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珠、初めてのお外 二の巻

なんとか、陽が落ちる前に大きな町に着きました!

藤沢というらしいです。

道に沿って、ご飯屋さんや宿が並んでいます。

宿は旅籠屋(はたごや)と言うって、規兄(のりにぃ)が教えてくれました。

聞いたことあるような、ないような?

大きな旅籠屋さんに行き、今日はここで一泊するそうです。

しんちゃんはお馬さんを預けて、井戸の場所を確認していました。

どうやら、水浴びをするみたいです。


「夕餉を頼む。それと、その後に、体を清めるためのお湯を」


「畏まりました。夕餉はすぐにお召し上がりで?」


「あぁ」


こちらにどうぞ、とお店の人に案内され、食堂の奥にある、畳張りのところに腰を下ろす。

すぐにお膳が運ばれてきて、普段よりも少しだけ質素な夕餉でした。

ご飯に汁物、あさりと切干大根の何か、お新香。

そして、お(ひつ)がどーんと置かれました。

ご飯は多分玄米で、他にも何か入っているようです。粟とかですかね?

つまり、雑穀米?

お屋敷では玄米だけなので、ちょっと新鮮です。

うん、可もなく不可もなくっていう味付けですね。

私が味わって食べていると、隣りに座っている規兄は掻き込むようにして食べています。

ご飯のおかわり、何枚目ですか。

寝る前の大食いは、太りますよ!

さすがに、他の人たちは綺麗な食べ方です。


「もう少しお召し上がりになりますか?」


のりりんが、おかわりするかと聞いてくれましたが、もうお腹いっぱいなのです。


「もう、食べれないの」


「たくさん食べないと、大きくなれませんよ?」


確かに、私は他の兄弟に比べて少食ではあるが、それは体が小さいからだと思うのです。

ちゃんと年相応には育っていますよ!


「てるにぃみたいになるのは、ちょっと…」


照兄(てるにぃ)は兄弟の中で、一番体が大きいのです。

父上よりもたくましくなっています。


「さすがに、氏照様より大きくなることはないと思いますよ」


しかし、横に大きくなるということもあるではないですか。

ご飯は腹八分目といいますし、これくらいが丁度いいのです。


夕餉が終わると、お部屋で寝るだけです。

こたとこたこたは部屋を取ったようですが、風魔衆で警備をするそうです。

せいちゃんとれんちゃんは、ご飯だけにして、こっそりとこたたちの部屋で仮眠を取るそうです。

ばれると犯罪ですよ?


私たちは大きな部屋で、布団を引いて雑魚寝だそうです。

布団を準備していると、人数分のお湯が入った桶を持ってきてくれました。


「珠、こっちにおいで」


規兄が、いつの間にか衝立(ついたて)を出していました。


「う?」


「湯で体を拭くから」


そういうことでしたか。

いつもは女中のお姉さんにやってもらうのですが、この場合、兄である規兄がやってくれるってことですかね。


着物を脱いで、すっぽんぽんになると、規兄におでこを叩かれました。

痛くはなかったですけどね。


「全部脱ぐやつがあるか。体が冷えるから、襦袢(じゅばん)は着ておけ」


襦袢を着ていたら、体を拭けないですよ?

お屋敷では、だいたいはすっぽんぽんです。

女中さんたちが手際よくやってくれるので、体が冷えることはありません。

冬は側に火鉢を置いたりして、寒さ対策をしています。

わけがわからないうちに、襦袢を着せられ、軽く腰紐を結ばれました。

そして、肩甲骨辺りまで襦袢を引き下げて、規兄が手拭いで拭いてくれます。

なるほど。

拭く部分だけを出せってことだったのですね!

背中を拭かれ、手足を拭かれ、前は自分でやれと手拭いを渡されました。

むぅ。人にやってもらう方が気持ちいいのに、残念です。

ついでに、髪も拭いてもらって、全身さっぱりしました!

さらに、しんちゃんが馬に乗り続けていたからと、腰を指圧してくれたのです。

気持ちよくて、睡魔が…。




「珠、起きろ!」


規兄に起こされました。

もう、朝ですか?

今日も陽が昇る前に出発するそうです。


朝餉を食べに食堂に行くと、だいぶ賑わっていました。

こんなに人がいたんですね。


朝餉は雑穀の雑炊と梅干しでした。

食事には時間をかけず、早く出発したいのかもしれません。

しかし、規兄は遠慮なくおかわりしていましたが。

食べ終わると、お店の人から何かを受け取って出発です。

何をもらったんでしょうね?


旅籠屋さんを出ると、すでにしんちゃんがお馬さんを連れてきていました。


「今日もよろしくね」


お馬さんの顔を撫でてから、しんちゃんに乗せてもらいます。

そして、この大きな道とも今日でお別れです。

この藤沢から別の道を行くとのことでした。


今までの道より狭いですが、私たち以外にも歩いている人がちらほらいますね。

しかし、この道は何というか…田舎に続く道って感じですね。

辺り一帯が畑なのですが、育てているのはお米かな?


「珠、川が見えるのがわかるか?」


規兄が指差す方向に、少しだけ川が見えました。


「はい!」


「あれが、(さかい)の川だ」


「さかいですか?」


境って、区切るという意味の境ですかね?


「あの川向こうが武蔵国(むさしのくに)だ」


なるほど。ある意味で国境ということですか。


「この川に沿って、道がある。今日も長く歩くことになるぞ」


歩いているのは、規兄たちですよ。

私はお馬さんに乗っているので、楽なのは楽です。

お尻がいつまで持つかわかりませんが。


案の定、お昼前には限界が来ました。

腰からお尻にかけて、痛いのです。

というわけで、少し歩くことにしました。

規兄と手を繋ぎ歩くのですが、足の長さが違うため、小走りになってしまいます。

ですが、歩く速さを遅くすると、陽が暮れるまでに宿につけなくなってしまいます。

頑張って頑張って、半里くらいは走れたでしょうか?

もう、根を上げてもいいですよね?


「のりにぃ、つかれました…」


「まぁ、頑張った方か」


そう呟くと、規兄がしゃがみました。

どうやら、おんぶしてくれるようです。


「もう少ししたら、村がある」


おんぶしてもらうと、そう教えてくれました。

そこで休憩するのですね!

あんこありますかね?あんこが食べたいです!


規兄の背中が気持ちよくて、ついうとうとしてしまいました。

起きたときには、どこかの茶屋に入っていて、ちょっとびっくりしました。


「今のうちに腹ごしらえしておけ」


渡された包みの中は、握り飯でした。

私には大きいですが、お腹も空いていたので、思いきりかぶりつきます。

塩加減が丁度いいですね!


あんこはありませんでしたが、一服をしたら出発しようと話してたいました。

すると、しんちゃんが馬を変えましょうか?と、規兄に聞いてきました。

お馬さん、変わっちゃうのですか?

暴れることもなく、大人しくていい子なのに。


「そうだな。ここから峠までだと、厳しいか」


「はい。一応、体力のある若い馬ではあるのですが、ここから橋本まで、伝馬(でんば)駅がございませんので」


今日の目標は、橋本という町ですか。

しんちゃんたちの言いようだと、かなり距離があるみたいですね。


「わかった。馬を替えよう」


規兄の許可がおりたので、新しいお馬さんにすることになりました。

何頭かいるお馬さんの中で、気性が大人しい子を見分けるべく、しんちゃんがいろいろと調べているみたいです。

私は、ここまで付き合ってくれたお馬さんに、お別れの挨拶です。


「ここで、まっていてね」


お別れといっても、また帰りに連れていきますよ。

このお馬さん、戦馬としてお城で飼われている子なので、ある意味貴重な戦力なのです。


「ブルルルルッ」


何だか、ご機嫌ななめなようです。

やっぱり、疲れているのでしょうか?


「珠」


規兄に呼ばれました。

どうやら、お馬さんが決まったみたいです。

馬小屋から出ようとすると、急にぐいっと引っ張られました。

誰ですか!?

じたばたもがきますが、着物の襟が首を絞めるので苦しいだけでした。


「のりにぃ〜!」


助けを求めると、規兄、しんちゃん、たかじょーが来てくれました。

最初は何事かと慌てた様子でしたが、私を見るなり苦笑に変わりました。


「お前、そんなに珠のことを気に入ったのか?」


規兄が私の隣りに立ち、何かをぽんぽんと叩きます。

ようやく解放されてみれば、犯人はお馬さんでした。

ぐるぐるという、聞きなれない鳴き声を出しながら、鼻面を押しつけてきます。


「この様子ですと、我々が離れたあとに暴れそうですぞ」


たかじょーは鷹だけでなく、馬にも詳しいのですか?

たかじょーがお馬さんの体を調べて、特に不調を訴えているわけではないので、連れていった方がいいと言いました。

体力のある若い馬なら、少し休ませれば回復も早いだろうと。

結局、このお馬さんが暴れて怪我をするのも可哀想なので、このまま連れていくことになりました。


「しかし、馬はわからぬな」


「う?」


突然おかしなことを言い出した規兄ですが、周りのみんなは同意しています。


「世話をしていなくとも主人と認めることもあれば、どんなに心尽くして世話しようとも、主人を振り落とすこともある」


そうなのですか?

馬って、忠誠心の高い生き物だと思っていましたが、この小さい馬は違うのでしょうか?


再び、お馬さんに乗って旅を続けますが、しばらくは馬談義で盛り上がっていました。

例えば、戦場で討たれた主人の側を離れようとしない馬がいるだとか。

主人の指示とは逆の方向にしか行かない馬だとか。

お馬さんたちも、性格は千差万別なのですね。

でも、お馬さんは暴れると大変なので、驚かせないようにしましょう。

でないと、またやっすんに槍で吊り上げられてします!


お馬さんも頑張ってくれたのですが、もう陽が落ちてしまいました。

鮮やかな夕焼けが、徐々に暗くなっていくのがわかります。

もう満月は過ぎてしまっているので、月明かりも期待できません。


つぐりんが提灯を用意してくれました。

夜道は危険ということで、先頭と行っていたせいちゃんとれんちゃん、殿(しんがり)のこたとこたこたとも合流し、全員固まって歩きます。

のりりんによると、あと一刻もかからないくらいだと言っていました。

早く、お布団で寝たいですね。

補足


伝馬駅(でんばえき):替えの馬が用意されている場所。これを用いて、リレー方式で伝令や物資を運ぶことを駅伝制という。

伝馬という地名が残っているところは、この伝馬駅として発展した町らしいですよ。


馬:日本の在来種なので、小さい馬。長距離を走ることができなかったため、駅伝制ができた模様。

ちなみに、去勢していないから、発情期に気性が荒くなるそうです。



馬の忠誠心とか逸話を調べようとしたら、ドラ◯エ10ばっかり出てきて困りました(笑)


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