珠、姉と遊ぶ
三女の葉姉が戻ってきました。
嫁ぎ先でいろいろあったようです。
帰ってきて早々、父上に噛みついていました。
葉姉をなだめつつ、たっぷりと甘えておきます。
出戻ったとしても、すぐにまた嫁がされるでしょうから。
「いいこと、珠。嫁いでも、己に価値があることを父上には示しなさい。そして、情報は多く手に入れること。珠なら兄上たちを利用すればいいわ」
葉姉から謎のレクチャーを受けております。
「もう少し時間をもらえれば、籠絡できたのに…。あいつらが邪魔をするから…」
どうやら、葉姉が嫁いだのは反北条よりのお家だったようです。
裏切らないよう、政略結婚でつないでいたのですが、監視役の父上の部下に足を引っ張られてしまったらしく、えらくご立腹です。
「せめて、後継ぎを産めていれば。本当に悔しいわ。側室の子だからと甘く見られたなんて」
側室の子と言えど、北条の血には変わりないのですがねぇ。
頭がよくて、肝も座っている葉姉。じぃがとても可愛がり、政や戦術など、いろいろと教え込まれ、兄上たちに負けないほどだとか。武術も嗜んでおり、槍はなかなかの使い手らしいです。
そんな葉姉を甘く見る人がいるとは…知らないって怖いですね。
葉姉の旦那さんは暗殺されてしまったらしく、それが部下の独断なのか、父上の判断なのかわからないそうです。
葉姉が後継ぎを産んでいれば、完全に北条へ取り込むことができたはず。今は旦那さんのお兄さんが後を継ぎ、後見として部下が残っているとか。
父上が葉姉を戻したのも、部下の命が危うかったからですかね?
この後も、ずっと愚痴を聴いていましたが、北条も一枚岩とはいかないということですね。
愚痴から政治的な話へと移っていきました。
しかしですね、誰々が上野国の上杉よりだとか、お城がどうとかと言われても、誰だか知らないし、お城の名前言われても初めて聞く名前ばかりです。全くもってちんぷんかんぷんなのですよ!
部屋に籠っているのがいけないのかもしれません。
熱く語っている葉姉をお外に引っ張りだしましょう!
ついでに、空姉、崎姉、豊姉も誘います。
お外でかくれんぼをします!
本当は天気もいいので、影踏みをしたかったのですが、個々の身体能力を考えると差がありすぎるので諦めます。
隠れる範囲は屋敷のお庭だけです。
危ないので高いところも禁止です。
最初の鬼は葉姉になりました。
「一つ、二つ、三つ…」
さて、どこに隠れましょうかね。
…豊姉。木の後ろはすぐに見つかると思います。
崎姉、植木の下から足が見えていますよ。
空姉、縁の下は汚れるから、やめた方がいいと思います。
見つかりにくいのは、視線より上の方なのですが、高いところは禁止ですからね。どうしましょう?
うろうろしている間に数が五十までいきました。早く決めないと…。
さまよって、お庭の隅、柵があるところまで来てしまいました。
そうだ!柵と屋敷の隙間に隠れよう!
大人だと入れないような隙間に体を滑り込ませます。
あとは、息を殺して、じっとしているだけです。
「ひゃーく!」
百まで数えた葉姉が動き出します。
「崎、みぃつけた!」
崎姉はすぐに見つかってしまったようです。
まぁ、足が見えていましたからね。
「どこに隠れているのかしら?」
なんだか、葉姉の声が怖いです。
隠れている側の心理なのでしょうか?
葉姉がここかな?こっちかな?と声を出すたびにビクッとしてしまいます。
「豊、見つけた!」
やはり、豊姉も早々に見つかりましたね。
あとは私と空姉です。
「空と珠はどこかな〜?」
葉姉の足音が聞こえます。
サクサクと真っ直ぐこっちに来ているように思えます。
「はい、珠みぃつけた!」
近くで聴こえた葉姉の声に驚いて顔を上げると、笑顔が眩しい葉姉がいました。
「みつかっちゃいました…」
「場所はよかったけれど、影が見えていたのよ」
なんてこった!
太陽の位置が悪かった!
もう少し奥に行ければよかったのでしょうが、これ以上行くと、大きな女郎蜘蛛の巣があったので近づきたくなかったのです。
蜘蛛は嫌いです。
「さて、あとは空だけね」
空姉が隠れている近くに行くと、葉姉が叫びました。
「空の後ろにねずみが!!」
「きゃー!やだやだやだー!!」
空姉は転がり出てきました。
着物が砂や埃で汚れています。
というか、葉姉。そこの空姉がいるのをわかってての仕業ですね?
「あはは。空見つけた」
鬼畜です。空姉、今にも泣き出しそうです。
「姉上のばかぁー」
あーあ。泣いちゃいました。
このあと、母上に叱られるであろう空姉が不憫です。
いつも着物を汚している私ならいざ知らず、元々お転婆ではない姉たちなので、叱られるのは慣れていないのです。
「ようねぇ、そらねぇをいじめちゃ、めっなの!」
「ごめんなさい、空。そこまで怖がるとは思わなくて…」
一生懸命、空姉をなだめる葉姉。
ちゃんと仲直りして、今度は色鬼をやることにしました。
日が暮れるまで遊んで、みんな着物を汚してしまい、姉妹そろって母上に叱られました。