珠、シャボン玉で遊ぶ
今日はよっしーと遊ぶのです!
やらないといけないことは山積みですが、調べていることがわからないと、何も動けないのです。
ならば、遊ぶしかない!
本丸広場に行くと、すでによっしーたちが作業していました。
「末姫様、お伺いしようと思っていたところです」
「何かあったのですか?」
「こちらを」
そう言って、ある物を渡されました。
こ、これは!
「ようやく、固まりました」
石けんです!
ちゃんと、固形石けんですよ!!
なんと、あの藁の灰と荏胡麻油で作ったものが、ちゃんと固まったのです。
「どうも、あの汁を取り除いたのがよかったようです。その後も種類を変えてやってみましたが、取り除いたものは固まる気配を見せています」
固形といっても、指で押せはくぼんでしまうくらいには柔らかいのですが、使えれば問題ありません!
泡立ちの方はどうでしょうか?
意気揚々と、桶の中で手を洗ってみます。
おぉ!前回泡立ったものより、しっかりしていますよ!
早速、シャボン玉を作りましょう!
……あ。
シャボン液を作るなら、液体石けんを水に溶かした方が早かったかもしれません…。
固めるのにこだわっていたのは、無駄な時間だったってことですよね?
いやいや、日常で使うなら、固形の方がいいのです。無駄ではありません。
よし、気持ちを切り替えて、シャボン液を作りましょう!
よっしーにお願いして、不純物を取り除いた、固まる前の石けんを用意してもらいます。
「固まっていないものでよいのですか?」
「はい!」
それに、ぬるま湯を少しずつ足していきます。
「どうして、湯を足すのですか?」
なおぴーが興味津々といった様子で覗いてきました。
「う?あそぶにはかたすぎるからですよ」
程よく、白い液体になったところで、手を入れて親指と人差し指で輪っかを作ります。
ゆっくりとシャボン液から出し、輪っかの中に膜ができているのを確認しました。
ふぅーっと息を吹きかけると、シャボン玉が膨らみます。
割らないよう気をつけて、勢いよく輪っかを閉じながら手を振ります。
虹色に輝く、大きなシャボン玉ができました!
「ほぉ。これは凄いですね」
「これで、こんなに綺麗なものができるとは…」
「末姫様は、これを作りたかったのですね」
なおぴー、ひさっち、ゆっきーは綺麗だと褒めてくれましたが、よっしーはようやく私の目的がわかったとご満悦でした。
次は、指の輪っかを小さくして、連続でシャボン玉が出るか挑戦です!
先ほどより勢いよく息を吹きかけます。
すると、三つほど小さなシャボン玉ができました。
うぅぅ、もっといっぱい出ると期待していたのですが、シャボン液が薄かったのでしょうか?
石けんを少し足して、濃さを調節してみます。
もう一度、ふーっと息を吹きかけると、今度は五つになりました。
うーん、指だと難しいのでしょうか?
シャボン玉のストローも作った方がよさげですね。
「これはこれで、幼な子が好きそうだな」
「確かに。これも売り出してみると、面白いやもしれんぞ」
何やら相談しているようですが、シャボン玉を売るとなると、やはりストローが必要ですね。
「しんちゃん、おえかきどうぐ出して!」
作業台の上に紙を置き、シャボン玉のストローを描いていきます。
先っぽがちょっと大きくなっていて、ギザギザした口のやつです。
あとは、金魚掬いのポイのような、円形に握る手をつけたもの。
「こういうのをつくって!」
四人に絵を見せます。
「輪っかと棒ですか?」
「えーっとね、わっかはこういうふうに動かすと、シャボン玉ができるのよ」
「「「しゃぼん玉?」」」
三人揃って、首を傾げました。
仲がいいのですね。
それより、よっしーが表情を変えずに、静かに説明を聞いているのですが、ちゃんとついてこれていますか?
「この丸いふわふわうかんでいるのをシャボン玉って言うの。かわいいでしょ?」
「では、こちらにも名前があるのですか?」
よっしーが指し示したのは、固形化に成功した石けんです。
「石けんです!」
「せっけんですか…」
よっしーは考え込んでいるのか、地面をじっと見つめ始めました。
「末姫様、どのように売り出すか、何か案がございますか?」
…どのように売るか、ですか?
そうですね。
石けんは入れ物ごとがいいですね。
お風呂場とかにも置けるように、受け皿と蓋があるようにして、受け皿の方には水切り用に隙間を作って…。
サラサラと絵にしていきます。
シャボン玉も、蓋つきの器がいいのですが、液体なので溢れないようにしないといけませんね。
そうすると、回して開け閉めするものがいいですね。
「これは何ですか?」
なおぴーは、好奇心旺盛なんですね。
私のお絵かきを、不思議そうに見ています。
「ふたですよ。こことここにみぞを入れて、まわすことであけたり、しめたりできるの」
「へー。よく思いつきますね」
私が考えついたのではないので、ちょっと罪悪感がありますが、黙っておいた方がいいですよね?
「こちらの棒は、空洞になっているのですか?」
「そうです!これをくわえて、いきをふくのですよ」
ある程度説明し終えると、四人は材料やどのように作るかを話し合い出しました。
シャボン液の器は大量生産を視野に入れて、すぐに手に入り、加工もしやすい竹に決まりました。
そして、輪っかも竹を輪切りにして、取っ手をくっつけるという、凄く簡単なものになりました。
固形石けんの方は、高級感を出したいということで、漆塗りの入れ物にすることにしました。
こちらは、裕福な方向けですね。
もちろん、市井の民には、固まらない液体石けんを売り出します。
洗濯物にぴったりですからね。
固める時間もかからず、入れ物も竹で作れば安い上がりですしね。
ということで、本格的に商いとして動き出しそうです。
「では、問屋の屋号を決めましょう」
よっしーはそう言いますが、やごうって何ですか?
「やごう?」
「名前のことです」
名前ですか?
何とか屋みたいな感じですかね?
「たとえば、たまやとかですか?」
「そうです」
うーん、珠屋はないです。
花火のかけ声じゃないですか。
「宝屋とかはどうです?」
なおぴーがひらめいた!とばかりに、発言しました。
「たからやですか?」
「そうです。末姫様は、掌中の珠と呼ばれていらっしゃいますので、宝物の意味も含めて、宝屋です」
「尚道のわりには、いい案を出したな」
よっしー、それって褒めています?
「わりにはって何だよ…。素直に褒めてくれたっていいのに」
なおぴーも、よっしーの態度に不貞腐れてしまいました。
まぁ、これも兄弟仲がいいってことですかね。
「宝屋か…。いいのではないか?姫様はどう思われますか?」
珠屋とかにされるよりは、宝屋の方が断然いいです。
宝という言葉に、掌中の珠の意味を込めたなど、言わなければわからないのですし。
「はい。たからやにしましょう!」
そして、重要なことを忘れていました。
容量を統一しないと、不公平になっちゃいますよね。
「そういえば、いっしょうますはどうなりましたか?」
「大きさを統一する件でしたら、新御屋形様に書状にてお願いしております」
政兄をせついた方がよさようですね。
一升枡の他にも、五合枡や一合枡も統一したいです。
そうすれば、石けんやシャボン液も一合で売り出せるのです。
「まさにぃにいそぐようお願いするので、いちごうで売りましょう」
「わかりました。では、漆職人も急ぎ探して参ります」
もう、石けん作りはよっしーに一任してしまいましょうか?
私はシャボン玉で遊べれば満足ですし。
「石けんはすべてよっしーにまかせます。いいですか?」
「…よろしいので?」
これにはよっしーも驚いたようです!
ふふふ、その顔が見たかったのですよ。
「はい!あきないの方も、かじとりはお願いしますね」
よっしーへの負担が大きいとは思いますが、任せられるのはよっしーしかいませんし。
他の三人も慣れてきたら、色々とお願いしちゃいましょう。
さて、竹の水鉄砲を作りますか。
やっと、シャボン玉で遊べた珠でした。
長かった…。
補足
よっしー:安藤良道
ゆっきー:山角定之
ひさっち:大道寺重久
なおぴー:安藤尚道