表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/51

珠、石けんを作る 一の巻

お待たせしました!

シャボン玉で遊びたい珠が頑張ります(笑)

さて、昨日はおめでたい話を肴に、父上たち男衆はお酒を飲んでいましたが、政兄、二日酔いしていないですよね?


とりあえず、政兄(まさにぃ)は二の丸にいるということで、しんちゃんに連れて行ってもらいました。

二の丸は、案内してくれる人がいないと、確実に迷子になってしまいますからね。


政兄には石けんと言わずに、灰を加工すれば、もっと汚れが落ちるのではないかと説明しました。

そのための実験をしたいのです。

政兄は悩んだ挙句、ある名前をあげました。


安藤良道(あんどうよしみち)を呼んで参れ」


政兄が側仕えの者に告げます。

はて、安藤さんって誰でしたっけ?

私が一生懸命思い出そうとしていると、当の安藤さんがやってきました。


「新御屋形様、安藤良道参りました」


「入れ」


政兄に促され、入ってきたのは若いお兄さんでした。

どこかで見たことある顔なので、どこかで会っているはずです。

どこかはわかりませんが…。


「ご用命でしょうか?」


「すまないが、少し妹に付き合ってくれないか?」


「末姫様に…ですか?」


すごく困惑した表情をしています。

…何かすみません。


「して、末姫様は何をなさりたいので?」


というわけで、もう一度説明しました。

灰を加工して、洗濯を楽にするものを作りたいと。

真の目的である、シャボン玉のことは言いません。


「その加工とやらの方法はどのようにするのですか?」


…えーっと。確か、石けんって灰と油でできているんですよね?

灰を煮詰めて、ろ過したものに油を入れるだけでいいのでしょうか?

いや、わからないからこその実験です!


「まずは、大きなおなべではいをにるのです」


「灰を煮るのですか?」


「はい!そして、それをこします。それをかためないといけないので、とりあえずあぶらを入れてみます」


「つまり、やってみないとわからないってことですか?」


「そうとも言いますね」


安藤さんは何やら考え込んでいますが、政兄の命令なので逃げられないですよ?

というか、逃がしません!


「…わかりました。新御屋形様、大工を一人お貸しいただけますか?」


「構わないが、大がかりになりそうなのか?」


「いえ。少し変わった道具が必要になりそうなので」


私はまだお鍋しか必要な道具は言っていませんが?


「では、いろいろと準備がございますので、御前を失礼いたします」


そう言って、安藤さんは出ていってしまいました。

何だか、とっつきにくい感じの人です。

うまくやっていけるでしょうか?

あ!あだ名つけるの忘れてました!

良道なので、よっしーですね!!


その後は、政兄に帆船の進み具合を教えてもらいました。

もうちょっとしたら、頼んでいた試験用模型ができあがるそうです。

できあがったら、川で実験ですね!

こちらも楽しみなのです。



数日後、よっしーが準備できたと連絡があったので、石けん作り開始です。

場所は本丸広場。私の遊び場です。


しんちゃんとこたを連れて、本丸広場に向かうと、隅っこの方に小さな(かまど)が作ってありました。

すでに火も起こしてあるようです。


「よっしー、お早いですね!」


「末姫様、危ないですので走らないでください」


…よっしーというあだ名も、見事にスルーされてしまいました。

ほとんどの人が、わけわからないとか、困惑した笑顔になるのに、無表情でスルーです。

これには、こたも驚いています。

その気持ち、わかりますよ。私もびっくりしていますから。


「では、末姫様。灰は水にまぜて煮てよろしいですか?それとも、灰汁(あく)を煮るのですか?」


そうでした。何も考えていませんでした。

でも、それでどんな違いが出るかを見てみたいですね。


「えーっと、りょうほうやってみましょう!」


「そう仰ると思っておりましたので、昨日(さくじつ)に灰汁を作っておきました」


そう言って見せてくれたのは、樽でした。


「灰汁の作り方を聞いて参りましたが、染物師によると、一昼夜でできるものと、七日ほど混ぜて寝かすものかあるそうですが」


柄杓で上澄みをすくい、お鍋に移していきます。

一晩でも、充分に透明になっています。

灰汁の上澄みとは別に、お鍋に灰とお水を入れて竃にかけます。

沸騰するまでに、よっしーが持ってきた油を説明してもらいます。


「新御屋形様より、好きにしてよいと言われたので、油は質のよい胡麻油と、よく使われている荏胡麻(えごま)油、あとは知り合いからわけてもらった馬油を用意してみました」


胡麻油はわかりますが、荏胡麻って何ですかね?

あと、馬ですか…。馬…。


「では、うわずみがにたったら、ごまあぶらから入れてみますか」


そうこうしているうちに、灰を入れたお水が沸騰しだしたので、よくかき混ぜます。

少しして、竃から外し、冷めるまで待ちます。

グツグツ煮立つお鍋を見て気づきました。

油に水って、凄く危険な組み合わせではないですか!

作戦変更です!

上澄みの方は少し湯気が出るくらいで、胡麻油を投入し、さらに煮ます。

ふぅ。油が跳ねなくてよかったです。

しかし、油分が混ざりきらず、表面に浮いてしまうので、ひたすらかき混ぜます。私じゃなくてしんちゃんが。

その間、よっしーが別のお鍋を用意して、灰とお水を入れてから竃にかけていました。

いくら大きなお鍋と言えど、一つでは量が足りないということですかね?


「姫様、色が変わってきましたよ」


しんちゃんが混ぜていた方が、白っぽくなってきました。

白に灰色と少しだけ茶色を混ぜたような色合いです。

竃からおろして、様子を見ます。

さらに混ぜていると、白っぽさが増し、どろっとしたとろみも出てきました。

冷めたら固まるでしょうか?


「こんな風になるんですね」


よっしーも少し驚いているみたいです。表情には出ていませんが。


さて、灰から煮出したものは、別の樽に移します。

この樽の底には、さらしを敷いて、その上に藁を敷き詰めてあるそうです。

底には栓があって、ろ過した灰汁を取り出せるということらしいです。

それにしても、よく頭が回りますね。


「何かうつわがひつようでしたね」


いい感じになってきたお鍋を見て、型みたいなものがあればよかったなと思いました。


「そうですね。明日(あす)は用意しておきます」


というわけで、上澄みの実験は保留にして、灰を煮ては樽に移す作業に専念しました。

樽がいっぱいになり、竃の火を落とします。

胡麻油で作った石けんは、お鍋に蓋をして、放置です。

竃や樽の周りに縄で囲いをし、触るな危険と張り紙をしておきます。

私の名前を書いてあるので、無闇に触る人もいないでしょう。


「今日はありがとうございました。明日もよろしくです」


「いえ、某も楽しませてもらいましたので」


そう言って、よっしーが微笑みました。

常に無表情だったよっしーが笑ったのです!

何だか得した気分になりますね。


よっしーに手を振って別れ、私はお屋敷に帰ります。

夕餉の時に、政兄に報告をします。

ちゃんとできるかはまだわかりませんが、楽しいので結果は二の次です。


明日も頑張りますよ!


石けん:理論上では、これで石けんができるはずだが、成功するかは謎。


安藤良道(あんどうよしみち):詳細は不明だが、仏門に入った後の名前が安藤良整(あんどうよしなり)。良道は創作。

若い頃より、氏政に目をつけられ、色々な仕事を任されるが、珠と出会い、珠係となってしまう。

史実では奉行人として、長く北条に仕える。メインは行政だが、戦で城将を務めることもあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ