは告白するのが筋でしょう。

 いや、事の真偽はどうでもいい。……どうでもよくはないが、キスされようとしている現実、私が志保子のことを意識してしまっている現状が大事なのだ。もうこれまでと同じように彼女と接することはできないだろう。

 華奢な体躯の彼女を突き飛ばして拒絶することは簡単だ。しかし、彼女の唇を受け入れることにやぶさかではない自分がいることに気付いてしまった。この気持ちは何なのか、口づければはっきりするかもしれない。でもまだ心の準備というものが圧倒的に足りない。

 そんなことを考える果莉那をよそに、カウントは進む。


「2……」


 ちょっと待って!

 1の後すぐにキスするの? それとも0まで数えてからキスするの?

 そう問う暇もなく二人の距離は縮まってゆくばかり。

 思わず吸い込んだ鼻腔を志保子から漂うシトラスの香りがくすぐる。

 胸の奥がとくんと鳴った。


「1……」


 ああ、志保子の顔をこんな近くで見るのは久しぶりだ。昔、頬ずりをしたことがあるけれど、今も変わらずきめ細かい肌をしている。少し日に焼けているのが健康的だな。その宝石のような瞳で見詰められると、心が揺れてしまうよ。唇は薄ピンク色の紫陽花の花びらみたいだね。そこは出会った頃の印象と同じまま――。

 果莉那の視線が志保子の口元に釘付けとなったその時。

 スッ。

 志保子の口から0とカウントされることはなかった。その代わりに顔の距離がゼロとなる。

 微かに重なり合う花びらたち。


「ぅ、んっ……」


 漏らした吐息はどちらのものだったか。

 たった一瞬触れ合うだけの交わり。リップ音もしない。あまりにも短い出来事すぎて口唇の感触はわからなかった。呼吸を止め、頭がオーバーヒートして初めての口吻を味わうどころではなかったのである。だが、確かにその瞬間、果莉那と志保子は繋がった。

 果莉那のとくん、とくんと早いリズムを刻んでいた心臓音は、いつの間にかドクン、ドクンと胸を内側から叩きつける音に変わっている。血液が沸騰したみたいに熱い。手に汗が滲む。

 この燃え滾る昂奮は中途半端な交わりでは収まるまい。


(私に火をつけた志保子がいけないんだからね……)


 方や志保子は思いがけぬ結果に罪悪感と戸惑いを覚えていた。

 暇つぶし、悪ふざけのつもりで寸止めしようと思っていたのに、思いの外動揺する果莉那の様子がおかしくて、それがとても可愛く、どうしようもないくらい愛らしく感じてしまって……気付いた時にはしてしまった。

 よし、女同士のふざけ合いってことで水に流してしまおう、と志保子は軽く考えることにする。柔肌が触れ合う寸前、あの時あの一瞬の感情は幻なのだと思い込むように目を閉じて頭から振り払う。

 まぶたを下ろして視界を閉ざしたのがいけなかった。そのせいで反応することができなかった。不意に肩を掴まれてぐるりと身体が半回転し、背中に果莉那の体温で少し温まった壁が当たる。


「キス、しよっか」

「ありゃ!?」


 志保子はあれよあれよという間に果莉那に壁へと押し付けられていた。

 先程までとは全く逆の形。


「5秒だけ待ってあげる」


 果莉那は妖しく口の端を吊り上げる。


「5……」


 無情にもカウントは始まってしまう。猶予はあまりにも少ない。


 本気マジでキスする5秒前。


以下、攻守交代で無限ループ

百合的永久機関の完成ナリ……

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― 新着の感想 ―
[一言] とんでもない大発明ナリ……
2016/04/28 13:52 退会済み
管理
[一言] これは熱いですね! 女子の間ではこういうのは日常茶飯事なのでしょうか? ハアハア←変態
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