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――うわぁ、もうあんなに地球が小さくなってる!


 数時間前まで自分がいた場所を見つめながら、私は心の中でそう叫んだ。

 だって、今まで自分がいた所だし、今年で十五歳になる私が今までずっと生きてきた場所だし。何だか、こう、感動、みたいな。


 そんな不思議な高揚感に包まれながら、私はその光景を見つめていた。

 興奮が少し収まってきたところで窓から数歩だけ後ろに下がり、展望室をぐるりと見回した。広いのに、今は自分以外誰もいない。時間も時間だからなのかな。

 左手に付けた時計を見ると時刻はもうじき深夜二時を回っていた。


「……私が今いる場所は、航宙艦の展望室……あ」


 またやっちゃった。昔からの癖で、不安になったり緊張したりすると今の自分の状況や場所とかを口に出しちゃうこの妙な癖。幸い、今は誰もいないからいいけど、学園に入ったら寮生活で部屋も一人部屋じゃないから、この癖もなるべく出さないようにしなきゃ。だって、完全な独り言だから、変な人だと思われちゃうよね。


「……でも、今はまだ良いよね」


 そう、私が今から向かう場所は学園である。でも、ただの学園ではない。


 私は展望室の中央付近に置いてある三人掛け、革製のソファに腰を下ろした。大きく伸びをし、そのまま背もたれに身体を預けた。


「……ノアガーデンか。地球から行く人は殆どいないって先生は言ってたけど……」


 イジメとか、ないよね?


 ネガティブな想像をしたら、なんだか心臓が嫌な心拍数の上がり方をしている気がする。

 空調のゴーっと言う音が、広い展望室にポツンと一人いる私の心をより一層不安にさせた。

 ふと外を見ると、星々の煌めきに混ざってしまい、もうどれが地球なのか分からなくなっていた。





――遠崎ひかる。この間の適正検査の結果だが、エーテル感応値が高い数値を示した。他の精神テストも問題無し、フォトン耐性もある。多少運動能力に難ありだが


「はあ……」


 地球にあるごく普通の中学校に通う私は、ある日突然、担任の先生に呼び出されてそう言われた。突然の呼び出し放送に、放課後の掃除をしていた私は酷く狼狽した。自慢じゃないけど、私は良い意味でも悪い意味でも目立った事がなかったのだ。問題を起こした事もなければ、表彰された事もない。ちなみに、今私が発した「はあ……」は溜息じゃない。ただ先生に対して何と答えていいか分からないから、そんな曖昧な返事をしたのだ。


「あの、適正検査ってこの間学年全員でやった、よく分からない検査ですよね? 軍服を着た人達に変な機械に通されたり、質問されたりしたやつ、ですよね?」


「……そうだ、全国でお前達と同じ学年の全ての子供達が受ける」


 私は、その時にはまだ考えもしていなかったけど、ただ、先生が何かを言いづらそうにしている空気だけは感じとっていた。


「……それでだ、軍から要請があってだな、遠崎ひかる。お前に【BA】のパイロット候補生として養成機関に通うよう通達がきた」


「え?」


 最初、先生が言っている事が理解できなかった私です。

 



 今から十五年位前に。宇宙開発の為地球を発った艦隊に突如として襲いかかった謎の生命体【GLAY】


 目的不明、何処から来るのかも不明、神出鬼没で、教科書に乗ってた写真は昆虫みたいですごくグロテスク。


 で、その【GLAY】に対抗する為、エーテル機関、とかいうのが搭載された、人型機動兵器。

【Battle Armor】通称【BA】


 私が最初に知っていたのは学校で習った今位の知識のみで、つまりはロボット。以前にクラスの軍オタクな男子がBA雑誌を読みながら「この機体はフォトン出力が」とか「フォトンの制御システムに推力がダンチで! マジぱねぇ!」とか熱く語っていたのを思いだした。


 とにかく、私がその段階で持っていたBAへのイメージは【悪い怪物をやっつける正義のロボット】という、とてもアバウトなものだった。


「私、やります」


 きっぱりと言い切った私を驚いた様子で見つめる先生。


「いいのか? まだ考える猶予もある。本来は軍からの要請を断る事はできないが、お前が嫌ならばいくらでも方法はあるんだぞ?」


 先生は心配そうに言った。見た目が少し恐く、ちょっとヤの付く人に見えなくもない強面の先生だが、見た目に反し優しく、親身になって私たち生徒の話を聞いてくれる良い先生だった。


「でも私、やりたいんです」


 今思えば、何故あの時あんなにも力強く答えたのか、自分でも不思議である。

 でもやりたいという思いは、調べれば調べるほど、時間が経てば経つほどに強くなった。ただ、なぜ自分はここまで強くやりたいと願うのか、それが解らなかった。


 私には、両親がいない。物心ついた頃には、私はおばあちゃんと二人暮らしだった。

 両親は、宇宙開発事業に携わっていたのだが、ある日、とある惑星の調査をしている時に乗っていた調査船で爆発事故が起き、亡くなってしまったらしい。だから、遺体も無いと、おばあちゃんは言っていた。


 そのおばあちゃんも、三年前に亡くなってしまい、今ではおばあちゃんが残してくれた家でお手伝いさんと二人で暮らしていた。お手伝いさんは名前をよねさん、と言い、おばあちゃんが亡くなってしまった時に仲の良かった近所の方が紹介してくれたのだ。


 お金の心配は全然無かった。両親が生前所属していた調査団体で上の方の立場にいたらしく、結構な額の遺族年金のような物が毎月入っていたからだ。

 そんな話も聞いたからか、私は宇宙と言う場所に対して、他の子達が持つような憧れも抱きつつ、少し、畏れる気持ちも持っていた。



「ノアガーデン。第七宙域にあるBAパイロット養成機関……そこに通う生徒達はSEEDと呼ばれる……か」


 夜、家のベットの上で寝転がりながら、私は取り寄せたノアガーデンの資料を眺めてそう声に出した。

 調べた結果、ノアガーデンと言う場所は学園とはいうものの、規律や体系は殆ど軍と変わらず。授業料を払う必要も無くてそれどころか毎月お給料まで貰えるらしい。

 地球から行く人は稀で(むしろ私が調べた限りでは過去に一人しかいなかった)殆どは他の宇宙コロニーからの入学というか入隊だそうだ。


 ベットの横、木製の勉強机の上にあるパソコンでは取り寄せた資料にあったロムディスクを読み込んでいる。私と歳が変わらないような子達が、BAに乗って戦っている映像が何度も流れていた。

 ノアガーデンでは、学生の頃から実戦があるらしい。教科書に載っていたあの気持ちの悪い、グロテスクな虫のような物と戦うのだ。……もちろん、死人だって出る。


――死


 考えただけでブルリと寒気がした。その思いを振り切るようにベットから跳ね起きた私は、部屋の窓を開けると身を乗り出して空を見上げた。まだ少し寒いが澄んだ空気が気持ちいい。今日は星が一段と良く見えて、とても綺麗だと感じた。

 結局、出発当日になっても私のこの強い気持ちに対する答えは、出ないままであった。


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