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夕食を終えたあと、老執事ーーーグレゴリーは静かにエリシアの部屋へと案内した。

老いてなお、その背筋は真っ直ぐで歩く姿は無駄がなかった。


「お嬢様のお部屋はこちらでございます。暖炉は夜も焚いておきますので、寒さの心配はご無用に」


そう言って扉を開けた部屋は、予想以上に広く、家具の一つひとつに手入れが行き届いていた。

壁には花の刺繍のタペストリー、窓には厚手のカーテン、ベッドにはふかふかの羽毛布団。


「ありがとうございます。……こんなに丁寧にしていただけるなんて」


「当然のことをしているまででございます、お嬢様」


微笑むグレゴリー。けれど彼の目元がわずかに陰ったのを、エリシアは見逃さなかった。


「ただ……いくつか、注意事項がございます」


「……はい?」


「まず――夜、廊下へ出ることは極力お控えください。明かりが落ち、暖房の届かない場所もございますので、風邪を召されぬよう」


言葉自体はもっともだったが、どこか「体調の問題以上の理由」をにおわせる口ぶりだった。


「また、三階には参らぬようお願いいたします。現在使用しておりませんが、古い扉が多く、万一閉じ込められでもしたら大変ですので」


「三階……」


「ええ、立ち入りはお控えくださいませ。旦那様も、それを強くお望みで」


柔らかな声の裏に、拒絶に近い静けさがあった。

まるでそこに“何かがいる”ことを、暗に示すように。


「それともう一つ――夜中、もし扉の前に誰かが立っていたとしても、開けてはなりません」


「……」


「聞こえる声がどんなに親しげでも、知った名を呼ばれても。決して、扉を――開けてはなりません」


グレゴリーは一瞬だけ微笑を消し、低い声で告げた。

その目には、確かな「警告」が宿っていた。


「……わかりました」


絞り出すように答えると、老執事は再び穏やかな表情を戻し、丁寧に一礼した。


「ご不便をおかけいたしますが、どうかご理解いただけますよう。……お嬢様のご滞在が、安らかなものでありますように」


そう言って静かに去っていくその背中は、どこか祈るようにも見えた。

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