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ささやかな柔らかな光がカーテン越しに差し込む。
雪明かりのせいか、夜の冷たさとは裏腹に、部屋はほのかに明るかった。
エリシアが目を覚ますと、扉の外から控えめなノックが響く。
「おはようございます、お嬢様。朝食のお時間でございます」
メイドの一人、栗色の髪を三つ編みにした「ルミナ」が、微笑みながら出迎えてくれる。
少し幼さの残る顔立ちと、慣れた手つきでふわりと肩掛けを差し出す姿は、まるで家族のような温かさがあった。
階下の食堂に入ると、もう一人のメイド「カリーナ」、コックの「トマス」と「ベルナール」、そして寡黙な庭師「エドリック」も揃っていた。
皆、エリシアに軽く頭を下げる。
「おはようございます、お嬢様」
「よくお休みになれましたか?」
食卓には焼きたてのパン、香ばしいベーコン、じゃがいものポタージュが並び、湯気がゆらゆらと立ち上っていた。
空腹だったこともあり、エリシアは思わず笑みをこぼす。
「……すごく、温かい匂い。ありがとうございます」
ライナルトの姿はなかった。
グレゴリーが当然のように説明する。
「旦那様は夜遅くに執務をなさるのが習わしでして。この時間はお姿を見せられません。ご安心ください、いつものことです」
その場は穏やかに、笑いも交えて過ぎていく。
屋敷の使用人たちは皆丁寧で、どこか控えめだったが、居心地は悪くなかった。
……それでも、エリシアの胸には、拭えぬ違和感がわずかに残った。
それは、誰も「三階のこと」に触れないこと。
まるで初めから存在しないかのように、誰も話題にすらしなかった。
食後、エリシアはルミナに屋敷の中を案内されながら、広間や書斎、温室などを見てまわった。
屋敷の内部は広く、どこも静かで、美しかった。
古いけれど丁寧に手入れされていて、まるで時が止まったような不思議な空間。
「これが舞踏室です。昔はお客様を招いて舞踏会があったんだって、グレゴリー様が話してました」
ルミナは朗らかに話すが、扉を開けるときにほんの一瞬だけ、手を止めた。
それはほんの、まばたき一つ分の沈黙――けれどエリシアは確かにそれを見た。
「……何かあったの?」
「いえ、何も。……ただ、床が滑りやすいのでお気をつけてくださいね」
笑顔のままルミナは言った。
嘘ではない。だが、本当でもない気がした。
昼過ぎ、温室で見た冬咲きの白い花は、どこか人の手を拒むような雰囲気を纏っていた。
トマスは冗談めかして「この花、近づくと呪われるって噂があるんですよ」などと言ったが、ベルナールにすぐ肘を突かれた。
「そういうことを言うな、客人に」
「……すみません、つい。冗談です。もちろん」
そう言ったトマスも、笑顔の奥に少しだけ強張った影を落としていた。




