表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/33

5


ささやかな柔らかな光がカーテン越しに差し込む。

雪明かりのせいか、夜の冷たさとは裏腹に、部屋はほのかに明るかった。


エリシアが目を覚ますと、扉の外から控えめなノックが響く。


「おはようございます、お嬢様。朝食のお時間でございます」


メイドの一人、栗色の髪を三つ編みにした「ルミナ」が、微笑みながら出迎えてくれる。

少し幼さの残る顔立ちと、慣れた手つきでふわりと肩掛けを差し出す姿は、まるで家族のような温かさがあった。


階下の食堂に入ると、もう一人のメイド「カリーナ」、コックの「トマス」と「ベルナール」、そして寡黙な庭師「エドリック」も揃っていた。

皆、エリシアに軽く頭を下げる。


「おはようございます、お嬢様」


「よくお休みになれましたか?」


食卓には焼きたてのパン、香ばしいベーコン、じゃがいものポタージュが並び、湯気がゆらゆらと立ち上っていた。

空腹だったこともあり、エリシアは思わず笑みをこぼす。


「……すごく、温かい匂い。ありがとうございます」


ライナルトの姿はなかった。

グレゴリーが当然のように説明する。


「旦那様は夜遅くに執務をなさるのが習わしでして。この時間はお姿を見せられません。ご安心ください、いつものことです」


その場は穏やかに、笑いも交えて過ぎていく。

屋敷の使用人たちは皆丁寧で、どこか控えめだったが、居心地は悪くなかった。


……それでも、エリシアの胸には、拭えぬ違和感がわずかに残った。


それは、誰も「三階のこと」に触れないこと。

まるで初めから存在しないかのように、誰も話題にすらしなかった。


食後、エリシアはルミナに屋敷の中を案内されながら、広間や書斎、温室などを見てまわった。

屋敷の内部は広く、どこも静かで、美しかった。

古いけれど丁寧に手入れされていて、まるで時が止まったような不思議な空間。


「これが舞踏室です。昔はお客様を招いて舞踏会があったんだって、グレゴリー様が話してました」


ルミナは朗らかに話すが、扉を開けるときにほんの一瞬だけ、手を止めた。

それはほんの、まばたき一つ分の沈黙――けれどエリシアは確かにそれを見た。


「……何かあったの?」


「いえ、何も。……ただ、床が滑りやすいのでお気をつけてくださいね」


笑顔のままルミナは言った。

嘘ではない。だが、本当でもない気がした。


昼過ぎ、温室で見た冬咲きの白い花は、どこか人の手を拒むような雰囲気を纏っていた。

トマスは冗談めかして「この花、近づくと呪われるって噂があるんですよ」などと言ったが、ベルナールにすぐ肘を突かれた。


「そういうことを言うな、客人に」


「……すみません、つい。冗談です。もちろん」


そう言ったトマスも、笑顔の奥に少しだけ強張った影を落としていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ