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6

そして、夜。


屋敷は静まり返っていた。

グレゴリーの言葉を守り、エリシアは部屋の扉に鍵をかけ、ベッドに潜り込む。


暖炉の火がゆらゆらと灯っている。

毛布の中は暖かい。



(屋敷は大きくて、不思議で、でも皆優しい。……なのに、どうして。)


コン……コン……


「……っ」


遠くから、小さなノック音のようなものが聞こえた気がした。

錯覚かもしれない。屋敷の木が軋んだのかもしれない。


それでも、エリシアはぎゅっと毛布を握った。

誰も歩くはずのない時間。

出てはいけない廊下。

開けてはいけない扉。


けれど今夜、何も起こっていない。


ただ、静かに夜が更けていく。


そのはずだった。


コン……コン……


静寂の中、再び微かな音が響いた。

それはまるで、誰かが遠慮がちに扉を叩くような、乾いた音。


エリシアはベッドの中で身体を起こし、じっと扉を見つめる。

暖炉の火が静かに揺れ、天井に不規則な影を落としていた。


「……はい…?」


思わず漏れた返事。

問いかけというより、反射だった。

けれど、その瞬間――


音が、止まった。


ノックの音は、それきり、ぱたりと消えた。

代わりに、かすかな気配だけが扉の向こうに残された。


誰かが、そこに“立っている”。


「……どなた、ですか?」


返事はなかった。

ただ、床のきしみ音もなく、足音もなく――

それでも確かに、“そこ”に誰かがいる気配だけは、消えない。


エリシアの背筋に、冷たいものが這い登ってくる。

グレゴリーの言葉が脳裏をよぎった。



『扉の前に誰かが立っていたとしても、開けてはなりません』



扉の向こうから、かすかに衣擦れの音がした。

それは、誰かが身じろぎした音。

あるいは、より近づいた音。


「……ライナルト様……?」


試すように名前を呼んでみた。

だが返事は、ない。

沈黙だけが返ってくる。


そして――その沈黙の中で、誰かの囁くような吐息が、扉越しに落ちた。


「……エリシア」


心臓が、跳ねた。


それは確かに自分の名前だった。

けれど、その声は……知っているはずの、どの声でもなかった。


低く、静かで、まるで水面の底から響いてくるような――そんな、声だった。


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