珠、怒られる
会議も無事に終わって宴会じゃー!
早速、照兄と邦兄の元へ。
「珠、大きくなったなぁ」
「母上に似て、別嬪さんだ」
照兄は粗野というか、ワイルドというか、男臭い?
顔付きも濃いが、そこはやはり日本人なので、時代劇の俳優さんみたいです。ソース顔というより味噌顔。
邦兄は照兄をマイルドにした感じですかね。性格も大人しくて、品があります。兄たちの中では、一番母上に似ているのではないでしょうか。
照兄は父上と瓜二つですけど。
突如乱入した私と風魔の三人にも、ちゃんとご飯が用意されていました。
二人の兄と一緒にいられる時間は限られるので、ご飯は照兄の膝の上で食べます。
父上が淋しそうにしているが、照兄も邦兄も明日には帰ってしまうので譲りません。
日頃、姉たちとどんなことをして遊んでいるのか話したり、最近お勉強したことを話したり、話すことはいっぱいあるのです。
照兄は嫁いだ次女の鈴姉に会いにいったときの話を聞かせてくれたり、邦兄は竹兄の様子を見にいったときのことを話してくれました。
鈴姉も竹兄も元気にしているそうでよかったです。竹兄、早く帰ってきてくれないかなぁ。
長女の春姉は姐さん女房として、旦那さんを尻に敷いてるとかいないとか。規兄が面白おかしく文に書いていたから、本当かどうかは不明ですが。
他にも、お友達の元康さんが初陣を経験しただとか、兄は元康よりも強いぞだとか、いっぱい書いてあったな。
最初は和やかに進んでいた宴会も、酒の量が増えるにつれて騒がしくなり始めました。
裸踊りは伝統芸なのですか?
面白そうなので、裸踊りをすると宣言した男性の、腹筋が六つに割れているお腹に、プリティーなお顔を描いてみた。
我ながら、よく描けたと思う。
周りは腹を抱えて大爆笑だが、私も一緒に指差して笑ってあげましょう。
そんな私の元に、二人の男性が泣きならが来ました。
「たまひめざま〜」
「拙者、嬉しくて嬉しくて…」
先ほど、毎日道場で稽古していると指した二人でした。
「よしよし。おのこはないちゃだめなのよ」
なんでか知らないが、嬉し泣きしている二人の頭を撫でてあげましょう。
「姫様に一生ついていきます!!」
それは政兄に言ってあげてほしいです。
「二人とも、珠姫様を困らせるなよ」
誰かと思ったら松田氏ではありませんか。
「まつだ…どの?」
私の場合、父上や兄たちの家臣をどう呼んでいいのでしょうか?さすがに呼び捨てはまずいですよね?
「憲秀で結構ですよ」
憲秀…のりひで…のりりん?
「憲秀はやる男だぞ。父上も兄上も、この男のことは買っているからな」
照兄が教えてくれました。
家臣の中でも出世頭ってことですね。
「拙者は大藤信基が子、秀信と申します」
「某は間宮康俊の長子、康次と申します」
いっぱい人の名前が出てきてちんぷんかんぷんですよ。
「う?」
「珠の好きなように呼んでいいのだぞ」
照兄は私が変なあだ名をつける癖を知っているので、気を使ってくれたのかな?
のりりんにしたから、りんで統一しちゃおうかな。
「のりりん、ひでりん、つぐりん!」
一応、親と被らないであろう字を選んでみました。
そしたら、照兄が床を叩きながら大笑いしているではありませんか。
「この顔でそれはねーわ」
のりりんは政兄みたいな美青年ではないが、顔は整っている方だと思う。甘さはあるもののあっさりした感じ。例えるならマヨネーズですね。
ひでりんとつぐりんは、照兄の味噌顔に醤油を足した感じ。つまり、普通の日本人顔ということになりますね。
人間、顔ではないのだよ。
その後も、政兄の側近の人たちや重鎮と呼ばれような人たちが挨拶に来ましたが、まったくもって名前は覚えられませんでした。
お屋敷に戻ると、今度は家族水入らずで団欒。
父上、母上、政兄、照兄、邦兄、藤兄、空姉、崎姉、豊姉ときて、政兄の妻の小梅姉と娘の香。やはり、大家族。
姪にあたる香ちゃんは、私の一つ下。
めちゃくちゃ可愛い。私の妹と言ってもいい。
政兄の妻の小梅姉は、本当に武田信玄の娘かと疑いたくなるほど儚げな美女です。
政兄と並ぶと、美男美女でお似合い夫婦である。
しかも、とても優しい人で、私が香ちゃんと遊んでいると、いつもお菓子をくれる。
もう一人、父上の側室で三女の葉姉と竹兄の母上がいるのだけれど、今回は竹兄もいないので辞退したらしい。竹兄の母上はとても教養のある人で、私にもいろいろなことを教えてくれます。
「さて、珠。母に申すことはありませぬか?」
母上の顔が恐ろしいことになっています。
「ごめんなさい」
「謝ればすむものではありませぬ。政の場に女が出向くとは…」
「珠も反省しているのだし、もうよいではないか」
父上が母上をなだめようとしたが、どうやら火に油を注いだだけのようです。
「じゃじゃ馬だと思われ、嫁ぎ先がないやもしれませぬぞ!」
母上の一言に、男性陣の言葉が見事ハモりました。
『それはない』
「珠にはちゃんといい嫁ぎ先を用意してやる」
「珠を守り、幸せにしてくれるやつでないとな」
父上と政兄はわかるとして、なぜ他の兄たちが私の結婚に口出すのでしょうか?
「真田の倅はどうだ?」
「だめですよ。真田家は御屋形様命ですから、珠姫を大事にしてくれる方でないと」
さらになぜか小梅姉まで参戦しているし。
「ふむ。ならば織田の方はどうだ?」
「見込みがありそうなのは、元服しておりませんが、織田家の鬼道丸でしょうか。信長が与えた幼名に変えさせるほどで、かなり可愛がっているそうです。それも、信長が認める才があるゆえだとか」
誰それ?信長なら知っているが…。
「そういえば、氏規が松平元康のことを勧めていたな」
誰それ?って、元康さんね。規兄の親友の元康さんか。
「三河の者が大人しく今川の下につくとも思えぬがな」
「その者を中心に三河が力をつければ、今川も足元をすくわれるやもしれませんね」
私の結婚相手の話から、政治的な話にいつの間にかなってるな。
このままうやむやに…。
「ならば、織田の周りをよく調べておけ」
ならないのね。
それよりもまず、まだ私、四歳ですから!