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元康、小田原へいく

元康視点です。

あの織田信長との戦いが終わり、今まで自分を縛ってきた今川義元が討死した。

駿府(すんぷ)での生活は、友もでき、恵まれていたのだと思うが、心の奥底では三河を求めてやまなかった。


これでようやく、三河に戻ることができる。

今の自分なら、氏真(うじざね)にも負けぬであろう。

義元死後、落ち着きを見せない今川だが、氏真は氏規(うじのり)を小田原へ戻すことにしたようだ。

おそらく、妻の春殿に言われたのだろうが。

氏真も春殿には弱いからな。


せっかくなので、氏規についていくことにした。

三河に戻れば、また戦の日々が続くだろう。

その前に、友の故郷を見ておくのも悪くない。

いつも、妹が弟がと煩い氏規だ。

見たこともない兄弟を思っていられるのか不思議だった。その謎が解けるかもしれないしな。



長い旅を終え、ようやく小田原城へ入るという時だった。

前から子供が走ってくる。

馬に踏み潰されるぞと思いながらも、氏規の所縁(ゆかり)の者だしと、手にしている槍で子供の体を持ち上げた。


何が恐ろしかったのか知らないが、子供は大泣きし、氏規を呼ぶ。

氏規はすぐに妹だと気づいたようで、槍から取り上げるとなだめ始めた。

氏規の締まりのない顔など、初めて見たぞ。


どうやら、珠という妹らしい。

氏規の妹は何人かいるが、特に北条一族が可愛がっているという妹か。

珠という名にちなんで、掌中の珠と呼ぶくらいだからよっぽどである。

その後も次々と出てくる妹たち。

全て同じ腹の兄弟というから凄い。


無事に北条氏康(ほうじょううじやす)殿と対面し、客間に案内される。

一人になり、思案するは氏康殿の侮れなさよ。

確か、当主の座は氏政(うじまさ)殿に譲ったと言われるが、未だ衰えぬ眼力を見る限り、影響力は強いのであろうな。

氏政殿も、弟の再会に喜んでいたようだが、自分を見る目は強者のそれであった。一癖も二癖もある男。

…自分もまだまだってことか。



翌日は、氏規と珠姫と共に海に遊びに行くこととなった。

小田原は駿府に比べ綺麗な町だが、海があるせいか似ていると感じる。

海も穏やかで、よく氏規と泳ぎに行ったことを思い出す。

氏規も同じだったのか、さっさと着物を脱ぎ、(ふんどし)一丁になると海に入る。

珠姫はいいのか?

はよ来いと言われては、負けてられぬと自分も褌になり泳ぐ。

氏規とどちらが速く泳げるか競い、どちらが深く潜れるか競い合う。

泳ぎ疲れて砂浜に戻ると、珠姫がお付きの者と砂で何かを作っていた。


なんだこれは、船なのか?

しかし、珠姫が作ったものは、南蛮から来る者や水軍のものとは違うようだが。

北条家はこのような船を持つ水軍を抱えているのか?

問うてみれば、珠姫は大きな船だと外の国にも行けるだろうと答えた。

南蛮の者を見たことないであろう幼子が、海の向こうにあるであろう国に行くことを想像したというのか!


戻ってきた氏規は、ただ珠姫を褒めるばかりで、これがいかに凄いことなのかを理解していない。

三河ではまだ無理だが、ここ小田原なら…。


屋敷に戻り、氏康殿に謁見を申し願う。

珠姫が砂で作った船の出来の素晴らしさを話し、可能であれば造ってみないかと持ちかける。

氏政殿、幻庵(げんあん)殿、氏規も呼ばれ、実際に珠姫に絵を描かせてみようということになった。

珠姫は砂で作った船の他にも似たような船の絵を描く。

説明がくるくるだとか、がばーなどで全く意味がわからなかったが、氏康殿や氏政殿には通じているようだ。

幻庵殿は頭を抱えておられたが、気持ちはお察しする。自分もわからないしな。


珠姫の描いた船がいかに魅力的かわかって頂けたようだ。

協力は惜しまぬので造ろうと言えば、珠姫は喜び、それが氏康殿の背を押した。

本当にこの一族は珠姫に甘いというか…。最大の弱点となりうるのではないか?


珠姫が寝てしまった後も、資材の調達や船大工、資金をどちらがどれだけ負担するかなど細々とした話が進んでいく。

船が使えるとわかれば、まず十隻ほど譲り受けることとなった。

それに伴い、何かあった時にはお互いを助けるということになり、同盟と相成った。

血判状が用意され、それに氏康殿、氏政殿、自分の血判が並ぶ。


北条との同盟がどう影響するかわからないが、三河奪還の足がかりにでもなればよし。

それに、この船は成功するだろう。自分の勘はよく当たるからな。


翌日、珠姫を呼び、氏規は船の構想を練るというのでついていった。

珠姫は遊びだと思っているのか、いろいろなものを描く。

最初は氏規の要望もあり、船を描いていた。

安宅船に似た船や船を二つ並べた船など、奇妙なものばかりだ。

やがて飽きてきたのか、魚や鯨を描き、あわびやさざえと思しきものまで。

次は島のようなものを描いたかと思えば、人が乗った小さな船を描き、滝を描き始めた。

どういう繋がりがあるのか全くわからん。

しかし、この小さな船はなんだ?

丸木舟(まるきぶね)かと問えば、珠姫は丸木舟を知らなかった。

ではなぜこんなに小さいのかと聞けば、大きかったら一人で運べないだろうと答えた。

さらに、どうして繋がっているのかと聞けば、水が入ってくるからと言う。

なるほど。船とは椀のように開いてるものばかりと思っていたが、内側を掘ることによって中を空洞にしても、船は船と言うことか。

これは隠密や夜襲に使えるな。

珠姫の発想の豊かさには、本当に恐れ入る。



短い時間ではあったが、小田原に来た甲斐はあったな。

帰り際、珠姫に嫁に来るかと問うたが、氏規の後ろに隠れ、やだと言いやがった。

自分を振るとは、珠姫は男を見る目がないな。


まぁよい。よき縁が結べたのだ。

珠姫には今後も期待しているぞ。


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