表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/51

珠、悩む

おはようございます。

朝餉の時間に、事件が起きました!


「珠、姉上に文を書いてくれないか?」


政兄(まさにぃ)が姉上と呼ぶのは、春姉(はるねぇ)しかいません。

春姉にお手紙……。

あ!お手紙にお返事していませんでした!

規兄(のりにぃ)のお嫁さんがどんな人か、教えて欲しいって書いてあったので、後回しにしたんでした。


「おへんじかくのわすれてた…」


「姉上の恨み…悲しみのこもった文が、こちらに届いてね。淋しがっておいでのようだから、頼むよ」


政兄、今、恨みがこもったって言いかけました?


「それでかな?こっちにも来たよ。俺ばかり珠を独占してずるいだとか、元康がうっとしいとか、すげぇ悪口書かれてた」


「ああ。松平殿が、色々と動いているようだな。姉上も、父上に間に入れないかと言っているようだし」


えーっと、お手紙の内容は、今川の現状だとか、やっすんの動向だとかが書かれていたのですか?

それが、春姉の恨み辛みになるって、暗号が謎すぎるのですが…。

まぁ、苗姉(なえねぇ)為人(ひととなり)もわかったことですし、春姉にお返事を書きましょう。


というわけで、午前中は苗姉のところに行き、字を教えてもらいながら、お返事を書きます。

竹兄(たけにぃ)のおかげで、漢字はだいぶ読めるようになりました。

しかし、草書体はまだまだです。

苗姉にお手本を書いてもらい、それを見よう見まねで書き写します。


規兄のおよめさんは、たんぽぽのようにやさしい人です。

珠ともたくさん遊んでくれます。


という内容にしました。


全部ひらがなだった頃より、進歩したと思いませんか?

私だって、やればできるのです!


そのあとは、苗姉に和歌を詠んでもらい、あっという間に時間が過ぎていきました。

お昼になり、そろそろ苗姉のお部屋をお暇しようとした時でした。


「珠、ここにいたか!出かけるぞ!」


いきなり規兄が来て、私を抱きかかえると、屋敷の外に向かおうとします。


「殿、珠姫様、いってらっしゃいませ」


苗姉に見送られ、何がなんだかわからないまま、馬がいる曲輪(くるわ)へ。


「のりにぃ、どこへいくの?」


「小さい船を作らせただろう?それを川で試すのだ」


おぉ!

いくつか作るようにした模型ですか!

確か、木タールと漆喰と漆でしたっけ?

どういうふうに出来上がったのか、凄く楽しみです。


人で賑わっている町を、あっという間に抜け、河川敷に来ました。

そこには、見覚えのある強面集団がいるではないですか。

毎度お馴染み、船大工の皆さんです。

そして、船大工さんたちの側には、黒と白と焦げ茶色の船がありました。


「お待ちしておりましたぞ!」


棟梁のおじさんが、笑顔で歓迎してくれましたが、それどころではありません。

私は早く船が見たいのです!

棟梁のおじさんを急かし、船の説明をしてもらいます。


黒い船は、焦がし油(木タール)を使ったものでした。

まるでペリーさんの黒船のようです。

これはこれで格好いいのですが、べたべたしたりしないのでしょうか?

ちょっと鼻につく臭いがするものの、べたつくとかはありませんでした。

あとは、耐水性ですかね。


白い船は、漆喰です。

表面に薄く、漆喰を塗っているのです。

外側の部分だけなのですが、やはり重さが問題になりそうです。


焦げ茶色の船は、なんと漆でした。

漆といえば、黒いと思っていたのですが、透き漆というものを使ったと言っていました。

ちゃんと、木の質感も残っているので、船らしい味わいがあるのがいいですね。


今回は、長時間の観察が必要なので、三ついっぺんに浮かべます。

短い距離ですが、何度か帆走させて、浸水しないかを確認しなければなりません。

前回同様、褌姿の若い衆が、勢いよく川の中に入って行きました。

ちょっと…いや、かなり羨ましいです。

私も泳ぎたいですよ。


結果としては、どれも浸水はしませんでした。

ただ、もっと長期で調べたいので、船大工だんたちのところで、ずっと水に浸けてもらうことにしました。

それで、浸水がなければ、三つとも採用したいと思います。

ただし、それぞれ使用する船は違います。

今、造船しようとしている足軽船は焦がし油で、騎馬船を漆で、大将船を漆喰で造ります。

足軽船は数が必要なので、一番単価安いであろう焦がし油にして、速さが重要な騎馬船は軽く仕上がる漆で、大きいので重くても大丈夫な大将船を漆喰にします。


それでも、問題になるのは金銭面と必要物資の確保です。

木材はどうにかなると言っていますが、漆喰に使う石灰や漆を大量に揃えるには難しいと言っていました。

漆は小田原周辺でも生息していて、漆を植林している集落もあるというのは調べがついています。

しかし、それだけでは足りないということですね。


「てるにぃやくににぃにも、しらべてもらいましょう!」


北条家の勢力は、ほぼ関東全域に及んでいるそうなので、探せばどこかにあるはずです!


「そうだな。伊豆の方にもあるやもしれん」


というわけで、石灰と漆の大捜索をやるのです。


さて、帆船も順調にいっているようなのですが、私としては不安材料が一つあるのです。

本当に戦に使うのであれば、攻撃力が弱いということです。

海での戦い方といえば、船をぶつけて乗り込む方法と、大砲で沈める方法だと思うのです。

ただ、大砲だと色々と大変なんですよね。

なので、使いたくはないのです。

ぶつけるのも、船が傷つくのでやりたくないです。

ギリギリまで近づいて、火矢ですかね?

でも、こちらもやられますよね。

うーん、どうにか帆船に似合う攻撃方法がないものでしょうか。

まず、火薬を使うものは却下です。

大量生産が難しく、取り扱いも慎重にしなければなりません。

火を使うのも避けたいですね。

こちら側の船が燃えてしまう可能性が高すぎます。

突っ込むのも不可となると…、戦術と罠で勝負くらいしかありません。

攻撃力が持てないとなると、防御力を上げておいた方がいいですよね。

ただ、その防御力も問題なのです。

風と視界を遮るようなことはできませんので、甲板を板で囲むというのは無理ですね。

まぁ、これは船大工さんたちにも意見を聞いてみますか。


「あと、うみのこともしらべたいです!」


「もうやっているから、安心しろ」


規兄がドヤ顔していますが、これは褒めた方がよさそうです。


「さすが、のりにぃです!それで、どのようなほうほうでしらべているのですか?」


「相模の海で漁をしている者たちに、地形や潮の流れといったものを教えてもらっている」


なるほど。

しかし、それだけでは足りませんよ!


「海のふかさもひつようです。ひもにおもりをつければ、しらべられるとおもいます。あと、あまさんたちにもきょうりょくしてもらいましょう」


船が走行できる深さがあるのか、とても重要です。

岩礁などがあれば危険ですし、また戦場になれば罠にも使えます。

海流の速さなどは、漁師よりも海女さんの方が詳しいと思うのです。

あと、できれば駿河湾の方も調べたいですね。

あ!船乗りたちの腕が上がれば、船での運搬もできるかもしれません。

そうなれば、小田原は港町としても発展しますね。

長い時間がかかると思うので、そこら辺は政兄に任せてしまいましょう。


「確かに、海の中を知るのは海女か」


「海の深さもとなると、人が足りないな」


政兄と規兄が、誰かを使って人を集めるだの、報償をいくら用意するだの、何やら話し合っています。

色々と調べないといけないことが多いですが、兄上たちに任せておけば大丈夫そうですね。

そういえば、私、今の船を見たことがなかったです。

やっすんがガレー船の絵を見て、あたけ船と言ったことがありましたね。

大型の(かい)で漕ぐ船が存在しているということですよね。


「まさにぃ、お船が見たいです!」


兄上たちの話がまとまったところで、政兄にお願いしてみます。


「帆船ではなく、北条で持っている船を見たいということか?」


「はい。せめるにせよ、まもるにせよ、あいてをしらなければたいさくがたてられないのです!」


政兄の眉間に皺が寄ってしまいました。

小田原に船があるのなら、政兄もこんな顔をしないと思うので、船は遠いところにあるのかもしれません。

となると、小田原の町から出ることになるのですが、それがいけないのでしょうか?


「船となると、下田城か?」


規兄が政兄に問いかけます。

下田城って、どこでしたっけ?

葉姉(ようねぇ)に教えてもらったお城の中にはありませんね。


「そうだな。珠を連れてとなると、多く見積もって八日くらいか」


「つまり、ひと月欲しいところだな」


その下田城に行くのに、八日もかかるのですか!?

往復で半月かかるとしても、残りの滞在期間は何をするんですかね。


「珠が母上を説得できれば、いいだろう」


何ですと!!

私に最大の難関を押しつけるのですか!?

船が見たいから下田城に行きたいなんて言った日には、母上が再び鬼になるじゃないですか!

当主権限で、どうにかしてください。


「母上におこられるではないですか…」


「怒られるだろうな。今でさえ、帆船に関わるのをいい顔していないし」


規兄!怖いこと言わないでくださいよ!

もう、怒られるの確定ですよ!

どうやって、母上を説得すればいいのか、教えてください!!


すっかり忘れられていた春姉が、兄弟たちに呪いの手紙を…(笑)


12/27 一部変更

下田までの所要時間を延ばしました。

実際に、伊豆の方へ行ってみて、山道が多いと感じたので、珠の体力ではもっと時間がかかるのでは?と思ったためです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ