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珠、発案する

三田さんに、北条を売り込むための作戦を考えます。

今のことろ出ているのが、嫡男さんを当主にするから、父である綱秀(つなひで)さんを裏切ってね、というもの。

一応、武家の上役らしき古河公方(こがくぼう)である義兄の義氏(よしうじ)兄上を認めてもらうこと。

義氏兄上の兄上を、北条陣営に取り込んでしまうこと、くらいですかね。

どれも現実的はないようで、規兄(のりにぃ)は難色を示しています。

もう、当たって砕けろって気分ですが、砕けてしまっては捕らわれた風魔の命が危ないのです。


…あ!

戦の回避と人質の救出を一緒にやろうとするから行き詰まるのです!

別々に作戦を立てましょう!

まず、急ぎたいのが人質の救出です。

人質ですので、交換条件さえみ合えば、返してくれるかもしれません。

たとえば、木材を高く買うとか、なんでしたら石けんを交渉に使うこともできます。


戦を回避するには、売買のやり取りで人質が返されるとなれば、約束事を設ければいいのではないでしょうか?

木材や石けんの売買がある間は、戦をしないとかです。

それに、時間の猶予ができれば、別の方法もあります。

戦で実際に戦うのは農民などの民です。

民だって、好きで戦をしたいわけではないでしょう。

そこにつけ込むのですよ!

結構な人数の風魔を三田さんの領地に送り込む必要がありますが、三田さんに取り立ててもらえたりしたら内部からも動けますね。

というわけで、規兄どうでしょう?


「つまり、最初はこちらが折れるということか」


「木がたくさんあってもこまらないし、石けんを安く売っても、それでひょうばんになればりえきはついてきます」


それに、民の中には漆や竹に詳しい人がいるかもしれません。

そういう人はぜひともこちらに雇い入れたいです。

船を作るお仕事でも人は必要なので、希望者はどんどん雇ってもよいと思います。

さすがに、雇用主と戦をしようとはならないのでは?


「その、石けんとやらどういったものなのかはわかりませんが、それだけの価値があるものなのですか?」


そう言われると、石けんの価値ってどうなんでしょう?


「珠姫様がお作りになられている石けんは、さぼんと呼ばれているものと同じかと」


のりりん、物知りですね。

しかし、石けんがこの時代にあったのですか?

私のあの苦労は、しなくてもよかったってことでしょうか?


「さぼんということは、南蛮ものということですか?」


「左様です」


南蛮ってことは、めちゃくちゃ貴重品ってことで間違いないですよね?

苦労は無駄ではないですよね?


「それほど貴重なものとなれば、誰もが欲しがるでしょう。安く買えるとなれば、高く売ることもできますし、献上すれば覚えもめでたくなるでしょう」


転売くらいなら問題はありません。

生産体制が整い、付加価値が下がれば、高く売ることはできなくなりますしね。

ただ、献上って、どこにあげるのでしょう?

宝屋の宣伝になりますか?


「その石けんとやは、今お持ちですか?」


さすがに石けんは持ってきていません。

まだまだ改良が必要ですし。

その代わり、シャボン玉は持ってきました!

もちろん、遊ぶためにです!!


「石けんはないですが、シャボン玉ならありますよ」


「しゃぼんだま?」


「石けんを作るかていで、小さな子どもでもあそべるものを作ったのです」


「お見せいただけないでしょうか?」


「いいですよー。では、お外に行きましょう!」


お外に出て、しんちゃんから竹筒を受け取ります。

この中に、シャボン液が入っているのです。

蓋はまだできていないので、木で栓をしています。

ようは、水筒ですね。

器を用意してもらい、それにシャボン液を注ぎます。

ストローも間に合わなかったので、細い竹をストロー代わりにしました。

ちょっと不格好ですが、竹ストローをシャボン液につけ、ふーっと息を吹きます。

五つの小さなシャボン玉ができました!


「ほぉ。このようなものは見たことがない!」


「美しいですね」


太田さんも息子さんも驚いています。

掴みは上々のようですね。

シャボン玉は遊ぶためのものですが、石けんの性質も持ち合わせていますので、石けんについても説明してしまいましょう。

たらいにお水を用意してもらい、シャボン液を手で泡立てていきます。


「こうやるとあわが出てます。よごれをおとすことができるので、体をあらったり、せんたくものをあらったり、いろいろなことにつかえます。石けんはこれをかためたものなのです」


「これで体を洗うのですか?」


「はい。すでにしろのものにつかってもらっていますが、はだつやがよくなったと言っていました」


肌艶がよくなったのは馬油の石けんなので、臭いが強烈ですけどね。

臭いさえどうにかできれば、美容効果とかで売り出せるのですが…。

先は長そうです。


「これならば、有利に持ち込めるかもしれません!」


おぉ、太田さんが興奮しています。


「ちなみに、ごふじょうのあとにこれで手をあらうと、やまいになりにくくなりますよ」


衛生面がちょこっとだけ改善される程度なので、本当になりにくくなるくらいですけどね。

民たちは自力で治してしまうでしょうし、どちらかといえば怪我の方が怖いと思います。

怪我したところから、ばい菌が入ったりしそうですし。


「しかし、このようなことを我々に教えてしまってよいのですか?」


「う?どうしてですか?」


「ここで貴殿らを捕まえて、作り方を聞き出すこともできるのですよ?」


そういう人は、まず自分で言わないのです。

私たちを裏切るつもりならば、もっと懐柔しようとしているはずです。


「おおたさんはいい人ですよ。犬ともあそばせてくれたし、おさないからとあまくみたり、ばかにしたりもしませんでした」


最初から、太田さんは女子供としてではなく、北条の者として対応してくれました。

いくら主家の姫とはいえ、無謀なことを言っても、真面目に取り合ってくれたのです。


「…いえ、どこか姫様を甘く見ていたのかもしれません。しかし、氏康様たちが掌中の珠と大切にされる気持ちが、よくわかりました」


太田さんのところまで、私が掌中の珠と言われているのが伝わっているのですか!?

なんと恐ろしい!!


「この資正(すけまさ)、微力ながら姫様のお力になりましょう」


協力してくれるってことですか!?

それは有り難いです!


「よろしくおねがいします!」


「…我が妹ながら、末恐ろしいな」


規兄、何か言いました?




「姫様にお願いがあるのですが…」


ある程度のめどがついたので、太田さんにお願いして子犬たちと遊んでいるときでした。


「犬たちに、新しい遊び道具を与えてやりたいのですが、なかなか良い物がなく」


あー、確かにさらしだとすぐにぼろぼろになってしまいますね。

犬の玩具ですか…。

私の玩具なら、いろいろとあるのですが。

うーん、上手く作れたら玩具になるかもしれませんね。


「うでのよいだいくさんをよんでもらえますか?」


「大工をですか?何かお作りになるので?」


「はい。犬のおもちゃを作ります!」


岩付城の城下に、お抱えの大工さんがいるらしく、すぐに呼んでくれるそうです。

その間、私は作ってもらうものを描きます。

描くと言っても、凄く簡単なんですけどね。

描くのは簡単でも、作るのは大変だと思います。

犬と一緒に遊べるものといえば、フリスビーですよね!

ただ、木で作るしかなく、飛ぶかどうか怪しいです。

薄くすれば飛ぶかもしれませんが、そうすると強度がなくなってしまいます。

お絵描きが終わると、こたが失礼なことを言いました。


「皿を描いてどうするんだ?」


「おさらじゃないの!」


しいて言うなら円盤です!

これを見せながら、駆けつけてくれた大工さんに説明します。


「丸くて、なるべくうすくしてもらいたいのです。これをぶんってなげるとびょーんってとぶのよ!」


私の説明に大工さんが困った顔をします。

身振り手振りで、フリスビーを投げるまねをしますが、なかなか伝わりません。

規兄、助けてください。


「この皿のようなものを、横に回転させて飛ばすということか?」


規兄にもお皿って言われました…。

だったら、お皿で説明します!


木皿を持ってきてもらい、それをフリスビーのように投げます。

もちろん、重たくてそんなに飛ばないのですが、だいたいは伝わりましたよね?


「浅く滑らかし、そして軽ければ飛ぶということでしょうか?」


「そうです!」


ようやく大工さんは理解してくれたようです。


「犬に与えるのですよね?」


「はい、犬といっしょにあそぶのです」


「でしたら、薄くすると割れてしまうでしょう。しかし、厚くすると重たくて飛ばない」


私も悩んでいた問題点をすぐに言われてしまいました。

すると、大工さんはいろいろと案を出してくれたのです。


「この(ふち)の部分を厚くして、平たい部分を薄くするか、もしくはくり抜いてなくしてしまうかした方がいいでしょう」


くり抜いてしまったら、円盤ではなくなってしまいますね。

空飛ぶドーナツですよ!

でも、それも面白そうです!


「その二つをためしに作ってもらえますか?」


「お安い御用です。明日の昼過ぎまでにはお持ちいたしましょう」


お仕事が早いですね。さすが職人さんです!


「では、よろしくおねがいします」


これで、うまく飛ばせればいいのですが。

明日が楽しみです。


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