珠、新年を祝う
もういくつ寝るとお正月〜のお正月です。
お正月ともなると、ご飯が豪華です。
カツオにタイ、あわびにお肉まであります。
何よりも御節が凄いのです。伊勢海老がどーんと乗っていますよ!黒豆に出し巻き卵、数の子に昆布巻き…。どれから食べようか悩んでしまいますねぇ。
家族そろっての食事はなかなか壮観です。
なんせ、人数が多いですから。
父上や母上は北条一族と家臣たちからの、新年の挨拶で忙しくて相手をしてくれません。
兄たちも同じです。
落ち着いたら、照兄や邦兄、じぃとかが屋敷に顔を見せに来るとは思うのですが、それまで暇です。
お部屋でぼーっとしていたら、空姉が双六をしようと声をかけてくれました。
空姉のお部屋に行くと、崎姉と豊姉もいます。
葉姉は母上の手伝いでいません。
どうしてでしょうか?
双六で毎回どんべって…。いや、一回も上がれないってどういうことですか?
空姉、このサイコロに何か仕掛けでもあるのでは?
可哀想に思われたのか、今度は貝覆いをしようということになりました。
貝覆いとは、内側に綺麗な絵が描かれた貝を合わせる神経衰弱に似た遊びです。
ただ違うのが、めくって絵を覚えるのではなく、貝の表の模様や形だけで合わせていくのです。
侍女が貝桶から一枚貝を取り出し、中心に置きます。その貝と対になる貝を探すのです。
本来なら三百六十枚の中から探すのですが、今日は人数が少ないので五十枚ほどです。
実はこの貝覆い、得意なのです!
まず豊姉が一枚選び、絵が見えないよう侍女に渡します。
侍女は中心に置いた貝と合わせ、首を振りました。
対の貝ではなかったということです。
貝覆いの貝は似た模様のものが集められているのですが、それでも色合いや形が違います。
成長と共に入る横筋が見極めるポイントです。
あとは貝殻が合わさる付け根部分。貝が小さい時と大きくなってからだと、餌や環境が違うため、色が違うことが多いのです。
それらをよく見極めて、これだと思う貝を選びます。
侍女に渡すと、合わさりましたと言われ、貝を二枚とも渡されます。
それを目の前に伏せておきます。
毎回思うのですが、内側の絵はいらなくないですか?
貝覆いでは、私の圧勝でした。
ずっと座りっぱなしでしたので、体が痛いというか、重たいというか。とにかく、体を動かしたいです。
気分転換に外で羽根つきをしようと提案してみます。
もちろん、負けたら顔に墨で落書きしますよ。
姉たちものってくれたので、いざ尋常に勝負!
おかしい…。
半引きこもりの姉たちより、外で遊んでいる私の方が動けると思っていたのに…。
空姉に左の頬に変な模様を描かれました。
筆が凄くくすぐったいです。
「珠、動いてはだめよ」
それは無理な話です。
くすぐったいのです!
左だけではなく、右の頬、おでこ、右目と顔中墨だらけです。
崎姉にも豊姉にも負けるなんて…。
悔しいです。羽根つきの特訓をしなければ!!
顔中が真っ黒になったところで、夕餉だと声をかけられました。
私の顔を見た照兄は大笑いし、母上は呆れていました。
邦兄がお湯を用意させ、顔を拭いてくれます。
ほかほかして気持ちいいですね。
「くににぃ、あしたたこあげしよー」
「いいよ。珠は高く揚げられるかな?」
「あげられるよ!」
あれ、母上が頭抱えていますよ。
凧揚げは男の子の遊びだって?
そんなの関係ないですよ。
翌日、本丸の広場で凧揚げをしようと思ったら、二の丸の方が騒がしいのに気づきました。
「なにをやっているの?」
「あぁ、餅つきだよ」
どうやら、武家屋敷に住む人たちが餅つきをしているそうです。
「三の丸の方では、開門して民にも配っているそうだ」
面白そうなことをやっていますね!
「くににぃ、いきたい!」
「まぁ、二の丸の方ならいいけど」
ということで、邦兄と手を繋いで二の丸に向かいます。
二の丸の広場では、石を組み上げたかまどで餅米を蒸すいい匂いと、男たちの勢いのある掛け声が響いています。
つき上がったお餅は、女衆がせっせと丸め、それを子供たちが美味しそうに頬張る。
羨ましいです。
「氏邦様、末姫様!!」
私たちに気づいた人が、どうぞこちらにと案内してくれる。
「すまないな。珠が見たいと言うので、少しいいかな」
「もちろんですよ!我らが掌中の珠である姫様に来ていただけて光栄です」
我らが掌中の珠ってどこまで浸透しているのでしょうか?
気恥ずかしいので、やめてもらいたいのですが。
「末姫様、つきたてですよ。お味は何がいいですか?」
女衆の人に声をかけられ、いそいそとお餅のある台に近づきます。
あんこ、みたらし、醤油、きなこといろいろあります。海苔が用意されているので、磯辺巻きもできそうです。
じゅるり。
ここはやはり、あんこからですね。
「あんこでおねがいします」
すると、女衆は丸めた餅の中に、素早くあんこを入れ、綺麗に形を整えます。
「はい、どうぞ」
渡されたお餅は、まだほのかに湯気がたっています。
いただきます!
一口食べると、餅の柔らかさとあんこの甘みが口に広がります。
「おいしい!」
あっという間に食べてしまい、次はきなこにしました。
「珠、あまり食べ過ぎると、お腹壊すよ」
邦兄、まだ二個です。まだまだ大丈夫です。
そう言う邦兄だって、何個目のお餅ですか?
三つ目はみたらしにしました。
この甘いタレがたまりません。
お餅を堪能したあとは、他の子供たちと一緒に凧揚げをして遊びました。
お正月っていいですね!
お正月はすぎてしまいましたが、正月ネタでした。
最近の子供は凧揚げとかしないのでしょうね。
私は電線に引っかけて、怒られたことがあります(笑)
感想でいただいた、醤油と伊勢海老についてですが補足説明のみで、本編はそのままでいこうと思います。
醤油:諸説はいろいろあるが、この時代は味噌を作る過程でできる「味噌だまり」を調味料として使っていた。
伊勢海老:鎌倉海老、具足海老と呼び方があり、取れた地域によって名前が変わっていたもよう。伊勢海老で定着したのは、伊勢が名産地であったとともに、姿形が威勢がいいとして武士に人気があったとか。伊勢海老を前立てにした兜があるのです!