珠、シャボン玉を探す
結婚式も無事に終わりと言いたいところですが、今日は家臣のみんなにお披露目だそうです。
父上が風魔衆からも出すようにと言ってきたので、こたこたにお願いしました。
これまたややこしい話ですが、私の家臣とするとしんちゃんの方が上らしいです。
風魔たちの中で話し合いをしたらしく、長く側にいたしんちゃんが、私の筆頭家老に相当するとか言っていました。
なので、私の家臣として出席するならば、しんちゃんが相応しいのですが、父上は風魔衆と言っていたので、頭領のこたこたの方がいいと判断しました。
父上も承諾していたので、大丈夫でしょう。
さて、今日は何して遊びましょうか?
天気がいいので、シャボン玉でも飛ばしたいですねぇ。
……石けんってありましたっけ?
と言うわけで、お城の洗濯場に行ってみましょう!
こたが、姫様が行くような場所じゃないだろう、とボヤいていますが、気になったのだから調べないといけません。
ほら、行きますよ!
連れて行ってもらったのは、本丸の横にある蔵が密集している場所でした。
「百間蔵と呼ばれていますが、ここの隅に洗濯場が設けられています」
しんちゃん曰く、この蔵に年貢米や籠城に必要な食糧を蓄えているらしいです。
にしても、たくさんありますよ?
その、百間蔵の二の丸に近い場所に長屋がありました。
蔵を守る人の詰所と、洗濯場ということです。
しんちゃんが長屋の戸を開けると、女性たちの元気な声が聴こえてきました。
どうやら、歌っているようです。
「失礼する。ここの長はどなただろう?」
しんちゃんがしゃべると、歌声もぴたっと止まりました。
「お屋敷の人が何のようだい?」
恰幅のいいおばちゃんが出てきました。
「末姫様が見てみたいと所望でな。構わぬか?」
うぅ。何か高圧的なしんちゃんって違和感あるのです。
「末姫様?」
おばちゃんが訝しげな顔をしたので、しんちゃんの横に立ち、挨拶します。
「おしごとのじゃまをして、ごめんなさい。おせんたく、いつもありがとうございます」
下女に礼はいらないだろうとか、またこたがブツブツ言っていますが、お仕事に貴賎はないのですよ!
「…あ、あぁ。仕事だから、礼を言われるものでは…」
おばちゃんはびっくり顔で固まってしまいました。大丈夫ですか?
「すこし、中をみせてもらってもいいですか?」
「楽しいもんじゃないと思うけど、それでもよければどうぞ」
そう言って、おばちゃんは中に通してくれました。
「さぁ、続けるよ!!」
おばちゃんの大きな掛け声で、再び女性たちが歌い出します。
木でできた、大きな桶?ぱっと見、浴槽にもみえますが、それが何個も並んでいます。
その中で、六人一組になった女性たちが、歌いながら足踏みをしているのです。
桶の中には、服が入っていて、踏む度に水の音がします。
…これが洗濯ですか…。洗濯板でゴシゴシではないのですね。
泡もないので、石けんも使ってなさそうです…。
うーん、シャボン玉は無理みたいです。
石けん、作るところからやらないといけないみたいです。
足踏みの過程が終わると、今度は水だけのすすぎです。
その後、脱水なのですが、ここでも足で踏んでいます。
脱水用の桶は、水が抜けるように穴が開けてありました。
そこから手で絞り、お外に干すというわけです。
かなり、手間がかかっていますねぇ。
見学のあとは、おばちゃんを質問責めです。
米のとぎ汁で洗うそうで、足りない時はムクロジという木の実を使うそうです。
さらに、戦の時などは、灰を使うこともあるそうで…。
あっ!灰!!
石けん、作れるかもしれません。
しかし、材料を手に入れるには、どうしたらいいのでしょうか?
困った時は、兄たちに相談するのです。
政兄のところへ行こうとすると、しゃんちゃんから待ったがかかりました。
「もう夕餉の時間が近いですので、明日にしましょう」
あれま。気づかないうちに、だいぶ時間が経っていたようです。
ご飯も大事なので、また明日ですね。
「今日のゆうげはなにかな〜」
「どうせ魚だろ」
げんなりしているこたですが、お魚に飽きているようです。
お魚も美味しいですけど、今日はハマグリとかだったら嬉しいのです!
…ハマグリの季節は春でした。
お屋敷の広間に、家族がそろいました。
規兄はいませんけど。
今日も二の丸に泊まると思います。
揃った面々とは、両親と政兄一家、照兄、邦兄、忠兄、菊兄、竹兄、葉姉、空姉、崎姉、豊姉、八重様…。
多いです。
本当に総揃いです。
というか、部屋が狭く感じるのは、照兄が大きいせいですかね?
さて、運ばれて来たお膳には、焼き魚と麦飯、味噌汁、煮物、きゅうりの塩漬けが乗っています。
う?このお魚は太刀魚ではないですか!!
私の大好物です。
ありがたく、いただきます!
この白身に塩味が利いていて、ご飯が進みます。
きゅうりのポリポリ食感もたまりません。
…兄たち、もっと味わって食べてくださいよ。
というか、邦兄の綺麗な食べ方を見習ってください!
全て平らげ、美味しいお茶をすすっている時でした。
「皆に知らせたいことがある」
政兄の言葉に、父上も母上も心当たりはないみたいです。何事か?って顔をしています。
「小梅が懐妊した」
「誠ですか?」
母上が身を乗り出さんばかりな勢いですが、小梅姉が肯定すると、見たことないくらいはしゃいでいます。
「男の子だったら、我ら北条家の五代目だな!」
忠兄も興奮気味ですが、つまり、小梅姉に赤ちゃんができたってことですよね?
「こうちゃん、おねぇさんになるんだね!」
全く理解していない香ちゃんに説明してあげると、お姉さんという言葉に反応しました。
「おねーさん?」
「そう!こうちゃんのおとうとかいもうとがうまれるんだよ!」
ようやく理解した香ちゃんは、顔を真っ赤にして、すごい勢いで小梅姉にたずねます。
「こう、おねーさんになるの!?」
「えぇ、そうよ」
きゃーと歓声を上げ、興奮状態です。
政兄が嬉しそうに、香ちゃんをなだめます。
…私、すでに叔母さんだったんですね…。今、気づきました。
それにしても、めでたいことが続きますね。
小梅姉の子供が産まれるのが先か、葉姉が嫁ぐのが先か…どっちでしょう?
灰から石けんを作るのは大変そうです。
珠、またいらんことに手を出して…。
お兄さんたちが大変だから、少しは自重しようぜ(笑)