表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/51

珠、鬼と対峙する

目の前に鬼がいます。

もうすでに泣きそうです。


「聞いているのですか?」


「はい」


「軽率な行動をして、珠の身に何かあれば、周りの者にも責が及ぶと、理解しておいでか?」


母上がお部屋に入ってきた時、心配そうに大事ないかと聞いてくれたので、怒っていないのかなって思いました。

薬のおかげか、ピリピリした感じはだいぶ和らぎました。

しかし、私がピンピンしているとわかると、頭の上に角を生やしたのです。

そして、嫁入り前なのに痕が残ったらどうするんですかとか、私に何かあれば、しんちゃんやこた、よっしーもただではすまないだとか。

怒鳴るのではなく、坦々と言うので、尚更恐ろしく…。

先ほども、主君に怪我を負わせたのなら切腹などと言い出して、それだけは許してほしいと頭を下げたしだいです。


正直、正座は右足が痛むので、とても辛いですが、泣き言を言えるわけもなく、大人しく説教されています。

無事な左足に体重をかけているので、そろそろ痺れてきそうです。足の感覚に違和感が…。

しんちゃんやこたも、後ろで土下座をしたままです。

二人もずっと同じ体勢は辛いですよね。頭に血が上っちゃいますよね。

ごめんなさい、もう少し辛抱してください。


「当分、外へ行くことを禁止します」


「えっ!?」


「文句がおありか?もちろん、帆船などというものにも、関わってはなりません」


母上から殺気のようなものが出ています。

武家の娘であり、武家の嫁でもある母上です。

殺気くらいは操れてもおかしくはありませんが…。

それを娘に向けますか!?


「…ぃ」


「聞こえません」


「はい、わかりました!」


半泣き状態で了承すると、母上は満足したのか、お部屋から出て行きました。

寝っ転がるように体勢を崩しましたが、時すでに遅し。

左足は完全に痺れています。


「うぅぅ」


床の上で唸っていると、再び富が来て、姫様!と怒られましたが、それどころではないのです。

足が痛いと訴えると、富は怒るのを止めてくれましたが、その代わりに大量の本を置いていきました。

これを読めということですか?

ほとんどは、平安時代にはやった物語みたいです。

あ、これは和歌集ですね。


「みよしのはやまもかすみてしらゆきの…」


おぉ!全部ひらがなで書いてあります。

これなら私でも読めそうです。

ひらがななら、多少崩してあっても解読できるようにはなってきました。

あ、あぁ?

次に手に取ったものは、全て漢字でした。

楷書体で書いてあるので、漢字はわかるのですが、送り仮名もなく、白文のままです。

これを読めというのですか?

うーん、これは竹兄(たけにぃ)に解読してもらうしかなさそうです。

夕餉の時にお願いしてみましょう。


夕餉の時間になるまで、和歌集を眺めていましたが、読めても意味がわかりません。

なので、もう飽きました。

しかし、私がお部屋から出ようとすると、ふすまの前に女中がいて、どちらへと聞いてくるのです。

ご不浄にと言っても、厠までついてくるのです。

完全に見張られていますね。

歩くと少し痛みますが、歩けないほどでもなく、我慢できないほどでもないのがわかったので、よしとしましょう。

仕方ないので、お部屋でお絵かきでもして、時間を潰しますか。


ようやく夕餉の時間になり、女中から声がかかりました。

ご飯!ご飯!

ご飯の部屋に入ると、すでにみんな揃っていました。

というか、照兄(てるにぃ)邦兄(くににぃ)は、まだいたんですね。


「珠、怪我したと聞いたが、大丈夫なのか?」


照兄が聞いてきましたが、この通りピンピンしておりますよ。


「珠、こっちにおいで。その手では、ご飯も食べられないね」


邦兄においでおいでされたので、遠慮なく邦兄の膝の上に座ります。

私の手は、薬を塗られた後、さらしでぐるぐる巻きにされています。

お箸を握るしか方法がないので、刺すかかき込むしかできません。


「お前たちが甘やかすから珠は…」


母上の(まなじり)が上がりますが、そこをすかさず父上が宥めます。


「珠も充分に反省はしておるだろう」


「そうやって、皆が珠を甘やかすから、こういう事になっておるのでありませぬか!」


って、父上に火の粉が飛んでしまいました。

いつもの光景と言えばそうなのですが、父上、申し訳ないです。反省!


邦兄にご飯を食べさせてもらいながら、家族との会話も楽しみます。

照兄と邦兄は、明日には帰るそうです。

城を長く空けるわけにもいかないので、仕方ありません。

照兄は武蔵国(むさしのくに)の滝山城におり、お城の改修をしているのだと言っていました。

邦兄は上野国(こうずけのくに)を任されています。

まぁ、地名を言われても、それがどこかわからないので意味がないのですが。


「たけにぃ、明日ご本よんで!」


「いいけど、何の本?」


「う?かんじがいっぱいの?」


竹王丸(たけおうまる)、珠に読ませるのですよ」


は、母上。それは無理です!漢字ばかりでは読めません!


「…では、漢字を教えるということでよいですか?」


「えぇ。それならば、構いません」


「ということだから、珠、頑張ろうね」


まだ漢字も書けない私に、漢文を読めと言うのですか!?

お、鬼だ…。


やっぱり怒られた珠。

しかし、周りが甘やかすばっかりなので、母上も大変だと思う(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ