美少女化した異世界が、僕に転生を勧めてくるんですけど
「ねえ、あたしに転生しない?」
白銀の鎧を着た金髪女騎士が、妙なセリフを吐きながら僕に迫ってくる。
「て、転生?」
そう。僕はさっき死んだばかり。死にたてホヤホヤだ。
気付いた時には、この淡い虹色で満たされた空間に立っていた。
「そう、転生。新しい世界に生まれ変わって、新しい人生を送るのよ。」
彼女は魅惑的な青い瞳で見つめてくる。
女子とこんな近くで話したことがないから、何とか言葉を絞り出す。
「いきなりそんな事……」
先程、彼女から僕が死んだ事を一方的に説明されたばかり。
それを飲み込むのもやっとなのに、生まれ変わるだの、新しい人生だの言われても、頭がついてこない。
「そうね。自己紹介がまだだったわ。あたしは剣と魔法の世界。名前は『ナーロッパ』よ。」
「は?……世界? 君が?」
何を言っているんだ、この人は。
「そう、世界。あたしの中には世界が広がっているの。剣と魔法、英雄やモンスター。あなたのいた世界には無かった物ばかり。どう?」
「いや、どうって聞かれても……」
「あなたがあたしに転生すれば、科学の知識をフル活用して、俺TUEEEができるのよ!」
オレツエーってなんですか。そもそも僕は科学の知識あんまりないんですけど。
ただでさえ混乱しているのに、更に情報を増やされてパニックだよ。
「ちょっと待つネ!」
背後から、別の声。
僕が振り向くと、そこにはチャイナ服を着た女武闘家が立っていた。
左右二つのシニヨンヘアを揺らして、笑いかけてくる。
「ウチに転生した方が得ヨ。」
新しい人が現れたと思ったら、先行していた女騎士と似たような事を言い放つ。
「あ、あなたは?」
「ウチは『コンロン』。拳法と仙術の世界ネ。」
お前も世界なのかよ。何だよこれ。転生に得とか損とかあるの??
僕にもっとコミュ力があれば、思いっきりツッコむんだけど。残念ながらそんな力はない。
二人の「世界」に挟まれ、どうして良いのか困っている所に、また違う人が現れた。
「待ってくれ!」
今度は、分厚い革で作られたコートを纏う女冒険者。歯車がはみ出ている謎のガジェットをあちこちにぶら下げている。
彼女は、掛けていたゴーグルを持ち上げ、赤毛の上に乗せる。
「オレは『ラプータ』。蒸気機関と開拓の世界だ。鉱山に潜って、空を駆けて大冒険できるぜ。オレに転生しないか?」
なんだ、お前もか。もう勘弁してくれ。
そこへ中華シニヨン娘が割り込んでくる。
「ウチに転生すれば、仙人の宝貝を扱ったり、妖魔を使役したりして、『また何かやっちゃった?』とか言えるネ!」
西洋甲冑娘も負けてはいない。
「あたしには、ドラゴンが居るわ。男の子はドラゴン好きでしょ!」
「ウチには龍がいるネ。」
「みんな大好き、エルフも居るわ。」
「こっちには仙人ネ。男の子は仙女も好きヨ。」
ナーロッパとコンロンは、額をぶつけるようにして睨み合う。
その足元をくぐって、開拓歯車娘ラプータが僕の目の前に来る。
「オレんとこには、すげぇ速い飛行船とゴツいロボがいるぜ。好きだろ?」
ドラゴンとか、仙女とか、でかいロボが好きだなんて、勝手に決めつけないでよ。
そんなの……いや、大好きだけれども!
でも、君たち。僕の意見聞く気ある?
可愛い女の子三人に囲まれて、僕はどうしたら良いのだろうか。
とにかくこの状況を整理したい。
自分は『世界』だと言い張っている女の子三人が、死んだばかりの僕に転生を勧めてくる。
とりあえず、ここまでは合っているはずだ。
「すみません。」
三人の後ろから、ピンク色の髪をかきあげながら声を掛けてきた女性。
彼女が身に付けているピッチリとした黒のボディスーツには、水色のラインが波打つように光っていた。
「初めまして。私はコンピュータとアンドロイドが発達した近未来の世界、『ネオトキオ』です。よろしくお願いします。」
突然、丁寧な挨拶をされて、思わず僕もお辞儀をする。
「あ、はい。よろしくお願いします。」
「私に転生した方が合理的です。」
やっぱりかぁ。
これで四人目。せめて考える時間をください。あと、僕に話させてください。
後から来た彼女を、他の女の子たちが睨む。
「ちょっと! オレの方が先だろ。」
ラプータがそんな事を言うものだから、もっと前から声を掛けていた二人からパンチをもらう。
ナーロッパがそのまま叫ぶ。
「死んだことや転生の説明したのはあたしよ。あたしがあなたの最初の女なの!」
「僕の最初の女……」
僕が思わず最後の言葉を繰り返すと、ナーロッパは顔を真っ赤にして、勢いで喋ってしまったことを後悔する。
「違うのぉぉぉ。」
顔を覆って座り込んだナーロッパを跨いで、三人が僕に詰め寄る。
「アイツんとこは転生者多過ぎヨ。その点、ウチはまだまだ転生は少ないネ。大活躍できるアル。」
コンロンが僕の右から品を作ってすり寄ってくる。
「だったら、オレの方が未開拓ジャンルだぞ。色々と開発して良いんだぜ!」
左からはラプータが親指を立てて迫ってくる。
「この中では私が一番新しい世界です。ぜひとも、私に転生するべきです。」
ネオトキオが正面からぐいと近づく。そのボディラインが僕の視界を塞ぐ。
僕は目のやり場に困ってしまい、思わず下を向く。
「ほら、私は魅力的です。転生したくなったでしょう。」
ネオトキオの甘い声。
「いや、その……あの……」
一瞬、僕の心が揺れる。それを遮るようにコンロンが叫ぶ。
「ウチが一番魅力的な世界アル!」
彼女は背中から大きな青竜刀を取り出し、ネオトキオに斬りかかる。
ネオトキオは銀色の小さな棒を掴む。ブォンと言う小さな振動音が鳴り、棒から光が伸びてサーベルになった。
ガキン!
コンロンの青竜刀を光のサーベルで受けた。
さらにコンロンは拳法よろしくハイキックを浴びせ、ネオトキオは新体操のような動きでバク転して避ける。
かっこいい!
巨大な剣をいとも容易く振り回す拳法使いと、柔軟な動きで翻弄する光のサーベル使いの戦い。
僕は離れて、その戦いを見ていた。いや、見惚れていた。
「バトルならオレも負けない!」
ラプータが二丁拳銃を構える。
銃の歯車が動き始め、まるでマシンガンのような勢いで撃ち出される。
ダララララララララララ!
銃弾の雨をコンロンは剣を回して弾き、ネオトキオは紙一重で避けていく。
かっけえぇぇ!
僕が転生したら、チート能力もらってあんな戦いができるんだろうか。
「あたしも混ぜなさい!」
ナーロッパが両手を交差すると、空中に魔法陣が描かれる。
「爆ぜよ紅き蓮華、ルベルイグニス!」
魔法陣から放たれた真っ赤な炎が、三人に向かって飛んでいく。
魔法、かぁっくいい!!
忘れかけていた僕の厨二心をくすぐるその呪文。
ドォンッ!
爆炎が舞い、火の粉が飛び散る。
「どうよ、転生実績ナンバーワンの実力はっ。」
ナーロッパがドヤ顔をこちらに向ける。
大丈夫かな?
これが世界同士の戦いなら、世界滅亡してしまわないか。
「何もここまでしなくても……」
話題の中心は僕のはずなのに、なぜか蚊帳の外にいる気がする。
ゆっくりと爆発の煙が晴れていく。煙の中から三つの影……、いや四つの人影が現れた。
護符で結界を張ったコンロン、蒸気を吹く盾に隠れるラプータ、六角形の光のバリアで囲まれたネオトキオ。
みんな怪我一つない。
そして四つ目の影は。
エプロン姿でサンダル履いて仁王立ち。
「あんたらは、毎回毎回、喧嘩ばっかりしくさって!」
大声の主は、買い物袋を提げた太めのおばさんだった。髪型がパンチパーマなのは、まさか今の攻撃で焦げたんじゃないだろうな。
「あんたら、ええ加減にしいや。この兄ちゃんも困っとるやろ。」
おばさんは僕を指差しながら、女の子たちを叱りつける。
「あなたは誰……ですか?」
おばさんは僕の質問には答えず、ペタペタとこちらに向かってくる。
「兄ちゃんは人見知りやろ。知らんとこで、知らん人とイチから仲良うなるんは大変やで。」
確かにおばさんの言うとおりだ。
転生したからといって、アニメや漫画みたいに、色んな人たちと仲良くなって、信頼を得られるだなんて、そんなに上手くいくとは限らない。
おばさんは僕に手を差し伸べる。
「転生とか、もうええやん。帰ってきぃ。」
全然可愛くないけれど、なぜか安心感を感じる笑顔。
僕はおばさんの手を取った。
「「「「あ〜〜〜〜!!」」」」
四人の女の子たちの悲鳴のような声が響き、あっという間に遠ざかっていく。
僕の意識が薄れる。
でも、おばさんの手の温かさだけが心地よく残っていた。
***
「ごほっ!?」
胸に重い衝撃を感じて、目が覚めた。
眩しいライト。消毒液の臭い。慌ただしい声。
「患者さん蘇生しました!」
どうやら僕は、救急車の中で横になっているようだ。僕の胸の上には救命士の手が置かれていた。
息苦しい。まだ頭がボーっとしている。
蘇生……? どういうこと?
なんだか変な夢を見ていた。女の子に囲まれて、転生しろと勧められる夢。
僕は周りを見る。
「あ……、お母さん。」
お母さんが僕の手を握って、泣いていた。
「良かった、良かった。」
僕は弱々しく指を動かした。すると母さんは、強く僕の手を握り返してきた。
それは、あの「帰ってきぃ」の手の温もりと同じだった。
壮大な冒険も、ハラハラするバトルも、楽しい仲間も、スリルもロマンもなかったけれど。
僕はちゃんと帰ってこられたんだ。こんな嬉しいことはない。
これを連載版にするなら、この後、彼女たち「世界」が主人公の家に押しかけてくるドタバタハーレムコメディになるんでしょうね。
彼女たちは転生させるのが目的だから、それぞれが主人公を殺そうとする。それをお互いに邪魔しあいながら、なぜか深まる友情と愛情。
キャラを追加するなら、侍と忍者と陰陽師の世界「みずほ」とか。きっと一人称は妾ですね。
他には、貴族と学園の世界「アカデミア」、獣人と契約の世界「もふもふ」。
なぜ主人公は転生を勧められるのか。冒頭で主人公はどうして死にかけていたのか。おばさんとの正体とは。明らかになっていく伏線。そして世界が消える事件が発生。その黒幕とは一体?
うーん、読みたい人いるかなぁ……。